01 日々これ新たなり

世界一周の船旅の記録その1をアップします。1~30回です。

 2024年4月から7月まで、ピースボートのパシフィック・ワールド号(7万7千トン)に乗船して、世界一周をしてきました。

 その様子を60回に渡って、ブログでアップします。

 その①1~30回分のPDFファイルをアップします。

   船旅1-30通しをダウンロード


特許は日本語で考えることが重要

2017.09.04

特許は日本語で考えることが重要

科学は日本語で考えよから発想したテーマ

 今回の潮流のタイトルは、表記のように「特許は日本語で考えることが重要」とした。
実は、筆者が講義している東京理科大学では「科学は日本語で考えることが大事」とのテーマで講義をしているが、学生にはそれなりに影響を与えている。講義の主張の展開に「眼からうろこ」という感想も聞かれる。

 今回、これをヒントに特許についてはどうか考えてみた。何人かの弁理士と話をしていて、最近、日本語のしっかりしていない発明内容を記述しているケースが多いという例にぶつかった。日本語の国語力が低下してきたからではないかという指摘も出ている。

 「日本語と科学」と「日本語と特許」は、論理的に思考する活動は似ているが、どちらかというと特許のほうが科学より日本語の論理力が問われるのではないかというところにぶつかった。
 英語は国際語になっているので大事ではあるが、それ以上に日本語の方が大事であることを今の時代に主張するべきではないか。今回のコラムは、少々ユニークなテーマになるが、整理して書いてみた。

 

白川先生のとっさのコメント

 きっかけは白川英樹先生の一言から始まった。2000年のノーベル化学賞の受賞者になった白川英樹先生は、世界で初めて電気を通すプラスチックを発明して授与された。受賞後には世界中のメディアから取材を受けたが、そのとき外国人記者から「日本人は、アジアの中でなぜノーベル賞受賞者が多いのですか?」と聞かれた。

  先生は一瞬考え「科学を日本語で学んでいるからです」ととっさに英語で答えた。そのコメントが正しかったかどうか、先生を長い間悩ませてきた。 
  しかし確信にいたるヒントは、作家の丸谷才一氏が2002年7月31日の朝日新聞文化欄に書いたコラムから出てきた。 「言語には伝達の道具という局面のほかに、思考の道具という性格がある。人間は言葉を使うことができるから、ものが考えられる。言葉が存在しなかったら、思考はあり得ない」

 この言葉に白川先生は意を強く持ち、ますます日本語の重要性を確信した。
日本人は、日本語で考えるから研究者としても新しい発見に至る。その日本語は江戸時代から先人たちが造語してきた科学用語が土台になっている。したがって日本語で物事を考えることが訓練されていないと優れた科学者にはなれない。そう考えた白川先生は、21世紀構想研究会でも講演して好評だった。 

2016年3月25日に開催された21世紀構想研究会で講演する白川英樹先生

 

相次いで出てきた日本語重視の本 

 「日本語の科学が世界を変える」(筑摩書房)という本は松尾義之先生が書いたもので2015年に刊行された。
この本には次のようなことが書かれている。

「日本語の中に科学を自由自在に理解し創造するための用語・概念・知識・思考法まで、十二分に用意されています。だから日本語で最先端のところまで勉強できるのです。日本では江戸時代から西欧の科学を移入し、先人たちが科学用語を創り、明治維新の30年前に西欧の近代化学を受け入れるようになっていました。日本語で創造的思考能力を鍛えない人は、一流の科学者にはなれません。明治時代の偉大な科学者は、すべて日本語で学んだ人たちでした」

  白川先生はこの本を読んで自分の考えと同じであることに感動し、ますます日本語の重要性を説くようになった。

 


松尾義之先生の著書「日本語の科学が世界を変える」

 

続いて刊行されたのが寺島隆吉先生の「英語で大学が亡びるとき」(明石書店、2015年)である。
寺島先生は岐阜大教授を経て国際教育総合文化研究所所長、アメリカの多数の大学の客員研究員、講師などを歴任している。

この本の主な主張点は、英語は「研究力、経済力、国際力」という神話は間違いである。求められているのは日本語で考え日本語で疑問を作り出すことである。母国語で深く思考するからこそノーベル賞業績にもたどり着くのだ。

 これらの本が刊行されたころ、京都大学の山極寿一総長が京大生に向かって「京大生よ日本語で考えよ。英語はツールでしかない」(2015年10月21日付日本経済新聞朝刊)と語ったというニュースが出た。  「重要なのは大学4年間で考える力をしっかり身につけることだ。それには日本語で考えるのが一番だ。日本の大学はこれまで高度な高等教育をし、海外のあらゆる研究成果を日本語に訳し、自国語で研究・教育を高める学術を確立した」
 このような主旨を語ったとして新聞に出たのである。

 

幕末から明治維新後までに確立された科学用語

 幕末から明治維新前後に岡山県津山藩が生み出した科学者たちの話を筆者が知ったのは、岡山県津山市の「津山洋学資料館」に行ったときである。 江戸時代、この地が生み出した宇田川玄随をはじめ、宇田川家三代の医学、化学、植物学者らは、西洋から入ってきた学問を日本語に翻訳し、今でも使用されている多くの科学用語を残した。

  例えば酸素、窒素、酸化、還元などの用語は、みなこの時代に岡山藩の科学者たちが作った日本語である。

 

     

