沖縄返還交渉の密約文書を外務省から入手して逮捕された元毎日新聞政治部記者の西山太吉氏が死去

沖縄返還交渉の密約文書を外務省から入手して逮捕された元毎日新聞政治部記者の西山太吉氏が死去

西山氏が2月24日、心不全のため北九州市内の介護施設で亡くなった。91歳だった。

さる2月2日、西山氏から提供された外務省機密電信文を根拠に国会で激しく密約を追求した横路孝弘氏が82歳で亡くなったばかりである。その死を追うように西山氏も逝った密約外交を追求した2人が相次いで世を去ったが、日本の外交史上に残した汚点は消えることはない。

西山氏は、沖縄返還交渉で日米が外交折衝をしているとき、日米間で密約があるのではないかと取材をはじめ、その証拠となる機密電信文を外務省女性職員から入手した。

それをもとに西山氏は解説記事など4本の独自記事を書いたが、実物の証拠を示さなかったために政府から無視されていた。そのことに怒りを感じた西山氏は、同僚に託して当時、社会党のプリンスと言われていた横路孝弘代議士(元衆議院議長)に提供し、代議士は1972年3月の衆院予算委員会で、この電信文をもとに激しく追及する。この追及で佐藤政権は立ち往生し、翌年の予算案は年度内に国会を通過せず、暫定予算を組んで急場をしのぐという大失態を演じた。ところがその数日後、機密電信文を漏洩した女性職員が西山氏に渡したことを告白し、二人は国家公務員法違反で逮捕された。西山氏は国家公務員ではなかったが、公務員をそそのかして漏洩させたとして逮捕された。

一審東京地裁で女性職員は、執行猶予付きの刑を言い渡され、西山氏は正当な取材活動として無罪を言い渡された。女性職員は一審判決を受け入れて決着。西山氏の判決については国側が控訴し、二審東京高裁で執行猶予付きの逆転有罪になり最高裁でも有罪で決着した。西山氏はこの判決でジャーナリストとしての命脈を断たれた。

この裁判は国家権力によって曲げられた判断と筆者は確信している。一審で無罪を言い渡した裁判官は、のちに弁護士になり「取材方法がけしからんという理由で二審及び最高裁は有罪にしたが、けしからんと咎める法律はない」と激しく逆転有罪判決を批判していた。

西山氏がある人(毎日新聞社の同僚記者)を介して機密電信文を横路氏に提供したことは間違いないが、横路氏はそれ以前に西山氏から取材して、密約があるに違いないと確信して独自に調べ、その結果をもとに国会で数回にわたって追及していた。しかし当時の首相、外相、外務省高官らはことごとく、密約はないという嘘の答弁で切り抜けていた。しかし後年、嘘の答弁をした外務省の元局長、米国の公文書公開、密約をおぜん立てした首相密使の若泉敬氏の暴露本によって、密約は真実であったことが明らかになった。

筆者が2022年5月に上梓した「沖縄返還と密使・密約外交 宰相佐藤栄作、最後の1年」(日本評論社)でその一部始終を書き残した。上梓本の原稿段階で、西山氏と横路氏に読んでいただき、いくつかの表現で意見をいただき修正したところがあったが、大筋では「よく調べた作品である」(西山氏があるジャーナリストに漏らした言葉)との評価をいただき、横路氏からも「事実として間違いない」とのコメントをいただいていた。

日本政府、外務省、外交専門家の一部は、いまなお密約はなかったという見解だが、真実を認めない国家は衰退をたどる。「歴史の証人」として外務省機密電信文の存在を忘れてはならない。

写真はその機密電信文である。この文書には、左端に昭和47年4月7日付けで「極秘指定を解除した」とある。国会でこの電信文のコピーを突き付けられ、外務省が数日後にしぶしぶ「この文書の決済した同じものが省内に保管されていた」と認めた。このコピーが世間に知れ渡ったため、極秘扱いしても意味がなくなり極秘指定を解除したものだろう。

機密電信文


横路孝弘先生に今一度お聞きしたかった

元衆議院議長でリベラルな政治家として政界に屹立していた横路先生が、2月2日、胆管癌で亡くなった。82歳だった。筆者は2021年6月28日の午後、横路先生と衆議院第2議員会館の面談室で2時間ほど会見したことがあった。

