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2021年1 月

なんでも遅きに失する政策は日本が世界一?

 
20世紀の終わりころから、「21世紀は知の時代」であり、人材育成と人材取り込みが国家戦略の重要政策と国際的に言われていました。まさにそのころから日本では、経済的理由や雇用問題から博士課程の進学者がじり貧状態になっていましたが国は無策でした。
2000年の修士課程修了者の博士課程への進学は16.7%でしたが、2018年には9.3%まで落ち込みました。
人口100万人当たりの博士号取得者の国際比較は、次の通りです。
    2000年  2015年
日 本 127人   118人
米 国 141人   259人
韓 国 131人   256人
 人材育成は自国の高度人材を養成することが目的で、囲い込みは世界中から優秀な人材を呼び込めるように待遇を整備し、研究レベルを高めていく戦略です。アメリカは高いレベルで自由に競わせる研究システムが確立され、中国は1994年から留学人員創業園、百人計画、春暉(しゅんき)計画、長江学者奨励計画、千人計画と次々と人材育成、確保、囲い込み戦略を実行して、またたく間にアメリカの背中が見える距離に迫ってきました。日本は中国に抜かれ、韓国にも並ばれようとしています。
 この20年間、日本の科学研究政策と国家戦略は停滞したままであり、いまやっと目が覚めようとしています。カネだけ付けても国のシステムが確立されて実行され、継続されなければ未来への投資は実を結びません。果して継続できるのかどうか。国民は厳しく監視する必要があります。

遅すぎた競争力喪失の科学技術政策

1月19日に開かれた政府の統合イノベーション戦略推進会議(議長・加藤勝信官房長官)で、2021年から5年間の研究開発の政府目標を30兆円で過去最大と発表しました。基本計画では官民合わせて120兆円の研究開発投資を目指すとしていますが、にわかには信じられません。120兆円とでかい数字をあげ、「官民合わせ」とか「目指す」という文言が曲者です。
3年前の2018年7月に政府に対し「危機に立つ日本の科学技術と未来への提言」を行いました。有馬朗人先生はじめ、野依良治、安西祐一郎、濱口道成、梶田隆章氏らの個別提言、さらに荒井寿光氏らと自民党の大野敬太郎、渡海紀三朗代議士らも座談会に出席し、危機に立つ日本の科学技術を訴えていました。筆者も研究成果を囲い込む知的財産活動の停滞は科学立国の危機に結びついていると訴えました。しかし安倍政権は、山の如く動きませんでした。
いま世界の技術革新は、先端技術開発よりも頭脳と人材の育成と囲い込みが機先を制する時代になっています。中国の「千人計画」はまさに人材育成と囲い込み戦略であり、20年以上前から展開している国家戦略の拡大政策です。これにいちゃもん付ける暇があったら自らの国家戦略の実行力を誇示してほしいと思います。

中国でアイスクリームから新型コロナを発見

このようなニュースが飛び込んできました。
サイトをクリックすると、自動的に日本語訳が掲出されます。このようなことは、理論的に十分に考えられます。世界の全環境中に新型コロナウイルスが蔓延しており、三密忌避・マスク防備程度では、ウイルス感染を防御できない事態にならないように祈るばかりです。
 
