01 日々これ新たなり

世界一周の船旅の記録その1をアップします。1~30回です。

 2024年4月から7月まで、ピースボートのパシフィック・ワールド号(7万7千トン)に乗船して、世界一周をしてきました。

 その様子を60回に渡って、ブログでアップします。

 その①1~30回分のPDFファイルをアップします。

   船旅1-30通しをダウンロード


日中大学の知財活動を比較する

日中大学の知財活動を比較する|潮流コラム一覧|特許検索の発明通信社

中国の大学は社会貢献を目指す意識が強固

中国の大学をたびたび訪問し、キャンパスの雰囲気を見てきた筆者の感想を言うと、中国の大学は日本よりはるかに活気を帯びているように思う。2016年5月に北京で開催された日中大学フェア&フォーラムでは、日本側は旧帝大の学長をはじめ、有名大学の学長たちがそれぞれの大学の経営方針を発表したが、中国の学長らの発言は迫力が違った。

中国の有名大学の学長は、自身の大学のことよりも国家のため社会貢献のためどう経営していくかという発表内容であふれていた。世界トップの大学を目指すという意気込みが言葉の端々に出ていた。

中国の大学のミッションは社会貢献にあり、国家に貢献することが最大の目的とされている。この目的の達成には、研究開発の成果を特許などの知的財産権で確保し、企業への技術移転で貢献するか、大学発ベンチャー企業で社会貢献するという視点だ。

中国の大学の周辺にはサイエンスパークとかハイテクパークがある。どの有名大学でも連携している。たとえば、清華大学のサイエンスパークには、サン・マイクロシステムズ、P&G、トヨタ、東芝、NECなど世界に名を知られた企業が研究室を持っており、学生や教員が一緒になって技術開発に取り組んでいる。浙江大学に行ったときも、大学構内にあるサイエンスパークには、若い技術開発者がセミナーを開いていたり、研究室とオフィスを兼ねた部屋が並んでいた。

大学発のベンチャー企業が多数ある

現在、中国の主要な94の大学に「大学サイエンスパーク」があるが、総売り上げは7,794億円(2015年)にものぼる。

また、中国の大学には、「校弁企業」という大学発ベンチャー企業が多数あり、代表的なものが北京大学の「方正集団有限公司」である。年間売上げは2兆2762億円にものぼる。清華大学の「同方股份有限公司」も売上高は1兆円を超えている。そのほかにも数千億円オーダーの売り上げを誇る校弁企業が多数ある。

校弁企業であげた収益を大学経営に充て、次の技術開発の資金に充てている。現在、全中国の552の大学に5,279のベンチャー企業がある。中国には日本とは全く異なった巨大な大学発企業があることに驚かされる。

大学別校弁企業の売上高ランキング(2013年)

注:売上高の金額は、OECD 購買力平価により計算されたものである。
出典:中国教育部大学校弁企業統計概要公告を基に作成。

 

浙江大学のサイエンスパークにある研究室風景

 

浙江大学のサイエンスパークでは、学生と教員らがセミナーを開いていた。

日中の大学発特許の出願件数と登録件数を比較する

こうした大学周辺のイノベーション創出現場を活性化させているのが知財活動である。日中の大学の特許出願件数を比較すると、中国の大学が1ケタ多いことにびっくりする。

大学特許出願件数トップ10(2015年)

 

日本の大学の特許出願件数は次の通りだが、中国の方が圧倒的に件数が多いことが分かる。日本は、研究資源が極端に偏って多い旧帝大が主体である。

 日本の大学の特許公開件数トップ10

 

 

次に特許登録件数を日中大学で調べてみると以下の通りである。

 中国の大学別特許登録件数トップ10(2015年)

 

日本の大学の特許登録件数トップ10(2015年)

日中の知財格差が急激に広がる

 日中の大学の特許出願件数や登録件数がこれだけ広がった背景はなにか。よく言われるのは、中国の特許出願は、補助金ほしさが少なくない。大学教員の業績を示すための出願も多いというものだ。

 それは否定できないと中国の大学関係者や特許事務所の弁理士らも語っている。しかし、近年は世界的な技術の進歩によって、中国の研究者のレベルもアップしており、同時にトップクラスの中国企業の特許レベルも急激に上がっている。世界トップクラスの通信機器メーカー、Huawei(華為)電子などは、まぎれもなく世界先端の知財活動になっている。

 また昨年暮れに北京大学の産学連携の状況を取材したときも、知財の技術移転で米国型のシステムを導入しており、同時に世界で競争ができる特許の創出、イノベーション創出を明確に掲げていることを認識した。

 中国の知財制度の多くは、日本を追い越してアメリカ型に必死に追いつこうとしているように見える。知財の司法判断でもアメリカ企業同士の訴訟が中国で起きるなど、世界標準化を狙っているように感じる。そうした現状については、今後もこの欄で順次紹介していきたい。

 

 


日本企業の特許戦略は大丈夫なのか

  世界の企業の盛衰を占う特許登録動向

世界の企業の特許戦略の動向を見るときに、最も注目されている指標の一つがアメリカ特許商標庁(USPTO)が毎年年頭に発表する企業別特許登録件数である。先ごろ2016年に取得した企業の登録件数が発表された。

アメリカの特許関連調査会社のIFIクレイムズ・パテント・サービス(IFI Claims Patent Services)は、毎年、登録企業の件数のランキングを発表している。今年のランキングを見ながら考察してみたい。