 津山洋学資料館の入り口に立つ偉人たちのブロンズ像。
「知は海より来る」として多くの科学用語を作り出した。

 


 さらに物理や数学の用語と概念は、明治11年から3年間に東大理学部仏語物理学科を卒業した日本で初めての理学士たち21人が、欧米の専門語を翻訳して日本語として確立させたものだ。
彼らは20代の若さで理学を日本に普及させようと東京物理学校を設立した。白川先生は「日本人は大学入学までは日本語で科学を学び考えています。日本語で考えられない人が英語で考えることは無理です」とも語っている。

 

 明治26(1893)年発刊された日本で初めての物理学教科書

 

特許発明は日本語で表記できなければ権利化できない
 いま、日本では英語教育の重要性が叫ばれ、幼児から英語を習わせようとしている風潮も出ている。しかしこのテーマで何人かの弁理士たちと話し合ったところ、特許発明も日本語がしっかりしていないと成果として残らないという主張を聞いた。
  日本人の論理構成は日本語で考えることから始まる。日本語で論理がきちんと説明できなければ発明はまとまらないし、特許明細書に書き込む文言もまとまらないと弁理士は言う。
 最近、日本人の国語力が低下してきたのではないかと心配する弁理士もいる。これが特許出願数の減少とは結び付かないだろうが、論理構成が貧困になれば発明も簡単には出てこなくなる。
 日本語を重視するという発想は、科学研究などに限らず国家の産業力にも通じているように思う。

 

 


知財立国の停滞要因を指摘した国会質問~三宅伸吾議員がえぐり出した実証的課題

 このコラムは、発明通信社のコラム「潮流」にも掲載されます。 http://www.hatsumei.co.jp/column/index.php?a=column_detail&id=235

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 停滞する知財現場を実証的に指摘した質疑

  さる5月18日に開かれた参議院・財政金融委員会で、自民党政務調査会副会長の三宅伸吾議員は、小泉政権時にスタートした知財立国政策が停滞している状況を様々な観点から指摘し、政府に早急な対応を迫った。

 議事録はまだ公表されていないが、後日、次のサイトから閲覧できる。   http://kokkai.ndl.go.jp/

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  日本経済新聞の編集委員として知財政策を長年カバーしていた三宅議員の質疑は実証的、体系的で、非常に中身の濃い内容だった。当日の質疑の模様を三宅議員に取材したので速報する。 

 三宅議員はまず金融庁に対し、企業の財務諸表において特許権がどのように取り扱われているのか質した。

 通常、企業が他の者から特許権を取得した場合には、取得した価格を貸借対照表に資産として計上する。また、企業が自ら研究開発を行い、特許権を取得した場合は、研究開発にかかった支出を費用として処理している。

 金融庁の答弁によると「我が国の上場企業の2015年4月から2016年3月までの連結財務諸表を見ると、特に特許権の計上額が多い企業は、住友化学が約45億円、船井電機が約33億円、デクセリアルズ社が約31億円などが計上されている」。

  特許権を担保にした融資総額の統計はない

 さらに三宅議員は、「特許権を担保にした融資がどの程度あるのか」質問した。これに対し金融庁は、「知財ビジネス評価書の作成支援、金融機関の職員を対象とした知財セミナーの開催などによる啓発運動」は展開しているとしながらも、

「特許権を担保とした融資の全体像は把握していない」と答弁した。

 特許権担保融資について金融庁はセミナー開催などの取組みの現状を説明するにとどまり、特許を担保にした融資総額の統計はないことが分かった。

 三宅議員はこうした実態に対し「民間企業が莫大な研究開発投資をして特許権になっても、実際どの程度アウトプットを生み出しているのか実はよく分からないというのが実態ではないか」と指摘した。

  日本の特許権侵害の賠償額はケタが小さすぎる

 そして「知財立国を標榜しながら、実は我が国では知的財産の資産、特に特許権の資産デフレが続いているのではないか」と問題提起したうえ、この10年間で特許権侵害訴訟の最高の損害賠償金額を麻生太郎金融担当大臣に聞いた。大臣からは「最高額は20億を行ったことはない、私の記憶では、何だ、こんなものかと思った記憶があります」との答弁。

 三宅議員は最高裁が調べたデータを引用し、この10年間の特許権侵害訴訟の最高損害賠償額が約18億円だったことを明らかにした。これはアメリカの侵害訴訟の損害賠償額に比較しても2ケタも低い金額であると指摘した。このような実態から日本の特許は資産デフレではないかとの見解を述べた。

 しかし、日本の知財裁判は和解が多いので一概に言えないという反論もあろう。こうした批判を想定してのことだろうか、「和解の交渉の判断の物差しは、万が一判決になったらどうなるんだろうということを双方の代理人弁護士は念頭に置いて、当然当事者も念頭に置いて和解交渉に臨む」。紛争になる前の任意の交渉でも、「交渉が決裂をして裁判になったらどうなるんだろうということを考えるわけで、判決の認容額は特許権資産評価の重要なバロメーター」であると三宅議員は述べた。

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 特許権侵害罪は絵に描いた餅であり罪にも問われない現状

 続いて、三宅議員は「特許権侵害で手錠を掛けられて裁判になり、刑務所に行った人がいるか」と法務省に質した。これに対し法務省は、「特許法196条(注)の特許権侵害の罪に限定した起訴人員等についての統計はない。特許法違反の罪全体の起訴人員は過去20年間2名である」と答弁した。

