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馬場研2期生の記録

 小國聡美さん逝く

馬場研2期生の小國聡美(おぐに さとみ)さんが、7月7日午後9時すぎ、療養先の都内の病院で、食道がんのため亡くなった。39歳だった。

 小國さんは、1996年3月、東京理科大学理学部化学科を卒業後、新甫環境技術研究所から外資系の環境関連企業へ転進し、2006年4月にMIPに入学してきた。馬場クラスの幹事を務めるなど非常に面倒見がよく、明るいキャラクターでいつも冗談を言う楽しい社会人院生だった。

  MIP2年になって馬場研に所属すると、酸化チタン光触媒の修士論文をまとめるために研究に取り組み、文献を読みながら多くの研究者から取材を続けた。2007年8月の暑いさなか、小國さんと私の2人は、光触媒研究の第一人者である東大の橋本和仁教授の研究室を訪問し長時間話し込んだこともあった。また中国関係の標準化の文献を2人で検索・調査したことがつい先ごろのように思い出される。

  修士論文は「光触媒に関する特許動向と市場動向及び標準化に関する研究」と題し、直近の研究成果を俯瞰しながら標準化への提言をした秀作だった。

 MIP修了後もときたま研究室に顔をだし、今度は医学部に進学して将来は医者になりたいという抱負を語り私を驚かせた。赤ワインをこよなく愛し、来れば神楽坂のワインバーに繰り出し、職場や私的な悩みを話し合う「父と娘」でもあった。

  病魔にとりつかれる年代があまりに若すぎた。過酷な運命に遭遇したとしか言い様がない。食道に異変を感じて検診し、すぐに入院した2年ほど前には、相当に深刻な症状だったと想像される。

 東京・築地の国立がんセンターへの入退院を繰り返したが、そのころ私も同センターのがん検診で引っかかり、小國さんの紹介で彼女の主治医に診断を仰いだこともあった。幸いにして精密検査はセーフだったが、そのころは「お互い、がん友として頑張ろう」という冗談も言い合っていた。まさかこんな早く終焉が来るとは予想もしていなかった。

  昨年10月29日の「東京理科大学・ホームカミングデー」のときは、2期生同期の押久保政彦氏、有馬徹氏、小國さんと私の4人が神楽坂キャンパスでおち合い、学生たちの開く模擬店を冷やかしながら母校の催事を楽しく散策した。その時の様子は、写真を入れてこの欄でも報告している。

  しかし、今年の正月ころ小國さんの主治医に面会したとき、彼女の病状が容易ならないところに差し掛かっていることを嗅ぎ取った。その後も同期の押久保、有馬、佐藤貴臣氏らと連絡を取りあい、回復することを祈りながら病院訪問を繰り返した。 4月のお花見のとき、彼女を車に乗せてお花見をしようという話も具体化したが、もはやそれも許されないほど病状は悪化していた。

  さる6月30日に、押久保、有馬、私の3人が病院に行った。ベッドにうつむいた姿勢をした小國さんは、枕に突っ伏した顔をあげることもできず、母親の声掛けに小さな反応を見せるだけになっていた。それでも私が「聡美、頑張れよ」と声をかけて手に触ると、彼女は小さな声で「大丈夫・・・」と言いながら、思いのほか強い力で私の指を握ってきた。  その瞬間、病魔と闘う小國さんの最後の姿を見たように思い、たとえようもない悲しみが洪水のように心の中から湧き上がってきた。何もすることもできない自分にとって、あまりに非情な現実であった。かたわらに立っていた父親の顔を見たとき涙が噴き出した。

  そのときから1週間後の7月6日の金曜日、押久保さんが見舞いに行くと目が覚めた状態であり、うまくは話せないものの声を掛けるとちゃんと反応したということだった。「大丈夫だよ、頑張るよ」、「パンダのニュース、朝からやっているね」とも語りながら、声を振り絞り、「インターネットで対応策(免疫療法などのこと)を調べて欲しい」などともいっていたという。 押久保さんが帰り際、「また来るから、待っていてね・・・」と声をかけると押久保さんの目を見てうなずき、笑顔も見せていたということだった。それを聞いた私は、7月8日の日曜日に見舞いに行く予定だった。

  訃報は突然きた。7日夜帰宅して間もなく押久保さんから電話が入り、小國さんの最期を知った。ご家族の話では6日の金曜の夜、眠りについてからは翌日になってもほとんど目を覚ますことなく、そのまま旅立ったという。 

 39歳の若さだっただけに、本人はどれほど無念だっただろうか。そしてまた一人娘を失ったご両親の心痛を想像すると胸が張り裂けそうである。 馬場研2期生の小國聡美は、全力で走り抜けそして病に倒れたのだった。彼女の冥福を祈り、折に触れて往時の姿を思い出しながらMIP時代に研鑚した日々を称えたいと思う。