まず、特許取得上位50位までのランキングは、次の表のとおりである。

順位

企業

2016

2015

増減率

前年順位

1

IBM

アメリカ

8,088

7,355

9.97%

1

2

サムスン電子

韓国

5,518

5,072

8.79%

2

3

キヤノン

日本

3,665

4,134

-11.34%

3

4

クアルコム

アメリカ

2,897

2,900

-0.10%

4

5

グーグル

アメリカ

2,835

2,835

0.00%

5

6

インテル

アメリカ

2,784

2,048

35.94%

9

7

LG

韓国

2,428

2,242

8.30%

8

8

マイクロソフト

アメリカ

2,398

1,956

22.60%

10

9

TSMC

台湾

2,288

1,774

28.97%

13

10

ソニー

日本

2,181

2,455

-11.16%

7

11

アップル

アメリカ

2,102

1,938

8.46%

11

12

サムスンディスプレイ

韓国

2,023

1,838

10.07%

12

13

東芝

日本

1,954

2,627

-25.62%

6

14

アマゾン

アメリカ

1,662

1,136

46.30%

26

15

セイコーエプソン

日本

1,647

1,620

1.67%

16

16

GE

アメリカ

1,646

1,757

-6.32%

14

17

富士通

日本

1,568

1,467

6.88%

19

18

エリクソン

スウェーデン

1,552

1,407

10.31%

20

19

フォード

アメリカ

1,524

1,185

28.61%

24

20

トヨタ

日本

1,417

1,581

-10.37%

17

21

リコー

日本

1,412

1,627

-13.21%

15

22

グローバルファウンドリーズ

アメリカ

1,407

609

131.03%

60

23

パナソニック

日本

1,400

1,474

-5.02%

18

24

ボッシュ

ドイツ

1,207

1,142

5.69%

25

25

Huawei

中国

1,202

800

50.25%

44

26

SKハイニックス

韓国

1,125

891

26.26%

39

27

GM

アメリカ

1,123

1,315

-14.60%

21

28

フィリップス

オランダ

1,069

923

15.82%

37

29

半導体エネルギー研究所

日本

1,054

1,129

-6.64%

27

30

ボーイング

アメリカ

1,053

976

7.89%

34

31

ヒュンダイ

韓国

1,035

744

39.11%

50

32

三菱電機

日本

1,016

896

13.39%

38

33

シーメンス

ドイツ

984

1,011

-2.67%

32

34

シスコ技術

アメリカ

978

960

1.88%

36

35

ブラザー

日本

926

1,187

-21.99%

23

36

ホンダ

日本

922

1,031

-10.57%

31

37

AT&T

アメリカ

921

885

4.07%

40

38

NEC Corp

日本

890

792

12.37%

45

39

TI

アメリカ

887

808

9.78%

43

40

BOE Technology Group

中国

870

285

205.26%

122

41

マイクロン

アメリカ

863

961

-10.20%

35

42

シャープ

日本

829

997

-16.85%

33

43

ブロードコム

アメリカ

823

1,085

-24.15%

28

44

鴻海精密工業

台湾

803

1,083

-25.85%

29

45

ブラックベリー

カナダ

771

1,071

-28.01%

30

46

デンソー

日本

756

778

-2.83%

46

47

京セラ

日本

742

692

7.23%

52

48

富士フィルム

日本

699

747

-6.43%

47

49

ノキア

フィンランド

695

400

73.75%

88

50

ハネウエル

アメリカ

672

746

-9.92%

48

出典:IFI Claims Patent Services

http://www.ificlaims.com/index.php?page=misc_top_50_2016

トップのIBMは、8088件で過去24年連続トップを維持している。人工知能(AI)関連の特許が1100件を超えており、次世代の産業発展のカギとなると言われるAI分野で、IBMは世界のリーダーになることを予感させるような特許活動である。

上位5位までは、昨年と同じランキングだが、6位から9位までの4社はインテル、韓国のLG電子,マイクロソフト、世界最大の台湾半導体メーカーのTSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Co., Ltd)があがってきた。

トップ10から陥落した企業は東芝(前年6位)であり、ソニーがかろうじて7位から10位まで下がったが踏ん張った。東芝の経営危機問題は、連日、メディアでも取り上げられているが、アメリカでの特許動向を見ても、東芝の衰退に影を落としているのではないかとの印象が強い。かつての東芝の復活を期待したい。

 勢いを感じさせる企業

トップ50の中で、対前年比で著しく増加させた企業は勢いを感じる。たった1年間で2倍以上の登録数を出したのは、中国の液晶パネル製造のトップメーカーのBOE Technology Groupである。世界中のスマホの5台に1台、タブレット端末の約3台に1台は、BOE社の液晶パネルが使用されているという。急激に特許取得数を増やしたのは、研究開発で意欲的に取り組んでいるからである。この分野の韓国、アメリカメーカーとライバル関係になったとみていいだろう。

アメリカの半導体メーカーのグローバルファウンドリーズも1年間で2倍以上の件数を登録した。この企業は台湾のTSMCに次いで世界第2位の半導体メーカーであり、IBMの半導体事業を買収したりアブダビ首長国からの投資を引き出したり経営面での積極性は、技術開発でも活発であることを裏付けている。

液晶パネル、半導体共に日本が技術面でリードしていた分野である。それが今や見る影もないくらい存在感が薄くなっている。日本企業は技術開発だけでなく、経営戦略でも世界の潮流に後れを取っているのではないか。

このほか上位50の中でかなり件数を伸ばした企業は、6位のインテル、14位のアマゾン、中国の通信機器メーカーで25位のHuawei(華為)、韓国の自動車メーカーで31位のヒュンダイ、49位のフィンランドのノキアである。世界トップクラスの通信機器メーカーにのし上がったHuaweiは、中国での特許出願件数は減少に転じているが、外国出願は増やしている。これについてHuaweiは、「特許の量より質という国家の方針にも共鳴し、質の高い特許出願を行っている」とコメントしている。特許戦略の一環なのだろう。

フィンランドのノキアは、携帯電話端末機であっという間に世界トップになり、世界中をあっと言わせた。ところが、その後、サムスン、アップルなどの追随を許し、下降線をたどり始めるとすかさず携帯電話事業をマイクロソフト社に売却し、シーメンス社の通信設備事業と合弁して新たなノキアとして再出発した。携帯電話から総合通信機器メーカーへと転進したのである。

順位 企業 2016年
1 IBM 8,088
2 サムスン電子 5,518
3 キヤノン 3,665
4 クアルコム 2,897
5 グーグル 2,835
6 インテル 2,784
7 LG 2,428
8 マイクロソフト 2,398
9 TSMC 2,288
10 ソニー 2,181
11 アップル 2,102
12 サムスンディスプレイ 2,023
13 東芝 1,954
14 アマゾン 1,662
15 セイコーエプソン 1,647
16 GE 1,646
17 富士通 1,568
18 エリクソン 1,552
19 フォード 1,524
20 トヨタ 1,417

IFI Claims Patent Servicesの発表ランキングから作成

国籍別に見た企業の増減動向

企業の国籍別に対前年比登録数の増減を見たのが次の表である。対前年比の増減を対比すると、アメリカは12対6で対前年増加が2倍、韓国は5対0で完勝、中国も2対0で同じだが、日本は5対12でダブルスコア以上の衰退である。

対前年比で増加した企業数

 

アメリカ

12

日本

5

韓国

5

台湾

1

中国

2

ドイツ

1

オランダ

1

フィンランド

1

スウェーデン

1

 合計

29

 対前年比で減少した企業数

アメリカ

6

日本

12

台湾

1

ドイツ

1

カナダ

1

 合計

21

 

推移を見ると時代の先端を走る特許技術が見える

個別の企業の特許動向を見るために 2001年、2010年、2016年の特許登録件数のトップ20の推移を調べたものが次の表である。

 

順位

2001

2010

2016年

1

IBM

IBM

IBM

2

NEC

サムスン電子

サムスン電子

3

キヤノン

マイクロソフト

キヤノン

4

マイクロンテクノロジー

キヤノン

クアルコム

5

サムスン電子

パナソニック

グーグル

6

パナソニック

東芝

インテル

7

ソニー

ソニー

LG

8

日立

インテル

マイクロソフト

9

三菱電機

LG

TSMC

10

富士通

ヒューレットパッカード

ソニー

11

東芝

日立(日本)

アップル

12

ルーセントテクノロジー

セイコーエプソン

サムスンディスプレイ

13

GE

ホンハイ精密工業

東芝

14

アドヴァンスト・マイクロ・デバイス

富士通

アマゾン

15

ヒューレットパッカード

GE

セイコーエプソン

16

インテル

リコー

GE

17

テキサス・インスツルメンツ

シスコテクノロジー

富士通

18

シーメンス

ホンダ

エリクソン

19

モトローラ

富士フィルム(日本)

フォード

20

コダック

ハイニックス半導体

トヨタ

IFI Claims Patent Servicesの発表ランキングから作成 

トップ20の同向を見ると、産業構造の変革と個別企業の消長を見ることができる。コンピューター時代を築いた巨人・IBMは、この24年間トップを譲らないのは、IT産業革命に入っても産業現場の覇権を握っているアメリカ産業の強さの象徴であろう。