 (注)特許法196条(侵害の罪)=特許権又は専用実施権を侵害した者(第101条の規定により特許権又は専用実施権を侵害する行為とみなされる行為を行つた者を除く。)は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

  それでは直近の起訴はいつだったかとの質問に、法務省は「平成14年に略式命令請求があった」と答弁。

 これを受け、三宅議員は、平成15年以降、特許権侵害で起訴された人がいない(正確には特許権侵害を含め、特許法違反での起訴例が一切無い)事実を確認した。著作権侵害については刑事司法が対応するときもあるが、特許権侵害については平成15年以降、刑事司法は機能していなかったこととなる。

 特許権の保護策は、その侵害行為に対し、民事の損害賠償と刑事罰の執行とが車の両輪となって機能することを本来、前提として制度設計されている。しかし現実には、刑事司法は絵に描いた餅状態。そのうえ、民事救済手続きも不十分であるなら、侵害のし得になりかねない。

 金融商品取引法などの分野では、被害者の民事裁判による損害の回復の手続き、また東京地検特捜部等による刑事の執行、それに加えて行政上の課徴金という仕組みがある。民事・刑事・行政という3つの法制度から、投資家等を保護する仕組みができている。

 独禁法違反行為に対する措置でも課徴金制度があり、労働分野の賃金未払い問題では付加金の制度があるなど、様々な対応、救済制度が準備されている。このような実態を引き合いに出しながら三宅議員は、「特許権侵害については政策が総動員されていないのではないか」との見解を述べ、政府の施策が不十分であることを浮き彫りにした。

  特許の資産デフレから脱却すべき

 ベンチャー企業が銀行に融資を申し入れても、権利侵害された場合の損害賠償額が小さい現状では担保にとってくれないのは当然。特許を資産として経営に役立てる社会になっていないことを三宅議員は強調した。これでは有力なベンチャー企業は日本では育たないことになる。現に、アメリカ、中国に比べても我が国では産業の新陳代謝が遅れている。

 三宅議員は特許の資産デフレを脱却するには、最先端の技術分野を警察、検察官が理解するのがなかなか難しい現状を考えれば、「民事分野において、一般予防効果のあるように、積極的加害意思のある、いわゆる本当に悪質な侵害であることが立証できれば、そういう侵害者に対しては民事上、ガツンといくということが必要ではなかろうか」と民事救済制度の改革を求めた。

 最後に三宅議員は「我が国が本当に研究開発そしてその成果の知的財産権をうまく使って国を豊かにしよう、海外からどんどんロイヤリティー収入も得ましょう、それから技術開発の成果を権利で保護し、それをテコにしてベンチャー企業が多数出てきて、産業の新陳代謝を通じて元気に国をしましょうとするためには、特許権の侵害のし得だと言われるような悪評が我が国にずっと付いて回るのは甚だ遺憾である」と語り、この課題を政府や社会、企業が共有し、早急に解決に対応する必要性を説いた。

 

 三宅議員の質問は、知財立国と言われている日本で特許を取得しても、司法の民事、刑事で適正に守られず、行政でも具体的な知財保護は機能しているようには見えないという見解を強調した点で、これまでにない国会での論議となった。

 

 企業が莫大な開発費を投入し、特許権を取得してもそれを担保にして資金を調達できる制度も仕組みもなく、侵害されると救済する民事判決は期待できない。刑事摘発はゼロに近いとなれば、侵害し得であり、なんのために特許権を取得するのか意味がなくなってしまう。

 ベンチャー企業が生まれにくい仕組みが放置されているのではないか。そのような状況がこの10年ほどずっと続いていることを三宅議員は指摘したものであり、危機感を持って政府側に迫ったものだ。

 

 中国では知財訴訟が日本の約20倍の件数であり、損害賠償金額も日本を追い抜いて行き、近々、懲罰的損害賠償制度を導入することが決まっている。そのような世界の流れの中で日本が停滞している制度上の欠陥を三宅議員は、政府側の答弁から実証的に引き出し、早急な政府の対応を迫ったものであった。

 

 なお、本国会質疑に関連し、三宅議員が座長を務める、自民党政務調査会傘下の検討会が提言をまとめている。是非、一読をお薦めする。

提言「イノベーション促進のための知財司法改革 --特許資産デフレからの脱却を目指して-- 」2017425日 http://www.miyakeshingo.net/index.php

 


21世紀構想研究会2017年総会を報告します

 副理事長に塚本章人、永野博氏が就任

 岩本昭治、峯島朋子氏が理事に選出

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 21世紀構想研究会の2017年の総会が5月25日、プレスセンター9階会見場で開かれました。

 2016年の活動報告、決算報告と2017年の事業計画、予算発表のあと理事改選に入りました。

 副理事長に塚本氏と永野氏が就任し、岩本氏と峯島氏の理事就任が提案され、満場一致で承認されました。

 

 

副理事長に就任した永野博氏は、この日所用で欠席したためビデオメッセージで

あいさつしました。ビデオ制作は、事務局のアリシアさんです。

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新理事に選出された岩本昭治氏

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新理事(事務局長)に就任した峯島朋子氏

 また私から特にお願いをしました。

 学校給食甲子園は今年12回目を迎えます。このイベントは食育推進、学校給食の理解度を広げるという目標がありますが、イベントを実施する資金はすべてこの運動に賛同する企業と団体の浄財で成り立っています。

