イベルメクチンとコロナ感染症の世界の動向-4

 アフリカ諸国の感染状況集計表に仰天

 今年の4月に入って間もなく、北里大学大村智記念研究所所長の花木秀明教授から、一枚の集計表が送られてきた。COVID -19のアフリカでの感染状況を調べた集計表であり、一般の方から研究所に送られてきたものだという。

アフリカの国・地域の全てについて人口、COVID -19の感染者累計、その10万人当りの数、死亡者の累計、その10万人当りの数を一覧にしたものだ。

 2021年4月1日時点の調査によるとした数字が並んでいる。国別の各項目別数字は、①各国当局、②現地メディア、③オックスフォード・コロナウイルス政府対策トラッカー、④ロイターなどにある数字を、一個ずつ拾って書き込んでいったことが後日、本人から聞いて分かった。

 ともかくもこの集計表を見た瞬間、筆者はやられたと思った。イベルメクチンを投与されてきた31か国と投与されてこなかった22か国の感染者数、死亡者数が明らかに投与された国の方が一見明白に少ない数字になっていたからだ。

 そのころ筆者も、北里大学客員教授の八木澤守正先生からご教示をいただきながら、アフリカ諸国がなぜCOVID -19感染者数が少なく、死亡者数も少ないかに興味を持って調べ始めていたからだ。

 データ分析技術者が丹念に書き写した数字

 作成したのは東京の末吉榮三さん(77)で、NPO法人まちづくり・建物なんでも相談室の理事をされている方だった。武蔵工業大学土木工学科を卒業され、仲間と一緒に立ち上げた株式会社応用技術試験所で、建築技術のデータ分析などに取り組み、後に代表取締役社長をなさった方であった。

0末吉さん

 応力、たわみ、振動、騒音測定、データ分析などを手がけてきた方と聞いて、なるほどと思った。オンラインに散見している目的のデータを検索して蓄積し、それを分析することは得意だったのである。

 なぜ、イベルメクチン投与国と不投与国とでは、COVID -19感染状況が違うのか。アフリカ諸国は、COVID -19の感染者数が少ないことが各種メディアなどでも報道されるようになったとき、イベルメクチンの投与と何か関係があるのではないかと思い始めていた。

末吉さんは拙著「大村智ものがたり」(毎日新聞出版社)を読んだとき、赤道熱帯地方の重篤な感染症で盲目になるオンコセルカ症の感染予防に、WHOから無償でイベルメクチンが投与されてきたことが書かれてあったことを思い出していた。

1回のイベルメクチン投与でオンコセルカ症の感染予防に効いている。もしかしたらCOVID -19の感染予防にも有効に働いているのかもしれない。まるでワクチンによって抗体を獲得したように、イベルメクチンが長期間効き目を持続すれば、COVID -19感染者数も少なくなるはずだ。

その仮説を証明するため、2021年4月1日現在のアフリカ諸国のCOVID -19感染状況を調べ、熱帯病治療・予防のためにWHOからイベルメクチンを投与された国と不投与国の2つのグループに分けて調べてみた。

イベルメクチンが感染予防に効いている!?

末吉さんは、苦労して自分が調べた結果を見て驚いた。投与された国は、不投与の国に比べて明らかに感染率が少なく、死亡者数も少なくなっていたからだ。

0アフリカの感染状況末吉さんがアフリカ諸国のCOVID -19感染状況を調べると、イベルメクチン投与国は不投与国に比べて顕著に少なく出ていることに驚いた。

2021-06-24 (4)

 こんなにきれいなデータになって出てくるのは、何か因果関係があるに違いない。COVID -19とイベルメクチンの研究に積極的に取り組んでいる北里大学に参考資料として送った。

 筆者がこの「末吉集計表」を知ったとき、P教授論文、アメリカ論文、コロンビア論文を調べていたときだったの、本当にびっくりした。

 正確な集計表の作成

 筆者が調べていた3本の学術論文は、いずれも国際的に知られている学術サイトに投稿された論文だが、アメリカ論文とコロンビア論文には投与・不投与の2つの母集団に明らかな間違いがあり論文の価値を失っていると感じていた。

 P医師の論文は学術的に価値の高い内容であることが分かり、重要な知見を示していたが、筆者が調べた投与・不投与の国と一部で合わないことが分かった。論文の結論にはほとんど影響がない程度であり、査読論文として掲出されるときは修正すれば済むようなことだった。また、「末吉集計表」でも筆者のリストとは一致しない国が出てきた。

 ここに至って、正確な投与・不投与母集団を確定した集計表を作成する必要がある。そう考えて、八木澤先生の助言を受けながらWHOの資料検索から追跡し、ついに目的の母集団確定までこぎつけていった。

次回に続く


イベルメクチンとコロナ感染症の世界の動向-3

 コロナウイルス(SARS-CoV-2)に抗生物質は本当に無効か?

