Previous month:
2022年10 月
Next month:
2023年1 月

2022年11 月

「スクープ取材」を掲げたNHKの本気度

さる11月17日に放映されたNHKクローズアップ現代(クロ現)のタイトルを見て度肝を抜かれました。「スクープ取材・旧統一教会 “知られざる被害”の告白」とあったからです。自ら「スクープ」と言うからには相当なる内容であることを宣言したものだからです。
IMG_4367
NHKはいわば「国営放送局」です。それが「知られざる被害」とうたったのは、明確に旧統一教会は「加害者」であるとの立場で番組作成したことを宣言したものです。献金を事実上強いられ続けたために自己破産に追い込まれ、「無年金」になっていった被害者に語らせ、「家族のために年金より献金」という大きなテロップを掲げました。
独居高齢者に組織的に献金を促した実例を報道し、旧統一教会の担当者が信者の資産や家族状況を詳細に把握し、遺産を献金させるための遺書作成を組織的に指示し、実行していた実態を報告しました。
IMG_4369
いま国会でも論議が進んでいる被害者救済の新法についても、①マインドコントロールによる被害防止、②家族の被害回復を骨子にするべきとの方向を提示しました。
面識ない信者と教団の仲介で結婚させられた被害者の実情を当事者の告白も入れながら報告し、信者の間の養子縁組がこれまで745人に達しているという驚くべき被害実態も報道しました。旧統一教会が行ってきた養子縁組は、違法性が高いものであり、これに対する旧統一教会側の方針と言い分もきちんと報道しました。しかし旧統一教会側の言い分は、むしろ旧統一教会の教義がいかに独善性と違法性の高いものであるかを自ら暴露したような内容になっており、それだからこそNHKは動画で長々と放映したものでした。
IMG_4382
IMG_4406
筆者は、NHKの回し者ではありません。元読売新聞社会部記者の感覚から見ても、この番組構成は明らかに旧統一教会は加害者であり、信者の多くが被害者になっており、信者二世とされる人々の被害と悲劇を訴えたものと明確に理解しました。一連の「週刊文春バズーカ砲」に匹敵するパンチ力でした。
「国営放送」が「スクープ取材」を前面に出し、ここまで踏み込んだ旧統一教会の反社会的活動を放映したことを評価します。自民党関係者及び国会で旧統一教会問題を論議する方々はこの論調を注視し、国民の納得する結論を出してもらいたいと思います。

イベルメクチン論文の学術解析で「有効」を確認

世界の臨床試験93件を解析した八木澤守正・北里大学客員教授

イベルメクチン効果判定はさらに続く

イベルメクチンがCOVID-19 に対し有効かどうかを巡って、2年越しの論議が続いています。筆者は多くのイベルメクチン投与結果の論文と、自ら調べたアフリカ54カ国のイベルメクチン投与とCOVID-19 発症の疫学調査から、イベルメクチンはCOVID-19 の治療と予防に効果があると確信してきました。

先ごろ製薬企業大手の興和が、2021年11月~22年8月まで、軽症患者1030人を対象に偽薬(プラセボ)と比較する二重盲検試験を実施した結果、有効性を見いだせなかったと発表しました。

簡単には重症化しないオミクロン株の症例を主体とした試験結果であり、偽薬グループでも投与開始から4日前後で症状軽減が認められたという結果でした。重症化して死亡者が相次いだ従来のCOVID-19への投与とは状況が変わってしまい、イベルメクチンの効果を証明することが困難な状況での結果でした。

それではイベルメクチンをどう評価するべきか。世界で出ているイベルメクチン投与に関する多数の論文ではどうなのか。北里大学客員教授で抗感染症薬開発、薬剤耐性対策などを専門テーマに研究している八木澤守正教授が、イベルメクチンが有効であると論述した論文がどのくらいあるか解析した結果をこのほど纏めました。

93件の試験内容を解析

八木澤教授は、WEBで配信されている「Ivermectin for COVID-19:real-time meta analysis of 93 studies; Covid Analysis, Oct 28, 2022, Version 201」に掲載されている93件の試験内容を解析しました。ここでは臨床治験もしくは臨床試験を単に「試験」と表記します。

八木澤教授が解析した結果を整理したチャートは次の通りです。

早期治療37件、後期治療40件、発症予防16件です。

イベルメクチン-COVID 試験成績データベース;2022年11月4日この93件を解析対象の論文に適しているかどうかを精査したところ、イベルメクチンの効果を解析出来ない内容4件を除外しました。残り89件を解析対象としました。

合計83件のうち46件(55%)が有効

チャートでみるように、登録済治験36件のうちの16件(44.4%)、未登録治験47件のうちの30件(63.8%)の合計で83件のうちの46件(55.4%)の試験でイベルメクチンは有効であると判断しています。