 これからも実りある学校給食甲子園にするために、協賛企業、団体の拡大に取り組むことが示され、会員の皆さんにも協力をお願いしました。

 21世紀構想研究会創設から20年の記念パーティ

 21世紀構想研究会は、1997年9月の創設から今年20年を迎えます。これを記念して10月13日(金)午後6時半から、プレスセンタービル10階大ホールで、記念イベントとパーティを開催することが発表されました。

 私からの20年の歩み報告と本研究会のアドバイザーで、ノーベル賞受賞者である大村智先生の記念講演が予定されています。

 

 


かわさき市民アカデミーの講演をアップ

画面

 NPO法人かわさき市民アカデミーは、シニアの受講生らが熱心に耳を傾ける講座・ワークショップを展開しています。2017年4月には、「いのちの科学」をテーマにした市民講座に呼ばれて、「独創性を発揮した日本人のノーベル生理学・医学賞」のタイトルで講演する機会をいただきました。昨年の大村智先生のノーベル賞受賞を記念する講演に続いて2年連続の要望に恐縮しました。

 会場ではいつも熱心な視線を浴びながらも、リラックスした気持ちで語ることができるのは有り難いことです。講演当日、21世紀構想研究会事務局のAlisiaさんがビデオ撮影し、編集して1部と2部として制作しました。

 このコンテンツをブログにアップするのは気恥ずかしい気持ちですが、これも発信体験の一つとして実現することにしました。

 この試みを快諾してくれたNPO法人かわさき市民アカデミーの皆様に、感謝の気持ちをお伝えしたいと思います。

 ありがとうございました。

 講演会実施要項

日 時 4月17日(月)午後13:00~14:30

会 場 武蔵小杉の川崎市生涯学習プラザの2階

 ビデオ制作者:Alisiaさん

第1部は、↓こちらから見ることができます。

https://youtu.be/gKmOXzLNnLg

 第2部は、↓こちらから見ることができます。

https://www.youtube.com/watch?v=kKI3twUgTRk

 

 


滝鼻卓雄「記者と権力」(早川書房)

記者と権力

 いま世間の耳目を集めている森友事件と加計学園問題。どちらも権力側にあるとされる文書の確認や権力側の恣意的な対応の有無をめぐって国会を舞台に激しい攻防戦が展開されている。メディアは、事の経過を報道するだけでなく、自身の調査報道の力量が問われていると思うのだが、決定的な特ダネも出てこない。

 そのような時代に新聞記者のたたずまい、行動力の在り方を示唆する本が上梓された。著者は元読売新聞東京本社社長、会長、そして日本記者クラブ理事長まで務めた人である。いわば新聞記者として栄達を極めた人であり、普通はこのような本は書かない。が、著者には記者魂がまだくすぶっていたようだ。

 書いてあることは、著者の手がけた事件の情報収集から原稿作成までの過程を振り返りながら、権力から情報を入手する際の行動規範、ありていに言えばニュースソースの秘匿であり取材手段のルールを踏みながら、真相に近づく有様を語っている。

 静岡県清水市で発生した猟銃射殺事件(金嬉老事件)を皮切りに、東大紛争、ロッキード事件、外務省秘密電信漏えい事件など現場の取材体験をもとに新聞記者の活動の在り方を示唆している点で、記者教育の教材にもなるだろう。

 著者は、記者時代の大半を司法記者として活動した。検察、裁判所など権力と立ち向かい権力の扉をこじ開けてネタを取ってくる記者魂が書かれているが、その行動を通じて権力側の人物との交流も語られている。つまり激越な取材活動の中にあっても、人間としての付き合い、信用度を築き上げなければ真相に近づくことはできないことを読み取ることができる。

 有名事件の裏面史的な性格もあるので楽しく読んだ。

 著者との偶然の出会い

   滝鼻卓雄 

 本の紹介にと言ってカメラを向けたら、往時と変わらぬ精悍な顔つきになった滝鼻さん

 この本を読み終える直前、所用があって日本記者クラブに行った。レストランで昼食を取っていたら、滝鼻さんが入ってきた。読売新聞社会部時代に同僚だった時期があった。と言っても滝鼻さんは花形の司法記者、筆者はサツ周り(警察回り)と警視庁記者クラブ、そしてぺいぺいの遊軍記者だった時代であり、ほどなく科学部へ転出した。

 さっそく著者へのインタビューという気持ちで滝鼻さんから話を聞いたが、どうしても往時の思い出話に近い話題になってしまった。しかし長沼ナイキ訴訟控訴審、スモン訴訟や環境権訴訟など一連の公害・薬害事件など筆者も札幌の司法記者として担当した体験もあるので、共通する話題もあった。

 そして小保方晴子氏のスタップ細胞をめぐる取材についても相当なる関心があったようで、関係者への取材を試みたが難航した「秘話」も聞かされ、滝鼻さんの行動力には脱帽した。

 滝鼻さんがこの本を書くにあたり、日比谷図書館に通って自身の執筆した記事を探し当ててコピーにとって苦労した話を聞きながら、やはり滝鼻さんは「生涯一記者」になる人だと思った。本の紹介のおまけとして書いた。

 