2020年になってからコロナウイルスが中国・武漢から徐々に世界へと広がりだしたころ、WHOはウイルスには抗生物質が無効だからCOVID-19に使用しないようにとの通達を出した。そのことに敏感に反応したのは、CTやMRIの画像診断など最新IT技術を駆使した研究と生理学を合体させて研究している日本のP医師だった。

日本の一部の医師、研究者の間では、武漢でインフルエンザ様症状の患者にタミフルとセフェム系抗生物質がある程度効いていたことを知っており、WHOがコロナウイルスにだけ敢えて抗生物質を使うなと通達を出すことをP医師は奇異に感じたのである。

そこで抗生物質の使用量と使用比率がコロナウイルスの罹患率および死亡率

に相関関係があるかどうか多くの文献を精査して調べてみたところ、相関関係があることが分かった。その成果をまとめアメリカのメジャーな学術誌に送った。

すると編集長が「審査に時間がかかり、受理される率も全体で10%程度だから至急他の雑誌に投稿した方がいい」とアドバイスをしてきた。

その論文のディスカッションの部分で「Macrolides have been shown to be active in vitro against RNA viruses. Indeed, it seems that the mortality rate caused by COVID-19 is low in Onchocerciasis endemic areas of Africa(マクロライド系抗生物質は、RNAウイルスに対してin vitro=試験管レベル=で有効であることが示されている。実際、アフリカのオンコセルカ症の流行地では、COVID-19による死亡率は低いようだ)と記載しておいた。つまりイベルメクチンの有効性に言及したものだった。

そうしているうち、オープンアクセスとしての投稿を示唆してきた。しかし投稿するには40~50万円かかるという。それならば日本の公益財団法人日本感染症医薬品協会の英文機関誌「The Journal of Antibiotics」に投稿することにした。

国内では判断できずドイツの査読者に回される

P医師から論文を受理した「The Journal of Antibiotics」誌は、この論文の採否の決定ができないとしてドイツの査読者に回した。しかし査読後の結論は、不採用となった。ウイルスに抗生物質は効かないとしてイベルメクチンがコロナウイルスに作用することは認められないとの理由だった。

そこでP医師は、2020年10月18日、査読前の論文掲出を受け入れている「medRxiv」に投稿したところ、2日後の同年10月20日に掲出された。

ウイルスに抗生物質は効かないとか、イベルメクチンがコロナウイルスに作用することは認められないとの理由に対して違和感を抱いていたP医師は、COVID-19とオンコセル症との関係に関する疫学分析を行い、それをまとめて2021年3月26日に「medRxiv」に送った。

論文投稿後すぐに掲出されたアフリカの疫学的考察

P医師が投稿後すぐに掲出してきた。この対応にP医師も驚いたという。論文のタイトルは、「Why COVID-19 is not so spread in Africa: How does Ivermectin affect it?(なぜCOVID-19はアフリカでそれほど広がっていないのですか:イベルメクチンはどのように影響しますか?)」というもので、論文の大略は次のようなものである。

アフリカのオンコセルカ症流行国31カ国と非流行国22か国におけるCOVID-19に対する影響を調査した。オンコセルカ症による罹患率、死亡率、回復率、致死率、COVID-19による罹患率,死亡率,回復率,致死率をアフリカにおける状況報告書から算出した。

オンコセルカ症の流行国31か国と非流行国22か国の2つのグループの母集団が等しい平均を持つという仮説を検定するために用いられるWelch検定による統計的比較を行ったものだ。イベルメクチンを投与された31か国の罹患率,死亡率,回復率,致死率、平均寿命は次の通りである。
テーブル1ー1 テーブル1-2

 イベルメクチン不投与22か国は次のような結果だった。 テーブル2 (2)この分析論文は、世界で最初にアフリカ31か国のイベルメクチン投与と不投与22か国とCOVID -19の感染関係を明快に見せてくれたテーブルである。

 

結論としては オンコセルカ症撲滅のためにイベルメクチンを投与されてきた国の罹患率および死亡率は、不投与されてきた国のそれよりも低いことが分かった。

結論

 アメリカとコロンビアで発表された2つの論文

ところが、P医師のアフリカでの疫学論文の発表前に、アフリカでイベルメクチンを投与された国は不投与の国に比べてCOVID -19の感染率や死亡率が低いとする論文が2020年12月9日にアメリカと2020年12月20日にコロンビアから2本出ていたのである。

イベルメクチンがCOVID -19に本当に効くのか効かないのか。どちらに転んでも最初に示唆した重要な論文となる。これを誰が最初に言いだし、証明する論文にしたのかは極めて重要である。

