森友事件に見る新聞メディアの最期 その4

教育勅語にこだわる安倍政権は何を目指すのか

 森友事件は、筆者が予想するように下火になり、世間の話題と注目は別のものに移っていくように感じている。いつものことだが、日本人はけじめをつけることが苦手な国民性なのかもしれない。森友事件が燃え盛るのを都合の悪い人々は、国民が事件を忘れてくれることをひたすら待っている。

 このコラムで書いてきたことは、森友事件が起きた背景は「右翼思想の森」が醸し出す「空気」にあるというのが筆者の主張である。このようなテーマ、課題を調査・追及することは新聞がもっとも不得手とするものだ。

 SNS(Social Networking Service)のようなツールと手段を持っていなかった50年前なら、森友事件は露見せずに静かに成功していたかも知れない。籠池氏が語ったように「神風が吹いて」、右翼思想を教育する学園が誕生していたかも知れないからだ。SNSの時代がこの事件をさらけ出したおかげで、多くの国民が理解できない首相夫人とそれを取り巻く秘書グループの不可解な言動も知ることになる。

 それにしても安倍内閣は、戦前の間違った教育の象徴となっている教育勅語にこだわり、明治時代の思想に逆戻りさせようとしていることは明らかだ。1983年、中曽根内閣が教育勅語を朗読する右翼志向の学校に対し、その朗読の中止を求める是正勧告を行っている。そのような過去の自民党政権の政策を否定までして教育勅語にこだわる安倍政権に対し、国民が黙っていることは許されない。

 NHKが先ごろ実施した世論調査によると、「教育勅語を教材として活用することを否定しない」とした政府答弁書について「まったく評価せず」15パーセント、「あまり評価せず」33パーセントだった。合わせると半数近くの人が評価しなかったことになる。これに対し「大いに評価」「ある程度評価」は合わせて36パーセントだった。

DSC_2631NHKの世論調査の報道より

 ところが、安倍政権を支持する人は半数を超えており、内閣は依然として国民の支持を受けていることになる。

 明治にこだわる安倍政権の後進性

 安倍首相が熱意を燃やすのは改憲だけではなく、 2018年10月23日に迎える「明治改元150年」の式典にあるとされている。

  現行憲法が公布されたのは昭和21(1946)年11月3日である。憲法が平和と文化を重視することからその日を「文化の日」と呼ぶことにした。安倍政権はそれを「明治の日」に代えようとする動きが出ているという。

 さらに4月14日には、2021年度から全面実施される新しい中学校学習指導要領の保健体育で、武道の種目の一例に「銃剣道」を明記したことについて、「『軍国主義の復活や戦前回帰の一環』との指摘は当たらない」との答弁書を閣議決定したとの報道があった。

 デジタル大辞泉の解説によると閣議決定とは、「憲法や法律で内閣の職務権限とされる事項や国政に関する重要事項で、内閣の意思決定が必要なものについて、全閣僚が合意して政府の方針を決定する手続き」とある。法律や条約の公布、法律案・予算案・条約案などの国会提出、政令の決定などに際して行われるものであり、中学校の学習指導要領について閣議決定することがあるのか。なぜ、こんなことまで閣議決定しなければならないのか。

 「軍国主義の復活や戦前回帰の一環」と指摘されることに、なぜこれほどまでに過敏に反応するのか。本音を衝かれたから、あわてて対応しているように見える。

 そのような時間があるなら、未来に向けて日本はどうするか考えを巡らせた方がいい。科学技術創造立国、知的財産立国とした過去の国是はどうしたのか。

 世界の科学技術も知財の世界も驚くほど速い流れで進歩・進展している。そのような現状を正確に把握している閣僚は、首相を筆頭にほとんど見当たらないように筆者は思う。国民は政治に対してもっと関心を持たないと、議員多数決という国民不在の政治に都合のいいようにされてしまう危険を感じる。

 政治権力のチェック機能を十分に果たせなくなった新聞に代わるジャーナリズムは、そう簡単には育たない。誰がこの穴を埋めるのか。日本のリベラル階層は、もっと自身の意見を発信する手段と方法を持つべきではないかというのが筆者の意見である。

(終わり)

 

 


中国アップルがスマホ意匠権で勝訴

  発明通信社のコラム「潮流」(http://www.hatsumei.co.jp/column/index.php?a=column_detail&id=231)の2016年8月18日付けで、中国アップルが中国で販売していたiPhone6、iPhone6-Plusの意匠は、シンセン市佰利営销服務有限公司(以下、佰利=バイリ=)の持っている意匠権を侵害しているとして販売差し止めを求められた紛争を紹介した。

  もしこれが認められると、中国の大市場で中国アップルのスマホが撤退することになりので、世界中の知財関係者から注目を集めていた。これは同時に、中国の司法を含めた知財制度が、国際的に受け入れられるかどうかを見極めることにつながるという思惑もあった。

  ともすれば、中国は自国有利の司法判断が出るという危惧を従来から抱かせていたからだ。特に地方保護主義という考えが根強くあるからでもある。

  結果は、中国アップルの言い分が認められ、中国の知財司法制度と判断は、先進国並みになっていることを示したことになった。

  今回の訴訟結果についても前回と同様、北京銘碩国際特許法律事務所(http://www.mingsure.com/Japanese/about.asp)の金光軍弁理士の解説をもとに紹介してみる。

 これまでの経過をおさらいする

  この紛争の経過を一覧表にしたものが、下の表である。

  シンセン市佰利営销服務有限公司(以下、佰利=バイリ)が2015年1月に、自社の持っている意匠権をもとに、アップルコンピュータ貿易(上海)有限公司(中国アップル)が中国で販売しているiPhone6、iPhone6 Plusは、意匠権を侵害しているとして販売差し止めを求めて北京市知的財産局に訴えたのが発端になっている。

 バイリが取得した意匠権は、同年1月13日に出願された「ZL201430009113.9」などであり、同年7月9日に登録公告された。なお、iPhone6 PlusとiPhone6は、サイズだけ異なるスマホである。

 中国アップルのスマホの意匠をめぐる係争の経過

 

  この紛争は、行政では侵害と認めたが、中国アップルはこれを不服として司法判断に訴えた。

  今回、この訴えに対し北京知的財産法院は、行政側の侵害判断をいずれも認めず、結果として販売差し止めを認めないとする判断になった。

  金光軍弁理士によると、今回の判決の全文が公開されていないので、今の時点では同法院が発表したメッセージから判断を読み取ったとしている。金光軍弁理士は、整理して次の3点をあげている。