横路先生の元政務秘書だった国際ジャーナリストの北岡和義氏(2021年10月19日死去)が仲介して実現したインタビューであり、目的は佐藤栄作政権の沖縄返還交渉と西山記者逮捕事件を聞くためだった。

1横路・馬場2021年6月28日衆院第2議員会館2021年6月28日、衆議院第2議員会館で

毎日新聞政治部の西山太吉記者から、外務省の機密電信文が間接的に横路先生に渡り、それをもとに1972年3月の衆議院予算委員会で密約の存在を追求した。国会が紛糾して次年度の予算案が衆院を通過せず、急ぎ暫定予算を組んで切り抜けるという大失態になった。

しかし佐藤政権は、警察権力を指揮して西山記者逮捕へと事態は急展開し、沖縄返還後に佐藤総理は退陣して一件落着し、あいまいな「史実」だけが残された。西山記者は一審東京地裁で「正当な取材活動」として無罪となったが、控訴審の東京高裁、最高裁の判断では有罪となり、国家権力に追従した曲げた法理の判断(私見)として残された。

西山情報から追求した事実

西山記者からの外務省機密電信文は、毎日新聞のある記者を通じて横路先生に渡ったものだが、それが最初の情報ではなかった。その電信文を入手する半年ほど前に、横路先生と西山記者は面談しており、そこで西山記者が機密電信文の内容に即した事実を詳細に語っている。西山記者は横路先生に機密電信文を見せもしないし存在も明らかにしなかった。しかし詳細な内容から外務省の機密文書だろうと横路先生は推測したという。

3時間に及んだという西山記者からの情報をもとに、横路先生は日本が肩代わりする密約の根拠はアメリカの法律にあると睨み、国会図書館と共同で調べその法律を突き止めた。それを根拠に1971年12月の衆議院連合審査会などで追及する。

佐藤政権は、この追及にたじたじとなるが、すべて事実と違う嘘の答弁を繰り返して切り抜けていく。しかし横路先生は、諦めなかった。絶対に密約があると信じ、粘り強く証拠となる文書を探し求め、ついに西山記者が入手していた機密電信文を間接的に入手する。それをもとに衆議院予算委員会で再度、追求したものだった。

機密電信文西山記者が入手した外務省極秘電信文の一部(故北岡和義氏提供)

その事実は初めて横路先生が語ったものであり、拙著「沖縄返還と密使・密約外交 宰相佐藤栄作、最後の一年」(日本評論社)で詳述した。西山記者逮捕に至った史実と確信している。

歴史の証言者として語るべきことがあったはずだ

横路先生とお会いした1年半前には、非常に元気そうに見えた。子供のころにケガをした古傷が痛み出し、歩くのがやや不自由になったというが、語り口は記憶をたどりながら滑らかだった。もっと聞きたいことがあったが、コロナ禍の最中であり、札幌に帰る直前の時間だったので2時間ほどで切り上げた。

拙著を上梓してから連絡はしなかったが、もう一度お会いして政治家としての足跡を聞きたかったことがあった。

特に沖縄返還で横路先生が国会で追及し、佐藤内閣は命運尽きたかに見えたが国会対策委員会、与野党の幹事長・書記長会談など国会運営のハラの探り合いから「落としどころ」を決め、何もかもまあまあでことを済ませる立法府の悪しき実績を作った。

そのころから「国体政治」という言葉が歩き出し、メリハリのない国会運営が始まり、同時に社会党の凋落が始まった。衆議院当選2回でしかなかった横路先生は、その体たらくを「月刊社会党」(1972年6月号)で痛烈に執行部批判の論陣を張り、馴れ合いで流れていく国会運営を批判した。

その後、社会党は事実上消滅し、横路先生も北海道知事に転出後、国政に復帰したが社会党には戻らず、旧民主党から国政に参画した。平成21(2009)年9月から3年余衆議院議長を務め、2016年5月、政界を引退した。

筆者は沖縄返還の密約だけでなく、戦後政界の変転をよく知る政治家から直接お聞きしたいことが多数あった。横路先生と筆者は同時代を生きてきた政治家とジャーナリストという立場であり、今一度取材する機会を失ってしまったことは誠に残念だった。