この件に関しては、P医師は2020年10月20日にmedRxivに掲載された論文にアフリカのオンコセルカ症の流行地では、COVID-19による死亡率は低いようだと記載済みであるとしている。

論文のプライオリティー(Priority)は創意順位を決めるものであり、学術現場では知的競争の決定的な要因になる。ノーベル賞受賞かどうかその決め手に、時として論文プライオリティで決することがあるほどだ。

そこで筆者は、似通った時期に発表され、同じ仮説で論じている3篇の論文の有用性を詳細に検証してみた。

 でたらめな母集団で結論を出したアメリカ論文

アメリカ論文は、ニューハンプシャー州の州立大学の研究者が2020年6月20日に、インターネットで一部の論文を見ることができるIJAA(International Journal of Antioxidant Agents)に投稿し、12月9日に掲載されたものだ。

タイトルは「A COVID-19 prophylaxis? Lower incidence associated with prophylactic administration of ivermectin(COVID-19予防法? イベルメクチンの予防的投与に伴う発症率の低下)」とするものだった。

アメリカ論文アメリカ論文の冒頭部分

 この論文は、アフリカ諸国の熱帯病撲滅でWHOがイベルメクチンを含む薬剤を投与してきた国と不投与の国を分け、COVID -19の感染者を調べ、投与された国の感染率が低いとする結論を出していた。

アメリカ論文バイオリン図アメリカ論文で投与・不投与の感染状況を描いたグラフ

 しかし、なぜか投与・不投与を簡便に分類した表はなく、論文に掲出した母集団を切り分けた図はここで見るように非常に見にくいものであり、国名も細かくて判読するのに苦労するものだった。

辛抱強く判読した結果、ガーナ、ケニヤなど9カ国が投与されてきた国にもかかわらず不投与国としており、不投与国でも最大の人口を誇る南アフリカ共和国が抜けていた。二つの母集団がでたらめであることが判明した。

それでも投与国は不投与国に比べて感染率が小さいと結論を出していたが、全く意味をなさない論文だった。

 コロンビア論文も母集団に大きな間違い

コロンビア論文は、2020年8月28日にコロンビアの学術誌の「Colombia Medica」に送られ、同年12月20日に掲載されたもので、「COVID -19: The Ivermectin African Enigma(COVID -19:イベルメクチンのアフリカの謎)」とするタイトルだった。

コロンビア論文コロンビア論文の冒頭部分

 WHOのオンコセルカ症撲滅戦略のため、イベルメクチンを無料で投与した「アフリカ・オンコセルカ症対策計画(African Programme for Onchocerciasis Control; APOC)」の対象となった19か国だけを投与国とし、これを除いた35か国を不投与国としている。

APOCは当初、19か国でスタートし、後に4か国を追加して23か国になっている。さらに後年、WHOの「リンパ系フィラリア症集団医薬品管理戦略;LF-MDA」戦略では、29か国にイベルメクチンが投与されてきた。

しかしコロンビア論文では、実際にイベルメクチンが投与されてきた13か国を投与国に入れないだけでなく不投与国に入れており、研究そのものに意味がないものになっていた。

しかし論文の結論は、APOC19か国の100万人当りの感染率、死亡率は、不投与国に比べて感染率で84%、死亡率で86%になっていると報告していた。

  本当のプライオリティ

 ここまで調べて筆者は、次のように確信した。

 アメリカ論文は、何らかの方策で日本のP医師の論文を知った研究グループが、「付け刃」でイベルメクチン投与国には効果があるとして作った論文ではないか。いわゆるパクリ論文である。

アメリカ論文のデータ収集日は、P医師論文がpreprintとして掲載されたその日になっていた。これを知ったときはびっくりした。この事実からも、P医師にプライオリティがあることは明らかである。

さらに投与・不投与の母集団の分け方があまりにも雑であり、しかもIncidence(発生率)を比較しているが、アフリカの国々では、ほとんどが国レベルでPCR検査をやっていないし、その実態も不明になっている。このようなずさんな論文でもオープンアクセスで公開されると、それなりにアクセス件数が上がっていることに驚く。

 コロンビア論文は、投与・不投与の母集団が実態とかけ離れている点では、アメリカ論文と同じである。従って論文の評価に値しない内容である。

 P医師の論文を再度検証すると

繰り返しになるが、P医師がWHOのイベルメクチン予防投与国と不投与国でCOVID-19感染状況と死亡者数などがどのような差があるかに気付いた論文は2020年10月20日に、「medRxiv」に掲載されたものである。これを詳細に分析したのが、2021年3月26日掲載論文である。

アフリカのイベルメクチン投与の31か国と非投与の22か国におけるCOVID-19による罹患率,死亡率,回復率,致死率をWHOの状況報告書から研究しており、次のような結果を示している。