一方で35件(42.2%)の試験では、「有意差は認められなかった」としています。イベルメクチンが「無効である」と判断される結果は2件ありました。

八木澤教授は「COVID-19という感染症に対するイベルメクチンの有効性を示すのは難しいことが示されています」と述べています。

早期治療の合計32件中で有効は17件(53.1%)、後期治療の合計36件での有効は15件(41.7%)となっています。

登録試験39件・未登録試験50件を精査

八木澤教授は解析対象の89件を試験登録済と試験未登録に二分した結果を一覧表にまとめて解析しています。試験登録とは、オンライン上で行われる臨床試験の事前登録でありエビデンスの質の向上を目的にした「公表バイアス(publication bias)」とも呼ばれ、後付け解析の防止などを目的にしたものです。しかし新型コロナ感染症のように、治療・予防に緊急を要する臨床現場では、医師主導の臨床試験は十分に準備したものにはなかなかならなかったという事情がありました。

こうした状況でしたが、登録済試験の論文の内訳は査読済みが34件、査読前のpreprintは5件ありました。この39件の論文を精査した結果、3件の論文内容は試験手法に不十分な点が明確であり、論文として解析する対象にならないとして除外しました。結局、登録試験では36件を解析対象としました。

登録済試験一覧

イベルメクチン-COVID試験成績データベース;登録済治験

登録36件のうち有効が16件(44%)

解析精査した内訳をみると早期治療では19件のうち8件が有効と判定していますが、「NS=Not Significant(有意ではない)」としたものが11件ありました。

後期治療では、12件のうち4件が有効、NSは7件でした。発症予防・後遺症では4件すべてが有効でした。

未登録試験50件を登録治験と同じように試験内容を精査したところ、論文の内容が不十分である3件を解析対象から除外しました。

未登録試験では、47件を解析対象にしました。

解析は、論文に記述されている試験成績が有意差をもって優れている場合を 「有効」 と判断し、有意差の無い 「有効性/無効性」 は「NS(Not Significant、有意ではない)」と判断しました。

イベルメクチンの成績が有意差をもって劣る場合は 「無効」 と判断しました。

未登録47件のうち有効が30件(64%)

早期治療13件のうち有効が9件でした。いずれも査読済論文でした。後期治療群では24件のうち有効は11件でした。発症予防では10件のうちすべてが有効でした。

未登録試験一覧

イベルメクチン-COVID試験成績データベース;未登録治験_ページ_1

発症予防はすべて有効となった

八木澤教授の解析で注目されるのは、発症予防の試験は13件の全てで有効だったことです。さらに後遺症に対する試験は1件のみでしたが、やはり有効と判断されています。

イベルメクチンの発症予防で筆者が衝撃を受けたのは、2020年3月にパリ郊外の老人施設で疥癬治療・予防から偶然にイベルメクチンのCOVID-19への発症予防に効果があることが確認された試験でした。この論文は、八木澤教授の解析対象にも入っていました。

これは老人施設で皮膚病の疥癬が広がったため、収容者と職員に対しイベルメクチンを投与しました。その結果、この施設の居住者、職員共にCOVID-19に感染した人は同じ地域にいる居住者に比べて有為に少なくなっていたという結果でした。

また、JAMA(The Journal of the American Medical Association、米国医師会雑誌)に掲載されたコロンビアの医師グループが出した「有意差なし」の論文は、掲載直後から試験内容に「致命的欠陥がある」と指摘されました。この論文も解析対象になっていますが、論議がまだ収束していないためか、有意差なしのままになっていました。

この論文では米国の医師たちが「研究著者らは主要評価項目を途中で不適切に変更し、主要評価項目を21日目までに完全な症状解決に移行しました。電話調査を通じて得られたこの自己申告による主観的エンドポイントは信頼できません」と訴え、今現在、175人の医師がネットで署名を明らかにして抗議を続けています。 https://jamaletter.com/

査読を受けている論文が70件(84%)

イベルメクチンの試験成績に関する論文は、査読を受けていないという批判がたびたび言われてきました。しかし八木澤教授の解析では「未査読論文は13件(15.7%)だけであり、70件(84.3%)は査読済の論文として発表されています」と語っています。

このような実情が学術的な解析で示されたのは、初めてではないかと思います。


投票しても「平等」ではない1票の格差 東京新聞の度肝を抜く見開きぶち抜き

投票しても「平等」ではない1票の格差

11月13日付け東京新聞サンデー版の見開きぶち抜き特集には、度肝を抜かれました。「国民主権になっていない日本」の現状を絵図だけで語った、かつて見たこともない特集です。誰が見ても理解度満点。これこそ新聞の調査報道の基本であ手本と思いました。

「4割の有権者が過半数を選出して政治を動かしている」。現行選挙区のいびつさを一見明白に示しています。一人一票訴訟のリーダーの一人である升永英俊弁護士は、これを「国民主権ではなく国会議員主権になっている」と主張しています。