日本は国民主権でなく国会議員主権になっているのは明らかに憲法違反

日本は国民主権でなく国会議員主権になっているのは明らかに憲法違反

升永英俊弁護士から日本国憲法の解釈により、一人一票になっていない現状は国民主権ではなく国会議員主権になっていることを論理的かつ明快に主張・解説した文書をいただき感動しました。文書を写真で紹介します。

升永先生の主張・解説をより簡潔に要約してみました。以下の通りです。

日本国憲法は「主権は国民にある」と明記しています。主権とは、国の政治のあり方を最終的に決定する権力です。主権の行使について最高裁大法廷(在外邦人選挙権制限違憲訴訟、平成17年9月14日)は、要約次のように判示しています。

「憲法は国民主権の原理に基づき、有権者が両議院議員選挙で投票をすることは、国の政治に参加する固有の権利として保障している」

つまり国民の選挙権行使は、国民主権の行使であるとしています。ところが選ばれる議員は、選挙区によって等価値でない票によって選出されています。衆院選で約2倍、参院選で約3倍までばらつきがあり、平等でない選挙区で選出されています。国民主権の代表となっているはずの国会議員は、憲法に違反して平等でない選挙区で選ばれています。

こうして選ばれた国会議員は、国会の議決での投票では、全ての議員が等価値の一人一票の権利を行使して総理大臣を選出し、法案を可決しています。これは国会議員主権であり、国民主権ではないのです。国会の議決で各議員の投票する1票が全て等価値であることは、各議員が全員、同じ人数の有権者から選出されなければなりません。これは一票の格差のない人口比例選挙によってのみ実現可能なのです。①日本国憲法56条2項、②憲法1条、③憲法前文第1項第1文後段、④同第1文前段は、人口比例選挙を要求しているのに、最高裁はそれを無視した判決を出し続けています。

升永先生1 升永先生2 升永先生3止



公文書館の貧困で真実を知らない途上国日本

公文書館の貧困で真実を知らない途上国日本
朝日新聞1月4日付け朝刊一面に掲載された沖縄返還交渉時の佐藤・ニクソン核密約のシナリオが発見されたという「特ダネ」が、別面も割いて大特報されました。朝日にケチをつける積りではありませんが、このような重要な書面が一政治家の私邸に保存され、51年目にメディアを通じて公開するという異常さを感じました。
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このシナリオは、密使となった若泉敬の著書「他策ナカリシヲ信ゼムト欲ス」(1994年、文藝春秋社)に詳細に書かれていた内容であり、昨年上梓した拙著「沖縄返還と密使・密約外交」(日本評論社)にも引用して紹介しました。
本来、こうした首相の公務での書面は公文書館に保存されるべきものであり、アメリカでは沖縄返還の密使外交の多くが保存され、20年後に公開されて密使・密約外交がすべて露見しています。日本は、時の権力者が保存し、何かのときに明るみに出るという異常な国です。メディアが情報を入手して報道することもあれば、政治家が後年、自慢話の一つとして語ったり書き残すこともあります。それを有難がって知る国民にも問題があります。
公文書館の貧困さが語る
つまり日本では政治家が「公務で取得した情報を私物化」し、後年の史家が正確な総括・検証ができない途上国状況が続いています。佐藤政権の沖縄返還交渉は典型的な「外交の私物化」であり、日本がアメリカに支払った実際の賠償金額すら不明です。密約交渉を記述した膨大な文書は廃棄されたと言われていますが、その真偽すら不明ということですから、国の体裁をしていないと思っています。
このようなことを放置しないで、口うるさく言うことが大事だと思って発言しました。