  1、北京市知的財産局の決定は、係争意匠と被疑侵害意匠の間の区別意匠特徴の認定において、遺漏(手落ち)がある。

  2、被告(北京市知的財産局)は、自分が確認した係争意匠と被疑侵害意匠の間の五つの区別意匠特徴を機能的意匠特徴と認定したが、この認定は事実及び法律的根拠がない。

  3、係争意匠の携帯電話の側面の弧度は非対称設計で、その弧度及び曲率に関する意匠特徴は従来意匠と区別される意匠要点であるが、被疑侵害意匠は対称している弧度設計を採用している。(対比図面の赤枠部分

 
北京銘碩国際特許法律事務所のニュースレター(2017年3月号)から転載

  この区別は全体の視覚効果に顕著な影響がある。これに関する被告の認定は誤っている。また、係争意匠と被疑侵害意匠の間には一般消費者が容易に観察できる明らかな他の区別もある。従って、被疑侵害意匠と係争意匠は同一意匠でも類似意匠でもないので、被疑侵害意匠は係争意匠専利の保護範囲に属しない。

  このように金光軍弁理士は整理したうえで、この判決について「係争意匠とiPhone6、iPhone6 Plus はいろんな区別があるので、通常の消費者でも両者を区別できると思う。したがって、iPhone6、iPhone6 Plus が係争意匠専利を侵害したと判断したのは、無理があると思う」と語っている。

  この係争は通常の3人の裁判官による合議体ではなく重要案件として5人の裁判官の合議体を形成した。それだけ中国でも難しい重要な案件とみたわけだ。

  金光軍弁理士は「北京知的財産法院が北京市知的財産局の結論を全て覆したので、上訴の可能性が高いと思われる」としている。もし、被告が上訴した場合は北京市高級人民法院で二審が行われることになる。

 

 


森友事件に見る新聞メディアの最期 その3

証人喚問NHK

国会で証言する籠池氏(NHKテレビから)

 戦前回帰を目指した「右翼思想の森」に隠れた真実

 森友事件は、学校建設の許認可をめぐる不正疑惑と国有地のタダ同然の払下げの不正疑惑が大きく取り上げられている。しかし問題の本質は、日本会議という右翼団体の影響を強く受けた政治勢力にあるというのが、筆者のコラムの主張である。

 右翼団体である日本会議とそれを取り巻く人脈は、あたかも一つの森を形成するように大きな茂みを作っているが、確たる輪郭を持った形状物ではない。それは「日本会議の研究」(扶桑社)で、著者の菅野完氏があますところなく書いている。

 現政権と直結するような「森」の調査報道となれば、従来の新聞メディアには不得手なテーマである。時代の要請を受けたインターネットサイトからの発信でこの事件の端緒が語られるようになったのである。

 菅野氏の緻密な調査結果、それを発信したインターネットサイト、その反響を受けて実現した刊行本。その手順こそ、第4次産業革命の産物と言えるものである。それは筆者が追跡してきたもの作りの現場と類似する点がある。

 安倍首相夫人が森友学園に3回も講演に訪れ、幼稚園児らの時代錯誤のシュプレヒコールを見て涙したという話や、国会の証人喚問などで話題の中心人物になっている籠池泰典氏夫妻と夫人の記念写真を見ても、首相夫人と森友学園が親密な付き合いであったことは明らかである。

 右翼団体の森を作っている数々の樹木の一本が森友学園であり、幼稚園児たちの教育勅語の朗読や軍歌の「海ゆかば」を歌唱する活動は、あたかも森を覆うおびただしい枝葉の一つのように見える。

 森と枝葉を涵養する忖度という「空気」

 安倍首相は、森友事件が国会で問題にされてきた当初、籠池氏を評して「教育に熱心なお方・・」と語っていたことや、首相夫人が森友学園の名誉校長になっていたこと、さらに「安倍晋三記念小学校」と名付けようとしていたことからも、籠池氏が安倍首相の大ファンであったことが分かる。と同程度に安倍首相夫人もまた、森友学園の教育活動に共鳴していたからこそ、親密な付き合いが続いてきたのである。

 

 このような事実を重ね合わせると、日本会議という右翼の森を形成する木々の一本に首相夫妻が関わっていたという状況証拠は疑いないのではないか。そう理解してみると、国有地払い下げや学校設立許認可に対する不正疑惑は、また違った見方ができる。

 すでに「忖度」という言葉が出ているように、当事者が直接指示や下命をしなくても相手の思惑を慮って行動を起こすことがあったのではないか。それが忖度である。

その裏付けになるような籠池氏の言葉がある。「突然、神風が吹いてきた」と語ったように、森友学園の設立許認可事項や払下げ話が同学園の都合のいいように、にわかに進展していったのである。

 そのような風潮を私たちは「空気」という言い方をする。誰が発信して誰が責任者になっているのか判然としないが、全体を覆ってくる一つの方向性の勢力を「空気」という抽象的な言い方で表現する。まことに言い得ている言葉であろう。

 大きな森を形作っている木々とおびただしい枝葉とその陰影の中に、安倍首相夫妻の姿が筆者にはくっきりと見ることができる。そしてその木々を取り囲むように首相官邸の夫人付き秘書たちと官邸スタッフという別の木々が繁茂して森をいよいよ勢いつかせているように見える。

 森と木々と枝葉を涵養する「空気」こそ、森友事件を形成した要素になっているのではないか。だから話題にされている当事者たちが、違法性がないことをタテにして「問題がどこにあるのか」と抗弁することができるのである。

 空気は景色と言い換えることもできる。森の景色がある意図をあたかも持っているかのようにある色に染めていく。このような色付きの景色が見えてきたのは、森友事件が発覚してからほんのわずかな時間の中で展開された森の中の木々と枝葉のざわめきの中であぶりだされたことである。

 この色とざわめきを「違法」という尺度で決めつけることは、ほとんどできない。森の木々を形成する政治勢力はそこに拠り所を見つけ、忖度と空気という言葉に寄り掛かって、今回の森友事件を森の奥深くの闇に葬ろうとしているのではないか。

 しかし、森そのものは消すことができない存在感を出し始めており、その証拠の一つがすでに出てきている。安倍内閣は教育勅語を「憲法や教育基本法に反しない形」で教材として使用を認める閣議決定をした。なぜ、そこまでこだわるのか。

 森とその中に生息する木々と枝葉の存在に、筆者はこれからも注視していくことにする。

(つづく)

 

 


森友事件に見る新聞メディアの最期 その2

森友事件が発生した根本事情

 森友事件の根本は、国有地をタダ同然で払下げた処理内容、学校建設許認可に関わる森友学園側の不正疑惑の2点であり、首相夫人の名誉校長就任とか寄付行為とかは本筋とは違うという主張がある。

 これは論旨逆転させた主張であろう。森友事件は、日本会議の存在なくして起こり得なかったものであり、日本会議を取り巻く人脈があったからこそ国有地タダ同然の払下げ、塚本幼稚園の時代錯誤も甚だしい教育現場が世の中の耳目を集めるようになったものだ。