このIBMを除いた2001年から2016年までの企業別消長を見ると、次のように分析できる。

まず韓国のサムスン電子だが、5→2→2位と同社の業績拡大と歩調を合わせるように件数が増加している。またキヤノンも3→4→3位と上位を維持して堅調であり、日本を代表する特許企業になっている。

また、アメリカの半導体産業のリーダーになっているインテルが、着実に件数を伸ばし、16→8→6位となっている。日本の半導体企業が衰退の一途をたどったことを見ていると、経営戦略の違いを見せつけられるようだ。

代わって2016年からぐーぐル、アマゾンという新顔がトップ20に出てきた。グーグルは、自動運転の電気自動車の開発で、にわかに自動車分野で存在感を出してきた。アマゾンも、ワンクリック特許の期限が切れたのと交代するように、「予期的配送」という野心的な特許を取得するなど新たな産業開発を予期させる動向だ。この特許は、顧客が注文する前にこれまでの注文実績などをもとに、顧客が望むと予想した商品を、注文がある前に箱詰めして出荷するという特許だという。

また「室内でさまざまな物体に映像を表示できるコンピューター制御のプロジェクターと画像化システム」に関する特許出願も行っている。部屋の中でユーザーが映像や物体と組み合わせて空間デザインを考えるために有効ではないかという。

そんなことが事業として成り立つのかと思わせるような特許技術だが、開発するには世界を変えようとする野心があるのだろう。

アマゾンは、このほかにも空に浮かべた飛行船の巨大倉庫から小型無人機「ドローン」で顧客に商品を届けるビジネスを実現するための一連の特許を出願しており、ドローンを使った実際の配送も初めて成功している。中国でもドローン配送の開発に取り組んでいるようだ。


下降線たどる日本企業の特許活動

日本企業はどのような動向なの可。2001年、2010年、2016年の推移を見た個別企業の順位を列挙してみた。参考までアメリカのGEも調べた。


日本企業とGEの順位の推移

企業

2001

2010

2016

セイコーエプソン

21位以下

12

15

パナソニック

6

5

23

ソニー 

7

7

10

日立

8

11

51位以下(注)

三菱電機

9

37

32

富士通

11

14

17

東芝

11

6

13

NEC

39

38

 

GE

13

15

16

(注)日立は分社化して特許出願をしたため、これまでの「日立」が分散したものとみられる。 

これを見るとかつて特許出願・取得で、日米で存在感のあった日本企業の衰退ぶりは明らかである。先に述べたキヤノンを除くと軒並み下降線か横ばいになっている。

これに対し、エジソンが創業したGEは、時代と共に電機関係の巨大メーカーとして君臨し、金融・保険事業まで拡大している。特許取得でもしぶとく生き残っており、3Dプリンターを利用した大胆な製造工場を実現するなど時代の変革に合わせた企業に衣替えしてきた。

日本企業も国際的な企業戦略を展開し、技術開発でもアメリカ、中国、韓国に負けずに復活してほしい。 

 


技術貿易は黒字だがこれでいいのか日本

 発明通信社のコラム「潮流」に投稿したコラムを転載しました。

総務省統計では大幅黒字

 先ごろ総務省が発表した科学技術研究調査によると、日本の技術貿易の 2015年度は、技術輸出(受取額)が技術輸入(支払額)を大幅に超える黒字で、金額で3兆3472億円のプラスとなった。

 グラフは、諸外国・地域から受け取った額と支払った額の収支総計の経年推移だが、2006年からずっと黒字になっている。

(総務省・科学技術研究調査:http://www.stat.go.jp/data/kagaku/kekka/kekkagai/pdf/28ke_gai.pdf)

 技術貿易とはモノの貿易ではなく、特許、商標、意匠、ノウハウ(企業秘密)などの知的財産権のロイヤルティの支払額と受取額を表すものだ。技術を輸出すればロイヤルティを受取り、輸入すればロイヤルティを支払うことになる。

アメリカからの受取が断トツ

 知財のロイヤルティ収益をどの国や地域から日本は受け取っているのか。ロイヤルティをどの国に支払っているのか。それを示したのが次のグラフである。

 これで見るように圧倒的にアメリカから得ている収益が多い。アメリカから特許などに代表される知的財産権の権利使用料の収益がそんなにあるのだろうか。

 受取額の総額は、3兆9498億円に上っているが、そのうちの約41パーセント、約1兆6000億円をアメリカから受け取っている。

総務省・科学技術研究調査から作成

 一方、特許などのロイヤルティを日本が支払っている国・地域はどこか。これが次のグラフである。

総務省・科学技術研究調査から作成

 アメリカへの支払いが約71パーセントの断トツである。その支払額は総額6026億円の約71%なので約4300億円になる。アメリカとの技術貿易は圧倒的黒字になっており、支払いと受取りの差額は、約1兆1700億円となり、巨額の黒字である。


 つまり特許などのロイヤルティ収支を日米で見ると、圧倒的に日本がアメリカから特許ロイヤルティをもらっていることになる。

 新聞などのメディアや政治・経済界は、日本の技術貿易は年々巨額の黒字を出しているのであたかも日本は技術立国であり、この先も技術で世界を先導するかのような印象を与えている。
 
自動車産業の親子のやり取りが大半
 技術貿易のやり取り、つまり特許ロイヤルティのやり取りをこのように中身を分析してみると、日本産業界と知的財産権の実像が見えてくる。 巨額の受取額の大半は自動車産業であり、その内訳を見るとその約75%が親子間での収支になっている。つまりトヨタ、ホンダなどアメリカで工場を操業しているアメリカの子会社から、日本の親会社に支払っている特許、ノウハウなどのロイヤルティが大半になっている。

総務省・科学技術研究調査から作成

 ロイヤルティの内訳をみると、日本の本社が開発して知財権を取得した技術、車体の設計図、製造技術ノウハウなどをアメリカで操業する企業・工場に貸与することで得られるロイヤルティということになる。

 確かに立派な収益である。言い換えると、同族企業の内部でやり取りする収益の分配にも見える。これでは本当のロイヤルティ収益と言えるのかという疑問がどうしても出てくる。もちろんこれは知財収益ではあるが、ここで欲が出てくる。

独創的な知財で稼ぐイノベーションが必要

 欲がでるという言い方は、独自の技術開発でロイヤルティを取りたいという欲である。つまり系列の親子間でのロイヤルティのやり取りではなく、独自の技術のロイヤルティで系列外の企業から稼ぐことである。

 技術輸出で稼いだ額のかなりの部分が、親子間の知財収支で得た額に占められているというのはいかにも寂しい。しかしこの状況には、日本企業全体が気が付いているのではないだろうか。

 来たるべき知財立国への踊り場にあるのかもしれない。そう考えないと、日本の長期停滞への序奏ということになりかねない。そういうことを考えさせる総務省の発表データであった。

 

 


第130回21世紀構想研究会・特別講演と忘年パーティ

 

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 第130回21世紀構想研究会は、12月15日、プレスセンターで開催され、山口正洋氏(ぐっちーポスト編集長、経済金融評論家)が「トランプ後のアメリカと今後の日本経済の見通し」のタイトルで講演を行い、その後一年を締めくくる忘年パーティで盛り上がりました。

