中国大使館で沖村憲樹氏の中国国際科学技術協力賞受賞祝賀会
シダックス55年史「志魂の道」(シダックス社史編纂委員会、河出書房新社)

第124回・21世紀構想研究会 永野博氏の講演「ドイツに学ぶ科学技術政策」

 

DSC_1336  ドイツに学ぶ科学技術政策

 永野博さんは、2013年に「世界が競う次世代リーダーの養成」(近代科学社)を出版し、今度は今回の講演と同タイトルの「ドイツに学ぶ科学技術政策」(同)を上梓した。

 いずれも日本が抱えている科学技術の重要な課題を見通すためには、必要不可欠の視点を衝いてきたものである。永野さんの最近の内外での活躍ぶりと著作活動は、眼を見張るものがある。

 日本人でドイツという国家を知らない人はいないが、ドイツの科学技術政策についてはほとんど知らないのではないか。マックス・プランク、ライプ ニッツ、フラウンホーファー協会など個別の組織の名前ぐらいは知っていても、その活動内容や財政確保の仕組みなどは詳しく説明できない。

 これは筆者の貧困な知識・情報に照らして語っているのだが、国際的な科学技術政策の動向を知らないことを改めて痛感させたのが今回の講演である。

 第一に戦後のドイツの首相は、メルケル首相まで8人しかいないということを聞いてびっくりしたが、メルケル氏が物理学者と聞いて20世紀の科学進展で貢献してきたドイツ民族を垣間見た気がした。日本で女性の物理学者が首相になる日は、永遠に来ないような気がする。

 永野さんの講演から、連邦国家が集まった複雑な統治機構というドイツの国体はもとより、科学研究は政治や行政と一線を画して自主独立にあることを 初めて知った。そして科学研究は国家の発展と位置付けている政治家の考えや、ポスドクの流動性を促進するなど次世代の研究者を養成する政策など、20世紀 の科学研究の先導役を果たしてきた国家の違いを見せつけられ、どうしても思いは日本の貧弱な姿に思い至ることになる。

 ドイツも日本も工業国家であり、中小企業がかなり重要な位置づけにあると思ってきた。これは多くの日本人がドイツと聞いて思い抱いていたことだと思うが、内実はかなり違うことがわかった。

 ここでは講演のスライドを見せられた象徴的な3枚を紹介する。各種の産業輸出額を示したグラフであるが、特にハイテク産業輸出額のグラフでは、世界の主要5カ国の中で、電子機器だけがほとんどを占めている日本のガラパゴス工業国家が浮き出ている。


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  ドイツは、歴史的に医薬品が強いことは分かっていたが、日本のハイテク競争力の様相とはかなり違う国家であることがわかる。医薬品や医療機器でのドイツの 優位性は、研究現場の取材で仄聞してきたが、このような明確な図で示されると日本は特異な工業国家ということがわかる。

 私見だが、憲法改正などに注力している場合ではない。ハイテク国家を標榜するなら、あるべき科学技術立国としての国家観を示し、それを実現するための政治哲学を国民に訴えるのが先である。

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 私見はさておき、ミディアムハイテク産業輸出額を見ても、近年のドイツの伸びに比べて日本の明確な下降線はやはり気になった。中国の消費人口を視 野に入れて、自動車販売など対中国戦略で躍進しているドイツは、自動車で伸びている。戦前の対中国視点から抜けきらない日本の政治をここでも思い浮かばせた。

 直近のドイツの話題で出てくる「インダストリー4.0」とは、ドイツでは「第4次産業革命」と呼んでいるということだが、これは情報通信技術と製造業を融合して新たな産業現場と工業生産を通じて新しい社会創造を目指すコンセプトだという。

 モノ作り国家としては日本よりドイツの方が先輩だが、インダストリー4.0に見るように、新しい技術革新に合わせて工業社会、産業社会の在り方を明確に描き、中小企業支援をするドイツと日本は格段に違うように感じた。

 それは次のグラフで見てもヨーロッパ諸国と日本の中小企業の位置付けの違いを見せつけられたように思う。

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 永野さんの講演で感じたドイツの科学技術政策の要諦は、政策立案ではボトムアップであり制度を自分たちで作り上げていくという実行力が伴っている ことだ。強力なリーダーのもとで組織を作り上げていくのは、やはり伝統と歴史がそうさせているとしか言いようがないのではないか。

 最後に永野さんが示したドイツの「知的なものへの敬意」という日本の政治に最も不足している示唆は、重い言葉に響いた。詳しくは、同名の著書を読まれるようお勧めする。

文責・馬場錬成


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