 右翼思想の人脈背景がまったくなく、単独で森友事件が発生したという見方があれば、それは間違いだろう。筆者はそのような観点でこのコラムを書いているのだが、タイトルにあえて「新聞メディアの最期」という刺激的な文言を付けた理由をこれから展開していきたい。

 前回、菅野完氏の書いた「日本会議の研究」(扶桑社)をもとに主張を展開した。この本は、元々は扶桑社が立ち上げたWebメディア「ハーバー・ビジネス・オンライン(HBO)」に連載されたことから始まっている。

 菅野氏は、新聞を主体とする既成のメディアが日本会議について、ほとんど取り上げることがないことを感じていた。筆者は、日本経済新聞が掲載した特集で読んだ記憶があるが、全体像がよくわからなかった。

 菅野氏はそうした状況の中で、日本会議がいまや見過ごすことのできない存在になり、改憲への論議も現実味を帯びてきたことを感じるようになる。日本会議の故事来歴を独自に調べ、そこで得られた疑問点や見解をツイッターで発表していた。

 それに目を付けたのが扶桑社の編集者であり、Webメディアへの連載につながっていった。Webメディアでは多くの関心を集め、それが書籍の刊行へとつながった。出発点は、SNSのツイッターであり、続いてWebメディアの連載になり、本の刊行となる。日本会議の実像を一般国民に紹介したのは新聞や活字メディアではなく、インターネットのWebメディアであったことが、「新聞の最期」という言葉につながった。

トランプ登場に見る既成メディアの限界

 アメリカのトランプ大統領の登場によって、いまや既成のメディアに大転換が迫られている実態をいやというほど感じていた。新聞記者で育った筆者はいま、人に情報を伝える手段と方法が激変したことを実感している。遅すぎたという指摘は当然だが、トランプ登場後に明確に認識した。

 ツイッターでアメリカの大統領がつぶやくなどとは、想像もできなかった。そのつぶやきが、世界の政治と経済を瞬時に動かすという事態も想像できなかった。何よりもアメリカのリベラル派とされた新聞、一般の紙媒体やテレビメディアの予想をほとんど裏切ってトランプ大統領が登場したことに時代の変革を感じた。

 まさにこれこそ「新聞メディアの最期」ではないかと寂しい思いをしたものだ。大統領選挙直前に、ニューヨークで活動する20歳代の中国人女性と東京で会食した。そのとき女性は「自分は中国人だから選挙権はないが、トランプ大統領が実現するだろう」と言った。

 理由を聞いてみると「若いアメリカ人はトランプ支持が多く、彼らは隠れトランプであり表に出ない。だから世論調査の予想はあてにならない」と語っていた。それがズバリと当たって筆者を驚かせた。

ネット情報に動かされて歴史を作る時代

 「ネットと政治」、「ネットと社会」という二つの巨大なテーマがいま私たちに突き付けられている。政治家は支持者を意識してツイッターで発言し、多くの人たちに偽情報やデマへの対応という難題が突き付けられている。

 メディアはネット手段を介してだけ、存在感が出せる時代に入ったという見方も間違いではないだろう。新聞報道も活字情報がそのままネットで公開されている。新聞を読まないでネットで見る人が急増している。新聞情報の何倍もの分量の各種の情報が、ネットで発表されて拡大されていく。何か新しい情報を確認するのは、誰でもまずネットからである。

 筆者がこうしてブログで書いている内容もまた、ネットで勝手に紹介され広がっていく。そのような時代になって初めて日本会議の全体像が菅野氏によって示され、森友事件の根本が浮かび上がってきている。

 3月23日に行われる衆参両院の証人喚問で、また新たな発言と対応に国中が騒ぎ立て、本来、行われなければならない政治の根幹を議論する時間が浪費されていく。そう考えると、森友事件は罪深い事件である。

 数々あげられている不正につながる疑問点の多くが、土地の払下げ取り消し、学校建設の不認可などの幕引きで終わらせてはならない。日本会議とその人脈と森友事件のつながりを風化させてはならない。戦前の主義信条・思想に戻ろうとするような右翼活動をこれ以上台頭させてはならない。日本人はあの馬鹿げた時代の道を二度と歩いてはならない。今の新聞メディアはそのような認識に立たないだろう。

 同じ価値観で情報を発信し語ることのできるWebメディアは、ジャーナリズムの重要な位置を占めている。その中でテレビの役割が大きく浮上しているように筆者は感じている。良識ある調査報道が、テレビのワイドショーに期待されている。事実を追い詰めていく姿勢を感じることもあり、今後も期待している。

つづく

 

 

 


森友事件に見る新聞メディアの最期  その1

日本会議の研究

  森友事件は起こるべくして起きた「時代錯誤の独善集団事件」である。その根元を余すところなく書いてくれたのが「日本会議の研究」(菅野完、扶桑社)である。

 森友学園の瑞穂の國記念小學院建設認可をめぐる疑惑を朝日新聞が報道して始まったように見えるが、実はその前奏ともいえる出版本が2016年5月に刊行されている。著者は、フリージャーナリストの菅野完氏である。

 日本会議の中核を成している人物とその周辺でうごめいてきたこの半世紀50年の動向を、重層多岐にわたる調査を重ね、地にはいつくばるように現場を歩き、練達の筆さばきでまとめた筆力は敬意を表するものである。

 この本の「むすびにかえて」で菅野氏は、日本会議は新聞報道には馴染まない取材対象であり、その理由にこの団体を取り巻く群像が愚直に地道に熱意をもって右翼思想を醸成することに取り組んできたとの趣旨を語っている。

 それを菅野氏は、市民活動、市民運動と位置付けている。そのような一群の集団が知らず知らずのうちに安倍政権の骨格をカタチ作るような勢力にまで成長し、憲法改正を視野に入れるまでになる。

 それと今回噴出してきた小学校新設をめぐる許認可の不正疑惑が、根幹で結びついてきたことに筆者は驚愕した。今回の事件が起きる前に刊行されたこの本の中に、安倍・稲田・籠池・塚本幼稚園などが一本の線となって結ぶように記述されており、今回の事件発覚で誰よりも驚いたのは菅野氏だったのではないか。

 ことの重大性に比較して新聞の取り上げ方はまことに不甲斐ない。掘り下げ方も、当事者の紋切り型のコメントだけを並べたものが多く見られ、深く追求して真相を究明しようとするジャーナリズムの本性が見られない。

 その中でテレビのワイドショーは、真相に迫ろうとする姿勢が感じられるし解説もいい。筆者は、テレ朝の朝のワイドショーしか見ていないが、合間に見ている他の局もそれなりに健闘しているようだ。NHKもこの数日の解説を見ていると、疑問点をきちんと整理して視聴者に分かりやすく説明している。

