PEACE BOATで世界一周の旅ーその46
2024/06/30
朝の食卓にのぼった世界一住みよい国
午前6時半、筆者の朝の食事の時間です。5階の和食レストランに乗船客が三々五々集まり、5,6人の食卓が数十ある大きなレストランで朝食が始ります。メンバーは毎日、変わります。先着順にテーブルに座っていくので、さまざまな方々と同席になります。2か月の船旅ですから、お顔を見ればああ、あの方かなと名前は知らなくても顔見知りになります。
朝の食卓は、昨日の反省会と今日の予定の期待感とで、話題が広がることがほとんどです。大体は話上手なご婦人がリードして話は際限なく広がっていきます。
「今日は世界一幸せな国に上陸するんですよ。ワクワクだわねえ」という発言に、食卓一同、顔を見合わせながら発言したご婦人に釘付けとなりました。聞けば、寄港するコスタリカは、イギリスのシンクタンクの調べで、世界一幸せな国の指標でトップになったというのです。部屋に帰って調べてみると、イギリスの「ニュー・エコノミクス財団」が発表している「地球幸福度指数(Happy Planet Index)」の2020年の結果によると、コスタリカは幸福度で世界トップになっていました。
教育費、医療費は基本的に無料。環境政策にも実績を出し、高い教育レベル、高い平均寿命など中南米ではトップにあるようで、これまでもたびたび、この種のランキングでトップになった実績もありました。ちなみに日本はと見ても見当たらない。ない、ないと探して57位で発見。あったからほっとしました。
軍隊を持たない国
この国を国際的に有名にしたのが軍隊の保有を禁止する憲法を1949年に制定したことです。87年にはその功績などでノーベル平和賞を授与されています。
パナマのすぐ隣の国です。面積は5万1,100平方キロで九州と四国を合わせたくらいです。人口は515万人(2021年)で、東京都のざっと半分です。カトリック教が国教ですが、憲法で信教の自由を保障しています。現在は雨期ですが、最高気温が30℃前後、最低気温が18℃前後で、雨が不規則に降ってきますがまあ、過ごしやすい土地のようです。
バスの車窓から見た熱帯雨林の景色。終日、雨模様であり深い緑の山地は、日本の森とよく似ていました。松の枝のように張り出している樹木もありましたが、よく見るとまったく違う樹木であり、熱帯地方の林相は緑の重層でした。
コスタリカと聞いて、選挙の「コスタリカ方式」を思い出していたので、訪問したら真っ先にそれを聞きたいと思っていました。何だろうか、コスタリカ方式とは。ネットで調べて見たら、びっくりすることが書いてありました。
ホンモノのコスタリカ方式は有権者と議員の癒着を防ぐ制度
小選挙区比例代表並立制の選挙戦術の一つ。同じ政党または友党に競合する候補者が存在する選挙区では、1人を小選挙区に、もう1人を比例区に単独で立候補させ、選挙ごとにこの2人を交代させる方式である。
それはなんとなく分かっていましたが、それと国のコスタリカとどんな関係があるのだろうか。ネット解説によると「コスタリカでは、選挙区内有権者と議員との癒着を防ぐ目的で、国会議員の同一選挙区における連続再選を禁じたもの」とありました。なんと崇高な制度ではないでしょうか。
日本の「コスタリカ方式」とは、なんの関係もない立派な政治目的を持ったコスタリカの選挙制度でした。小選挙区比例代表並立制導入当時、森喜朗・自民党幹事長がコスタリカの選挙制度を参考に命名したとありますが、コスタリカの人々には恥ずかしくて言えない命名に呆れてしまいました。
ショッピングセンター内には、世界的に有名なブランド店を始め、多種類の店舗が並んでいました。日本ブランドもありました。ピッカピカで清潔。ゴミの分別もきちんとされており、これまで訪問したどの国よりも清潔感がありました。
船から2時間かけて首都のサンホセへ出向きました。車窓から見る景色は深い森に包まれた環境で、この日は終日雨模様でした。道路は、よく整備されており、行き交う車は韓国車が目立ちました。バスから降ろされたのは、どでかくてしゃれたショッピングセンターでした。ここを拠点にあとは自由行動で、勝手に街を散策して、また2時間かけて夕方に船に戻るというコースです。
見通しのいいコーヒーショップにゆったりと座って、しばらくこの国の人々を観察することにしました。最初に気が付いたのは、ここはヨーロッパのどこかの国ではないかという錯覚でした。大人も子どもも、男女とも実に整った美形のお顔であり、女性は均整のとれた金髪が多い。思いのほか、ワンちゃんを連れている人が多いことにも気が付きました。
ワンちゃんが次から次とやってきます。どの犬も毛並み鮮やか、よく訓練されており、行き交う人に話しかけられるとちゃんとお行儀良く振る舞います。生活環境の余裕が、ワンちゃんの振る舞いにも出ているようです。
ワンちゃんトリミングのお店は、外からよく見えました。実にお行儀良く毛作りを受けており、ワンちゃんと息の合ったトリマーの見事な手さばきに見とれました。
子ども連れの人も多くいました。子どもたちの服装や仕草・行動を見ていれば、大人や社会の様子も見えてきますが、どの子もいい子に見えます。ふざけあいじゃれ合うのは、どの国の子も共通ですが、お母さんたちの様子を見ていると、実に落ち着いています。雨降りの中でスクールバスを待っている団体にも出くわしましたが、バスが来ると子どもに続いて大人という順番が決まっているのか、実に見事な流れで乗っていました。
世界一幸せな国の一端をいやというほど見せられました。年収、賃金、社会制度、企業環境などから人の幸せ感を測りがちですが、人々の動作・表情を見ているだけで、幸せ感が伝わることを初めて実感しました。
国民が誇りにしている新古典的様式の国立劇場。この建物を守るために戦争をしなかったと言われているそうです。
翌日の朝食テーブルでは、前日見てきたコスタリカの話題になりました。メンバーは全く違っていましたが、意外なことを見聞したご婦人もいました。港の近くの地域には、物乞いがいたし、とても世界一幸せな国ではなかったという報告です。皮膚の色などから原住民の系統らしく、貧富の差、失業率の改善などこの国にも課題があることを知りました。駆け足で見聞したコスタリカですが、訪問した国の中でもいい印象に持った国の一つでした。