 研究会には大村智、荒井寿光、黒木登志夫先生らアドバイザーを始め多くの会員とその関係者が参加して、有意義で楽しい時間を過ごしました。

特別講演の内容を報告します。

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 ウソだらけのメディア報道

 冒頭、山口先生は、金融マンとして活動してきた体験から、メディア報道、特に日本経済新聞は政府の発表、つまり大本営発表をそのまま垂れ流すようなもので間違いが多いと指摘。

「政府筋から出てきた情報をどう解釈するか、それを精査しないで報道している」とメディアに噛みついた。

 「株をやったことがない人が金融情報を書いている。たとえて言えばゴルフをやったことがない記者がゴルフの記事を書いているようなものだ」

 アメリカのトランプ次期大統領が当選した番狂わせのメディア解説でも、ヒラリー・クリントン候補が落選した原因は、格差社会への反発、白人の貧民層の反発などをあげていた。

 しかし、ヒラリーの得票支持層や過去の民主党と共和党候補者の得票数を分析してみると「ヒラリーが負けたのは民主党支持者の投票行動サボタージュにあったと思われる」と分析。共和党の得票数は前回の大統領選挙と同じなのに、民主党の得票は500万票以上減っていると指摘した。

 メディアは見当違いの理由をあげているとして、得票率を分析した結果を示しながら次のように述べた。

 「投票行動を分析すると女性は意外とヒラリー嫌いが多く、オバマ大統領の得票より女性の得票率を減らしている。唯一、票が増えたのは高学歴、男性階層だけだった」という。

 ヒラリー嫌いが投票をサボタージュし、その結果、トランプ次期大統領が誕生したとする見解を語った。

 トランプ次期大統領の政策予想に話を進めると、1980年代のレーガン大統領時代、レーガノミクスの再来を予感すると語った。その時代、アメリカはすさまじいバブル経済時期だった。日本もそうだった。トランプ次期大統領の時代はそれと似てくるのではないかという。

 トランプの発言内容が微妙に変質

 さてトランプ次期大統領の公約だが、インフラ整備、メキシコ国境での壁の構築、高所得者層の減税、オバマケアの廃止、武器の携帯を支持する最高裁判所判事の任命などをあげている。

 ここでレーガン大統領時代のころと比較分析し、レーガノミクスと言われた経済活況とバブルに至った時代を分析した。景気の動向を左右する就業者数を見てみると、オバマ大統領はレーガン時代に増えた公務員を切り、民間の就業者数を増やし、就業者数がマイナスだったのをプラスへと引き上げた。その努力は評価するとした。

 トランプ次期大統領の公約などの発言を精査すると、1980年代の政策から見て特に新しいことを言っているわけではない。トランプの公約の発言も微妙に変化しており、オバマケアの廃止も一部廃止と言い換えてきているという。

 政権の根幹に就く人事問題に言及し、石油大手エクソンモービル(XOM.N)のティラーソン会長兼最高経営責任者(CEO、64)を次期国務長官に指名すると発表したが、これについても次のように解説した。

 「この人はロシアのプーチン大統領と非常に親しい人物であり、今後、米ロ関係がどのように動いていくか非常に注目したい」と語った。

 さらに金融大手ゴールドマン・サックス・グループ社長兼最高執行責任者(COO)ゲーリー・コーン氏をホワイトハウス国家経済会議(NEC)の委員長に指名するなどゴールドマン社の幹部3人が政権中枢に入ることになり、いわゆるウオールストリート政策に入ることは間違いないだろうとの見解を語った。

 さらに過去のバブル期からやがて急落した経済状況を説明しながら、トランプ次期大統領政権がバブル経済に向かうことを予想し、その反動で急転して停滞・急落する可能性もあるだろうとの予想を示した。

 メキシコ国境の壁については、今でもフェンスがあるし違法者はどんどんメキシコに追い返している。この点は何も斬新さはない。そのほかの点でも、それほど新しいものを政策として出しているとは見えないという。

 日本経済は停滞したままでありアベノミクスは疑問

 さてアベノミクスについて言及した。日本経済新聞は、右肩上がりと景気予想してきたが、本当にそうだろうか。過去のGDPの推移を示しながら「一進一退を続けている」と指摘。これでアベノミクスの効果があったかは疑問であるとの見解を示した。

  日経新聞は、円安で財政がよくなったように書いているが、そんなに良くなっているわけではない。たとえば企業でよくなったのは「大企業で非製造業」が確かによくなっていると解説した。

 しかしこの業界は、非正規従業員を派遣する人材派遣業であり、正規社員がどんどん減っていった状況を示している。もはや正社員はいらないような社会を作っていると指摘した。

 そして「このようにかつて、ヤクザがやったような社業が栄えるのは違和感がある」と語った。

 さらに中小企業は、製造業も非製造業も青息吐息であり景気は停滞したままであるとした。

 なぜ景気が浮揚しないのか。山口先生はその原因は「消費税である。これがすべてを台無しにした」と断言した。消費支出のマイナスが続いている。東日本大震災の後にモノが不足していた時代の消費支出よりも、いまモノがあふれている時代なのに消費支出は低い。

 今後も消費税が上がることを予想して人員整理をして給与も抑える企業が出ている。実質賃金はマイナスに転じている。スーパーマーケットでは実態として値上げしている。価格を抑えて量を減らしているケースも多い。

 アベノミクスの第一の矢、金融緩和、黒田総裁のバズーカ砲だが、世の中に大量にお金を出す金融緩和で効果が上がるとしてきたが、効果は上がっていない。企業の売り上げも利益も横ばいであり、国民はお金を使わない。アベノミクスの効果は甚だ疑わしいとの根拠を様々なデータで示した。

 名目GDPと株の時価総額の関係を見るとアメリカの投資家のウォーレン・バフェットが言うように株の時価総額が名目GDPを超えていくとバブルの警戒水域になると語り、今の株の時価総額は警戒レベルなっているようにも見えると語った。

 2001年5月、日本は財政破たんしたとアメリカの有名な経済学者から言われたことがあるが、日本は貯蓄率が高くしかも国債はほとんどは日本人が購入している。外貨残高も世界一だった。黒田現日銀総裁が当時、日本破たん説を消して回った。

 日本はこれまで一度も債務超過に陥ったことはなく、今も日本の財政は300兆円以上の資産超過があり破たんしないことは明らかだが、それでも財務省は危機意識をあおっている状況を説明した。

 若年労働者の増加に転じているアメリカ

 日米の人口構成をグラフなどで示した。それによるとアメリカは人口増加国であり、働く年齢層がこれからも増えていく動向を示した。一方の日本は高齢化が進むものの、人口減少は緩やかであり、それほど心配はいらない。

 日本の高齢化人口が増えていくことは、別に悪いことではない。高齢者はマーケットにとってプラスと考えるべきだとの考えを語った。人口が減ってもお金を持っている年配者が増えれば、市場としてはいいものだと考えることが重要であることを示唆した。

 トランプ次期大統領の政権になって、バブル経済が来る可能性があるとの見解を示し、バブルはいずれ破たんすることも語った。ただ、アメリカはG7の中でも若年労働者が唯一増える国であり、今後も成長が見込まれていることを示した。