 されにワイドショーで派手に取り上げられているのは、テレビ向けの「役者」がそろっているからでもあるように思う。籠池夫妻、その子息と娘、これは大衆メディアには得難いキャラであり、そこに無名のジャーナリストの菅野氏が絡み、出処進退が怪しくなってきた高級官僚から末端の役人まで広がった。

さらに日本のトップに位置する首相夫妻と財務大臣が深く関与しているようだーという展開は、映像メディアの最高の餌食になっている。

 政府与党は、籠池氏の国会喚問には大反対していたが、国会議員の現地調査で籠池氏が「安倍総理から100万円の寄付を受けた」との証言が出てから、手のひらを返して証人喚問に応じた。

 ここにきて方針を変えたのは、100万円寄付の「動かぬ証拠」される物証が出てきたからではないか。

 毎日新聞のネット配信は、この事件の真相の核心を衝くものではないか。

 http://mainichi.jp/articles/20170318/k00/00m/040/139000c 

 安倍総理は全否定をしているが、籠池理事長が嘘八百を並べ立てているというのも不自然だ。国会で是非、真相を究明してほしい。

 腐臭ただよう政権の最期は、いつもながら国民を失望のどん底に突き落とすような展開になる。

つづく

 

 


日中大学の知財活動を比較する

日中大学の知財活動を比較する|潮流コラム一覧|特許検索の発明通信社

中国の大学は社会貢献を目指す意識が強固

中国の大学をたびたび訪問し、キャンパスの雰囲気を見てきた筆者の感想を言うと、中国の大学は日本よりはるかに活気を帯びているように思う。2016年5月に北京で開催された日中大学フェア&フォーラムでは、日本側は旧帝大の学長をはじめ、有名大学の学長たちがそれぞれの大学の経営方針を発表したが、中国の学長らの発言は迫力が違った。

中国の有名大学の学長は、自身の大学のことよりも国家のため社会貢献のためどう経営していくかという発表内容であふれていた。世界トップの大学を目指すという意気込みが言葉の端々に出ていた。

中国の大学のミッションは社会貢献にあり、国家に貢献することが最大の目的とされている。この目的の達成には、研究開発の成果を特許などの知的財産権で確保し、企業への技術移転で貢献するか、大学発ベンチャー企業で社会貢献するという視点だ。

中国の大学の周辺にはサイエンスパークとかハイテクパークがある。どの有名大学でも連携している。たとえば、清華大学のサイエンスパークには、サン・マイクロシステムズ、P&G、トヨタ、東芝、NECなど世界に名を知られた企業が研究室を持っており、学生や教員が一緒になって技術開発に取り組んでいる。浙江大学に行ったときも、大学構内にあるサイエンスパークには、若い技術開発者がセミナーを開いていたり、研究室とオフィスを兼ねた部屋が並んでいた。

大学発のベンチャー企業が多数ある

現在、中国の主要な94の大学に「大学サイエンスパーク」があるが、総売り上げは7,794億円(2015年)にものぼる。

また、中国の大学には、「校弁企業」という大学発ベンチャー企業が多数あり、代表的なものが北京大学の「方正集団有限公司」である。年間売上げは2兆2762億円にものぼる。清華大学の「同方股份有限公司」も売上高は1兆円を超えている。そのほかにも数千億円オーダーの売り上げを誇る校弁企業が多数ある。

校弁企業であげた収益を大学経営に充て、次の技術開発の資金に充てている。現在、全中国の552の大学に5,279のベンチャー企業がある。中国には日本とは全く異なった巨大な大学発企業があることに驚かされる。

大学別校弁企業の売上高ランキング(2013年)

注:売上高の金額は、OECD 購買力平価により計算されたものである。
出典:中国教育部大学校弁企業統計概要公告を基に作成。

 

浙江大学のサイエンスパークにある研究室風景

 

浙江大学のサイエンスパークでは、学生と教員らがセミナーを開いていた。

日中の大学発特許の出願件数と登録件数を比較する

こうした大学周辺のイノベーション創出現場を活性化させているのが知財活動である。日中の大学の特許出願件数を比較すると、中国の大学が1ケタ多いことにびっくりする。

大学特許出願件数トップ10(2015年)

 

日本の大学の特許出願件数は次の通りだが、中国の方が圧倒的に件数が多いことが分かる。日本は、研究資源が極端に偏って多い旧帝大が主体である。

 日本の大学の特許公開件数トップ10

 

 

次に特許登録件数を日中大学で調べてみると以下の通りである。

 中国の大学別特許登録件数トップ10(2015年)

 

日本の大学の特許登録件数トップ10(2015年)

日中の知財格差が急激に広がる

 日中の大学の特許出願件数や登録件数がこれだけ広がった背景はなにか。よく言われるのは、中国の特許出願は、補助金ほしさが少なくない。大学教員の業績を示すための出願も多いというものだ。

 それは否定できないと中国の大学関係者や特許事務所の弁理士らも語っている。しかし、近年は世界的な技術の進歩によって、中国の研究者のレベルもアップしており、同時にトップクラスの中国企業の特許レベルも急激に上がっている。世界トップクラスの通信機器メーカー、Huawei(華為)電子などは、まぎれもなく世界先端の知財活動になっている。

 また昨年暮れに北京大学の産学連携の状況を取材したときも、知財の技術移転で米国型のシステムを導入しており、同時に世界で競争ができる特許の創出、イノベーション創出を明確に掲げていることを認識した。

 中国の知財制度の多くは、日本を追い越してアメリカ型に必死に追いつこうとしているように見える。知財の司法判断でもアメリカ企業同士の訴訟が中国で起きるなど、世界標準化を狙っているように感じる。そうした現状については、今後もこの欄で順次紹介していきたい。

 

 


日本企業の特許戦略は大丈夫なのか

  世界の企業の盛衰を占う特許登録動向

世界の企業の特許戦略の動向を見るときに、最も注目されている指標の一つがアメリカ特許商標庁(USPTO)が毎年年頭に発表する企業別特許登録件数である。先ごろ2016年に取得した企業の登録件数が発表された。

アメリカの特許関連調査会社のIFIクレイムズ・パテント・サービス(IFI Claims Patent Services)は、毎年、登録企業の件数のランキングを発表している。今年のランキングを見ながら考察してみたい。

