産業構造の新たな構築に後れを取る日本
2020/08/07
コロナ禍で世界の経済状況は停滞化へ向かっている。今年、上半期の業績報告は、大半の企業が昨年同期に比べて低く出ている。それなのに、アメリカの株式市況は、活況を呈している。特にハイテク企業が上場しているNASDAQ(ナスダック)は、史上最高値を更新している。東京ストックを見ているととても信じられない活況ぶりだ。
2020年8月1日付け日本経済新聞の報道によると、2020年4月ー6月期の世界の企業決算によると、企業の3社に1社が赤字になっているという。都市封鎖の影響をもろに受けた自動車、小売・サービスなどは、業界全体が赤字となった。この中でトヨタだけは、1588億円の純利益をはじき出した。中国市場の販売が伸びたことと原価を下げたことがその理由と言う(2020年8月7日付け日経新聞特報)。
原価を下げたとは驚いたが、トヨタ幹部は、「まだまだ無駄な工程を減らせる」と語り、豊田章男社長は「リーマン・ショック時より200万台以上、損益分岐点を下げることができた」と語っている。驚くべきコメントだ。
製造業の原価を下げるための努力を日本では「乾いたぞうきんを絞るような努力」と表現し、もうこれ以上無理だと語っていた。しかしそれは、その時点の技術レベルで語っているのであり、技術革新があれば当然、乾いたぞうきんではなくなり、絞れば余分な水が出てくるはずだ。
日本では伝統的に「もの作り」という言葉を大事にしている。太古の時代から農業で食ってきた日本民族はものを作り、作物を栽培することに注力し、その作業の中で創意工夫をしていった。作物を栽培することは、もの作りに通じる創意工夫の作業である。狩猟民族の欧米では農耕を下賤な民の作業としてきたが、日本は農作業こそ尊い労働であると位置づけてきた。世界中の王族・皇族の中で田植えをしたり養蚕をして国民の前で披露するのは日本の天皇・皇后だけである。労働の尊さと農業の重要性を象徴的に示されているのだろう。
もの作りは、時代と共に中身が変わってきた。コロナ禍にあっても情報通信、電子機器類の企業は大幅に収益を伸ばしている。コロナ禍で伸びた企業と下降した企業と業種がくっきりと分かれた。これに拍車をかけたのがコロナ禍による生活と勤務状況の急激な変化である。これは社会構造の変革に発展し、産業構造の変革へとつながった。
GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)に代表されるIT関連企業は、空前の活況を呈している。グーグルは検索と広告、フェイスブックは広告業で世の中の価値観を変えたが、この2社が伸びたのは、広告業で儲けたカネを次の世代の産業に投資し、その成果が出始めていることだ。果敢な未来への挑戦である。
新興勢力だけではない。マイクロソフトは、クラウド時代のITシステムで市場に参入し、これまで確保してきたMSのソフトを武器に新たな市場を形成していった。アマゾンも宅配業で儲けた利益をクラウドIT産業に参入して新たな企業構造に作り替えてきた。
日本にはそのような企業も産業も見当たらない。あるのだろうが目立たない。いつまでたっても日本の大企業の名前は従来とさして代わり映えしない。それでもいいが、企業は中身の勝負である。日本の企業であっても、世界の大競争の中でもまれているからまだいいが、政府・行政システムの時代遅れは、コロナ禍によって暴かれてしまった。
いまどき電話・ファクス主体の情報のやり取りが指摘されたり、巨額の税金を投与してマスクを配布したピンボケ施策は世界中の笑いものになっている。日本の組織は新しい改変に臆病である。前例を尊重することで結果的に無難な選択になっている。かつての時代はそれでもよかった。
いま情報は瞬時に地球を駆け巡り、工業生産の設計はすべて電子情報となった。世界を席巻した日本の金型技術は、いま機械と情報に置き換わってしまった。名人芸にまで昇華した金型職人ワザは必要なくなり、コンピュータと機械に置き換わった。それもたった20年の間に世界は変わった。トップランナーは中国だった。日本はとうに中国に抜かれていったのである。
2020年8月7日
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