イベルメクチンとコロナ感染症の世界の動向-2
イベルメクチンとコロナ感染症の世界の動向-4

イベルメクチンとコロナ感染症の世界の動向-3

 コロナウイルス(SARS-CoV-2)に抗生物質は本当に無効か?

2020年になってからコロナウイルスが中国・武漢から徐々に世界へと広がりだしたころ、WHOはウイルスには抗生物質が無効だからCOVID-19に使用しないようにとの通達を出した。そのことに敏感に反応したのは、CTやMRIの画像診断など最新IT技術を駆使した研究と生理学を合体させて研究している日本のP医師だった。

日本の一部の医師、研究者の間では、武漢でインフルエンザ様症状の患者にタミフルとセフェム系抗生物質がある程度効いていたことを知っており、WHOがコロナウイルスにだけ敢えて抗生物質を使うなと通達を出すことをP医師は奇異に感じたのである。

そこで抗生物質の使用量と使用比率がコロナウイルスの罹患率および死亡率

に相関関係があるかどうか多くの文献を精査して調べてみたところ、相関関係があることが分かった。その成果をまとめアメリカのメジャーな学術誌に送った。

すると編集長が「審査に時間がかかり、受理される率も全体で10%程度だから至急他の雑誌に投稿した方がいい」とアドバイスをしてきた。

その論文のディスカッションの部分で「Macrolides have been shown to be active in vitro against RNA viruses. Indeed, it seems that the mortality rate caused by COVID-19 is low in Onchocerciasis endemic areas of Africa(マクロライド系抗生物質は、RNAウイルスに対してin vitro=試験管レベル=で有効であることが示されている。実際、アフリカのオンコセルカ症の流行地では、COVID-19による死亡率は低いようだ)と記載しておいた。つまりイベルメクチンの有効性に言及したものだった。

そうしているうち、オープンアクセスとしての投稿を示唆してきた。しかし投稿するには40~50万円かかるという。それならば日本の公益財団法人日本感染症医薬品協会の英文機関誌「The Journal of Antibiotics」に投稿することにした。

国内では判断できずドイツの査読者に回される

P医師から論文を受理した「The Journal of Antibiotics」誌は、この論文の採否の決定ができないとしてドイツの査読者に回した。しかし査読後の結論は、不採用となった。ウイルスに抗生物質は効かないとしてイベルメクチンがコロナウイルスに作用することは認められないとの理由だった。

そこでP医師は、2020年10月18日、査読前の論文掲出を受け入れている「medRxiv」に投稿したところ、2日後の同年10月20日に掲出された。

ウイルスに抗生物質は効かないとか、イベルメクチンがコロナウイルスに作用することは認められないとの理由に対して違和感を抱いていたP医師は、COVID-19とオンコセル症との関係に関する疫学分析を行い、それをまとめて2021年3月26日に「medRxiv」に送った。

論文投稿後すぐに掲出されたアフリカの疫学的考察

P医師が投稿後すぐに掲出してきた。この対応にP医師も驚いたという。論文のタイトルは、「Why COVID-19 is not so spread in Africa: How does Ivermectin affect it?(なぜCOVID-19はアフリカでそれほど広がっていないのですか:イベルメクチンはどのように影響しますか?)」というもので、論文の大略は次のようなものである。

アフリカのオンコセルカ症流行国31カ国と非流行国22か国におけるCOVID-19に対する影響を調査した。オンコセルカ症による罹患率、死亡率、回復率、致死率、COVID-19による罹患率,死亡率,回復率,致死率をアフリカにおける状況報告書から算出した。

オンコセルカ症の流行国31か国と非流行国22か国の2つのグループの母集団が等しい平均を持つという仮説を検定するために用いられるWelch検定による統計的比較を行ったものだ。イベルメクチンを投与された31か国の罹患率,死亡率,回復率,致死率、平均寿命は次の通りである。
テーブル1ー1 テーブル1-2

 イベルメクチン不投与22か国は次のような結果だった。 テーブル2 (2)この分析論文は、世界で最初にアフリカ31か国のイベルメクチン投与と不投与22か国とCOVID -19の感染関係を明快に見せてくれたテーブルである。

 

結論としては オンコセルカ症撲滅のためにイベルメクチンを投与されてきた国の罹患率および死亡率は、不投与されてきた国のそれよりも低いことが分かった。

結論

 アメリカとコロンビアで発表された2つの論文

ところが、P医師のアフリカでの疫学論文の発表前に、アフリカでイベルメクチンを投与された国は不投与の国に比べてCOVID -19の感染率や死亡率が低いとする論文が2020年12月9日にアメリカと2020年12月20日にコロンビアから2本出ていたのである。

イベルメクチンがCOVID -19に本当に効くのか効かないのか。どちらに転んでも最初に示唆した重要な論文となる。これを誰が最初に言いだし、証明する論文にしたのかは極めて重要である。

この件に関しては、P医師は2020年10月20日にmedRxivに掲載された論文にアフリカのオンコセルカ症の流行地では、COVID-19による死亡率は低いようだと記載済みであるとしている。

論文のプライオリティー(Priority)は創意順位を決めるものであり、学術現場では知的競争の決定的な要因になる。ノーベル賞受賞かどうかその決め手に、時として論文プライオリティで決することがあるほどだ。