  • 投与31か国の罹患率と死亡率は、不投与22か国に比べて統計的に有意に低かった。
  • 回復率と死亡率は、2つのグループに統計的に有意な差はなかった。
  • 平均寿命は、非投与国の方が統計的に有意に高かった。

谷岡論文冒頭「medRxiv」に掲出されたP医師の論文

     ただし研究対象となった投与・不投与グループの国に、次のような不備があった。

  • イベルメクチンの投与国の中に「Sao Tome and Principe(サントメ・プリンシペ)」(人口22万人)が抜けている。
  • イベルメクチン不投与国の中に「Sao Tome and Principe(サントメ・プリンシペ)」が入り、「Djibouti(ジブチ)」(人口56万人)が抜けている。

 しかしこの両国は人口が少なく、結論に影響を及ぼすようなものではなかった。査読論文として記載されるときには修正されるだろう。

次回に続く


イベルメクチンとコロナ感染症の世界の動向-2

 戦場と化したインドの状況

 2021年1月ころ、インドのCOVID -19感染状況は峠を越え、やがて終息する方向へ向かっているように見えた。ところが、3月にはいると感染者数が徐々に増えだしてきた。満を持していたかのように感染爆発したのが4月に入ってからである。

 4月に入るやインドで感染が急拡大する。「BBC NEWS JAPAN」「Trial Site News」、「The Desert Review」などメディアが伝えるインドの状況は、さながら戦場から伝える実況ルポであった。その中からBBC JAPAN が報道した見出しを抜き出して列挙すると次のようになる。

 見出しから本文にジャンプできるので、読んでいただけると現場の状況が分かる。COVID -19ウイルスと人類が戦う壮絶な戦場の有様である。

  • 2021年4月19日

インド、第2波で感染者・死者が過去最多に 一時は「勝利」間近と言われたが

  • 2021年4月22日

ビデオ,感染第2波への「準備できていなかった」 インドで大勢が治療受けられず, 所要時間 2,37

  • 2021年4月23日

インド首都の病院、酸素を使い切る 新型ウイルスの死者増加

2021-06-16 (2)

  • 2021年4月24日

ビデオ,ベッドと酸素が不足……インド・デリーの病院で

1日33万人超の感染者急増……追い詰められるインドの病院

  • 2021年4月25日

インドで1日の感染者連日34万人超に 病院では医療用酸素不足で20人死亡

2021-06-16

  • 2021年4月26日

インド、自宅療養も困難 酸素や薬が闇市場で高値に

  • 2021年4月28日

インド、公園に臨時の火葬場 死者急増で対処し切れず

2021-06-16 (3)

 医療現場でイベルメクチンが浮上

 戦場と化した医療現場でCOVID -19感染者の診療をする医師たちの必死の行動と思いがメディアの報道にも多数出てくるようになる。ワクチン接種が行き渡るのは、遠い先の話である。有効な治療薬もない、あっても高価な薬剤である。重症化した際に装着される人工心肺装置(ECMO、Extracorporeal Membranous Oxygenation:体外式膜型人工肺)は肺機能を代行する装置だが、インドにはほとんど普及していない。

 肺炎になった際に使われるアメリカのギリアド社製のレムデシビルは、投与量が3000ドル(約33万円)であるから途方もなく高い薬剤である。こうした状況の中で、世界中の臨床試験で効果ありと報告されているイベルメクチンは、たかだか数千円で入手できる薬剤である。

 メルク社が開発して製造し、アフリカ熱帯地方の寄生虫病の撲滅のために無償で配布してきた薬剤であるが、特許はとっくに切れ、ジェネリック製剤をインドの企業が製造している薬剤だ。

 WHOを始め、アメリカのNIH、FDAなどがCOVID -19治療にイベルメクチンを禁止もしくは適応外としていることは医療現場の医師たちも承知していただろう。その理由が、十分な臨床試験データが得られていないというものだ。

 しかしいま、戦場にあるいわば野戦病院の中での戦いである。エビデンスが出てくるまで待つことなどできない。安く入手でき、副作用もなくしかも、世界で50例以上の臨床試験で効果ありとされているイベルメクチンを使わないのは医師として怠慢と言われかねない。当然だった。

 さらにもう一つ、重要な「証拠データ」があった。過去30年以上にわたってイベルメクチンを投与されてきたアフリカ諸国で、COVID -19感染者数、死者数が異常なほど少ない事実が分かってきたのである。

 その証拠を世界で最初に気が付いて論文にしたのは日本人の研究者であり、次いで一市民であり、最後に筆者がWHOのデータを詳細に調べて作った決定版の証拠であった。

次回に続く


イベルメクチンとコロナ感染症の世界の動向-1

 特異な山型グラフを示したインドの状況

 今年3月から、インドでCOVID-19の変異種がまたたく間に広がり急カーブで上昇した。5月上旬まで一気に拡大し、ピークを打った後、下のグラフのように急こう配で減少に転じている。グラフの左側の山が感染者数で、右側の山は死亡者数である。

