自民党の知的財産戦略調査会の小委員会で陳述する
黒川清「規制の虜 グループシンクが日本を滅ぼす」(講談社)

石原慎太郎「天才」(幻冬舎)は田中角栄の実像を限りなく語った本である

天才・石原慎太郎

 田中角栄は一代の英雄である。戦後政治家の中でこれほど存在感を出した政治家はいない。なぜか。

 角栄が日本政治の中枢で活動していたころ、「コンピュータ付きブルドーザー」と言われるように、瞬時に判断力を発揮して実行する政治家として、誰もが認めていた。そしてそれ以上に多くの人を惹きつけた魅力は、日本の民族的なにおいをふんぷんとさせた人情家であったからだ。

 新潟県の雪深い馬喰の倅が、学歴もなく東京に出てきて土建業を営み、ひょんなことから政界に打って出ていく。たぐいまれな才覚を発揮して、たちまち政界の寵児となり、弱冠39歳で郵政大臣として登用される。裸一貫で中央に出てきて、実力だけでのし上がった稀代の政治家であったことは間違いない。

 その角栄に「金権政治家」のレッテルを貼り、糾弾してきた石原慎太郎が、角栄になり替わってこのような小説を書くとは、意表をついて余りある所業だったので、一応読んでみた。慎太郎の小説の中では、ノンフィクション・ノベルのジャンルの作品になるのだろうが、予想に反して傑出した出来栄えであった。

 それは多くの資料に裏打ちされた史実に基づいた小説というだけではなく、自身が角栄と共に同時代に政界のど真ん中で活動してきた履歴に基づいた内容になっているからである。慎太郎が「あとがき」で語っているのを読むと、政治家の現役時代に角栄を金権政治家として糾弾したことがあっても、角栄の人物の大きさには勝てなかったことが問わず語りに書いている。

 この小説で知り得た筆者の確信は、角栄はやはりアメリカの陰謀に葬り去られた政治家だったということだ。慎太郎はいまになって角栄を「天才」とあがめながらこの小説を書いたところに、慎太郎の真価があるとも言えるだろう。読んでいてあの時代のあの頃を思い出しながら、稀代の英雄をあのような形で失ったことを改めて思いおこした。

 と同時に、二世、三世の政治家が跋扈する今の政界の底の浅い劣化した現場に改めて思いを致し、暗然となった。

 

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