発明通信社に連載中の私のコラム(http://www.hatsumei.co.jp/column/lists/2.html)を転載します。
今年の「知的財産推進計画2015」が先ごろ決定し、内閣官房知的財産戦略推進事務局から発表された。知財立国を宣言して小泉内閣から始まった知財戦略計画は、今年で10年を迎えた。大きな節目である。
さる7月1日、弁理士の日の祝賀会がホテルオークラで開催され、知財関係者が多数集まって懇親と情報交換の場となった。このとき内閣官房知的財産推進事務局長の横尾英博氏が祝辞を行い、今年の計画の柱を2点に絞って説明した。
四国TLOと川崎市の知財事業の実績を紹介
第1は地方における知財活用の推進であり、中小企業の知財戦略や産学連携の推進である。第2は、知財紛争の処理システムの活性化であり、端的に言えば侵害訴訟の見直しと知財の司法改革を提起したものだ。
第1の柱である地方の知財活用となれば、中小企業の活性化につながっていく。日本には約385万社の中小企業があり、産業競争力の源泉になっているが、 IT産業革命を迎えて旧態依然とした技術と経営では国際競争力を持たなくなり、多くの中小企業が苦戦している。これを活性化させるための知財戦略の強化策 をあげている。
推進計画によると大学発の研究開発の成果を企業と結びつけるために作った技術移転機関であるTLOの承認数は、2008年の48機関から現在36機関まで減少した。一時のブームにのって作ったものの機能しないため、店じまいするTLOが12機関もあったことになる。
こうした中にあって推進計画では、徳島大学の特許権実施収入が、わずか1年で前年度の32.6倍、1億1486千万円まで増加させた株式会社テクノネットワーク四国(四国TLO)を紹介している。
同社の提携は、徳島大学・香川大学・愛媛大学・高知大学・高知工科大学など四国内にある20大学・高専となっている。工学・理学・医学・薬学・歯学・農学 など幅広い分野をカバーしており、四国だけにとどまらず山口・岡山・広島・長崎・鹿児島・宮崎・沖縄TLOとの連携協定をして活動の輪を広げている。
これまでの製品化事例として「子供から大人まで楽しめるピースを組み立てる遊具」、「内視鏡誘導補助具・エンド・レスキュー」、「ビワ種子由来エキスを応 用した製品」、「アフラトキシン検査キット」、「ヒドラジン分解技術による大量標準糖鎖調製」、「100%米粉パンの製造方法」など多彩な活動事例を発表 している。 (http://www.s-tlo.co.jp/club/markets/product/)
また川崎市では、大企業の保有する知的財産を中小企業に開放し、それを活用して中小企業が事業展開を行う支援を行っている。知財ビジネスマッチングであり、本格的に取り組んだ自治体として紹介している。
社会起業家を育成するビジネススクールの社会起業大学(田中勇一理事長)が主催する『ソーシャルビジネスグランプリ 2014夏』において、川崎市経済労働局、公益財団法人川崎市産業振興財団、藤沢久美氏(シンクタンク・ソフィアバンク代表)などによる中小企業支援活動 が「政治起業家部門」においてグランプリを受賞している。 (http://www.city.kawasaki.jp/280/page/0000061040.html)
政府は、地方の中小企業が積極的に知財を活用した企業活動に乗り出すように支援を続けるとしており、地域の中小企業・大企業、地域の大学と産業界の連携を活性化させるための橋渡し支援基盤を整備していく方針を打ち出している。
知財紛争処理システムの活性化
これまでもたびたび指摘されているのは、特許侵害訴訟件数が日本は非常に少ないことだ。対GDP比で見ても、欧米の主要国に比べて少ないし、中国のほぼ 10分の1程度である。また権利者側の勝訴率もアメリカ、ドイツに比べて低いこともよく知られている。権利を持っていても保護されないなら、特許出願も登 録もしなくなる。
権利者の勝訴率が低いのは、国の知財体制が権利を守ってくれないということになり、外国企業は日本で特許権利を取得しても価値がないとしている。
先月、韓国に行った際に韓国特許事務所の所長と意見交換をしたが、韓国の企業の間でも日本に出願・登録しても正当に守ってくれないので出願することを躊躇している企業が出始めているという。特許出願件数の減少は、こうした事情も加担していることになるのではないか。
また権利者が中小企業の場合、大企業に比べて訴訟に勝てない傾向がはっきり出ている。中小企業は資金力が脆弱なために有名知財弁護士や一流法律事務所などに依頼することができず、法廷闘争では打ち負かされることが多い。
特許技術の内容ではなく、法理を駆使した文言・レトリック勝負になっていることも問題として指摘されている。
今年の戦略計画では、これまでタブー視されてきた司法の判断にまで踏み込み、次のような問題点を述べているので簡潔に整理してみた。
1. 日本の特許権侵害訴訟の件数は、先進国の中でも極めて少ない。
2. 権利者側の勝訴率もアメリカ、ドイツに比べて低い。
3. 中小企業の勝訴率は大企業のそれに比べて低い。
4. 権利者による侵害立証が困難である。(これでは「侵害し得」になる)
5. 裁判所で認める損害賠償額は、ビジネス実態ニーズを反映していない。
このような具体的な課題を列記して司法判断に改善を求めたのは画期的である。是非、関係機関は改善し、知財立国へのリスタートとしてもらいたい。
上の図は知財戦略推進計画から転載