森友事件に見る新聞メディアの最期 その4

教育勅語にこだわる安倍政権は何を目指すのか

 森友事件は、筆者が予想するように下火になり、世間の話題と注目は別のものに移っていくように感じている。いつものことだが、日本人はけじめをつけることが苦手な国民性なのかもしれない。森友事件が燃え盛るのを都合の悪い人々は、国民が事件を忘れてくれることをひたすら待っている。

 このコラムで書いてきたことは、森友事件が起きた背景は「右翼思想の森」が醸し出す「空気」にあるというのが筆者の主張である。このようなテーマ、課題を調査・追及することは新聞がもっとも不得手とするものだ。

 SNS(Social Networking Service)のようなツールと手段を持っていなかった50年前なら、森友事件は露見せずに静かに成功していたかも知れない。籠池氏が語ったように「神風が吹いて」、右翼思想を教育する学園が誕生していたかも知れないからだ。SNSの時代がこの事件をさらけ出したおかげで、多くの国民が理解できない首相夫人とそれを取り巻く秘書グループの不可解な言動も知ることになる。

 それにしても安倍内閣は、戦前の間違った教育の象徴となっている教育勅語にこだわり、明治時代の思想に逆戻りさせようとしていることは明らかだ。1983年、中曽根内閣が教育勅語を朗読する右翼志向の学校に対し、その朗読の中止を求める是正勧告を行っている。そのような過去の自民党政権の政策を否定までして教育勅語にこだわる安倍政権に対し、国民が黙っていることは許されない。

 NHKが先ごろ実施した世論調査によると、「教育勅語を教材として活用することを否定しない」とした政府答弁書について「まったく評価せず」15パーセント、「あまり評価せず」33パーセントだった。合わせると半数近くの人が評価しなかったことになる。これに対し「大いに評価」「ある程度評価」は合わせて36パーセントだった。

DSC_2631NHKの世論調査の報道より

 ところが、安倍政権を支持する人は半数を超えており、内閣は依然として国民の支持を受けていることになる。

 明治にこだわる安倍政権の後進性

 安倍首相が熱意を燃やすのは改憲だけではなく、 2018年10月23日に迎える「明治改元150年」の式典にあるとされている。

  現行憲法が公布されたのは昭和21(1946)年11月3日である。憲法が平和と文化を重視することからその日を「文化の日」と呼ぶことにした。安倍政権はそれを「明治の日」に代えようとする動きが出ているという。

 さらに4月14日には、2021年度から全面実施される新しい中学校学習指導要領の保健体育で、武道の種目の一例に「銃剣道」を明記したことについて、「『軍国主義の復活や戦前回帰の一環』との指摘は当たらない」との答弁書を閣議決定したとの報道があった。

 デジタル大辞泉の解説によると閣議決定とは、「憲法や法律で内閣の職務権限とされる事項や国政に関する重要事項で、内閣の意思決定が必要なものについて、全閣僚が合意して政府の方針を決定する手続き」とある。法律や条約の公布、法律案・予算案・条約案などの国会提出、政令の決定などに際して行われるものであり、中学校の学習指導要領について閣議決定することがあるのか。なぜ、こんなことまで閣議決定しなければならないのか。

 「軍国主義の復活や戦前回帰の一環」と指摘されることに、なぜこれほどまでに過敏に反応するのか。本音を衝かれたから、あわてて対応しているように見える。

 そのような時間があるなら、未来に向けて日本はどうするか考えを巡らせた方がいい。科学技術創造立国、知的財産立国とした過去の国是はどうしたのか。

 世界の科学技術も知財の世界も驚くほど速い流れで進歩・進展している。そのような現状を正確に把握している閣僚は、首相を筆頭にほとんど見当たらないように筆者は思う。国民は政治に対してもっと関心を持たないと、議員多数決という国民不在の政治に都合のいいようにされてしまう危険を感じる。

 政治権力のチェック機能を十分に果たせなくなった新聞に代わるジャーナリズムは、そう簡単には育たない。誰がこの穴を埋めるのか。日本のリベラル階層は、もっと自身の意見を発信する手段と方法を持つべきではないかというのが筆者の意見である。

(終わり)

 

 


中国アップルがスマホ意匠権で勝訴

  発明通信社のコラム「潮流」(http://www.hatsumei.co.jp/column/index.php?a=column_detail&id=231)の2016年8月18日付けで、中国アップルが中国で販売していたiPhone6、iPhone6-Plusの意匠は、シンセン市佰利営销服務有限公司(以下、佰利=バイリ=)の持っている意匠権を侵害しているとして販売差し止めを求められた紛争を紹介した。

  もしこれが認められると、中国の大市場で中国アップルのスマホが撤退することになりので、世界中の知財関係者から注目を集めていた。これは同時に、中国の司法を含めた知財制度が、国際的に受け入れられるかどうかを見極めることにつながるという思惑もあった。

  ともすれば、中国は自国有利の司法判断が出るという危惧を従来から抱かせていたからだ。特に地方保護主義という考えが根強くあるからでもある。

  結果は、中国アップルの言い分が認められ、中国の知財司法制度と判断は、先進国並みになっていることを示したことになった。

  今回の訴訟結果についても前回と同様、北京銘碩国際特許法律事務所(http://www.mingsure.com/Japanese/about.asp)の金光軍弁理士の解説をもとに紹介してみる。