そこで筆者は、似通った時期に発表され、同じ仮説で論じている3篇の論文の有用性を詳細に検証してみた。

 でたらめな母集団で結論を出したアメリカ論文

アメリカ論文は、ニューハンプシャー州の州立大学の研究者が2020年6月20日に、インターネットで一部の論文を見ることができるIJAA(International Journal of Antioxidant Agents)に投稿し、12月9日に掲載されたものだ。

タイトルは「A COVID-19 prophylaxis? Lower incidence associated with prophylactic administration of ivermectin(COVID-19予防法? イベルメクチンの予防的投与に伴う発症率の低下)」とするものだった。

アメリカ論文アメリカ論文の冒頭部分

 この論文は、アフリカ諸国の熱帯病撲滅でWHOがイベルメクチンを含む薬剤を投与してきた国と不投与の国を分け、COVID -19の感染者を調べ、投与された国の感染率が低いとする結論を出していた。

アメリカ論文バイオリン図アメリカ論文で投与・不投与の感染状況を描いたグラフ

 しかし、なぜか投与・不投与を簡便に分類した表はなく、論文に掲出した母集団を切り分けた図はここで見るように非常に見にくいものであり、国名も細かくて判読するのに苦労するものだった。

辛抱強く判読した結果、ガーナ、ケニヤなど9カ国が投与されてきた国にもかかわらず不投与国としており、不投与国でも最大の人口を誇る南アフリカ共和国が抜けていた。二つの母集団がでたらめであることが判明した。

それでも投与国は不投与国に比べて感染率が小さいと結論を出していたが、全く意味をなさない論文だった。

 コロンビア論文も母集団に大きな間違い

コロンビア論文は、2020年8月28日にコロンビアの学術誌の「Colombia Medica」に送られ、同年12月20日に掲載されたもので、「COVID -19: The Ivermectin African Enigma(COVID -19:イベルメクチンのアフリカの謎)」とするタイトルだった。

コロンビア論文コロンビア論文の冒頭部分

 WHOのオンコセルカ症撲滅戦略のため、イベルメクチンを無料で投与した「アフリカ・オンコセルカ症対策計画(African Programme for Onchocerciasis Control; APOC)」の対象となった19か国だけを投与国とし、これを除いた35か国を不投与国としている。

APOCは当初、19か国でスタートし、後に4か国を追加して23か国になっている。さらに後年、WHOの「リンパ系フィラリア症集団医薬品管理戦略;LF-MDA」戦略では、29か国にイベルメクチンが投与されてきた。

しかしコロンビア論文では、実際にイベルメクチンが投与されてきた13か国を投与国に入れないだけでなく不投与国に入れており、研究そのものに意味がないものになっていた。

しかし論文の結論は、APOC19か国の100万人当りの感染率、死亡率は、不投与国に比べて感染率で84%、死亡率で86%になっていると報告していた。

  本当のプライオリティ

 ここまで調べて筆者は、次のように確信した。

 アメリカ論文は、何らかの方策で日本のP医師の論文を知った研究グループが、「付け刃」でイベルメクチン投与国には効果があるとして作った論文ではないか。いわゆるパクリ論文である。

アメリカ論文のデータ収集日は、P医師論文がpreprintとして掲載されたその日になっていた。これを知ったときはびっくりした。この事実からも、P医師にプライオリティがあることは明らかである。

さらに投与・不投与の母集団の分け方があまりにも雑であり、しかもIncidence(発生率)を比較しているが、アフリカの国々では、ほとんどが国レベルでPCR検査をやっていないし、その実態も不明になっている。このようなずさんな論文でもオープンアクセスで公開されると、それなりにアクセス件数が上がっていることに驚く。

 コロンビア論文は、投与・不投与の母集団が実態とかけ離れている点では、アメリカ論文と同じである。従って論文の評価に値しない内容である。

 P医師の論文を再度検証すると

繰り返しになるが、P医師がWHOのイベルメクチン予防投与国と不投与国でCOVID-19感染状況と死亡者数などがどのような差があるかに気付いた論文は2020年10月20日に、「medRxiv」に掲載されたものである。これを詳細に分析したのが、2021年3月26日掲載論文である。

アフリカのイベルメクチン投与の31か国と非投与の22か国におけるCOVID-19による罹患率,死亡率,回復率,致死率をWHOの状況報告書から研究しており、次のような結果を示している。

  • 投与31か国の罹患率と死亡率は、不投与22か国に比べて統計的に有意に低かった。
  • 回復率と死亡率は、2つのグループに統計的に有意な差はなかった。
  • 平均寿命は、非投与国の方が統計的に有意に高かった。

谷岡論文冒頭「medRxiv」に掲出されたP医師の論文

     ただし研究対象となった投与・不投与グループの国に、次のような不備があった。

  • イベルメクチンの投与国の中に「Sao Tome and Principe(サントメ・プリンシペ)」(人口22万人)が抜けている。
  • イベルメクチン不投与国の中に「Sao Tome and Principe(サントメ・プリンシペ)」が入り、「Djibouti(ジブチ)」(人口56万人)が抜けている。

 しかしこの両国は人口が少なく、結論に影響を及ぼすようなものではなかった。査読論文として記載されるときには修正されるだろう。

次回に続く

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