PEACE BOATで世界一周の旅ーその29
2024/06/01
ノルマンディーに上陸
第二次世界大戦の激戦地で有名なノルマンディー上陸作戦の舞台になったその地に「上陸」するとはびっくりでした。この地方最大の港であるル・アーブルに船が接岸したとき、大荒れの海の中であり小雨降る肌寒い朝でした。
整備された都市計画は、古い時代の遺産を活かした街並みが素晴らしく、ユネスコ世界遺産にも登録されています。多くの印象派の画家が描いたエトルタ、アヴァル断崖と海岸線の絶景、自然環境とその景観は素晴らしく、さらに歴史的な教会、大聖堂、宮殿、修道院などの遺産も点在しています。
往時の修道院は美術館になっていますが、その一部ではフランスで最古の歴史と品質を誇るコニャック、ブランデー、リキュールが醸造されています。
最低でも3日は必要な一大観光地をたった1日で見学するというのが船旅の宿命です。9つのツアーが用意されていましたが、参加できるのは1つだけ。筆者は、最古のリキュール発祥のベネディクティン修道院とそのリキュールとコニャック、ブランディーが試飲できるコースに参加しました。
中に入ってみると歴史を感じさせる美術館であり、一角には醸造工場が併設されていました。
古色蒼然と豪華な建築様式を両立させた修道院
1510年にベネディクト派の修道院として建築された建物は、あたりを圧倒する威厳を保っており、午前10時きっかりに門が開けられて入りました。
この修道院は非常に戒律の厳しいことで知られていたそうで、私語はもちろん許されず、作業の間もひたすらお祈りの言葉と姿勢を崩さなかったという説明には驚きました。朝起きてから夜寝るまで、ひたすら信仰の心にすがりついた修道院の中で、アルコール飲料が醸造されていたとは理解を超えるものでした。
歴史を刻んだ展示品は、多くが醸造に使った道具類と文献類でした。
修道院時代の展示品は気品を感じさせるものばかりで見とれました
このリキュールは、さまざまな薬草と蜂蜜を材料にしたもので、度数はなんと40度。長寿にいいとされた薬用飲用となり、長い歴史を紡いで来たとのことでした。
口中を満たす芳醇な香りとコクのある甘み
修道院はのちに事業家の手に渡り、そこでフランス最古とされるリキュールの醸造製法が引き継がれました。さらにその醸造法に工夫と創意をいれてコニャックとブランデーの醸造に発展させ、コクのある上品な甘さは洋菓子の風味付けに絶好とされるようになり、世界中に輸出されました。
用意されたスタンドでコニャック、ブランディ、リキュールをいただきました
リキュール販売で儲けた資金で、往時の醸造器具類や修道院の素晴らしい調度品類などを買い集めて整理し、豪華なたたずまいのある美術館として完成させたのでした。
ステンドグラスの目を見張るような絢爛たる壁面や醸造道具類の展示物は、歴史そのものであり、現在の醸造手法も多くの職人が丹精込めて取り組み、新たな手法も編み出しているとのこと。近代的な作業現場と伝統的な現場を融合させた醸造現場の一端を見せてくれました。
コニャック、ブランディ、リキュールを入れたグラスが用意されており、みんなで試飲することになりました。グラスを口元に寄せるとなんとも言えない甘い香りが立ちのぼり、口に含むとアルコール度の強い芳醇な液体が一瞬の中で広がり、ため息に似た声と息遣いがあちこちで発散していました。
印象派の画家たちの眼を引いた断崖風景
古い街並みには古風なホテルやレストラン、土産物屋が並び
一時間ほど歩いて楽しみました。
船の出航時間に合わせて港に引き返します。ガイドさんが「せっかく来たのにすぐ船に帰るのはもったいない」と残念そうな顔をしてくれましたが、何しろ世界一周という目的があるので、どこに上陸しても駆け足の見物で帰船して出航ということになります。これもまた、船旅の醍醐味でしょうか。
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