人民日報 1月15日
天津市防除司令部から、天津市大橋道食品有限公司(津南区双港町)に送ったアイスクリームサンプルの新冠ウイルス核酸検査で、3つのアイスクリームサンプルが陽性であるのが発見された。 14日14時現在、企業は完全な封じ込め管理を行い、人員や商品の出入りを禁止し、在庫の検疫を行い、出荷品を追跡しています。
検査の結果、陽性食品は1月12日と13日に天津大橋道食品有限公司が検査したチョコレート風味アイスクリーム(ロット番号20210105)、イチゴ風味アイスクリーム(ロット番号20210106)、フレーバーアイスクリーム(ロット番号20210107)のサンプルをそれぞれ検査した。 1月14日、天津市疾病管理センターによる審査の結果、核酸検査の結果は陽性であった。 現在、バッチ番号20210105チョコレート風味アイスクリームは、1588ケース(1ケースあたり6ボックス)、在庫304.8ケース、ロット番号20210106イチゴ風味アイスクリーム、生産1 627ケース(1ケースあたり6ボックス)、在庫697ケース、バッチ番号20210107フレーバーアイスクリーム、生産1621ケース(6ボックス/ケース)、在庫1250.8ケース。
予備的な疫学調査は、ニュージーランドの粉ミルク、ウクライナのホエイ粉末、その他の輸入食品を含む原料を生産し、1月7日と10日に定期的な核酸検査を行い、その結果は陰性であることを示している。
1月14日14時現在、企業は完全な封じ込めを行い、人員や商品の出入りを禁止し、在庫を封印し、出荷品を追跡し、すべての従業員を流用し、隔離し、核酸を隔離した。 抗体検査は、実務者の家族を隔離し、企業の販売舗装を一時停止し、人員フローと核酸および抗体検査を行い、原材料、既存の商品、企業内外の環境、従業員寮などの完全なカバレッジ核酸サンプリングテストと消毒を行います。
現在までに、1662人の企業関連実務家が管理・検査を行い、そのうち700人が陰性で検出され、残りの結果が残っている。
現在、天津CDCの専門家は、関連する作業基準に厳密に従って、さらなる調査と処分を行う津南地区に現場指導を行っています。 販売される可能性のある製品については、関係部署が廃棄計画を策定し、関連製品を購入した場合はコミュニティに報告し、スタッフが専門的な手順に従ってさらなる処分を指示します。
 
出典:人民日報クライアント

徹底している中国のコロナ封鎖対策

中国の知人からの情報です。1月11日に発せられた中国政府のコロナ対策をご紹介します。
外国から中国へ入国した場合、14日間のホテル隔離観察+居住地に移動後に住居で隔離され7日間の医学的観察+さらに住居の社区(行政区)で7日間の観察となる。つまり入国後の追跡観察が「14+7+7=28日」となったということです。
強化された理由は、入国20日後に感染を確認した例があること、冬季に入り寒さの影響もあって感染スピードが遅くなっている傾向があるとのことです。中国はまもなく春節(旧正月)を迎えますが、戒厳令(移動禁止)が宣告されると言われているそうです。

パナソニックのマスク製造・販売に思う

 
パナソニックが1月12日からマスクを販売するという。シャープ、三菱重工に次いで日本の大手電機メーカーのマスク参入である。同社関連のHPを見ると、「パナソニックの国内工場クリーンルームで、国内材料で生産しています。ウイルス飛沫や微粒子も99%カットできるフィルターを採用」とある。
値段は「3層構造の不織布マスク50枚入りで税込み3278円」とあり、50枚入り500円で買えるいま、相当に割高感がある。
コロナ対策でいま求められているのは特効薬とワクチンである。マスクはすでに行き渡り、不足感もない。マスク不足が言われた1年前ならまだしもどう見ても遅きに失した製造販売である。同社は「社会貢献のため」製造販売に踏み切ったとうたっているので、それはそれでいいと思うが、期待薄である。
いまパナソニック、シャープ、三菱重工に国民が期待しているのはマスク製造ではない。DX(デジタルトランスフォーメーション)時代を迎えて、電子情報技術を駆使した先端機器類やシステム開発で世界をリードしてほしいという期待である。かつての栄光をマスクなどで取り返すことなどできない。
学校給食調理現場では、マスクは頻繁に使い捨てすることがウイルス・細菌防御に最善と聞いたことがある。高価なマスクを大事に長時間使うことはリスクがあると研究者からも聞いたことがある。「パナソマスク」にケチをつけるのではなく、期待はマスクではないということを伝えたいためにこれを書いた。