「スクープ取材」を掲げたNHKの本気度

さる11月17日に放映されたNHKクローズアップ現代(クロ現)のタイトルを見て度肝を抜かれました。「スクープ取材・旧統一教会 “知られざる被害”の告白」とあったからです。自ら「スクープ」と言うからには相当なる内容であることを宣言したものだからです。
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NHKはいわば「国営放送局」です。それが「知られざる被害」とうたったのは、明確に旧統一教会は「加害者」であるとの立場で番組作成したことを宣言したものです。献金を事実上強いられ続けたために自己破産に追い込まれ、「無年金」になっていった被害者に語らせ、「家族のために年金より献金」という大きなテロップを掲げました。
独居高齢者に組織的に献金を促した実例を報道し、旧統一教会の担当者が信者の資産や家族状況を詳細に把握し、遺産を献金させるための遺書作成を組織的に指示し、実行していた実態を報告しました。
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いま国会でも論議が進んでいる被害者救済の新法についても、①マインドコントロールによる被害防止、②家族の被害回復を骨子にするべきとの方向を提示しました。
面識ない信者と教団の仲介で結婚させられた被害者の実情を当事者の告白も入れながら報告し、信者の間の養子縁組がこれまで745人に達しているという驚くべき被害実態も報道しました。旧統一教会が行ってきた養子縁組は、違法性が高いものであり、これに対する旧統一教会側の方針と言い分もきちんと報道しました。しかし旧統一教会側の言い分は、むしろ旧統一教会の教義がいかに独善性と違法性の高いものであるかを自ら暴露したような内容になっており、それだからこそNHKは動画で長々と放映したものでした。
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筆者は、NHKの回し者ではありません。元読売新聞社会部記者の感覚から見ても、この番組構成は明らかに旧統一教会は加害者であり、信者の多くが被害者になっており、信者二世とされる人々の被害と悲劇を訴えたものと明確に理解しました。一連の「週刊文春バズーカ砲」に匹敵するパンチ力でした。
「国営放送」が「スクープ取材」を前面に出し、ここまで踏み込んだ旧統一教会の反社会的活動を放映したことを評価します。自民党関係者及び国会で旧統一教会問題を論議する方々はこの論調を注視し、国民の納得する結論を出してもらいたいと思います。

イベルメクチン論文の学術解析で「有効」を確認

世界の臨床試験93件を解析した八木澤守正・北里大学客員教授

イベルメクチン効果判定はさらに続く

イベルメクチンがCOVID-19 に対し有効かどうかを巡って、2年越しの論議が続いています。筆者は多くのイベルメクチン投与結果の論文と、自ら調べたアフリカ54カ国のイベルメクチン投与とCOVID-19 発症の疫学調査から、イベルメクチンはCOVID-19 の治療と予防に効果があると確信してきました。

先ごろ製薬企業大手の興和が、2021年11月~22年8月まで、軽症患者1030人を対象に偽薬(プラセボ)と比較する二重盲検試験を実施した結果、有効性を見いだせなかったと発表しました。

簡単には重症化しないオミクロン株の症例を主体とした試験結果であり、偽薬グループでも投与開始から4日前後で症状軽減が認められたという結果でした。重症化して死亡者が相次いだ従来のCOVID-19への投与とは状況が変わってしまい、イベルメクチンの効果を証明することが困難な状況での結果でした。

それではイベルメクチンをどう評価するべきか。世界で出ているイベルメクチン投与に関する多数の論文ではどうなのか。北里大学客員教授で抗感染症薬開発、薬剤耐性対策などを専門テーマに研究している八木澤守正教授が、イベルメクチンが有効であると論述した論文がどのくらいあるか解析した結果をこのほど纏めました。

93件の試験内容を解析

八木澤教授は、WEBで配信されている「Ivermectin for COVID-19:real-time meta analysis of 93 studies; Covid Analysis, Oct 28, 2022, Version 201」に掲載されている93件の試験内容を解析しました。ここでは臨床治験もしくは臨床試験を単に「試験」と表記します。

八木澤教授が解析した結果を整理したチャートは次の通りです。

早期治療37件、後期治療40件、発症予防16件です。

イベルメクチン-COVID 試験成績データベース;2022年11月4日この93件を解析対象の論文に適しているかどうかを精査したところ、イベルメクチンの効果を解析出来ない内容4件を除外しました。残り89件を解析対象としました。

合計83件のうち46件(55%)が有効

チャートでみるように、登録済治験36件のうちの16件(44.4%)、未登録治験47件のうちの30件(63.8%)の合計で83件のうちの46件(55.4%)の試験でイベルメクチンは有効であると判断しています。