 また2010年に山口先生は中国のビジネスを完全撤退したと語り、アメリカとビジネス展開することが一番安泰であることを語った。

 最後に国の豊かさをGDPで示した時代は過去のものであり、国連がいま試行している国の総合的な豊かさの指標を見ると日本は非常に豊かな国であることが示されていると紹介した。

 そのような考えに転換していくことが重要であることを主張した。

 最後に消費税を上げる必要がないことを改めて主張して区切りをつけた。

 時間の関係で質問はひとつに限り、代表質問を21世紀構想研究会理事の長谷川芳樹氏が発言した。

 長谷川氏:投資戦略についてご意見をお聞きしたい。日本では為替が動くことが投資戦略を難しくしているように感じる。アメリカが今後、バブル経済になるならそれに乗っていくこともいいかなと思うが、どうすればいいか。

 山口先生:為替の問題ですが、自国の通貨が高くなることは価値が高いから高くなるのであり、それで破たんしたケースはない。円安になるということは日本に信用がないことである。円安でリスクがあると理解する方がいい。一番危険なのは、どこかで歯止めが利かなくなることだ。日本は外貨準備高が膨大にあるが、どこかでつまずくとどうなるのかを考えて行くことが大事だ。

2CIMG6103大村智先生と山口先生のツーショット

2CIMG6110生島和正・武蔵エンジニアリング社社長(左)から記念品の贈呈を受ける山口先生


瀬木比呂志「黒い巨塔 最高裁判所」(講談社)に見る判事補の若造が最高裁長官に楯突く筋立てに感動

黒い巨塔

 元エリート裁判官だった瀬木比呂志先生(明治大学法科大学院教授)が、小説の手法で司法の暗部を「内部告発」した小説「黒い巨塔 最高裁判所」(講談社)の主人公は、最高裁判所事務総局民事局付、笹原駿・判事補である。

 任官して10年に満たない若造が、小説の最後の場面で絶大な権力を誇っている最高裁長官に楯突く。

 「長官のおっしゃる中道というのは、権力、政治、世論の力関係をみながら適宜それに合わせて調整を図っていくというやり方だと思いますが、そういう機会主義的な行き方は、はたして司法にふさわしいものでしょうか」

 戦後、日本の国と政治と行政を劣化させてきた元凶・司法の姿(筆者の私見)を、かくも明確に語った言葉として世に残るものだ。

 著者の瀬木先生が、「実録小説ではまったくない」とあとがきでわざわざ断っているように、この作品は創作である。しかし読むものは勝手に評価し、勝手に論評することは許される。

 それに従えば、この小説で書かれているような光景が、現実に最高裁・司法という巨大な組織の中で日夜繰り広げられていると言っても間違いではないだろう。

 所詮は人間世界の話である。出世栄達を願うのは当然である。司法の世界も神様の集まりではない。しかしいやしくも法治国家を標榜する日本、しかも戦争に明け暮れた日清戦争後の40年余りの馬鹿げた時代を清算し、戦後日本の民主国家建設の基盤として形作った三権分立の国体であったはずだ。

 それが司法の堕落によって崩壊していった有様をこの小説は描いていると筆者は思った。

 最後の下りは、エリート判事補の若造が最高裁長官に語った先の言葉に続いて、次のように続けている。

 「司法は、法の支配、三権分立、民主国家という観点から、国家の在り方を正し、それに確固たるプリンシパル、行動原則を提供するべきものではないでしょうか?」

 これに対し最高裁長官は言う。

 「言葉をつつしみたまえ、笹原君。君の言うことは、一から十まですべて理想論だ。そういう理想論で日本の社会が動くなら、大変、結構なことだ」

 これに対し笹原は反論する。

 「だって、司法が理想論を吐かなくてどうするんですか? 司法の役割というのは、痩せても枯れても理想論を吐き、筋を通すことにあるのではないでしょうか? 司法が立法や行政と一緒になって『政治』をやっていたら、法の支配だって、正義だって、公正だって、およそありえないと思います」

 この小説で著者の瀬木先生がもっとも言いたかったことではないか。

  市民の感覚からかけ離れた判決が続出している行政訴訟や国家賠償訴訟。原告の勝訴率がわずか12パーセントという行政訴訟、和解が異常に多い民事訴訟、そして冤罪が多い刑事裁判。「違憲状態」という奇怪な判断でごまかしている一人一票実現訴訟への「保身判決」。

 そのような現実が、何よりも笹原の言葉を裏付けている。

 憲法第76条第3項=すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。

  憲法で保障された唯一の職種である裁判官の責務を自ら組織的に放棄し、さらに統治行為論によって違憲立法審査権を放棄して日本の国体を堕落させていく司法の姿をこの小説は余すところなく語っていると思う。

 小学生の時代から習ってきた日本の国体・三権分立は、砂上の楼閣だったのだ。日本の真の民主国家を誰が建設するのか。そのような宿題を投げかけた小説であり、日本の多くの人が読んでほしいと思って紹介した。

 

 

 


着実に変革する中国 ~知財現場の様変わりに驚く~

 知財制度改革から見えてきた中国の先進性

 1999年に中国に初めて渡った筆者は、中国の発展ぶりに驚き、それ以来毎年、頻繁に中国に行ってその変革ぶりを見てきた。特に筆者の注目する点は、洪水のように出回っていたニセモノだった。本物と良く似ているニセモノ製造技術を見てすっかり魅了され、「中国ニセモノ商品」(中公新書ラクレ)という本まで出したほどである。

  この本は、中国でニセモノが出てきた産業技術の必然性、日本がかつて西欧を模倣して国家形成をしてきた歴史的な解釈をしたつもりだった。しかしほどなく、中国の企業現場の技術力を様々な現場を見てそれを評価し、知財制度についても違った眼で中国を追うようになった。

 10月31日から、科学技術振興機構のミッションで中国の国家知識産権局(中国特許庁)など民間知財機関や先端企業などを駆け足で視察した。これまで筆者が取材していた対象は、地方政府の知財管轄部署、ニセモノ関連業者や機関、特許事務所や調査会社など限られた箇所であり、その取材を通して中国の様変わりを肌で感じているに過ぎなかった。

 今回は、荒井寿光団長のもとに、「中央政府機関と先端民間機関・企業」を視察する機会があった。そこで見た中国の様変わりの現場は、非常に新鮮に映った。これまで断片的に感じていた光景がにわかに鮮明な映像となって眼前に映し出されて来た。

   

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ベンチャー企業創業を推進するカフェが集結する一角 

 国ぐるみで認識して実施した知財重視の政策

 21世紀は知財を制するものが産業界を制するものだ。これは筆者が確固として持っている認識であり、これを筆者は「時代認識」と語っている。中国・国家知識産権局を訪問し、中国が知財重視国家へと変転していった歴史的な経緯を再認識した。中国政府の根幹にある国務院で「知財強国」の政策を打ち出すまでには、関係者の努力があったことを知った。そこで策定される知財政策は、いまや日本を超えている。中国政府の政策立案と実施は、着実に展開されていることは、科学技術政策でもよく知っている。沖村憲樹氏が声を大にして語っている中国の変革である。

 知財現場では、制度改革だけでなく実施にも力を入れていることが分かった。たとえば、知財保護制度の中に民間からの保険制度を導入して特許侵害の被害者・加害者の救済制度を構築した。民間業者に任せていることが、実効性を担保している。それが中国政府のいいところだ。