まず、特許取得上位50位までのランキングは、次の表のとおりである。

順位

企業

2016

2015

増減率

前年順位

1

IBM

アメリカ

8,088

7,355

9.97%

1

2

サムスン電子

韓国

5,518

5,072

8.79%

2

3

キヤノン

日本

3,665

4,134

-11.34%

3

4

クアルコム

アメリカ

2,897

2,900

-0.10%

4

5

グーグル

アメリカ

2,835

2,835

0.00%

5

6

インテル

アメリカ

2,784

2,048

35.94%

9

7

LG

韓国

2,428

2,242

8.30%

8

8

マイクロソフト

アメリカ

2,398

1,956

22.60%

10

9

TSMC

台湾

2,288

1,774

28.97%

13

10

ソニー

日本

2,181

2,455

-11.16%

7

11

アップル

アメリカ

2,102

1,938

8.46%

11

12

サムスンディスプレイ

韓国

2,023

1,838

10.07%

12

13

東芝

日本

1,954

2,627

-25.62%

6

14

アマゾン

アメリカ

1,662

1,136

46.30%

26

15

セイコーエプソン

日本

1,647

1,620

1.67%

16

16

GE

アメリカ

1,646

1,757

-6.32%

14

17

富士通

日本

1,568

1,467

6.88%

19

18

エリクソン

スウェーデン

1,552

1,407

10.31%

20

19

フォード

アメリカ

1,524

1,185

28.61%

24

20

トヨタ

日本

1,417

1,581

-10.37%

17

21

リコー

日本

1,412

1,627

-13.21%

15

22

グローバルファウンドリーズ

アメリカ

1,407

609

131.03%

60

23

パナソニック

日本

1,400

1,474

-5.02%

18

24

ボッシュ

ドイツ

1,207

1,142

5.69%

25

25

Huawei

中国

1,202

800

50.25%

44

26

SKハイニックス

韓国

1,125

891

26.26%

39

27

GM

アメリカ

1,123

1,315

-14.60%

21

28

フィリップス

オランダ

1,069

923

15.82%

37

29

半導体エネルギー研究所

日本

1,054

1,129

-6.64%

27

30

ボーイング

アメリカ

1,053

976

7.89%

34

31

ヒュンダイ

韓国

1,035

744

39.11%

50

32

三菱電機

日本

1,016

896

13.39%

38

33

シーメンス

ドイツ

984

1,011

-2.67%

32

34

シスコ技術

アメリカ

978

960

1.88%

36

35

ブラザー

日本

926

1,187

-21.99%

23

36

ホンダ

日本

922

1,031

-10.57%

31

37

AT&T

アメリカ

921

885

4.07%

40

38

NEC Corp

日本

890

792

12.37%

45

39

TI

アメリカ

887

808

9.78%

43

40

BOE Technology Group

中国

870

285

205.26%

122

41

マイクロン

アメリカ

863

961

-10.20%

35

42

シャープ

日本

829

997

-16.85%

33

43

ブロードコム

アメリカ

823

1,085

-24.15%

28

44

鴻海精密工業

台湾

803

1,083

-25.85%

29

45

ブラックベリー

カナダ

771

1,071

-28.01%

30

46

デンソー

日本

756

778

-2.83%

46

47

京セラ

日本

742

692

7.23%

52

48

富士フィルム

日本

699

747

-6.43%

47

49

ノキア

フィンランド

695

400

73.75%

88

50

ハネウエル

アメリカ

672

746

-9.92%

48

出典:IFI Claims Patent Services

http://www.ificlaims.com/index.php?page=misc_top_50_2016

トップのIBMは、8088件で過去24年連続トップを維持している。人工知能(AI)関連の特許が1100件を超えており、次世代の産業発展のカギとなると言われるAI分野で、IBMは世界のリーダーになることを予感させるような特許活動である。

上位5位までは、昨年と同じランキングだが、6位から9位までの4社はインテル、韓国のLG電子,マイクロソフト、世界最大の台湾半導体メーカーのTSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Co., Ltd)があがってきた。

トップ10から陥落した企業は東芝(前年6位)であり、ソニーがかろうじて7位から10位まで下がったが踏ん張った。東芝の経営危機問題は、連日、メディアでも取り上げられているが、アメリカでの特許動向を見ても、東芝の衰退に影を落としているのではないかとの印象が強い。かつての東芝の復活を期待したい。

 勢いを感じさせる企業

トップ50の中で、対前年比で著しく増加させた企業は勢いを感じる。たった1年間で2倍以上の登録数を出したのは、中国の液晶パネル製造のトップメーカーのBOE Technology Groupである。世界中のスマホの5台に1台、タブレット端末の約3台に1台は、BOE社の液晶パネルが使用されているという。急激に特許取得数を増やしたのは、研究開発で意欲的に取り組んでいるからである。この分野の韓国、アメリカメーカーとライバル関係になったとみていいだろう。

アメリカの半導体メーカーのグローバルファウンドリーズも1年間で2倍以上の件数を登録した。この企業は台湾のTSMCに次いで世界第2位の半導体メーカーであり、IBMの半導体事業を買収したりアブダビ首長国からの投資を引き出したり経営面での積極性は、技術開発でも活発であることを裏付けている。

液晶パネル、半導体共に日本が技術面でリードしていた分野である。それが今や見る影もないくらい存在感が薄くなっている。日本企業は技術開発だけでなく、経営戦略でも世界の潮流に後れを取っているのではないか。

このほか上位50の中でかなり件数を伸ばした企業は、6位のインテル、14位のアマゾン、中国の通信機器メーカーで25位のHuawei(華為)、韓国の自動車メーカーで31位のヒュンダイ、49位のフィンランドのノキアである。世界トップクラスの通信機器メーカーにのし上がったHuaweiは、中国での特許出願件数は減少に転じているが、外国出願は増やしている。これについてHuaweiは、「特許の量より質という国家の方針にも共鳴し、質の高い特許出願を行っている」とコメントしている。特許戦略の一環なのだろう。

フィンランドのノキアは、携帯電話端末機であっという間に世界トップになり、世界中をあっと言わせた。ところが、その後、サムスン、アップルなどの追随を許し、下降線をたどり始めるとすかさず携帯電話事業をマイクロソフト社に売却し、シーメンス社の通信設備事業と合弁して新たなノキアとして再出発した。携帯電話から総合通信機器メーカーへと転進したのである。

順位 企業 2016年
1 IBM 8,088
2 サムスン電子 5,518
3 キヤノン 3,665
4 クアルコム 2,897
5 グーグル 2,835
6 インテル 2,784
7 LG 2,428
8 マイクロソフト 2,398
9 TSMC 2,288
10 ソニー 2,181
11 アップル 2,102
12 サムスンディスプレイ 2,023
13 東芝 1,954
14 アマゾン 1,662
15 セイコーエプソン 1,647
16 GE 1,646
17 富士通 1,568
18 エリクソン 1,552
19 フォード 1,524
20 トヨタ 1,417

IFI Claims Patent Servicesの発表ランキングから作成

国籍別に見た企業の増減動向

企業の国籍別に対前年比登録数の増減を見たのが次の表である。対前年比の増減を対比すると、アメリカは12対6で対前年増加が2倍、韓国は5対0で完勝、中国も2対0で同じだが、日本は5対12でダブルスコア以上の衰退である。

対前年比で増加した企業数

 