この問題は、イデオロギー、政治信条、党派とは全く関係ない、日本国憲法が定めている主権国家の根本問題です。一人一票訴訟は、地方の軽視とか過疎地切り捨てなどという全く見当違いのことを語る人がいます。地方の「選挙利権」に、べったりと貼りついた人の言うことを信用してはならないと思います。

東京新聞1

東京新聞2


黒川清先生の悲痛な叫び「若者よ大志を抱け、外の世界へ出よ」

黒川清著『考えよ、問いかけよ 「出る杭人材」が日本を変える』(毎日新聞出版)

この本は、日本の科学技術行政の貧困さと学術研究の停滞を具体的な数字で示しながら今後の巻き返しを提言したものである。ここでは大学教育について書いたあたりを紹介する。

日米の医学教育の体験で感じた日米の高等教育の慣例と格差を語りながら、日本がいつまでたっても変わらない状況をどうするべきか。提言も書いている。

四行教授・ロビン教授の大学ではないか

例えば日本の大学は「四行教授」であると指摘する。経歴を見ると「○○大学卒、○○大学助手(助教)、○○大学助教授(准教授)、○○大学教授」と四行だけで済んでいる教授が少なくない。

ヨーロッパに生息するロビンと言う野鳥は、半径200メートル内で生涯を終わるというが、日本では半径数十メートル内を異動するだけで定年を迎える教授がいる。別名「ロビン教授」と筆者は呼んでいる。

こうした四行教授、ロビン教授は、日本の伝統的な大学研究室のスタイルである「講座制」の中から生まれている。

いつまでたっても変わらない日本の大学教育現場は、21世紀に入ってから様々な指標で中国に大きく水をあけられ、いまや韓国にも抜かれてしまった。

★書籍表紙

中国ははるか先で韓国にも抜かれた日本

2019年度の博士号取得者数をみると、日本1万5128人に対して韓国は1万5308人になっている。アメリカの大学へ留学した人は、2000~2021年で日本1万1785人だが、韓国は3万9491人と2倍以上の実績である。

研究開発費のGDP比は、日本3・29%に対して韓国4・81%であり、この勢いが止まらないから、これからは韓国の背中を追い求めていくことになるだろう。

論文の質をみる引用論文数の比較でも、2018~2020年の平均トップ論文は、日本が3780本だが、ついにこれも抜かれて韓国3798本となった。この差は今後も広がるとみられている。

「若者よ大志を抱け、外の世界へ出よ」の中で著者が呼びかけているのは、著者が米国で医師として鍛えてきた体験からのものであり、帰国後の医学部教授時代に教え子を通じて確信した考えを書いたものだろう。

学生諸君は休学してでも外へ出て見て来いという呼びかけは、悲痛な著者の叫びでもある。

凋落へ向かう科学技術力、構造劣化した社会システムをどう立て直すのか。いま現在の課題を整理し、その解決策を提言している。政治・行政に携わる人は、必読の書である。

【本書の構成】

第1章 時代に取り残された日本の教育現場

第2章 停滞から凋落へ向かう日本の科学技術

第3章 「失われた30年」を取り戻せるか

第4章 日本再生への道標を打ち立てる

Amazon

https://www.amazon.co.jp/dp/4620327557/


大谷智通さんがユニークな面白い科学書を上梓しました

シのげっぷが地球温暖化の原因になっていると最初に聞いたのは、1995年ころでした。当時取材した内容と本書の内容を比べてみたら、大幅に進歩していることが分かりました。温暖化現象の理屈を分かりやすく解説しており、読みやすいので小中高校生の福読書にぴったりです。
 大谷智通さんがいい本を出しました。ご本人の紹介をそのままコピペしました。
 
 新刊『ウシのげっぷを退治しろ――地球温暖化ストップ大作戦』旬報社、本日発売です!
 
本書は、地球全体の大きな問題となっている地球温暖化とそれを緩和するために急ピッチで技術開発が進んでいるウシのげっぷメタン削減を題材にした科学ノンフィクションです。
「地球温暖化と気候変動のメカニズム(環境問題)」「ウシの体のしくみ(ウシの生物学)」「ウシのげっぷを減らすための研究の最前線(農学研究の現場)」「健康的な食生活とはなにか(食育)」という、持続可能な社会を考えるうえで必須の4テーマをわかりやすく解説しました。
読者はこの1冊を読むだけで、地球の未来を左右する重要な4テーマの基本的な知識が身につきます。
執筆にあたっては、日本におけるウシのげっぷ削減研究の第一人者である北海道大学の小林泰男先生の取り組みを取材し、監修していただきました。
日本の科学技術行政について思うところ、最近なにかと話題の「肉食の是非」について思うところなども、せっかくですので突っ込んで書きました。
これからの地球の未来を担う、これから自らの「食」を選択していくことになる、若者たちに特に読んでもらいたいと思いから、中学生から読めるわかりやすい語り口となっております。もちろん、大人にも楽しんでいただけると思います。
詳細は添付のお品書き(目次)をご覧くださいませ。
よろしくお願いいたします。