 グラフの形状だけで見ていただきたい。この山型のグラフは、COVID-19の感染状況を見るうえでも特異な現象である。一気に急拡大して一気に沈静化していく。何がそうしたのか。

 このグラフを公開しているのは、アメリカでCOVID-19の治療・予防について世界中の臨床試験例を集めて分析し、何が有効なのかを調べているFLCCC(Front Line COVID-19 Critical Care Alliance)という医師グループである。彼らが行きついたのは、COVID-19の治療・予防には、イベルメクチンが最適だという結論であった。 

2021-06-15

 FLCCCは、どのような団体なのか。HPを開くとその全貌が分かるようになっているので、ここでは省略して先に進めていきたい。

 この団体を一躍有名にしたのは、昨年2020年12月にアメリカ上院の公聴会に呼ばれて、代表のピエール・コーリー博士が、イベルメクチンの効果について自分たちが分析した内容をもとに、アメリカでも臨床治療にイベルメクチンを適応すべきと迫ったからである。

 しかしアメリカでは、ほとんど相手にされなかった。というよりも、コーリー博士らに対する嫌がらせが急激に高まり、あろうことかメディアもこの公聴会での陳述を無視してきたのである。

 しかしコーリー博士らはくじけなかった。年が明けて間もない1月上旬、彼らはアメリカ国立衛生研究所(NIH)に乗り込み、彼らが分析してきた世界中のイベルメクチンによる臨床試験の分析を説明したため、NIHの研究者もある程度、納得することになる。

 それまでNIHは、COVID-19治療のガイドラインでイベルメクチンはCOVID-19の治療には、臨床試験データが不十分なので「反対」(against)としてきた表記を、1月14日に次のように変更した。

 イベルメクチンをCOVID-19の治療に使うことを「反対も推奨もしない(either for or against the use of ivermectin for the treatment)」という中間的な表現に後退し、イベルメクチンの治療効果をある程度認めた形になった。

 FLCCCがそれまで世界に向かって公開していたCOVID-19に対するイベルメクチンの臨床試験内容は、50例を超えており、そのどれもがイベルメクチンが有効だという結果を出していた。

 このアピールを自分たちで分析して妥当だとしてイベルメクチン有効という主張を掲げたグループがイギリスに現れた。「イギリス・イベルメクチン推奨開発」British Ivermectin Recommendation Development (BIRD)という医師グループである。

 彼らは、イベルメクチンこそCOVID -19を撲滅する薬剤だとして、イギリスで治療・予防に政府が適応承認するべきとのキャンペーンを始めた。

 インドであれだけの効果を示しているのに、世界の保健普及のリーダーになっている世界保健機関(WHO)は、いまなおイベルメクチンは臨床試験が不十分であるとして治療に使うことに反対している。しかし、インドはそれを破ってイベルメクチン投与を行った。

 治療現場では、イベルメクチンだけ投与したものではなく、様々な複数の医薬品を投与しているので、正確にはイベルメクチンがどの程度効いているかは分からない。だからと言って、全く効いていないとも思えない。

 イベルメクチン投与の臨床試験のデータを取り、論文を書いているのは、多くが途上国の医師である。アメリカなどいくつかの先進国の医師グループもいるにはいるが少数である。途上国の臨床試験は信用しないという先入観があったのは間違いない。しかしそれよりも途上国には、それなりの理由があったのである。

次回につづく

 

 

 


なんでも遅きに失する政策は日本が世界一?

 
20世紀の終わりころから、「21世紀は知の時代」であり、人材育成と人材取り込みが国家戦略の重要政策と国際的に言われていました。まさにそのころから日本では、経済的理由や雇用問題から博士課程の進学者がじり貧状態になっていましたが国は無策でした。
2000年の修士課程修了者の博士課程への進学は16.7%でしたが、2018年には9.3%まで落ち込みました。
人口100万人当たりの博士号取得者の国際比較は、次の通りです。
    2000年  2015年
日 本 127人   118人
米 国 141人   259人
韓 国 131人   256人
 人材育成は自国の高度人材を養成することが目的で、囲い込みは世界中から優秀な人材を呼び込めるように待遇を整備し、研究レベルを高めていく戦略です。アメリカは高いレベルで自由に競わせる研究システムが確立され、中国は1994年から留学人員創業園、百人計画、春暉(しゅんき)計画、長江学者奨励計画、千人計画と次々と人材育成、確保、囲い込み戦略を実行して、またたく間にアメリカの背中が見える距離に迫ってきました。日本は中国に抜かれ、韓国にも並ばれようとしています。
 この20年間、日本の科学研究政策と国家戦略は停滞したままであり、いまやっと目が覚めようとしています。カネだけ付けても国のシステムが確立されて実行され、継続されなければ未来への投資は実を結びません。果して継続できるのかどうか。国民は厳しく監視する必要があります。