一方で35件(42.2%)の試験では、「有意差は認められなかった」としています。イベルメクチンが「無効である」と判断される結果は2件ありました。

八木澤教授は「COVID-19という感染症に対するイベルメクチンの有効性を示すのは難しいことが示されています」と述べています。

早期治療の合計32件中で有効は17件(53.1%)、後期治療の合計36件での有効は15件(41.7%)となっています。

登録試験39件・未登録試験50件を精査

八木澤教授は解析対象の89件を試験登録済と試験未登録に二分した結果を一覧表にまとめて解析しています。試験登録とは、オンライン上で行われる臨床試験の事前登録でありエビデンスの質の向上を目的にした「公表バイアス(publication bias)」とも呼ばれ、後付け解析の防止などを目的にしたものです。しかし新型コロナ感染症のように、治療・予防に緊急を要する臨床現場では、医師主導の臨床試験は十分に準備したものにはなかなかならなかったという事情がありました。

こうした状況でしたが、登録済試験の論文の内訳は査読済みが34件、査読前のpreprintは5件ありました。この39件の論文を精査した結果、3件の論文内容は試験手法に不十分な点が明確であり、論文として解析する対象にならないとして除外しました。結局、登録試験では36件を解析対象としました。

登録済試験一覧

イベルメクチン-COVID試験成績データベース;登録済治験

登録36件のうち有効が16件(44%)

解析精査した内訳をみると早期治療では19件のうち8件が有効と判定していますが、「NS=Not Significant(有意ではない)」としたものが11件ありました。

後期治療では、12件のうち4件が有効、NSは7件でした。発症予防・後遺症では4件すべてが有効でした。

未登録試験50件を登録治験と同じように試験内容を精査したところ、論文の内容が不十分である3件を解析対象から除外しました。

未登録試験では、47件を解析対象にしました。

解析は、論文に記述されている試験成績が有意差をもって優れている場合を 「有効」 と判断し、有意差の無い 「有効性/無効性」 は「NS(Not Significant、有意ではない)」と判断しました。

イベルメクチンの成績が有意差をもって劣る場合は 「無効」 と判断しました。

未登録47件のうち有効が30件(64%)

早期治療13件のうち有効が9件でした。いずれも査読済論文でした。後期治療群では24件のうち有効は11件でした。発症予防では10件のうちすべてが有効でした。

未登録試験一覧

イベルメクチン-COVID試験成績データベース;未登録治験_ページ_1

発症予防はすべて有効となった

八木澤教授の解析で注目されるのは、発症予防の試験は13件の全てで有効だったことです。さらに後遺症に対する試験は1件のみでしたが、やはり有効と判断されています。

イベルメクチンの発症予防で筆者が衝撃を受けたのは、2020年3月にパリ郊外の老人施設で疥癬治療・予防から偶然にイベルメクチンのCOVID-19への発症予防に効果があることが確認された試験でした。この論文は、八木澤教授の解析対象にも入っていました。

これは老人施設で皮膚病の疥癬が広がったため、収容者と職員に対しイベルメクチンを投与しました。その結果、この施設の居住者、職員共にCOVID-19に感染した人は同じ地域にいる居住者に比べて有為に少なくなっていたという結果でした。

また、JAMA(The Journal of the American Medical Association、米国医師会雑誌)に掲載されたコロンビアの医師グループが出した「有意差なし」の論文は、掲載直後から試験内容に「致命的欠陥がある」と指摘されました。この論文も解析対象になっていますが、論議がまだ収束していないためか、有意差なしのままになっていました。

この論文では米国の医師たちが「研究著者らは主要評価項目を途中で不適切に変更し、主要評価項目を21日目までに完全な症状解決に移行しました。電話調査を通じて得られたこの自己申告による主観的エンドポイントは信頼できません」と訴え、今現在、175人の医師がネットで署名を明らかにして抗議を続けています。 https://jamaletter.com/

査読を受けている論文が70件(84%)

イベルメクチンの試験成績に関する論文は、査読を受けていないという批判がたびたび言われてきました。しかし八木澤教授の解析では「未査読論文は13件(15.7%)だけであり、70件(84.3%)は査読済の論文として発表されています」と語っています。

このような実情が学術的な解析で示されたのは、初めてではないかと思います。


投票しても「平等」ではない1票の格差 東京新聞の度肝を抜く見開きぶち抜き

投票しても「平等」ではない1票の格差

11月13日付け東京新聞サンデー版の見開きぶち抜き特集には、度肝を抜かれました。「国民主権になっていない日本」の現状を絵図だけで語った、かつて見たこともない特集です。誰が見ても理解度満点。これこそ新聞の調査報道の基本であ手本と思いました。