日中シンポジウム 倉澤治雄 その1 

私が中国の科学技術に初めて接したのは1985年のことでした。当時日本テレビの記者として科学技術を担当していたことから、竹内黎一科学技術庁長官に同行して北京、西安、上海の研究施設や大学を訪ねる機会がありました。北京の空港から市内までの道路はまだ舗装されておらず、人の群れ、自転車の列、馬車が混然一体となっている道を、私たちが乗ったバスが警笛を鳴らし続けながら走ったことを鮮烈に覚えています。大学や研究施設もまるで19世紀にタイムスリップしたようでした。あれから35年余りが経って、中国の科学技術は見違えるように発展しました。

一国の科学技術力を測る指標として、白川先生が話をされた論文数、研究開発費などのデータがありますが、私は宇宙開発の視点で中国の実力をフラットに見てみたいと思います。

今年2021年は中国共産党創立100周年ということもあり、中国は火星に探査機を送り込みました。今この瞬間、米国の火星探査機「パーシビアランス」と中国の「天問1号」が同時に火星で探査を行っています。火星探査の歴史を振り返ると、1957年の「スプートニク」で宇宙開発の先手を握った旧ソ連が、1960年から「マルス計画」で30機近い探査機を打ち上げましたが、ほとんど失敗しました。

一方米国も1964年から探査機を打ち上げましたが、火星表面への着陸に成功したのは1976年の「バイキング1号」が初めてです。日本も1998年に「のぞみ」を打ち上げましたが通信が途絶え、失敗に終わりました。地球と火星の間には「探査機の墓場がある」と言われるくらいです。

写真1火星ローバー「祝融」の映像(CCTVより)
火星ローバー「祝融」の映像

地球と火星の距離は公転周期の違いから2年に一度だけ近づきます。約7500万キロという距離に加えて、火星周回軌道への投入、火星表面への自動での軟着陸と技術的ハードルは極めて高く、今回中国が初めてのミッションで米国と同時に軟着陸に成功したことは、宇宙開発史上輝かしい成果と言えます。

火星をめぐる米国と中国のレースは、火星からのサンプルリターン、そして有人宇宙飛行と続くことになります。中国は2049年に建国100周年を迎えますので、それまでにどちらが先に火星に人類を送ることができるか、大変注目されます。

米中の宇宙覇権をめぐる競争が最も先鋭に表れたのが月をめぐるポジションです。米国は1969年、「アポロ11号」で初めて人類を月に送ることに成功しました。しかしアポロ計画は1972年に終了、それ以降月面に立った宇宙飛行士はいません。中国は2019年1月、探査機「嫦娥4号」を月の裏側に軟着陸させることに成功しました。月は地球を回る公転周期と自転周期が一致しているため、地球から月の裏側を見ることはできません。また月の裏側の探査機と地球の通信手段がないことから、これまで米国もロシアも探査機を着陸させることができませんでした。中国は地球と月の引力、それに探査機の遠心力が釣り合う「ラグランジュ点」に「鵲橋」という中継衛星を投入してこの問題を解決しました。しかも「嫦娥4号」が着陸したのは南極に近いクレーターです。ここには「水」の存在が予想されています。水は生命を維持するのに必要なだけでなく、水素と酸素に分解してエネルギーとしても使えるので、月面に基地を作るには「水」を探し当てたものが勝者となるのです。

写真2月面ローバー「玉兎2号」(新華網より)
月面ローバー「玉兎2号」新華網より

月の裏側への軟着陸は米国をいたく刺激しました。ペンス副大統領は2019年3月、「中国は月の裏側にいち早く到達し、月での戦略的なポジションを獲得し、世界の卓越した『宇宙強国』になるという野心を明らかにしました」と対抗心をむき出しにしました。その上で、「次に月面に立つ男性と女性は米国の宇宙飛行士であり、米国の国土から、米国のロケットで打ち上げられなければならないのです」と述べて、有人月面着陸を目指す「アルテミス計画」を2028年から2024年に前倒しすると発表しました。あと3年しかありません。中国はその後「嫦娥5号」でサンプルリターンにも成功し、約1.7キログラムの月の石を地球に持ち帰りました。中国は有人月着陸を目指して、米国アポロ計画で使われた「サターンⅤ」を上回る「長征9号」という巨大ロケットの開発を急いでいます。「長征9号」の完成は2030年頃と見られています。

