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沖村憲樹さんの中国の国際科学技術協力賞受賞の祝賀会

シダックス55年史「志魂の道」(シダックス社史編纂委員会、河出書房新社)

士魂の道

 「シダックス55年史」とあるが、この本は感動と成功物語で埋めた通俗的な社史ではなく、シダックス株式会社の創業から今日までの企業活動のあらましを、創業者の志太勤氏と二代目社長の勤一氏の理念をどのように体現して今日に至ったかを語った本である。

 志太勤氏の自伝であり二代目社長・勤一氏の事業展開の報告である。それだから読むものを惹きつけていく。

  筆者が見てきたシダックスは、社会人野球の「野村監督チーム」と「給食事業」と「カラオケ事業」を展開する企業という程度で、実際の企業活動の姿がよくわからなかった。しかしこの本を読んで、勤氏が高校時代から企業活動をはじめ地面にはいつくばるようにして頑張っていった歴史を読んで感動した。

  人を感動させ評価させるのは行動ではないというのが、筆者の長年の取材活動から知った確信である。行動はいっとき一瞬でも完結するが、感動と評価を獲得できるのはその人の行動を支えている信念であり哲学である。

  勤氏の言葉に「努力還元」と言うのがある。努力には感謝されるという還元があるという。これは至言である。シダックスの悪戦苦闘の歴史を彩った努力こそ顧客に感謝され、社員や家族から支持されたから多くの試練を乗り越えることができたのである。

  この本に書かれている社史は、戦後間もない日本全体が貧しかったあの時代から現代にいたるまで、どれもこれも泥臭い物語で埋まっている。ここには学歴や出自は無関係であり、あるのは本音だけである。

 いまここにある課題を解決し次へと進むには、本音で行動するしかなかった。本音とはあるときは優しさであり、あるときは度胸である。失敗は許されないから価値がある。勤氏の家族の話から始まって、静岡県の田舎から勇躍、東京に出てきて町工場を立ち上げ、創意工夫で給食事業を拡大していった物語は痛快である。

  後半は創業者の事業を若干40歳で社長を継いだ二代目勤一氏の活動へと続いていく。アメリカに留学し、アメリカの食事業を体験し学び会得していく過程は、潮目の速い技術革新の流れを語っているものでもある。製造業だけでなく食とサービス事業もそうだったのだ。

  その事業はやがて「ソーシャル・ウェルネス・カンパニー」の企業理念へと収斂していく。人の幸せを追求する事業の展開を切り開くという。いかにもこの時代の風をはらんだ企業活動である。

 モノ作りがデジタルでバーチャル手法というサービス事業に変革してきたように食とその周辺、つまり社会と人の営むすべての手法もまた変革してきたのである。その変わり身に合わせるように新たな切り口をさぐり、新たな事業へと進展していく経営者の視点を感じさせる。

  シダックスは給食事業で日本一になった成功した企業である。しかしこの先、発展するかどうかは経営者の哲学と企業理念にかかっている。浮き沈みはつきものである。その試練を乗り越えて次の時代にも覇者になってほしい。そのような感慨を抱かせた社史であった。

 

 

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