 さようなら聡美。きみはいつも楽しい会話を運んで私たちを和ませたいい女だった。

 

馬場研2期生の同窓会をHCデーで実現

 

 東京理科大学のホームカミングデイが10月30日に開催され、多くのOG/OBでにぎわった。やはり母校に帰ってくるのは楽しいらしく、あちこちで旧交を温める光景が見られた。

 馬場研2期生の有馬徹さん、押久保政彦さん、小國聡美さんの3人が参加して、近況を報告しあいながら楽しい懇談の席となった。押久保さんは弁理士事務所を宇都宮市に独立して開設し、活動している。その一方でイノベーション研究科の博士課程に進学し、研究を進展させている。

 有馬さんは、自動車のサプライヤーメーカーとして世界を股にかけて活動する幹部社員として大活躍である。それぞれ悩みや課題を抱えているがなんとか乗り越える力があるのでそう心配はしていない。

 心配なのは健康保持である。小國さんはいま闘病中であるが、小奇麗になったことからも察することができたが、治療は順調ということで一安心した。押久保さんと有馬さんは同じような箇所で、健康に課題を抱えているということだが、それも何とかだましながらも「経過は良好」ということらしい。

 しかし写真で見るように有馬さんは、どう見ても体重オーバーである。来年のカミングデイでまた再会を約束したが、有馬さんはそれまでに10キロのダイエットを下命した。果たして可能かどうか。

 帰りがけには、抽選でもらった一人1000円分の金券を使ってお茶をしながら、楽しい再会の懇談はあっという間に過ぎてしまった。

 
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「サイゼリア」のレストランで再会を楽しんだ。

 

 

 

第2期馬場研の記録

2007年度・第2期馬場研

 

 右から有馬、押久保、小国、佐藤の研究生諸君 


2007年の研究生と研究テーマ 

 押久保政彦  

「出願動向から考察する小売等役務商標制度の現状に関する研究」 

 有馬 徹 

「グローバル経済化における日本の未来と日本の責務             ―日本が果たすべきリーダーシップ―」

 小国聡美 

「光触媒に関する特許動向と市場動向及び標準化に関する研究」

  佐藤貴臣 

「日本国内における知的財産侵害事犯の現状と対策」


修士論文講評

努力を結実させた若き日のエネルギー 

  2007年度の馬場研究室は、6人の精鋭部隊でスタートを切った。ところが間もなく、そのうちの1人が職場の勤務の都合でMIPを退学し、もう1人は商標関係のテーマで取り組むために西村研究室に移籍となり、4人という少数精鋭でスタートを切ることになった。

 佐藤貴臣君は、早くからワーキング・ペーパーのテーマは模倣品・海賊版の現状と取り締まり状況に焦点をあてて論文をまとめたいという希望を出していたが、就職先が長野県警に決まったためにいっそう、やりがいのあるテーマとなった。

 就職活動では、思いもよらない機関の受験に挑戦するなど、貴臣君は可能性を求めて行動する点では評価できるものであった。論文作成では、調査分析にやや時間を取りすぎ、後半の検証と見解のまとめでは十分な活動ができなかったことは残念であった。

 ただ、貴臣君には思わぬ才覚があることを発見して嬉しくなった。彼が書いた文章はなかなかこなれた分かりやすい文体であり、もしかすると新聞記者にむいているのかもしれないと思わせるほどであった。

 論文では、2007年、世の中を騒がせた一連の偽装表示問題を法的な根拠を示しながら当局の摘発のあり方を検証したのは評価できる内容となった。自治体によって取締りの法整備がばらばらである点を指摘しており、これまでの模倣品・海賊版をまとめた論文には見られない視点を持ち込んで独自性を打ち出した点は、大変良かった。

 小國聡美さんは、学部の専攻は化学であるために、化学や環境問題に興味を抱いていた。その中から酸化チタン光触媒の研究動向と標準化に焦点を合わせたのはタイムリーな問題意識であった。

 酸化チタン光触媒の研究では、藤嶋昭教授、橋本和仁教授が双璧であるが、その1人の橋本教授の研究室を訪ねて、研究テーマについて教示を受けたことは大変良かった。

 ただ、酸化チタン光触媒の研究動向と知的財産権に関する調査分析では、詳細な内容で先行しているレポートがすでにあることに途中で気がつき、聡美さんのテーマの焦点は標準化へと絞り込んでいった。

 標準化には、光触媒の品質を担保する意味と、国際的に取り決めて品質を確保する国際標準化と2つの意味があり、そのどちらに関しても日本の研究現場と産業界の意識が希薄である点を指摘する論文となった。