遅すぎた競争力喪失の科学技術政策

1月19日に開かれた政府の統合イノベーション戦略推進会議(議長・加藤勝信官房長官)で、2021年から5年間の研究開発の政府目標を30兆円で過去最大と発表しました。基本計画では官民合わせて120兆円の研究開発投資を目指すとしていますが、にわかには信じられません。120兆円とでかい数字をあげ、「官民合わせ」とか「目指す」という文言が曲者です。
3年前の2018年7月に政府に対し「危機に立つ日本の科学技術と未来への提言」を行いました。有馬朗人先生はじめ、野依良治、安西祐一郎、濱口道成、梶田隆章氏らの個別提言、さらに荒井寿光氏らと自民党の大野敬太郎、渡海紀三朗代議士らも座談会に出席し、危機に立つ日本の科学技術を訴えていました。筆者も研究成果を囲い込む知的財産活動の停滞は科学立国の危機に結びついていると訴えました。しかし安倍政権は、山の如く動きませんでした。
いま世界の技術革新は、先端技術開発よりも頭脳と人材の育成と囲い込みが機先を制する時代になっています。中国の「千人計画」はまさに人材育成と囲い込み戦略であり、20年以上前から展開している国家戦略の拡大政策です。これにいちゃもん付ける暇があったら自らの国家戦略の実行力を誇示してほしいと思います。

中国でアイスクリームから新型コロナを発見

このようなニュースが飛び込んできました。
サイトをクリックすると、自動的に日本語訳が掲出されます。このようなことは、理論的に十分に考えられます。世界の全環境中に新型コロナウイルスが蔓延しており、三密忌避・マスク防備程度では、ウイルス感染を防御できない事態にならないように祈るばかりです。
 
人民日報 1月15日
天津市防除司令部から、天津市大橋道食品有限公司(津南区双港町)に送ったアイスクリームサンプルの新冠ウイルス核酸検査で、3つのアイスクリームサンプルが陽性であるのが発見された。 14日14時現在、企業は完全な封じ込め管理を行い、人員や商品の出入りを禁止し、在庫の検疫を行い、出荷品を追跡しています。
検査の結果、陽性食品は1月12日と13日に天津大橋道食品有限公司が検査したチョコレート風味アイスクリーム(ロット番号20210105)、イチゴ風味アイスクリーム(ロット番号20210106)、フレーバーアイスクリーム(ロット番号20210107)のサンプルをそれぞれ検査した。 1月14日、天津市疾病管理センターによる審査の結果、核酸検査の結果は陽性であった。 現在、バッチ番号20210105チョコレート風味アイスクリームは、1588ケース(1ケースあたり6ボックス)、在庫304.8ケース、ロット番号20210106イチゴ風味アイスクリーム、生産1 627ケース(1ケースあたり6ボックス)、在庫697ケース、バッチ番号20210107フレーバーアイスクリーム、生産1621ケース(6ボックス/ケース)、在庫1250.8ケース。
予備的な疫学調査は、ニュージーランドの粉ミルク、ウクライナのホエイ粉末、その他の輸入食品を含む原料を生産し、1月7日と10日に定期的な核酸検査を行い、その結果は陰性であることを示している。
1月14日14時現在、企業は完全な封じ込めを行い、人員や商品の出入りを禁止し、在庫を封印し、出荷品を追跡し、すべての従業員を流用し、隔離し、核酸を隔離した。 抗体検査は、実務者の家族を隔離し、企業の販売舗装を一時停止し、人員フローと核酸および抗体検査を行い、原材料、既存の商品、企業内外の環境、従業員寮などの完全なカバレッジ核酸サンプリングテストと消毒を行います。
現在までに、1662人の企業関連実務家が管理・検査を行い、そのうち700人が陰性で検出され、残りの結果が残っている。
現在、天津CDCの専門家は、関連する作業基準に厳密に従って、さらなる調査と処分を行う津南地区に現場指導を行っています。 販売される可能性のある製品については、関係部署が廃棄計画を策定し、関連製品を購入した場合はコミュニティに報告し、スタッフが専門的な手順に従ってさらなる処分を指示します。
 
出典:人民日報クライアント

徹底している中国のコロナ封鎖対策

中国の知人からの情報です。1月11日に発せられた中国政府のコロナ対策をご紹介します。
外国から中国へ入国した場合、14日間のホテル隔離観察+居住地に移動後に住居で隔離され7日間の医学的観察+さらに住居の社区(行政区)で7日間の観察となる。つまり入国後の追跡観察が「14+7+7=28日」となったということです。
強化された理由は、入国20日後に感染を確認した例があること、冬季に入り寒さの影響もあって感染スピードが遅くなっている傾向があるとのことです。中国はまもなく春節(旧正月)を迎えますが、戒厳令(移動禁止)が宣告されると言われているそうです。

