ぶっちぎりで単独受賞した大隅良典先生のノーベル賞受賞
許しがたい「違憲状態」という保身判決  

「4人目の受賞者」に泣いた新海征治先生の輝ける業績

新海教授が受賞者から漏れたのはなぜか

 2016年の自然科学分野のノーベル賞受賞者が出そろった。

 生理学・医学賞で大隅良典先生が単独受賞したのは、先生の受賞が予想されていたこととはいえ、単独受賞という画期的な成果に日本の研究現場に多大な勇気と誇りを与えた。

 しかし、10月5日に発表された化学賞では一瞬、筆者はわが眼を疑った。

 授賞理由は、「分子機械の設計と合成」であり、受賞者は米・仏・オランダの3人である。1990年代からこの分野で先端を走っていた先生の名前がない。この分野なら当然、受賞すると思っていた新海征治先生(崇城大学教授、九州大学名誉教授、九州大学高等研究院特別主幹教授)のお名前がないことにショックを受けた。

Bernard L. Feringa  J. Fraser Stoddart  Jean-Pierre Sauvage

2016年のノーベル化学賞を受賞した左より
Bernard L. Feringa、J. Fraser Stoddart、Jean-Pierre Sauvage の3博士。(ノーベル財団HPより転載)

 同じようにショックを受けたと思われる奥和田久美・文部科学省科学技術学術政策研究所・上席フェローは「非常に残念に思う。10年くらい前に、この分野の研究に化学賞が出たら可能性があったかもしれないのに」と語っている。ノーベル賞は、確かに授与する時期とも密接に関係する。

 新海先生の「4人目の受賞者」の悲運を感じ、しばらく何がそうなったのか考えを巡らせた。

 科学史やノーベル賞の歴史の研究者が集まっているフランスのパスツール研究所では、ノーベル賞をとりそこなった研究者を「4人目の受賞者」と呼んでいる。ノーベル賞は1分野、3人までと規定されているからだ。だから4人目になった人が次点者となる。つまり4人目は、ノーベル賞受賞者と同等の業績を上げている研究者という理解でもいいだろう。

 ただし、受賞者の人数が単独、2人では、次点者は「2人目」「3人目」となるが、次点者という意味ですべて「4人目」と呼ばれている。

 近年、日本人の研究者の中で「4人目」が多く出ていると筆者は感じている。4人目になったのは、ノーベル賞選考委員会の判断でそうなったものだが、3人目(あるいは2人目)とは間違いなく紙一重だったと思う。

 その選考委員会での選考経過は、50年後に明らかになる。その記録は必須の科学史の文献になるが、そのころには関係者はほぼ没している。だからこそ明らかになった経過には価値があるということだろう。

4人目を列挙してみた

 これまでに「4人目の受賞者」を筆者の独断であげれば次のようになる。

・豊橋技術科学大学の大澤映二教授のケース

 1996年、フラーレン(C60)の発見でハロルド・クロトー博士ら3人が化学賞を受賞した。1970年に大澤栄治教授は、これを予言した論文を発表したが、論文は日本語だったため国際的に認知されなかった可能性が強い。

・東北大名誉教授の西澤潤一先生のケース

 2009年の物理学賞は「光通信用ファイバー中の光伝達に関する業績」で上海生まれの物理学者、C.K.カオ博士に授与された。この分野で終始、世界先端を走っていた西澤潤一先生が選に漏れて涙をのんだ。

・飯島澄男教授のケース

 2010年の物理学賞は、炭素原子1個分の厚さのシート、グラフェンの発見でアンドレ・ガウム博士ら2人が受賞した。これでカーボンナノチューブの発見者、飯島澄男教授の受賞の可能性が薄くなった。しかし今後、受賞するするチャンスはある。筆者はそれに期待している。