 中国の司法で見る知財の透明性

 今回のミッションに参加して最も衝撃だったのは、中国の裁判所の制度が透明性、公開性では日本を追い抜いていることだった。荒井団長が元裁判官にインタビューした内容によると、「人民陪審制度」が着実に実行されており、裁判所での法廷の模様が、インターネットで実況中継されていることだった。法廷では口頭弁論が展開されており、弁論の場にPCやモニターを持ち込んで原告・被告が論述することも行っていた。ほとんどアメリカ型と言ってもいいだろう。知財の実務レベルでも、中国の政府機関とアメリカの政府機関は緊密に交流していると語っている。

 また民間のシンクタンク業者を訪問すると、北京知財裁判所の判決、裁判官、原告・被告の当事者情報、その代理人の詳細な情報をデータバンクにして公開・販売している業者を訪問した。これは日本にはないし、これを日本で実現するのはかなり難しそうだ。

 大学・研究機関・企業などで出てきた特許技術を移転する準公的機関も訪問した。ここでも欧米との連携が進んでいたが、日本は「蚊帳の外」という印象を受けた。

2CIMG5121特許技術を企業に移転する半民間機関の大掲示板には、売り出し中の技術リストが掲示されていた

 Huaweiに見る先進企業の躍進

 通信技術開発と製品製造で世界トップグループに立っているHuawei社のゲストハウスも訪問した。筆者が北京でHuawei社のスタッフから取材してから8年経っている。今回、北京市郊外のゲストハウスを訪問して、度肝を抜かれた。製品のショールームは豪華絢爛であり、いかにも中国風だし広大な敷地に建てられた大理石のヨーロッパ風の建築物も先端企業の意気込みを感じさせる。

 このゲストハウスは、日本では真似ができない規模である。Huaweiの勢いとエネルギーを感じさせるものであり、知財の世界でも世界の先端に躍り出た中国の力を実感した体験だった。

3CIMG5210Huaweiのショールームには先進技術製品と近未来社会が展示されている

 中国の先端の実態を報道しない日本のメデア

 日ごろから日本のメディアは、中国の遅れている面、悪い事象などを重点的に報道しているように筆者は感じている。中国政府・政権に関することも、権力闘争とか中国共産党政権のいわば「政局」報道だけに偏っているような気がする。中国共産党の一党独裁政権を日本人が批判しても意味がない。

 中国の政権が日本に及ぼす悪い影響があれば、批判する対象になるし大いに中国政府に発言していい。いま、中国と友好関係を築いて、何か日本にとって不都合なことがあるのだろうか。

 日中の長い歴史を見ると、主義信条や政治的な形態を超えて両国には密度の濃い文化の交流があった。しかし明治政府以来、日本が中国に対してとってきた「上から目線」の意識と侵略政策は、明らかに間違いだった。これを総括して反省し、終止符を打つ時代になっている。それは遅すぎるほどである。

 中国と日本は近未来どうするのか。中国人と日本人は顔も似ているし、中国大陸から入ってきた中国文化は日本の隅々までいきわたっている。中国人の考え方と日本人のそれとは明らかに違うことが多いが、それくらいの違いがあったほうが日中交流にはいい。

 中国のすべてがいいとは思わない。中国には日本と同じ比率で悪い人々がいる。人口比で言えば、日本の10倍いるから目立つだけだ。しかしそんなことはどうでもいいことだ。お互いにいい面を触発し合って発展することが大事ではないか。そのような感慨をさらに強めたミッションへの参加であった。

 

 


北京で開いたミニ馬場研に想う

 2016年10月31日から11月4日まで、JST中国総合研究交流センターが企画した中国知財戦略研究会(荒井寿光会長)の一行5人と現地参加のスタッフが、急進的に改革する中国の知財現場を視察した。

 この視察団に自費で参加した馬場研3期生で弁理士の宮川幸子さん、ジェトロ北京駐在の同1期生の阿部道太さんと3人で、ミニ馬場研を開催する機会があった。

 ホテルの朝食時の約1時間の会合だったが、あれから10年を経て社会活動をするかつての同志に会えて幸せなひと時だった。この視察団の団長の荒井さん(左端)、阿部さん(右端)と共に撮影した写真がこれである。

2016年11月3日

 修士論文を土壇場で書き直した阿部さん

 久しぶりに再会した阿部さんは、ジェトロ北京の総務部長として重要な任務を果たしており、一回り大きくたくましくなっていた。

 帰国する機中の中で、東京理科大学知財専門職大学院(MIP)で研鑽した日々を思い出していた。

 筆者は教員という肩書だったが、院生諸君と共に研鑽する同志という思いで日々を過ごしていた。修士論文作成の指導という役割があったが、気持ちとしては共に学ぶという目線だった。一緒に取材に同行して苦労した場面を思い出す。

 阿部さんの修論のテーマは「植物新品種の育成者権保護と活用の戦略に関する研究」であった。育成者権というテーマは、10年前の知財の世界ではまだなじみがない珍しいテーマだった。

 しかも阿部さんは、突然、それまでの修論テーマを変えて、10月末になってこのテーマにしたものだが、短時間の中で精力的に取材し、文献を精査して仕上げた。結果的にこれがよかったのだろう。非常に内容のある論文に仕上がった。

 このとき、1期生に中国人留学生の姜真臻(きょう・しんしん)君がいた。いまダイキン工業の知財スタッフとして活躍している。修了する1期生の諸君に向かって筆者が書いたはなむけの言葉は、中国人留学生の姜君を意識しながら「21世紀は中国の時代である。ビジネスで最も関わりがある隣国をよく知る同士と今後も付き合い、いつまでも共有した時間を思い出して欲しい」と書いている。

特許ステーキ特許ステーキ「カタヤマ」で。右端に片山さんも入ってくれた。(2007年3月)

 中国の大学とMIPを掛け持ちした宮川さん

 今回の視察団に自費で参加したのが宮川幸子さんだ。MIPに進学してきた当時、環境関係の企業で活動する社会人であり同時に中国の大学にも籍を置いて学習しており、日中をビジネスと学業で往復する多忙な日々であった。

その合間を縫って知財学会では「中小企業活性化のための日中国際産学連携に関するシステムの提案」のタイトルで堂々と発表した。 

宮川学会日本知財学会で発表する宮川さん(2008年7月)

 2008年度の馬場研論文集を開いてみると、冒頭の言葉として筆者は「3期生のメンバー7人は、MIPの中でも精鋭の集まりであり、修士論文のテーマ設定から調査研究・分析・執筆活動まで共通認識に立った研究の雰囲気を終始保持し、論文執筆に取り組むにふさわしい研究室であった」と書いている。

宮川さんの修士論文は、「中国の大学生における模倣品に対する意識と行動」という大胆なテーマであった。大連、上海、北京、広州という4都市で約450人の大学生、大学院生を対象に模倣品の意識を聞き取るという調査は、世論調査が禁止されている中国でも初めてだったろう。もちろん日本でも初めての報告であり、オリジナルな調査として他の研究者の学術論文に引用されるほどだった。

宮川さんの意欲的な姿勢は修了後も持ち続け、弁理士試験に挑戦して見事に合格した俊英であった。今回の中国知財現場の取材でも、得意の中国語を駆使して積極的に交流を行い、独自の人脈を築いていった。