パナソニックのマスク製造・販売に思う

 
パナソニックが1月12日からマスクを販売するという。シャープ、三菱重工に次いで日本の大手電機メーカーのマスク参入である。同社関連のHPを見ると、「パナソニックの国内工場クリーンルームで、国内材料で生産しています。ウイルス飛沫や微粒子も99%カットできるフィルターを採用」とある。
値段は「3層構造の不織布マスク50枚入りで税込み3278円」とあり、50枚入り500円で買えるいま、相当に割高感がある。
コロナ対策でいま求められているのは特効薬とワクチンである。マスクはすでに行き渡り、不足感もない。マスク不足が言われた1年前ならまだしもどう見ても遅きに失した製造販売である。同社は「社会貢献のため」製造販売に踏み切ったとうたっているので、それはそれでいいと思うが、期待薄である。
いまパナソニック、シャープ、三菱重工に国民が期待しているのはマスク製造ではない。DX(デジタルトランスフォーメーション)時代を迎えて、電子情報技術を駆使した先端機器類やシステム開発で世界をリードしてほしいという期待である。かつての栄光をマスクなどで取り返すことなどできない。
学校給食調理現場では、マスクは頻繁に使い捨てすることがウイルス・細菌防御に最善と聞いたことがある。高価なマスクを大事に長時間使うことはリスクがあると研究者からも聞いたことがある。「パナソマスク」にケチをつけるのではなく、期待はマスクではないということを伝えたいためにこれを書いた。

日中シンポジウム 倉澤治雄 その1 

私が中国の科学技術に初めて接したのは1985年のことでした。当時日本テレビの記者として科学技術を担当していたことから、竹内黎一科学技術庁長官に同行して北京、西安、上海の研究施設や大学を訪ねる機会がありました。北京の空港から市内までの道路はまだ舗装されておらず、人の群れ、自転車の列、馬車が混然一体となっている道を、私たちが乗ったバスが警笛を鳴らし続けながら走ったことを鮮烈に覚えています。大学や研究施設もまるで19世紀にタイムスリップしたようでした。あれから35年余りが経って、中国の科学技術は見違えるように発展しました。

一国の科学技術力を測る指標として、白川先生が話をされた論文数、研究開発費などのデータがありますが、私は宇宙開発の視点で中国の実力をフラットに見てみたいと思います。

今年2021年は中国共産党創立100周年ということもあり、中国は火星に探査機を送り込みました。今この瞬間、米国の火星探査機「パーシビアランス」と中国の「天問1号」が同時に火星で探査を行っています。火星探査の歴史を振り返ると、1957年の「スプートニク」で宇宙開発の先手を握った旧ソ連が、1960年から「マルス計画」で30機近い探査機を打ち上げましたが、ほとんど失敗しました。

一方米国も1964年から探査機を打ち上げましたが、火星表面への着陸に成功したのは1976年の「バイキング1号」が初めてです。日本も1998年に「のぞみ」を打ち上げましたが通信が途絶え、失敗に終わりました。地球と火星の間には「探査機の墓場がある」と言われるくらいです。

写真1火星ローバー「祝融」の映像(CCTVより)
火星ローバー「祝融」の映像

地球と火星の距離は公転周期の違いから2年に一度だけ近づきます。約7500万キロという距離に加えて、火星周回軌道への投入、火星表面への自動での軟着陸と技術的ハードルは極めて高く、今回中国が初めてのミッションで米国と同時に軟着陸に成功したことは、宇宙開発史上輝かしい成果と言えます。

火星をめぐる米国と中国のレースは、火星からのサンプルリターン、そして有人宇宙飛行と続くことになります。中国は2049年に建国100周年を迎えますので、それまでにどちらが先に火星に人類を送ることができるか、大変注目されます。

米中の宇宙覇権をめぐる競争が最も先鋭に表れたのが月をめぐるポジションです。米国は1969年、「アポロ11号」で初めて人類を月に送ることに成功しました。しかしアポロ計画は1972年に終了、それ以降月面に立った宇宙飛行士はいません。中国は2019年1月、探査機「嫦娥4号」を月の裏側に軟着陸させることに成功しました。月は地球を回る公転周期と自転周期が一致しているため、地球から月の裏側を見ることはできません。また月の裏側の探査機と地球の通信手段がないことから、これまで米国もロシアも探査機を着陸させることができませんでした。中国は地球と月の引力、それに探査機の遠心力が釣り合う「ラグランジュ点」に「鵲橋」という中継衛星を投入してこの問題を解決しました。しかも「嫦娥4号」が着陸したのは南極に近いクレーターです。ここには「水」の存在が予想されています。水は生命を維持するのに必要なだけでなく、水素と酸素に分解してエネルギーとしても使えるので、月面に基地を作るには「水」を探し当てたものが勝者となるのです。