アメリカ

12

日本

5

韓国

5

台湾

1

中国

2

ドイツ

1

オランダ

1

フィンランド

1

スウェーデン

1

 合計

29

 対前年比で減少した企業数

アメリカ

6

日本

12

台湾

1

ドイツ

1

カナダ

1

 合計

21

 

推移を見ると時代の先端を走る特許技術が見える

個別の企業の特許動向を見るために 2001年、2010年、2016年の特許登録件数のトップ20の推移を調べたものが次の表である。

 

順位

2001

2010

2016年

1

IBM

IBM

IBM

2

NEC

サムスン電子

サムスン電子

3

キヤノン

マイクロソフト

キヤノン

4

マイクロンテクノロジー

キヤノン

クアルコム

5

サムスン電子

パナソニック

グーグル

6

パナソニック

東芝

インテル

7

ソニー

ソニー

LG

8

日立

インテル

マイクロソフト

9

三菱電機

LG

TSMC

10

富士通

ヒューレットパッカード

ソニー

11

東芝

日立(日本)

アップル

12

ルーセントテクノロジー

セイコーエプソン

サムスンディスプレイ

13

GE

ホンハイ精密工業

東芝

14

アドヴァンスト・マイクロ・デバイス

富士通

アマゾン

15

ヒューレットパッカード

GE

セイコーエプソン

16

インテル

リコー

GE

17

テキサス・インスツルメンツ

シスコテクノロジー

富士通

18

シーメンス

ホンダ

エリクソン

19

モトローラ

富士フィルム(日本)

フォード

20

コダック

ハイニックス半導体

トヨタ

IFI Claims Patent Servicesの発表ランキングから作成 

トップ20の同向を見ると、産業構造の変革と個別企業の消長を見ることができる。コンピューター時代を築いた巨人・IBMは、この24年間トップを譲らないのは、IT産業革命に入っても産業現場の覇権を握っているアメリカ産業の強さの象徴であろう。

このIBMを除いた2001年から2016年までの企業別消長を見ると、次のように分析できる。

まず韓国のサムスン電子だが、5→2→2位と同社の業績拡大と歩調を合わせるように件数が増加している。またキヤノンも3→4→3位と上位を維持して堅調であり、日本を代表する特許企業になっている。

また、アメリカの半導体産業のリーダーになっているインテルが、着実に件数を伸ばし、16→8→6位となっている。日本の半導体企業が衰退の一途をたどったことを見ていると、経営戦略の違いを見せつけられるようだ。

代わって2016年からぐーぐル、アマゾンという新顔がトップ20に出てきた。グーグルは、自動運転の電気自動車の開発で、にわかに自動車分野で存在感を出してきた。アマゾンも、ワンクリック特許の期限が切れたのと交代するように、「予期的配送」という野心的な特許を取得するなど新たな産業開発を予期させる動向だ。この特許は、顧客が注文する前にこれまでの注文実績などをもとに、顧客が望むと予想した商品を、注文がある前に箱詰めして出荷するという特許だという。

また「室内でさまざまな物体に映像を表示できるコンピューター制御のプロジェクターと画像化システム」に関する特許出願も行っている。部屋の中でユーザーが映像や物体と組み合わせて空間デザインを考えるために有効ではないかという。

そんなことが事業として成り立つのかと思わせるような特許技術だが、開発するには世界を変えようとする野心があるのだろう。

アマゾンは、このほかにも空に浮かべた飛行船の巨大倉庫から小型無人機「ドローン」で顧客に商品を届けるビジネスを実現するための一連の特許を出願しており、ドローンを使った実際の配送も初めて成功している。中国でもドローン配送の開発に取り組んでいるようだ。


下降線たどる日本企業の特許活動

日本企業はどのような動向なの可。2001年、2010年、2016年の推移を見た個別企業の順位を列挙してみた。参考までアメリカのGEも調べた。


日本企業とGEの順位の推移

企業

2001

2010

2016

セイコーエプソン

21位以下

12

15

パナソニック

6

5

23

ソニー 

7

7

10

日立

8

11

51位以下(注)

三菱電機

9

37

32

富士通

11

14

17

東芝

11

6

13

NEC

39

38

 

GE

13

15

16

(注)日立は分社化して特許出願をしたため、これまでの「日立」が分散したものとみられる。 

これを見るとかつて特許出願・取得で、日米で存在感のあった日本企業の衰退ぶりは明らかである。先に述べたキヤノンを除くと軒並み下降線か横ばいになっている。

これに対し、エジソンが創業したGEは、時代と共に電機関係の巨大メーカーとして君臨し、金融・保険事業まで拡大している。特許取得でもしぶとく生き残っており、3Dプリンターを利用した大胆な製造工場を実現するなど時代の変革に合わせた企業に衣替えしてきた。

日本企業も国際的な企業戦略を展開し、技術開発でもアメリカ、中国、韓国に負けずに復活してほしい。 

 


技術貿易は黒字だがこれでいいのか日本

 発明通信社のコラム「潮流」に投稿したコラムを転載しました。

総務省統計では大幅黒字

 先ごろ総務省が発表した科学技術研究調査によると、日本の技術貿易の 2015年度は、技術輸出(受取額)が技術輸入(支払額)を大幅に超える黒字で、金額で3兆3472億円のプラスとなった。

 グラフは、諸外国・地域から受け取った額と支払った額の収支総計の経年推移だが、2006年からずっと黒字になっている。

(総務省・科学技術研究調査:http://www.stat.go.jp/data/kagaku/kekka/kekkagai/pdf/28ke_gai.pdf)

 技術貿易とはモノの貿易ではなく、特許、商標、意匠、ノウハウ(企業秘密)などの知的財産権のロイヤルティの支払額と受取額を表すものだ。技術を輸出すればロイヤルティを受取り、輸入すればロイヤルティを支払うことになる。

アメリカからの受取が断トツ

 知財のロイヤルティ収益をどの国や地域から日本は受け取っているのか。ロイヤルティをどの国に支払っているのか。それを示したのが次のグラフである。

 これで見るように圧倒的にアメリカから得ている収益が多い。アメリカから特許などに代表される知的財産権の権利使用料の収益がそんなにあるのだろうか。

 受取額の総額は、3兆9498億円に上っているが、そのうちの約41パーセント、約1兆6000億円をアメリカから受け取っている。

総務省・科学技術研究調査から作成

 一方、特許などのロイヤルティを日本が支払っている国・地域はどこか。これが次のグラフである。

総務省・科学技術研究調査から作成

 アメリカへの支払いが約71パーセントの断トツである。その支払額は総額6026億円の約71%なので約4300億円になる。アメリカとの技術貿易は圧倒的黒字になっており、支払いと受取りの差額は、約1兆1700億円となり、巨額の黒字である。