・審良静男・阪大教授のケース

 2011年のノーベル生理学・医学賞は、「動物の体で働く免疫の働きに関する研究成果」の業績で3人に授与された。しかしそのうちの一人である米ロックフェラー大学のラルフ・スタインマン教授は、受賞発表時に死去していたことが判明した。

 ノーベル財団の内規では、「受賞者は存命中」という規定があり、スタイマン教授の受賞はこれに違反していた。しかしノーベル財団は特例として受賞者とした。もしスタイマン教授が除外された場合、審良教授が浮上した可能性が非常に高い。

・東北大の蔡安邦教授のケース

 2011年の化学賞は、準結晶の発見でイスラエルのダニエル・シェヒトマン博士が単独受賞した。この分野では準結晶の9割を発見した東北大蔡安邦教授が共同受賞してもおかしくなかった。しかしノーベル賞選考委員会は、研究のオリジナルを重視していることを痛感させた。

・水島昇・東大教授のケース

 2016年に生理学・医学賞を単独受賞した大隅良典教授と共同研究で多くの実績をあげていた。しかし大隅教授の独創性が高く、単独受賞になったため逸した。今後、オートファジー分野が基礎・実用研究共に発展することは間違いないので、これからの業績によってノーベル賞に輝くことは夢ではない。

 このように4人目の科学者が日本に何人もいるという筆者の独断ではあるが、ノーベル賞を研究しているものとして非常に勇気を与えられる。

 筆者が独断で作成している「ノーベル賞受賞者候補者」のリストを見ると、物理学賞が13人、化学賞は31人、生理学・医学賞は22人にのぼっている。

 かつてストックホルムのノーベル財団の関係者に取材して受けた印象を言うと、自然科学3分野はいずれも授与する分野として、毎年20分野ほどあがっているという。

 「ノーベル賞は、分野に授与すると考えてもらいたい。その分野でもっとも貢献した3人までが受賞者になる」と生理学・医学賞を選考しているカロリンスカ研究所のある選考委員は語っている。

 つまり、受賞者個人の業績から予想するのではなく、いま世界を変えている業績は何か、その業績に最も貢献した科学者は誰かという視点を持ってほしいと示唆したものである。

 2017年の受賞者は誰か。筆者の興味は次に移っている。

コメント

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zhuanzhitiewei

いや、新海教授が受賞しなかったのはほかの理由ではなく、すべてこのクズのせいで
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http://www.nano.lu.se/sara.linse
https://www.nobelprize.org/nobel_prizes/chemistry/prize_awarder/committee.html


2012——Shigetada Nakanishi
2013——Morokuma Keiji
2014——Toshio Yanagida
2016——Seiji Shinkai

As a chairman of the nobel committee for chemistry,prof. Sara Snogerup Linse (since 2012) discrimination against japanese is still common. She has committed a serious fault and had to step down from hisposition

CCSCモデルファン

 結晶機械であるGIC結晶を機械工学のボトルネックである摩擦・境界潤滑領域で説いている島根大学客員教授の久保田邦親博士らの受賞の日も近いのではないかと思います。

Ricky

何年もたってのコメントですみません。
社会科学系の自然科学門外漢ですが、
息子が九大理学部に在籍していたので、新海先生が気になり、
このページを見ました。
おっしゃる通り「4人目の受賞者」であったことは間違いないですね。
専門家がみても「なぜ」という立派な研究者が、
こんなにいることも知りました。
ありがとうございます。

他の方が個人の差別感情を挙げられていますが、
北里柴三郎以来、
日本人に対するノーベル賞選考委員会のレイシズムは存在すると思っています。
それがなければ、日本の受賞者はすでに科学系だけで40人は超えているのではないでしょうか。

ねむねこ

久保田博士は今はダイセルイノベーションパークの方ですね。このかたの教員時代の講義資料である材料物理数学再武装ってDX(AI(人工知能)応用化技術)のブラックボックス問題でも最近脚光を浴びているようですね。ニューラルネットワークの技術の広がりはものすごい大規模なものとなりましたね。

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