写真2月面ローバー「玉兎2号」(新華網より)
月面ローバー「玉兎2号」新華網より

月の裏側への軟着陸は米国をいたく刺激しました。ペンス副大統領は2019年3月、「中国は月の裏側にいち早く到達し、月での戦略的なポジションを獲得し、世界の卓越した『宇宙強国』になるという野心を明らかにしました」と対抗心をむき出しにしました。その上で、「次に月面に立つ男性と女性は米国の宇宙飛行士であり、米国の国土から、米国のロケットで打ち上げられなければならないのです」と述べて、有人月面着陸を目指す「アルテミス計画」を2028年から2024年に前倒しすると発表しました。あと3年しかありません。中国はその後「嫦娥5号」でサンプルリターンにも成功し、約1.7キログラムの月の石を地球に持ち帰りました。中国は有人月着陸を目指して、米国アポロ計画で使われた「サターンⅤ」を上回る「長征9号」という巨大ロケットの開発を急いでいます。「長征9号」の完成は2030年頃と見られています。

写真3スペース・ローンチ・システムのコア部分NASAホームページより
スペースローンチシステム NASAホームページより

衛星の打ち上げでも中国はロシア、米国を抜いて1位となっています。とくに注目されるのが航行測位衛星システムの「北斗」です。位置情報を知るにはいまGPSが使われていますが、今後「北斗」がGPSに取って代わるかもしれません。というのも「北斗」システムの精度は近い将来センチメートル単位になるといわれ、数メートル単位のGPSを上回る能力を持っているからです。昨年6月、「北斗3型」35機によるシステムが完成しました。すでに中国が進める「一帯一路」の関係国30か国が採用を決めているほか、iPhone12を初めとして、スマートフォンにも「北斗」対応のチップが搭載されています。

写真4北斗システム(百度より)
 北斗システム 百度より

また異彩を放っているのが2016年に打ち上げられた「墨子」という量子通信衛星です。量子通信は絶対に内容を盗聴できない暗号通信が可能と言われています。地表では100キロメートルほどしか届きませんが、宇宙を経由すると全地球をカバーできます。もともとオーストリア・ウィーン大学のツァイリンガー教授が考え付いた通信ですが、留学していた藩建偉中国科技大教授が引き継ぎ、7,600キロの量子テレポーテーションに成功しました。今年1月には中国国内の32都市を結ぶネットワークを構築して、安全保障関係や金融関係での実用化が始まっています。潘教授は「量子の父」として知られ、中国で最もノーベル賞に近い研究者と言われています。その潘教授は「世界で量子通信のネットワークが構築されると、サイバーセキュリティの懸念はなくなるだろう」と語っています。米国はまだこの分野で追いついていません。

写真5 量子通信ネットワーク(新華網より)
量子通信ネットワーク 新華網より

さらに重要なのが中国の宇宙ステーション「天宮」です。米国主導の国際宇宙ステーション(ISS)は2024年に役割を終えます。米国議会を中心に2030年まで延長する案が出ていますが、すでにかなり老朽化している上、運用は民間に移行されます。中国の宇宙ステーション「天宮」はそのすきを狙って2022年から稼働する予定で、宇宙環境を利用した低軌道での宇宙実験は「天宮」の独壇場となる可能性が出ています。今年6月には3人の宇宙飛行士が「天宮」に乗り込み、船外活動なども行いました。

写真6 中国宇宙ステーション「天宮」(SPCより)
中国版宇宙ステーション「天宮」 サイエンスポータルチャイナより

では宇宙大国アメリカはどうなっているかというと、スペースXをはじめとする民間の宇宙ベンチャーがとても元気です。スペースXは再使用可能な「ファルコン9」に続いて、「スターシップ」という巨大宇宙船を開発しています。またブルーオリジンやバージンギャラクティクは、地上100キロほどのサブオービタル飛行に成功し、宇宙旅行が現実味を帯びてきました。

写真7 スターシップ(spaceXホームページより)
スターシップ

さらに小型衛星を低軌道に1万個以上ばらまいて、あたかも「星座(コンステレーション)」のように配置して、地上のどこでも通信できる「スターリンク」というサービスもすでに始まっています。

米国の強みは何といっても民間のベンチャー企業が元気なことです。これからの米中の宇宙覇権をめぐる戦いでは、国策として宇宙開発を進める中国と、民間の活力を最大限利用する米国の争いなのです。

(第一部以上)