 これまでの経過をおさらいする

  この紛争の経過を一覧表にしたものが、下の表である。

  シンセン市佰利営销服務有限公司(以下、佰利=バイリ)が2015年1月に、自社の持っている意匠権をもとに、アップルコンピュータ貿易(上海)有限公司(中国アップル)が中国で販売しているiPhone6、iPhone6 Plusは、意匠権を侵害しているとして販売差し止めを求めて北京市知的財産局に訴えたのが発端になっている。

 バイリが取得した意匠権は、同年1月13日に出願された「ZL201430009113.9」などであり、同年7月9日に登録公告された。なお、iPhone6 PlusとiPhone6は、サイズだけ異なるスマホである。

 中国アップルのスマホの意匠をめぐる係争の経過

 

  この紛争は、行政では侵害と認めたが、中国アップルはこれを不服として司法判断に訴えた。

  今回、この訴えに対し北京知的財産法院は、行政側の侵害判断をいずれも認めず、結果として販売差し止めを認めないとする判断になった。

  金光軍弁理士によると、今回の判決の全文が公開されていないので、今の時点では同法院が発表したメッセージから判断を読み取ったとしている。金光軍弁理士は、整理して次の3点をあげている。

  1、北京市知的財産局の決定は、係争意匠と被疑侵害意匠の間の区別意匠特徴の認定において、遺漏(手落ち)がある。

  2、被告(北京市知的財産局)は、自分が確認した係争意匠と被疑侵害意匠の間の五つの区別意匠特徴を機能的意匠特徴と認定したが、この認定は事実及び法律的根拠がない。

  3、係争意匠の携帯電話の側面の弧度は非対称設計で、その弧度及び曲率に関する意匠特徴は従来意匠と区別される意匠要点であるが、被疑侵害意匠は対称している弧度設計を採用している。(対比図面の赤枠部分

 
北京銘碩国際特許法律事務所のニュースレター(2017年3月号)から転載

  この区別は全体の視覚効果に顕著な影響がある。これに関する被告の認定は誤っている。また、係争意匠と被疑侵害意匠の間には一般消費者が容易に観察できる明らかな他の区別もある。従って、被疑侵害意匠と係争意匠は同一意匠でも類似意匠でもないので、被疑侵害意匠は係争意匠専利の保護範囲に属しない。

  このように金光軍弁理士は整理したうえで、この判決について「係争意匠とiPhone6、iPhone6 Plus はいろんな区別があるので、通常の消費者でも両者を区別できると思う。したがって、iPhone6、iPhone6 Plus が係争意匠専利を侵害したと判断したのは、無理があると思う」と語っている。

  この係争は通常の3人の裁判官による合議体ではなく重要案件として5人の裁判官の合議体を形成した。それだけ中国でも難しい重要な案件とみたわけだ。

  金光軍弁理士は「北京知的財産法院が北京市知的財産局の結論を全て覆したので、上訴の可能性が高いと思われる」としている。もし、被告が上訴した場合は北京市高級人民法院で二審が行われることになる。

 

 


森友事件に見る新聞メディアの最期 その3

証人喚問NHK

国会で証言する籠池氏(NHKテレビから)

 戦前回帰を目指した「右翼思想の森」に隠れた真実

 森友事件は、学校建設の許認可をめぐる不正疑惑と国有地のタダ同然の払下げの不正疑惑が大きく取り上げられている。しかし問題の本質は、日本会議という右翼団体の影響を強く受けた政治勢力にあるというのが、筆者のコラムの主張である。

 右翼団体である日本会議とそれを取り巻く人脈は、あたかも一つの森を形成するように大きな茂みを作っているが、確たる輪郭を持った形状物ではない。それは「日本会議の研究」(扶桑社)で、著者の菅野完氏があますところなく書いている。

 現政権と直結するような「森」の調査報道となれば、従来の新聞メディアには不得手なテーマである。時代の要請を受けたインターネットサイトからの発信でこの事件の端緒が語られるようになったのである。

 菅野氏の緻密な調査結果、それを発信したインターネットサイト、その反響を受けて実現した刊行本。その手順こそ、第4次産業革命の産物と言えるものである。それは筆者が追跡してきたもの作りの現場と類似する点がある。

 安倍首相夫人が森友学園に3回も講演に訪れ、幼稚園児らの時代錯誤のシュプレヒコールを見て涙したという話や、国会の証人喚問などで話題の中心人物になっている籠池泰典氏夫妻と夫人の記念写真を見ても、首相夫人と森友学園が親密な付き合いであったことは明らかである。

 右翼団体の森を作っている数々の樹木の一本が森友学園であり、幼稚園児たちの教育勅語の朗読や軍歌の「海ゆかば」を歌唱する活動は、あたかも森を覆うおびただしい枝葉の一つのように見える。

 森と枝葉を涵養する忖度という「空気」

 安倍首相は、森友事件が国会で問題にされてきた当初、籠池氏を評して「教育に熱心なお方・・」と語っていたことや、首相夫人が森友学園の名誉校長になっていたこと、さらに「安倍晋三記念小学校」と名付けようとしていたことからも、籠池氏が安倍首相の大ファンであったことが分かる。と同程度に安倍首相夫人もまた、森友学園の教育活動に共鳴していたからこそ、親密な付き合いが続いてきたのである。

 

 このような事実を重ね合わせると、日本会議という右翼の森を形成する木々の一本に首相夫妻が関わっていたという状況証拠は疑いないのではないか。そう理解してみると、国有地払い下げや学校設立許認可に対する不正疑惑は、また違った見方ができる。