馬場研は、合計30人を輩出して終了したが、どの修了生も優れていた。いま社会人としてそれぞれの分野で中堅幹部になろうとしている。教員は年々老いていくが共に研鑽した同志たちは、日々輝きを増していく。その秘かな喜びをどうしても書きたいと思ってこれを書いた。

 


京都の「菊乃井」主人・村田吉弘氏の学校給食論評は天下の暴論だ

悪意に満ちた「週刊現代」での村田氏の告発

 ことの発端は、「週刊現代」2016年9月24日の4ページ特集記事から始まる。

 「全国の親、祖父母必読 ミシュラン三つ星料亭「菊乃井」店主・村田吉弘氏が問う」として「不味すぎる学校給食 こんなものを子供に食べさせていいのか」という大見出しの報道である。

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          放映された「初耳学」という番組より

 おかしな献立という学校給食をいくつか挙げ、日本全国でこのような献立が日常的に提供されているかのような書きぶりである。一読して「悪意に満ちた告発もの」と筆者は思った。

 親から徴収した給食費の260円の使途で110円は不明であると書いてある。しかも管理栄養士の語ったらしい食材費の明細も書いていない。いかにも上納金のような見えないお金があり、それが使途不明のように書いてある。

 魚もすべて冷凍であり、ろくなものを使っていないような書きぶりだ。

 この記事は、村田氏が週刊誌の記者に書かせたものであり、執筆者もろくに取材をしないで、告発した村田氏の言い分をそのまま書いたものだろう。歴史に残る「間違いだらけの学校給食」報道である。

   これでは現場で日夜苦労している栄養教諭、学校栄養職員、調理員が怒るはずだ。案の定、全国の栄養教諭らから怒りのコメントが筆者あてに殺到してきた。

 輪をかけたTBSの「初耳学」という放映

 2016年10月23日夜10時15分からTBSで放映された「初耳学」という番組で、またも村田店主が登場し、まったく見当違いの学校給食批判を主張していた。

 「食の危機 今の給食を食べさせていいのか」というタイトルを掲げている。

 放映された大写しの画面は以下のようになる。

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 「週刊現代」と同じように、日本中の学校給食がまずいと言わんばかりにテレビ番組でも展開したもので、筆者は断固としてこの「インチキ主張」を許さないと思った。

 番組の中で高カロリー、高脂質、肥満傾向児出現が学校給食に原因があるように誘導しているが明らかに間違いだ。学校給食では各栄養素とカロリーの摂取基準を法令で定めており、学校栄養士は日夜、その規定の中でおいしい給食を作るために 1食270円前後の予算で献立作成に取り組んでいる。

 たとえば、家庭料理では不足しがちなミネラル、ビタミン類は、学校給食で補っているし、太り過ぎないようにカロリー制限もしているし、適宜な食物繊維の摂取も決めている。子どもは野菜や魚嫌いが多い。それを乗り越えようと栄養士は必至に献立作りに取り組んでいる。

 ピーマンやにんじんをどのように調理すると子供はおいしいと言って食べてくれるか。学校栄養士の涙ぐましい努力を筆者はあちこちで聞いている。

 学校給食では、残食が出ないように学校栄養士も必死である。各栄養素を満たしたうえおいしい学校給食を出せば完食になるが、なかなかそうはいかない。和食だけを出せばいいわけではなく、洋食、中華など多彩な食の文化を学校給食で学ぶことも食育である。

 村田氏がテレビで展開したように、成人病予備群や肥満児の出現を学校給食になすり付けるような主張は断固として許されない。

 学校給食の予算に比べると「菊乃井」の途方もなく値段の高い料理を毎日食べていると健康を維持できるのか。

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 「ミシュラン三つ星料理人が学校給食の改善に着手」として京都の小学校で和風給食を行っていると紹介している。

 日本列島どこでも、学校給食は米飯・和食が主体であり、何も料理人の指導など受けなくても栄養教諭、学校栄養職員は日常的に和風献立に取り組んでいる。子どもたちにおいしく食べてもらうためには、それなりの工夫が必要であり、料亭の献立・調理のやり方がすぐに学校給食に応用できるものでもないだろう。

 フランスのタイヤ会社の宣伝戦略で始まったミシュランの何とか星を日本では有りがたがり、過ぎるのではないか。それを表看板にして、学校給食の現場をよく知っているとも思えない人物がバッサリと一方的に現場の仕事を切って捨てるような論評は暴論である。

 日本の学校給食は、栄養、健康面から見ても全国ほぼ均一に実施さている実績を見ても世界トップだろう。長年現場を見て来た筆者が自信をもって言えることである。

 


許しがたい「違憲状態」という保身判決  

  先の参院選岡山選挙区は、著しい一票の格差があるので「違憲、選挙無効」を訴えていた升永英俊、久保利英明、伊藤真弁護士を代理人とする一人一票実現運動訴訟に対し、広島高裁岡山支部は「違憲状態」にあるとしながらも選挙は有効という判決を出した。

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 「違憲」と言い切らずに「状態」という適当な語彙を付け加えた「違憲状態」という判決は、過去にも最高裁で出ているが、これはごまかしである。司法がここまで腐敗してきた証拠であり、文言で適当にごまかして逃げる「保身」の象徴的判決である。

 今回の判決直後、原告の弁護団が「保身判決」という旗を掲げたが、その通りである。戦後、廃墟と化した国家からはい上がり、高度経済成長を実現して先進国の一角にようやく食い込み、バブル経済を経てこの20年間、成長なき衰退する国家へと推移してきた。

 高齢化社会、少子化社会が拍車をかけたことは事実だが、十分に予想されたこのような国家の趨勢に対応できるだけの国の施策を実現できなかった国家のリーダーは、ぼんくらだったということだ。それだけの責任を担っていたはずだが、名誉と報酬を得ただけで役割を全うできなかった。

三権分離が機能していない日本の国家体制

 日本の国家体制は、立法・行政・司法の三権分立の中で民主国家が形成されるとされてきた。中学校の社会科ではそのように教えてもらった。しかし日本には三権分立は事実上ない。司法は、立法府と行政府に隷属された機関に成り下がっているからだ。40年近く新聞記者をしていたので、司法判断は常に取材テーマの中に存在していた。

 しかし様々な取材をしているうち、裁判所の判決ほどわからないものはないという確信を持つようになった。日本社会で最高のエリート集団とされる司法がこの体たらくでは、国家も国民も浮かばれない。なぜそうなったのか。

 たとえば憲法第76条第3項を読めば明らかだ。

憲法第76条第3項=すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。

  ひとつつの職業の役割を憲法で規定し保障しているものは裁判官だけである。それだけ特異で強い権限を保障されているのである。国家のエリートという位置づけである。しかし現実にはこの権利は行使されずに裁判官の個人的な生き方で適当に行使されている。

 一人一票実現運動を展開する原告団が、判決直後に旗で示した「保身判決」とは、裁判官が本来行使すべき正義とはかけ離れた個人的な事情で出した判決だという意味だろう。日本の裁判所も裁判官も正義とはかけ離れた特殊な権力機関に成り下がっているのである。

司法権力の象徴として屹立する最高裁判所

 日本の行政訴訟の原告勝訴率が1割そこそこという数字が、国民感覚とはかけ離れた司法判断がまかり通っている現実を明確に示している。行政にはほぼ絶対に勝てないという意識を国民に植え付けたのが司法である。