「4割の有権者が過半数を選出して政治を動かしている」。現行選挙区のいびつさを一見明白に示しています。一人一票訴訟のリーダーの一人である升永英俊弁護士は、これを「国民主権ではなく国会議員主権になっている」と主張しています。

この問題は、イデオロギー、政治信条、党派とは全く関係ない、日本国憲法が定めている主権国家の根本問題です。一人一票訴訟は、地方の軽視とか過疎地切り捨てなどという全く見当違いのことを語る人がいます。地方の「選挙利権」に、べったりと貼りついた人の言うことを信用してはならないと思います。

東京新聞1

東京新聞2


黒川清先生の悲痛な叫び「若者よ大志を抱け、外の世界へ出よ」

黒川清著『考えよ、問いかけよ 「出る杭人材」が日本を変える』(毎日新聞出版)

この本は、日本の科学技術行政の貧困さと学術研究の停滞を具体的な数字で示しながら今後の巻き返しを提言したものである。ここでは大学教育について書いたあたりを紹介する。

日米の医学教育の体験で感じた日米の高等教育の慣例と格差を語りながら、日本がいつまでたっても変わらない状況をどうするべきか。提言も書いている。

四行教授・ロビン教授の大学ではないか

例えば日本の大学は「四行教授」であると指摘する。経歴を見ると「○○大学卒、○○大学助手(助教)、○○大学助教授(准教授)、○○大学教授」と四行だけで済んでいる教授が少なくない。

ヨーロッパに生息するロビンと言う野鳥は、半径200メートル内で生涯を終わるというが、日本では半径数十メートル内を異動するだけで定年を迎える教授がいる。別名「ロビン教授」と筆者は呼んでいる。

こうした四行教授、ロビン教授は、日本の伝統的な大学研究室のスタイルである「講座制」の中から生まれている。

いつまでたっても変わらない日本の大学教育現場は、21世紀に入ってから様々な指標で中国に大きく水をあけられ、いまや韓国にも抜かれてしまった。

★書籍表紙

中国ははるか先で韓国にも抜かれた日本

2019年度の博士号取得者数をみると、日本1万5128人に対して韓国は1万5308人になっている。アメリカの大学へ留学した人は、2000~2021年で日本1万1785人だが、韓国は3万9491人と2倍以上の実績である。

研究開発費のGDP比は、日本3・29%に対して韓国4・81%であり、この勢いが止まらないから、これからは韓国の背中を追い求めていくことになるだろう。

論文の質をみる引用論文数の比較でも、2018~2020年の平均トップ論文は、日本が3780本だが、ついにこれも抜かれて韓国3798本となった。この差は今後も広がるとみられている。

「若者よ大志を抱け、外の世界へ出よ」の中で著者が呼びかけているのは、著者が米国で医師として鍛えてきた体験からのものであり、帰国後の医学部教授時代に教え子を通じて確信した考えを書いたものだろう。

学生諸君は休学してでも外へ出て見て来いという呼びかけは、悲痛な著者の叫びでもある。

凋落へ向かう科学技術力、構造劣化した社会システムをどう立て直すのか。いま現在の課題を整理し、その解決策を提言している。政治・行政に携わる人は、必読の書である。

【本書の構成】

第1章 時代に取り残された日本の教育現場

第2章 停滞から凋落へ向かう日本の科学技術

第3章 「失われた30年」を取り戻せるか

第4章 日本再生への道標を打ち立てる

Amazon

https://www.amazon.co.jp/dp/4620327557/


大谷智通さんがユニークな面白い科学書を上梓しました

シのげっぷが地球温暖化の原因になっていると最初に聞いたのは、1995年ころでした。当時取材した内容と本書の内容を比べてみたら、大幅に進歩していることが分かりました。温暖化現象の理屈を分かりやすく解説しており、読みやすいので小中高校生の福読書にぴったりです。
 大谷智通さんがいい本を出しました。ご本人の紹介をそのままコピペしました。
 
 新刊『ウシのげっぷを退治しろ――地球温暖化ストップ大作戦』旬報社、本日発売です!
 