写真3スペース・ローンチ・システムのコア部分NASAホームページより
スペースローンチシステム NASAホームページより

衛星の打ち上げでも中国はロシア、米国を抜いて1位となっています。とくに注目されるのが航行測位衛星システムの「北斗」です。位置情報を知るにはいまGPSが使われていますが、今後「北斗」がGPSに取って代わるかもしれません。というのも「北斗」システムの精度は近い将来センチメートル単位になるといわれ、数メートル単位のGPSを上回る能力を持っているからです。昨年6月、「北斗3型」35機によるシステムが完成しました。すでに中国が進める「一帯一路」の関係国30か国が採用を決めているほか、iPhone12を初めとして、スマートフォンにも「北斗」対応のチップが搭載されています。

写真4北斗システム(百度より)
 北斗システム 百度より

また異彩を放っているのが2016年に打ち上げられた「墨子」という量子通信衛星です。量子通信は絶対に内容を盗聴できない暗号通信が可能と言われています。地表では100キロメートルほどしか届きませんが、宇宙を経由すると全地球をカバーできます。もともとオーストリア・ウィーン大学のツァイリンガー教授が考え付いた通信ですが、留学していた藩建偉中国科技大教授が引き継ぎ、7,600キロの量子テレポーテーションに成功しました。今年1月には中国国内の32都市を結ぶネットワークを構築して、安全保障関係や金融関係での実用化が始まっています。潘教授は「量子の父」として知られ、中国で最もノーベル賞に近い研究者と言われています。その潘教授は「世界で量子通信のネットワークが構築されると、サイバーセキュリティの懸念はなくなるだろう」と語っています。米国はまだこの分野で追いついていません。

写真5 量子通信ネットワーク(新華網より)
量子通信ネットワーク 新華網より

さらに重要なのが中国の宇宙ステーション「天宮」です。米国主導の国際宇宙ステーション(ISS)は2024年に役割を終えます。米国議会を中心に2030年まで延長する案が出ていますが、すでにかなり老朽化している上、運用は民間に移行されます。中国の宇宙ステーション「天宮」はそのすきを狙って2022年から稼働する予定で、宇宙環境を利用した低軌道での宇宙実験は「天宮」の独壇場となる可能性が出ています。今年6月には3人の宇宙飛行士が「天宮」に乗り込み、船外活動なども行いました。

写真6 中国宇宙ステーション「天宮」(SPCより)
中国版宇宙ステーション「天宮」 サイエンスポータルチャイナより

では宇宙大国アメリカはどうなっているかというと、スペースXをはじめとする民間の宇宙ベンチャーがとても元気です。スペースXは再使用可能な「ファルコン9」に続いて、「スターシップ」という巨大宇宙船を開発しています。またブルーオリジンやバージンギャラクティクは、地上100キロほどのサブオービタル飛行に成功し、宇宙旅行が現実味を帯びてきました。

写真7 スターシップ(spaceXホームページより)
スターシップ

さらに小型衛星を低軌道に1万個以上ばらまいて、あたかも「星座(コンステレーション)」のように配置して、地上のどこでも通信できる「スターリンク」というサービスもすでに始まっています。

米国の強みは何といっても民間のベンチャー企業が元気なことです。これからの米中の宇宙覇権をめぐる戦いでは、国策として宇宙開発を進める中国と、民間の活力を最大限利用する米国の争いなのです。

(第一部以上)