 知財関係の訴訟でも、まず原告は勝てない。大企業優先思想、ことなかれ判断が蔓延しているような印象を与え、事の本質をうやむやにする和解が多いのも事実だ。

 今日の政治の劣化、行政の劣化、メディアの劣化に拍車をかけてきたのが司法判断だろう。司法が毅然とした正義の味方、というよりも憲法第76条第3項で規定していることをそのまま実行しているなら、日本はもっとまともでましな国家になっていたはずだ。それを台無しにしてきたのは司法の責任である。

 司法が正義にのっとり毅然とした態度で判断をし、判決を積み上げてきたなら、立法も行政も緊張感が高まり、結果的に矜持ある国家になっていたはずだ。同時に司法判断は国民に多大な影響を与え、民主主義国家を意識する国民へと誘導しただろう。

 エリート裁判官として務め上げ、いま大学に転じて司法の問題点を赤裸々に告発している瀬木比呂志・明治大学教授は、間もなく刊行する「黒い巨頭 最高裁判所」(講談社)で、司法・最高裁のインチキぶりを小説という形で世に告発するという。

「黒い巨頭 最高裁判所」の予告編はこちらのサイトにあります。

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49800

 司法の巨塔として屹立する最高裁だが、その内実は保身の固まりとして出来上がった巨大な黒い機関であることを瀬木教授の小説は語っている。

 一票の格差訴訟の「違憲状態」判決は、現在の司法の暗部と実態を象徴的に表現した「名判決」である。


「4人目の受賞者」に泣いた新海征治先生の輝ける業績

新海教授が受賞者から漏れたのはなぜか

 2016年の自然科学分野のノーベル賞受賞者が出そろった。

 生理学・医学賞で大隅良典先生が単独受賞したのは、先生の受賞が予想されていたこととはいえ、単独受賞という画期的な成果に日本の研究現場に多大な勇気と誇りを与えた。

 しかし、10月5日に発表された化学賞では一瞬、筆者はわが眼を疑った。

 授賞理由は、「分子機械の設計と合成」であり、受賞者は米・仏・オランダの3人である。1990年代からこの分野で先端を走っていた先生の名前がない。この分野なら当然、受賞すると思っていた新海征治先生(崇城大学教授、九州大学名誉教授、九州大学高等研究院特別主幹教授)のお名前がないことにショックを受けた。

Bernard L. Feringa  J. Fraser Stoddart  Jean-Pierre Sauvage

2016年のノーベル化学賞を受賞した左より
Bernard L. Feringa、J. Fraser Stoddart、Jean-Pierre Sauvage の3博士。(ノーベル財団HPより転載)

 同じようにショックを受けたと思われる奥和田久美・文部科学省科学技術学術政策研究所・上席フェローは「非常に残念に思う。10年くらい前に、この分野の研究に化学賞が出たら可能性があったかもしれないのに」と語っている。ノーベル賞は、確かに授与する時期とも密接に関係する。

 新海先生の「4人目の受賞者」の悲運を感じ、しばらく何がそうなったのか考えを巡らせた。

 科学史やノーベル賞の歴史の研究者が集まっているフランスのパスツール研究所では、ノーベル賞をとりそこなった研究者を「4人目の受賞者」と呼んでいる。ノーベル賞は1分野、3人までと規定されているからだ。だから4人目になった人が次点者となる。つまり4人目は、ノーベル賞受賞者と同等の業績を上げている研究者という理解でもいいだろう。

 ただし、受賞者の人数が単独、2人では、次点者は「2人目」「3人目」となるが、次点者という意味ですべて「4人目」と呼ばれている。

 近年、日本人の研究者の中で「4人目」が多く出ていると筆者は感じている。4人目になったのは、ノーベル賞選考委員会の判断でそうなったものだが、3人目(あるいは2人目)とは間違いなく紙一重だったと思う。

 その選考委員会での選考経過は、50年後に明らかになる。その記録は必須の科学史の文献になるが、そのころには関係者はほぼ没している。だからこそ明らかになった経過には価値があるということだろう。

4人目を列挙してみた

 これまでに「4人目の受賞者」を筆者の独断であげれば次のようになる。

・豊橋技術科学大学の大澤映二教授のケース

 1996年、フラーレン(C60)の発見でハロルド・クロトー博士ら3人が化学賞を受賞した。1970年に大澤栄治教授は、これを予言した論文を発表したが、論文は日本語だったため国際的に認知されなかった可能性が強い。

・東北大名誉教授の西澤潤一先生のケース

 2009年の物理学賞は「光通信用ファイバー中の光伝達に関する業績」で上海生まれの物理学者、C.K.カオ博士に授与された。この分野で終始、世界先端を走っていた西澤潤一先生が選に漏れて涙をのんだ。

・飯島澄男教授のケース

 2010年の物理学賞は、炭素原子1個分の厚さのシート、グラフェンの発見でアンドレ・ガウム博士ら2人が受賞した。これでカーボンナノチューブの発見者、飯島澄男教授の受賞の可能性が薄くなった。しかし今後、受賞するするチャンスはある。筆者はそれに期待している。

・審良静男・阪大教授のケース

 2011年のノーベル生理学・医学賞は、「動物の体で働く免疫の働きに関する研究成果」の業績で3人に授与された。しかしそのうちの一人である米ロックフェラー大学のラルフ・スタインマン教授は、受賞発表時に死去していたことが判明した。

 ノーベル財団の内規では、「受賞者は存命中」という規定があり、スタイマン教授の受賞はこれに違反していた。しかしノーベル財団は特例として受賞者とした。もしスタイマン教授が除外された場合、審良教授が浮上した可能性が非常に高い。

・東北大の蔡安邦教授のケース

 2011年の化学賞は、準結晶の発見でイスラエルのダニエル・シェヒトマン博士が単独受賞した。この分野では準結晶の9割を発見した東北大蔡安邦教授が共同受賞してもおかしくなかった。しかしノーベル賞選考委員会は、研究のオリジナルを重視していることを痛感させた。

・水島昇・東大教授のケース

 2016年に生理学・医学賞を単独受賞した大隅良典教授と共同研究で多くの実績をあげていた。しかし大隅教授の独創性が高く、単独受賞になったため逸した。今後、オートファジー分野が基礎・実用研究共に発展することは間違いないので、これからの業績によってノーベル賞に輝くことは夢ではない。

 このように4人目の科学者が日本に何人もいるという筆者の独断ではあるが、ノーベル賞を研究しているものとして非常に勇気を与えられる。

 筆者が独断で作成している「ノーベル賞受賞者候補者」のリストを見ると、物理学賞が13人、化学賞は31人、生理学・医学賞は22人にのぼっている。

 かつてストックホルムのノーベル財団の関係者に取材して受けた印象を言うと、自然科学3分野はいずれも授与する分野として、毎年20分野ほどあがっているという。

 「ノーベル賞は、分野に授与すると考えてもらいたい。その分野でもっとも貢献した3人までが受賞者になる」と生理学・医学賞を選考しているカロリンスカ研究所のある選考委員は語っている。

 つまり、受賞者個人の業績から予想するのではなく、いま世界を変えている業績は何か、その業績に最も貢献した科学者は誰かという視点を持ってほしいと示唆したものである。

 2017年の受賞者は誰か。筆者の興味は次に移っている。