黒川清先生の悲痛な叫び「若者よ大志を抱け、外の世界へ出よ」
2022/11/04
黒川清著『考えよ、問いかけよ 「出る杭人材」が日本を変える』(毎日新聞出版)
この本は、日本の科学技術行政の貧困さと学術研究の停滞を具体的な数字で示しながら今後の巻き返しを提言したものである。ここでは大学教育について書いたあたりを紹介する。
日米の医学教育の体験で感じた日米の高等教育の慣例と格差を語りながら、日本がいつまでたっても変わらない状況をどうするべきか。提言も書いている。
四行教授・ロビン教授の大学ではないか
例えば日本の大学は「四行教授」であると指摘する。経歴を見ると「○○大学卒、○○大学助手(助教)、○○大学助教授(准教授)、○○大学教授」と四行だけで済んでいる教授が少なくない。
ヨーロッパに生息するロビンと言う野鳥は、半径200メートル内で生涯を終わるというが、日本では半径数十メートル内を異動するだけで定年を迎える教授がいる。別名「ロビン教授」と筆者は呼んでいる。
こうした四行教授、ロビン教授は、日本の伝統的な大学研究室のスタイルである「講座制」の中から生まれている。
いつまでたっても変わらない日本の大学教育現場は、21世紀に入ってから様々な指標で中国に大きく水をあけられ、いまや韓国にも抜かれてしまった。
中国ははるか先で韓国にも抜かれた日本
2019年度の博士号取得者数をみると、日本1万5128人に対して韓国は1万5308人になっている。アメリカの大学へ留学した人は、2000~2021年で日本1万1785人だが、韓国は3万9491人と2倍以上の実績である。
研究開発費のGDP比は、日本3・29%に対して韓国4・81%であり、この勢いが止まらないから、これからは韓国の背中を追い求めていくことになるだろう。
論文の質をみる引用論文数の比較でも、2018~2020年の平均トップ論文は、日本が3780本だが、ついにこれも抜かれて韓国3798本となった。この差は今後も広がるとみられている。
「若者よ大志を抱け、外の世界へ出よ」の中で著者が呼びかけているのは、著者が米国で医師として鍛えてきた体験からのものであり、帰国後の医学部教授時代に教え子を通じて確信した考えを書いたものだろう。
学生諸君は休学してでも外へ出て見て来いという呼びかけは、悲痛な著者の叫びでもある。
凋落へ向かう科学技術力、構造劣化した社会システムをどう立て直すのか。いま現在の課題を整理し、その解決策を提言している。政治・行政に携わる人は、必読の書である。
【本書の構成】
第1章 時代に取り残された日本の教育現場
第2章 停滞から凋落へ向かう日本の科学技術
第3章 「失われた30年」を取り戻せるか
第4章 日本再生への道標を打ち立てる
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