 つまり特許などのロイヤルティ収支を日米で見ると、圧倒的に日本がアメリカから特許ロイヤルティをもらっていることになる。

 新聞などのメディアや政治・経済界は、日本の技術貿易は年々巨額の黒字を出しているのであたかも日本は技術立国であり、この先も技術で世界を先導するかのような印象を与えている。
 
自動車産業の親子のやり取りが大半
 技術貿易のやり取り、つまり特許ロイヤルティのやり取りをこのように中身を分析してみると、日本産業界と知的財産権の実像が見えてくる。 巨額の受取額の大半は自動車産業であり、その内訳を見るとその約75%が親子間での収支になっている。つまりトヨタ、ホンダなどアメリカで工場を操業しているアメリカの子会社から、日本の親会社に支払っている特許、ノウハウなどのロイヤルティが大半になっている。

総務省・科学技術研究調査から作成

 ロイヤルティの内訳をみると、日本の本社が開発して知財権を取得した技術、車体の設計図、製造技術ノウハウなどをアメリカで操業する企業・工場に貸与することで得られるロイヤルティということになる。

 確かに立派な収益である。言い換えると、同族企業の内部でやり取りする収益の分配にも見える。これでは本当のロイヤルティ収益と言えるのかという疑問がどうしても出てくる。もちろんこれは知財収益ではあるが、ここで欲が出てくる。

独創的な知財で稼ぐイノベーションが必要

 欲がでるという言い方は、独自の技術開発でロイヤルティを取りたいという欲である。つまり系列の親子間でのロイヤルティのやり取りではなく、独自の技術のロイヤルティで系列外の企業から稼ぐことである。

 技術輸出で稼いだ額のかなりの部分が、親子間の知財収支で得た額に占められているというのはいかにも寂しい。しかしこの状況には、日本企業全体が気が付いているのではないだろうか。

 来たるべき知財立国への踊り場にあるのかもしれない。そう考えないと、日本の長期停滞への序奏ということになりかねない。そういうことを考えさせる総務省の発表データであった。

 

 


カジノ解禁法成立を急いだ政権与党の愚かな政治

 先の臨時国会でカジノ解禁法が成立した。自民党、日本維新の会、公明党などが賛成し、ろくに審議もしないで多数決の論理だけで成立させた法律である。公明党は、自主投票というこれまた政党の体裁をしていない方針で結果的に成立に手を貸した。

 今国会で新たに提出された100本以上の法案は、審議にも入れなかった。その中でカジノ解禁法がいかに優先的に成立を急いだかが分かる。たとえば、自民党べったりでカジノ法の成立に賛成した維新の会は、選挙公約として国会議員の歳費削減などの法案を提出していたが、審議もなし成立する目途もないまま放置されている。

 このような国民の注目する法案は放置して、なぜカジノ解禁法の成立を急いだのか。

 日本には、パチンコという官民が癒着しているカジノがある。そのパチンコですら賭博中毒になった愚かな人を多数生んでいる。政府公認の博打場ができれば、さらに「中毒患者」が生まれる可能性が高い。

 大体、カジノの経営は、博打に負けた人の賭け金で運営し利益を出している。生産性も倫理性も本来は皆無だ。娯楽施設やホテル、集会場などと一体化したカジノでなければ経営は成り立たないが、いくつかの地方都市では、地域活性化と称してカジノ経営に乗り出そうとしている。愚かな考えである。

 外国からの観光客もあてにしたものだが、アジアには観光と一体化したカジノがいくつもある。日本でカジノを経営しても成り立つのかどうか、そのような確かな予測も聞いたことがない。

 筆者はかつてアメリカのラスベガス、リノなどのカジノに行ったことがある。国際学会が開催されていたので取材に行ったものと、サンフランシスコから夜行バスで遊びに行ったことがあった。どのホテルにも大きな集会場が敷設されており、各種の展示会や学会が多数、開かれていた。

 学会参加証を首から下げた研究者らが、スロットマシンを楽しんでいる光景を見てびっくりしたが、息抜きの娯楽気分に見えたしカジノはこうした中で経営が成り立っているのだと思った。ラスベガスは、広大な砂漠の中にある都市で産業が育たない。そこで賭博と売春を合法的にして人々を寄せ、地域に特殊な「産業」を育てたと聞いている。

 そうした特殊事情もなく、産業振興策も行わずに安易に賭博で負けた人の金銭をあてにして地域振興を目指すなどは、政治ではなくヤクザの考えと同じではないか。

 この政権は圧倒的な多数を維持していながら、日本の将来にかけた教育、科学技術、研究などには熱心に取り組まず、カジノ解禁法などにこれだけ熱心に取り組むのは亡国の政治である。


第130回21世紀構想研究会・特別講演と忘年パーティ

 

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 第130回21世紀構想研究会は、12月15日、プレスセンターで開催され、山口正洋氏(ぐっちーポスト編集長、経済金融評論家)が「トランプ後のアメリカと今後の日本経済の見通し」のタイトルで講演を行い、その後一年を締めくくる忘年パーティで盛り上がりました。

 研究会には大村智、荒井寿光、黒木登志夫先生らアドバイザーを始め多くの会員とその関係者が参加して、有意義で楽しい時間を過ごしました。

特別講演の内容を報告します。

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 ウソだらけのメディア報道

 冒頭、山口先生は、金融マンとして活動してきた体験から、メディア報道、特に日本経済新聞は政府の発表、つまり大本営発表をそのまま垂れ流すようなもので間違いが多いと指摘。

「政府筋から出てきた情報をどう解釈するか、それを精査しないで報道している」とメディアに噛みついた。

 「株をやったことがない人が金融情報を書いている。たとえて言えばゴルフをやったことがない記者がゴルフの記事を書いているようなものだ」

 アメリカのトランプ次期大統領が当選した番狂わせのメディア解説でも、ヒラリー・クリントン候補が落選した原因は、格差社会への反発、白人の貧民層の反発などをあげていた。

 しかし、ヒラリーの得票支持層や過去の民主党と共和党候補者の得票数を分析してみると「ヒラリーが負けたのは民主党支持者の投票行動サボタージュにあったと思われる」と分析。共和党の得票数は前回の大統領選挙と同じなのに、民主党の得票は500万票以上減っていると指摘した。

 メディアは見当違いの理由をあげているとして、得票率を分析した結果を示しながら次のように述べた。

 「投票行動を分析すると女性は意外とヒラリー嫌いが多く、オバマ大統領の得票より女性の得票率を減らしている。唯一、票が増えたのは高学歴、男性階層だけだった」という。

 ヒラリー嫌いが投票をサボタージュし、その結果、トランプ次期大統領が誕生したとする見解を語った。

 トランプ次期大統領の政策予想に話を進めると、1980年代のレーガン大統領時代、レーガノミクスの再来を予感すると語った。その時代、アメリカはすさまじいバブル経済時期だった。日本もそうだった。トランプ次期大統領の時代はそれと似てくるのではないかという。