本書は、地球全体の大きな問題となっている地球温暖化とそれを緩和するために急ピッチで技術開発が進んでいるウシのげっぷメタン削減を題材にした科学ノンフィクションです。
「地球温暖化と気候変動のメカニズム(環境問題)」「ウシの体のしくみ(ウシの生物学)」「ウシのげっぷを減らすための研究の最前線(農学研究の現場)」「健康的な食生活とはなにか(食育)」という、持続可能な社会を考えるうえで必須の4テーマをわかりやすく解説しました。
読者はこの1冊を読むだけで、地球の未来を左右する重要な4テーマの基本的な知識が身につきます。
執筆にあたっては、日本におけるウシのげっぷ削減研究の第一人者である北海道大学の小林泰男先生の取り組みを取材し、監修していただきました。
日本の科学技術行政について思うところ、最近なにかと話題の「肉食の是非」について思うところなども、せっかくですので突っ込んで書きました。
これからの地球の未来を担う、これから自らの「食」を選択していくことになる、若者たちに特に読んでもらいたいと思いから、中学生から読めるわかりやすい語り口となっております。もちろん、大人にも楽しんでいただけると思います。
詳細は添付のお品書き(目次)をご覧くださいませ。
よろしくお願いいたします。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

元首相「暗殺事件」で司法判断の潮目が変わったのか

2つの高裁判決は「違憲状態」だった

「一票の格差」が最大で3・03倍だった7月の参院選は、投票価値の平等を定めた憲法に違反すると訴えていた訴訟(一人一票訴訟)で、大阪、東京高裁が相次いで「違憲状態」との判決を出しました。原告の弁護士グループは14個の高裁に提訴していますが、残りの12個の高裁も、違憲状態判決を出す可能性が高くなりました。

違憲状態大阪高裁写真

司法はこれまで政治・行政権力に寄り添う形の姿勢を崩さず、違憲立法審査権という司法府の権力を正当に行使してきませんでした。それがこの判決で急転、司法判断が変わってきたように感じています(私見)。

「違憲・選挙無効」という判断にならずに「違憲状態」という曖昧で法理では説明できない判断を示していますが、司法の判断が一歩、国民主権寄りになったのかと思わせる判決でした。

国会議員主権国家を正すことができるか

一人一票訴訟代理人の一人である升永英俊弁護士は、「国民主権国家とは、一票の格差のない選挙で選出された国会議員の過半数が、多数決で法律を作りかつ総理大臣を決定する」ことと主張してきました。

しかし現在、少数の有権者が多数の議員を選出するいびつな国会(立法府)を形成しており、憲法に定める国民主権国家ではなく、国会議員主権国家になっていると主張してきました。その通りです。少数国民の選ぶ多数国会議員がすべて仕切ってきました。

多数決の原理を徹底して「利用」した政治現場

たとえ人口比例選挙になっていなくても、多数決を得るために一人でも多くの国会議員を獲得すればいい。この間違った多数決原理であっても、選挙に勝つことだけが第一義になる。選挙公約の実行性や政党理念、政治信条とは関係なく、たとえ国民主権の選挙制度になっていない不条理な選挙であっても、多数さえ握っていればいいという拙劣な考えがいつの間にか主流を占めるようになり、選挙に勝つためには手段を選ばない選挙運動がまかり通るようになっていったのです。

政治は数という政治理念の原型が固まったのは、長期政権を実現した佐藤栄作政権時代からでした。人口比例選挙になっていなくても、国会議員の頭数さえ多ければそれが国民主権の多数決だとする考えが、連綿と引き継がれてきました(私見)。

行きついた先に「銃撃事件」があった

その政治現場の価値観が、元首相銃撃事件へと行きついていったと筆者は確信しています。この事件以来、反社会活動を展開してきた旧統一教会と自民党など政界との癒着が洪水のように露見し、歴史的事件に発展してきました。

この事件を見た司法府が、行政府のタガのゆるみと立法府の不正義な活動に歯止めをかける時期ではないかと感じ取り、政治の在り方の根幹にある投票の価値について正当な判断を示す流れに行ったのではないか。

その考えに立てば、この訴訟の最高裁判決では違憲状態が示され、それを受けて選挙制度が変わり、同時に日本の政治風土にも影響を及ぼすのではないか。違憲状態判決の行きつく先を注目せざるを得ない気持ちになっています。