見え見えだった安倍退陣表明
ぎっくり腰に襲われた-2

ぎっくり腰に襲われた-1

 生まれて初めてぎっくり腰に襲われた。前兆があった。それは9月15日(火)である。

午後3時すぎ、黒川清先生と文藝春秋の編集者と懇談お茶をして、箱崎の「ロイヤルパークホテル」から20分ほど歩いて帰宅した。途中で整形外科のクリニックで、左手小指の付け根の変化を矯正する簡単なリハビリを20分ほど受けた。

 その日は、何となく左腰に違和感があった。寝違いたのかなと思っていた。夕食後、PCに向かっていても左腰部分が少々痛い。横になると痛みがない。それで早めにベッドに入った。

 16日(水)未明、トイレに起きたとき、かなり痛みが増していることに異変を認識した。トイレを済ましてベッドに腰かけたとたん、激痛が来た。そのまま静かにひっくり返ってしばらく痛みが鎮まるのを待った。

 朝になってトイレに行こうとしたが痛くて歩けない。それでも一寸刻みでトイレに辿り着き終わって戻るのにまた難儀。これはただ事ではない。これが世にいうぎっくり腰だろうかとぼんやり考えて、すぐに知人の医師に連絡した。内科が専門の医師だが、多分、ぎっくり腰だろうという。動けないほど痛いなら救急車で運ばれるのがいい。遠慮しないですぐ救急車を呼べという。

 身支度を必死に整えて1時間後に救急車を呼んだ。どこに搬送されるか未知であるので、すぐに近くの聖路加病院に搬送してほしいと希望した。救急隊員が電話でなにやら連絡を取っていたが、聖路加へ行くということになった。

 救急隊員は、来た時すぐに体温を測定し、血中酸素濃度を測定する器具をセットした。体温が37度3分と聞いてびっくりした。前日、夕方に整形外科の入り口で測定されたときは、36度5分だった。血中酸素濃度は聞いている余裕がなかった。

 搬送されるとき、ストレッチャーに移動するが、当然、体を動かされる。そのときの激痛は隊員も驚くほどの声をあげた。聖路加病院に入ったときにもベッドに移動される際にものすごい激痛が走って悲鳴を上げた。体温は、37度8分に上がっていた。

 狭い個室に入れられると、若い医師とベテラン看護師が次々と入れ替わり入ってきて、点滴装着の準備と各種測定機器類をセットし始める。じっとベッドに横たわっている分には痛みはないが、ちょっとでも体を動かすと、ドドーンという感じで右腰部分に激痛が走る。

 本当にぎっくり腰なんだろうか。不安がよぎるが診断前であり、医師と看護師にゆだねて黙って眼をつぶっていた。

 点滴が始まった。医師と看護師の会話を聞いていると痛み止めと生理的食塩水の注入らしい。尿を取りたいがトイレに行けるかと聞かれたので、無理だと回答。初めて尿瓶を使って尿を採取された。

 数人の医師が入ってきて腰のあたりの触診を始めた。激痛が走るあたりをさすったり軽くたたいたりするが、不思議と痛みはこない。触診は、何度も同じような部分を念入りにしている。後で医師に聞いたところ「尿路結石の激痛の疑いも消えていない」ということだった。結果的に、尿路結石はシロだった。

 次にCTスキャンを撮影すると言われ、ベッドを転がして測定室へと移動を始めた。ここでまた激痛に見舞われた。装置のベッドに移動するために数人の看護師が私の体を動かすのだが、そのときにまた左腰に激痛が走った。思わず声を出して、看護師の腕にしがみついた。驚いた看護師は、ごめんと謝っているがどうしようもない。

 移動しないことには撮影もできないので、看護師の一人が、さあと促して一気に移動した。死ぬほど痛かった。撮影が終わってまた、体をストレッチャーに移動する。また激痛かと思ったが、まてよ、左腰を上にして横になった姿勢で移動すると痛みが軽減されるかもしれない。そう申し出ると看護師がそろそろと右を下にした横の姿勢にした。そうしておいてゆっくりと移動すると何事もなく完了した。

 看護師の一人が「大成功!」と言ったので、みんなで笑ってしまった。痛みとは激痛のときには悲鳴を上げるが、ちょっとした工夫で痛みがなければ笑っていられる。こうして撮影した骨周辺の診断でも異常はなかった。

 医師たちはぎっくり腰という言葉を使わないことに気が付いた。腰痛としか言わない。ぎっくり腰は通称なのだろう。治療や措置は何もない。こうして2時間くらい、救急外来の小さな部屋で横たわっていた。

 ときたま若い医師が部屋に来て調子を聞くが、変化はない。会話の中でその医師の専門を聞いたら「救急医療です」という。なるほどそうだ。ぎっくり腰は整形外科ですよねと言ったら「そちらは専門外なのでまったく分かりません」と正直だ。整形外科に2,3日入院できませんかと聞いたら、空きベッドがないからそろそろ退院してもらうという。

 問題は歩けるかどうか。痛みは軽減されてきたことは分かる。ベッドから起き上がって、一人でトイレに行ってくださいという。おっかなびっくり、病院内の通路を歩き始めた。

つづく

 

 

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