 すでに「忖度」という言葉が出ているように、当事者が直接指示や下命をしなくても相手の思惑を慮って行動を起こすことがあったのではないか。それが忖度である。

その裏付けになるような籠池氏の言葉がある。「突然、神風が吹いてきた」と語ったように、森友学園の設立許認可事項や払下げ話が同学園の都合のいいように、にわかに進展していったのである。

 そのような風潮を私たちは「空気」という言い方をする。誰が発信して誰が責任者になっているのか判然としないが、全体を覆ってくる一つの方向性の勢力を「空気」という抽象的な言い方で表現する。まことに言い得ている言葉であろう。

 大きな森を形作っている木々とおびただしい枝葉とその陰影の中に、安倍首相夫妻の姿が筆者にはくっきりと見ることができる。そしてその木々を取り囲むように首相官邸の夫人付き秘書たちと官邸スタッフという別の木々が繁茂して森をいよいよ勢いつかせているように見える。

 森と木々と枝葉を涵養する「空気」こそ、森友事件を形成した要素になっているのではないか。だから話題にされている当事者たちが、違法性がないことをタテにして「問題がどこにあるのか」と抗弁することができるのである。

 空気は景色と言い換えることもできる。森の景色がある意図をあたかも持っているかのようにある色に染めていく。このような色付きの景色が見えてきたのは、森友事件が発覚してからほんのわずかな時間の中で展開された森の中の木々と枝葉のざわめきの中であぶりだされたことである。

 この色とざわめきを「違法」という尺度で決めつけることは、ほとんどできない。森の木々を形成する政治勢力はそこに拠り所を見つけ、忖度と空気という言葉に寄り掛かって、今回の森友事件を森の奥深くの闇に葬ろうとしているのではないか。

 しかし、森そのものは消すことができない存在感を出し始めており、その証拠の一つがすでに出てきている。安倍内閣は教育勅語を「憲法や教育基本法に反しない形」で教材として使用を認める閣議決定をした。なぜ、そこまでこだわるのか。

 森とその中に生息する木々と枝葉の存在に、筆者はこれからも注視していくことにする。

(つづく)

 

 


森友事件に見る新聞メディアの最期 その2

森友事件が発生した根本事情

 森友事件の根本は、国有地をタダ同然で払下げた処理内容、学校建設許認可に関わる森友学園側の不正疑惑の2点であり、首相夫人の名誉校長就任とか寄付行為とかは本筋とは違うという主張がある。

 これは論旨逆転させた主張であろう。森友事件は、日本会議の存在なくして起こり得なかったものであり、日本会議を取り巻く人脈があったからこそ国有地タダ同然の払下げ、塚本幼稚園の時代錯誤も甚だしい教育現場が世の中の耳目を集めるようになったものだ。

 右翼思想の人脈背景がまったくなく、単独で森友事件が発生したという見方があれば、それは間違いだろう。筆者はそのような観点でこのコラムを書いているのだが、タイトルにあえて「新聞メディアの最期」という刺激的な文言を付けた理由をこれから展開していきたい。

 前回、菅野完氏の書いた「日本会議の研究」(扶桑社)をもとに主張を展開した。この本は、元々は扶桑社が立ち上げたWebメディア「ハーバー・ビジネス・オンライン(HBO)」に連載されたことから始まっている。

 菅野氏は、新聞を主体とする既成のメディアが日本会議について、ほとんど取り上げることがないことを感じていた。筆者は、日本経済新聞が掲載した特集で読んだ記憶があるが、全体像がよくわからなかった。

 菅野氏はそうした状況の中で、日本会議がいまや見過ごすことのできない存在になり、改憲への論議も現実味を帯びてきたことを感じるようになる。日本会議の故事来歴を独自に調べ、そこで得られた疑問点や見解をツイッターで発表していた。

 それに目を付けたのが扶桑社の編集者であり、Webメディアへの連載につながっていった。Webメディアでは多くの関心を集め、それが書籍の刊行へとつながった。出発点は、SNSのツイッターであり、続いてWebメディアの連載になり、本の刊行となる。日本会議の実像を一般国民に紹介したのは新聞や活字メディアではなく、インターネットのWebメディアであったことが、「新聞の最期」という言葉につながった。

トランプ登場に見る既成メディアの限界

 アメリカのトランプ大統領の登場によって、いまや既成のメディアに大転換が迫られている実態をいやというほど感じていた。新聞記者で育った筆者はいま、人に情報を伝える手段と方法が激変したことを実感している。遅すぎたという指摘は当然だが、トランプ登場後に明確に認識した。

 ツイッターでアメリカの大統領がつぶやくなどとは、想像もできなかった。そのつぶやきが、世界の政治と経済を瞬時に動かすという事態も想像できなかった。何よりもアメリカのリベラル派とされた新聞、一般の紙媒体やテレビメディアの予想をほとんど裏切ってトランプ大統領が登場したことに時代の変革を感じた。

 まさにこれこそ「新聞メディアの最期」ではないかと寂しい思いをしたものだ。大統領選挙直前に、ニューヨークで活動する20歳代の中国人女性と東京で会食した。そのとき女性は「自分は中国人だから選挙権はないが、トランプ大統領が実現するだろう」と言った。

 理由を聞いてみると「若いアメリカ人はトランプ支持が多く、彼らは隠れトランプであり表に出ない。だから世論調査の予想はあてにならない」と語っていた。それがズバリと当たって筆者を驚かせた。