 トランプの発言内容が微妙に変質

 さてトランプ次期大統領の公約だが、インフラ整備、メキシコ国境での壁の構築、高所得者層の減税、オバマケアの廃止、武器の携帯を支持する最高裁判所判事の任命などをあげている。

 ここでレーガン大統領時代のころと比較分析し、レーガノミクスと言われた経済活況とバブルに至った時代を分析した。景気の動向を左右する就業者数を見てみると、オバマ大統領はレーガン時代に増えた公務員を切り、民間の就業者数を増やし、就業者数がマイナスだったのをプラスへと引き上げた。その努力は評価するとした。

 トランプ次期大統領の公約などの発言を精査すると、1980年代の政策から見て特に新しいことを言っているわけではない。トランプの公約の発言も微妙に変化しており、オバマケアの廃止も一部廃止と言い換えてきているという。

 政権の根幹に就く人事問題に言及し、石油大手エクソンモービル(XOM.N)のティラーソン会長兼最高経営責任者(CEO、64)を次期国務長官に指名すると発表したが、これについても次のように解説した。

 「この人はロシアのプーチン大統領と非常に親しい人物であり、今後、米ロ関係がどのように動いていくか非常に注目したい」と語った。

 さらに金融大手ゴールドマン・サックス・グループ社長兼最高執行責任者(COO)ゲーリー・コーン氏をホワイトハウス国家経済会議(NEC)の委員長に指名するなどゴールドマン社の幹部3人が政権中枢に入ることになり、いわゆるウオールストリート政策に入ることは間違いないだろうとの見解を語った。

 さらに過去のバブル期からやがて急落した経済状況を説明しながら、トランプ次期大統領政権がバブル経済に向かうことを予想し、その反動で急転して停滞・急落する可能性もあるだろうとの予想を示した。

 メキシコ国境の壁については、今でもフェンスがあるし違法者はどんどんメキシコに追い返している。この点は何も斬新さはない。そのほかの点でも、それほど新しいものを政策として出しているとは見えないという。

 日本経済は停滞したままでありアベノミクスは疑問

 さてアベノミクスについて言及した。日本経済新聞は、右肩上がりと景気予想してきたが、本当にそうだろうか。過去のGDPの推移を示しながら「一進一退を続けている」と指摘。これでアベノミクスの効果があったかは疑問であるとの見解を示した。

  日経新聞は、円安で財政がよくなったように書いているが、そんなに良くなっているわけではない。たとえば企業でよくなったのは「大企業で非製造業」が確かによくなっていると解説した。

 しかしこの業界は、非正規従業員を派遣する人材派遣業であり、正規社員がどんどん減っていった状況を示している。もはや正社員はいらないような社会を作っていると指摘した。

 そして「このようにかつて、ヤクザがやったような社業が栄えるのは違和感がある」と語った。

 さらに中小企業は、製造業も非製造業も青息吐息であり景気は停滞したままであるとした。

 なぜ景気が浮揚しないのか。山口先生はその原因は「消費税である。これがすべてを台無しにした」と断言した。消費支出のマイナスが続いている。東日本大震災の後にモノが不足していた時代の消費支出よりも、いまモノがあふれている時代なのに消費支出は低い。

 今後も消費税が上がることを予想して人員整理をして給与も抑える企業が出ている。実質賃金はマイナスに転じている。スーパーマーケットでは実態として値上げしている。価格を抑えて量を減らしているケースも多い。

 アベノミクスの第一の矢、金融緩和、黒田総裁のバズーカ砲だが、世の中に大量にお金を出す金融緩和で効果が上がるとしてきたが、効果は上がっていない。企業の売り上げも利益も横ばいであり、国民はお金を使わない。アベノミクスの効果は甚だ疑わしいとの根拠を様々なデータで示した。

 名目GDPと株の時価総額の関係を見るとアメリカの投資家のウォーレン・バフェットが言うように株の時価総額が名目GDPを超えていくとバブルの警戒水域になると語り、今の株の時価総額は警戒レベルなっているようにも見えると語った。

 2001年5月、日本は財政破たんしたとアメリカの有名な経済学者から言われたことがあるが、日本は貯蓄率が高くしかも国債はほとんどは日本人が購入している。外貨残高も世界一だった。黒田現日銀総裁が当時、日本破たん説を消して回った。

 日本はこれまで一度も債務超過に陥ったことはなく、今も日本の財政は300兆円以上の資産超過があり破たんしないことは明らかだが、それでも財務省は危機意識をあおっている状況を説明した。

 若年労働者の増加に転じているアメリカ

 日米の人口構成をグラフなどで示した。それによるとアメリカは人口増加国であり、働く年齢層がこれからも増えていく動向を示した。一方の日本は高齢化が進むものの、人口減少は緩やかであり、それほど心配はいらない。

 日本の高齢化人口が増えていくことは、別に悪いことではない。高齢者はマーケットにとってプラスと考えるべきだとの考えを語った。人口が減ってもお金を持っている年配者が増えれば、市場としてはいいものだと考えることが重要であることを示唆した。

 トランプ次期大統領の政権になって、バブル経済が来る可能性があるとの見解を示し、バブルはいずれ破たんすることも語った。ただ、アメリカはG7の中でも若年労働者が唯一増える国であり、今後も成長が見込まれていることを示した。

 また2010年に山口先生は中国のビジネスを完全撤退したと語り、アメリカとビジネス展開することが一番安泰であることを語った。

 最後に国の豊かさをGDPで示した時代は過去のものであり、国連がいま試行している国の総合的な豊かさの指標を見ると日本は非常に豊かな国であることが示されていると紹介した。

 そのような考えに転換していくことが重要であることを主張した。

 最後に消費税を上げる必要がないことを改めて主張して区切りをつけた。

 時間の関係で質問はひとつに限り、代表質問を21世紀構想研究会理事の長谷川芳樹氏が発言した。

 長谷川氏:投資戦略についてご意見をお聞きしたい。日本では為替が動くことが投資戦略を難しくしているように感じる。アメリカが今後、バブル経済になるならそれに乗っていくこともいいかなと思うが、どうすればいいか。

 山口先生:為替の問題ですが、自国の通貨が高くなることは価値が高いから高くなるのであり、それで破たんしたケースはない。円安になるということは日本に信用がないことである。円安でリスクがあると理解する方がいい。一番危険なのは、どこかで歯止めが利かなくなることだ。日本は外貨準備高が膨大にあるが、どこかでつまずくとどうなるのかを考えて行くことが大事だ。

2CIMG6103大村智先生と山口先生のツーショット

2CIMG6110生島和正・武蔵エンジニアリング社社長(左)から記念品の贈呈を受ける山口先生