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滝鼻卓雄「記者と権力」(早川書房)

森友事件に見る新聞メディアの最期 その4

教育勅語にこだわる安倍政権は何を目指すのか

 森友事件は、筆者が予想するように下火になり、世間の話題と注目は別のものに移っていくように感じている。いつものことだが、日本人はけじめをつけることが苦手な国民性なのかもしれない。森友事件が燃え盛るのを都合の悪い人々は、国民が事件を忘れてくれることをひたすら待っている。

 このコラムで書いてきたことは、森友事件が起きた背景は「右翼思想の森」が醸し出す「空気」にあるというのが筆者の主張である。このようなテーマ、課題を調査・追及することは新聞がもっとも不得手とするものだ。

 SNS(Social Networking Service)のようなツールと手段を持っていなかった50年前なら、森友事件は露見せずに静かに成功していたかも知れない。籠池氏が語ったように「神風が吹いて」、右翼思想を教育する学園が誕生していたかも知れないからだ。SNSの時代がこの事件をさらけ出したおかげで、多くの国民が理解できない首相夫人とそれを取り巻く秘書グループの不可解な言動も知ることになる。

 それにしても安倍内閣は、戦前の間違った教育の象徴となっている教育勅語にこだわり、明治時代の思想に逆戻りさせようとしていることは明らかだ。1983年、中曽根内閣が教育勅語を朗読する右翼志向の学校に対し、その朗読の中止を求める是正勧告を行っている。そのような過去の自民党政権の政策を否定までして教育勅語にこだわる安倍政権に対し、国民が黙っていることは許されない。

 NHKが先ごろ実施した世論調査によると、「教育勅語を教材として活用することを否定しない」とした政府答弁書について「まったく評価せず」15パーセント、「あまり評価せず」33パーセントだった。合わせると半数近くの人が評価しなかったことになる。これに対し「大いに評価」「ある程度評価」は合わせて36パーセントだった。

DSC_2631NHKの世論調査の報道より

 ところが、安倍政権を支持する人は半数を超えており、内閣は依然として国民の支持を受けていることになる。

 明治にこだわる安倍政権の後進性

 安倍首相が熱意を燃やすのは改憲だけではなく、 2018年10月23日に迎える「明治改元150年」の式典にあるとされている。

  現行憲法が公布されたのは昭和21(1946)年11月3日である。憲法が平和と文化を重視することからその日を「文化の日」と呼ぶことにした。安倍政権はそれを「明治の日」に代えようとする動きが出ているという。

 さらに4月14日には、2021年度から全面実施される新しい中学校学習指導要領の保健体育で、武道の種目の一例に「銃剣道」を明記したことについて、「『軍国主義の復活や戦前回帰の一環』との指摘は当たらない」との答弁書を閣議決定したとの報道があった。

 デジタル大辞泉の解説によると閣議決定とは、「憲法や法律で内閣の職務権限とされる事項や国政に関する重要事項で、内閣の意思決定が必要なものについて、全閣僚が合意して政府の方針を決定する手続き」とある。法律や条約の公布、法律案・予算案・条約案などの国会提出、政令の決定などに際して行われるものであり、中学校の学習指導要領について閣議決定することがあるのか。なぜ、こんなことまで閣議決定しなければならないのか。

 「軍国主義の復活や戦前回帰の一環」と指摘されることに、なぜこれほどまでに過敏に反応するのか。本音を衝かれたから、あわてて対応しているように見える。

 そのような時間があるなら、未来に向けて日本はどうするか考えを巡らせた方がいい。科学技術創造立国、知的財産立国とした過去の国是はどうしたのか。

 世界の科学技術も知財の世界も驚くほど速い流れで進歩・進展している。そのような現状を正確に把握している閣僚は、首相を筆頭にほとんど見当たらないように筆者は思う。国民は政治に対してもっと関心を持たないと、議員多数決という国民不在の政治に都合のいいようにされてしまう危険を感じる。

 政治権力のチェック機能を十分に果たせなくなった新聞に代わるジャーナリズムは、そう簡単には育たない。誰がこの穴を埋めるのか。日本のリベラル階層は、もっと自身の意見を発信する手段と方法を持つべきではないかというのが筆者の意見である。

(終わり)

 

 

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