ネット情報に動かされて歴史を作る時代

 「ネットと政治」、「ネットと社会」という二つの巨大なテーマがいま私たちに突き付けられている。政治家は支持者を意識してツイッターで発言し、多くの人たちに偽情報やデマへの対応という難題が突き付けられている。

 メディアはネット手段を介してだけ、存在感が出せる時代に入ったという見方も間違いではないだろう。新聞報道も活字情報がそのままネットで公開されている。新聞を読まないでネットで見る人が急増している。新聞情報の何倍もの分量の各種の情報が、ネットで発表されて拡大されていく。何か新しい情報を確認するのは、誰でもまずネットからである。

 筆者がこうしてブログで書いている内容もまた、ネットで勝手に紹介され広がっていく。そのような時代になって初めて日本会議の全体像が菅野氏によって示され、森友事件の根本が浮かび上がってきている。

 3月23日に行われる衆参両院の証人喚問で、また新たな発言と対応に国中が騒ぎ立て、本来、行われなければならない政治の根幹を議論する時間が浪費されていく。そう考えると、森友事件は罪深い事件である。

 数々あげられている不正につながる疑問点の多くが、土地の払下げ取り消し、学校建設の不認可などの幕引きで終わらせてはならない。日本会議とその人脈と森友事件のつながりを風化させてはならない。戦前の主義信条・思想に戻ろうとするような右翼活動をこれ以上台頭させてはならない。日本人はあの馬鹿げた時代の道を二度と歩いてはならない。今の新聞メディアはそのような認識に立たないだろう。

 同じ価値観で情報を発信し語ることのできるWebメディアは、ジャーナリズムの重要な位置を占めている。その中でテレビの役割が大きく浮上しているように筆者は感じている。良識ある調査報道が、テレビのワイドショーに期待されている。事実を追い詰めていく姿勢を感じることもあり、今後も期待している。

つづく

 

 

 


森友事件に見る新聞メディアの最期  その1

日本会議の研究

  森友事件は起こるべくして起きた「時代錯誤の独善集団事件」である。その根元を余すところなく書いてくれたのが「日本会議の研究」(菅野完、扶桑社)である。

 森友学園の瑞穂の國記念小學院建設認可をめぐる疑惑を朝日新聞が報道して始まったように見えるが、実はその前奏ともいえる出版本が2016年5月に刊行されている。著者は、フリージャーナリストの菅野完氏である。

 日本会議の中核を成している人物とその周辺でうごめいてきたこの半世紀50年の動向を、重層多岐にわたる調査を重ね、地にはいつくばるように現場を歩き、練達の筆さばきでまとめた筆力は敬意を表するものである。

 この本の「むすびにかえて」で菅野氏は、日本会議は新聞報道には馴染まない取材対象であり、その理由にこの団体を取り巻く群像が愚直に地道に熱意をもって右翼思想を醸成することに取り組んできたとの趣旨を語っている。

 それを菅野氏は、市民活動、市民運動と位置付けている。そのような一群の集団が知らず知らずのうちに安倍政権の骨格をカタチ作るような勢力にまで成長し、憲法改正を視野に入れるまでになる。

 それと今回噴出してきた小学校新設をめぐる許認可の不正疑惑が、根幹で結びついてきたことに筆者は驚愕した。今回の事件が起きる前に刊行されたこの本の中に、安倍・稲田・籠池・塚本幼稚園などが一本の線となって結ぶように記述されており、今回の事件発覚で誰よりも驚いたのは菅野氏だったのではないか。

 ことの重大性に比較して新聞の取り上げ方はまことに不甲斐ない。掘り下げ方も、当事者の紋切り型のコメントだけを並べたものが多く見られ、深く追求して真相を究明しようとするジャーナリズムの本性が見られない。

 その中でテレビのワイドショーは、真相に迫ろうとする姿勢が感じられるし解説もいい。筆者は、テレ朝の朝のワイドショーしか見ていないが、合間に見ている他の局もそれなりに健闘しているようだ。NHKもこの数日の解説を見ていると、疑問点をきちんと整理して視聴者に分かりやすく説明している。

 されにワイドショーで派手に取り上げられているのは、テレビ向けの「役者」がそろっているからでもあるように思う。籠池夫妻、その子息と娘、これは大衆メディアには得難いキャラであり、そこに無名のジャーナリストの菅野氏が絡み、出処進退が怪しくなってきた高級官僚から末端の役人まで広がった。

さらに日本のトップに位置する首相夫妻と財務大臣が深く関与しているようだーという展開は、映像メディアの最高の餌食になっている。

 政府与党は、籠池氏の国会喚問には大反対していたが、国会議員の現地調査で籠池氏が「安倍総理から100万円の寄付を受けた」との証言が出てから、手のひらを返して証人喚問に応じた。

 ここにきて方針を変えたのは、100万円寄付の「動かぬ証拠」される物証が出てきたからではないか。

 毎日新聞のネット配信は、この事件の真相の核心を衝くものではないか。

 http://mainichi.jp/articles/20170318/k00/00m/040/139000c 

 安倍総理は全否定をしているが、籠池理事長が嘘八百を並べ立てているというのも不自然だ。国会で是非、真相を究明してほしい。

 腐臭ただよう政権の最期は、いつもながら国民を失望のどん底に突き落とすような展開になる。

つづく