 論文をまとめる時期に身内の方が病気で倒れてその看病に追われるなど、学業と仕事と看病という3重苦を克服してようやくまとめたものである。このため本人にとっては不十分な出来だったようだが、このテーマは今後さらに深化させ卒業後も取り組んでほしい。

   有馬徹さんは、自動車メーカーのサプライヤーに勤務し、国際的に活動する職場にいることをフルに活用して、知財をキーワードにしながら国際産業文化論を展開するユニークな論文にまとめた。自分の考えと主張を奔放に書き進めた論述であり非常に面白かった。

 特にサプライヤーから見た日本と外国の商習慣の比較論述は、徹さんの体験と見解に基づいた内容であり説得力があった。一国の産業競争力はモノ作りから金融にシフトされたという見方も、この論文の流れから読者を十分に納得させていた。中国で産業活動を論じるくだりでは、アメリカ式とヨーロッパ式を論じながら、日本のそれはアメリカ式ではないかというコメントは、そうかもしれないと思わせる内容であり、ここにも独自の視点を披瀝していた。特に面白かったのは、サミュエル・ハンチントンが主張しているアメリカの「目論見」を整理して記述し、その後で日本の「目論見」を整理して提示したもので、これは秀逸であった。

 企業戦士として活動する傍ら、常に内外の社会、と文化を見ながら深く思索した活動から出たオリジナル論評であり、この論文テーマは徹さんのライフワークになるだろう。

  押久保政彦さんは、弁理士の資格を持つだけに論述した内容は厚みがあり読み応えがあった。第1章、2章、3章と組み立てた章立てとその内容は、非常に整理されており、しかも制度上の問題、法的解釈、司法判断、国際的な動きなど時代背景を入れながら重厚に解説したのは大変結構だった。

 特に2章で語っている小売等役務商標制度の導入までの経過を読むと、改正前の制度上の問題がよく分かり、「役務」についての法的解釈の経緯もよく整理されて論述されていた。「シャディ事件」、「ESPRIT」事件という2つの判例を紹介しながら、改正までの経緯をまとめることで、時代とともに変革する知的財産権の現場を語っていた。

 後半は、小売等役務商標出願動向の調査を紹介しているが、主な業界別の動向は労力をかけた分析調査であり、業種ごとに小売等役務商標に対する取り組みに温度差があることを明快に見せてくれた。

 最後のまとめでは、この商標がどのように活用されるか課題をいくつかあげ、商品商標と小売等役務商標との関係、審査実務、総合的な小売サービスというカテゴリーで検討すべしと課題を提起しており、このテーマの研究はまだこれからの領域であることを示唆していた。
 押久保さんは、馬場研の級長として様々な雑用を差配し、研究室をまとめた点で多大の貢献をした。ここに心から感謝の念を示したい。

 馬場 錬成 

 


 

修了式の日、袴姿の小國聡美さんと記念写真



 2007年3月22日にMIP修了記念パーティ

 MIPの修了者が主催する記念パーティが、ホテルエドモンドで開催された。教師と院生が一堂に会したパーティは最初で最後になる。2年間の思い出を語り合い、教師たちは、修了者たちの門出を祝った。 アトラクションに福引があり、筆者のナンバーの下2桁は「86」。これは中国の国のコードである。国際電話を中国にする場合、頭には必ず86がつくので、中国と付き合いのある筆者には、馴染みのコードである。 これはひょっとすると・・・と思っていたらやはり1等賞を射止めた。いただいたものは、任天堂の「Wii」というゲーム装置。嬉しかったが、しかしこれを駆使して楽しむ時間はなさそうなので、当日の準備でご苦労した幹事の1人にプレゼントして大喜びされた。


第1期馬場研の記録

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 馬場研1期生の姜真臻(きょうしんしん)君と4月17日、新橋第一ホテルの高級レストランで夕食懇談をした。と言ってもしんしんのご招待だった。教え子にご馳走になる栄誉に浴して大変嬉しく思った。

 しんしんが部長を先導して筆者のところに来訪したのは、今月上旬である。ダイキン工業で講演を依頼したいという大変、重要な要請であり、引き受けたもののしんしんに恥をかかせないためにも気合を入れて資料を作成した。

 資料作成の過程では、荒井寿光・元特許庁長官からの提供を受けた資料もあって、それなりに満足する講演資料になったと自負していた。しんしんの評価も悪くなかったのでほっとした。

 しんしんと会話をしていても、まともな会話ができるようになった成長ぶりが頼もしく、仕事に打ち込んでいる様子が伝わってきた。思えば学生時代の会話と言えば、親と子の会話である。それが1期生が巣立ってから6年にもなる。成長しないわけがない。

 しんしんはいま、ダイキン工業法務・コンプライアンス・知財センター・知的財産グループで活躍している。研究開発の成果を権利化していく過程では大変な苦労があるようで、「さまざまな調整が大変です」と語っているように、社内外への配慮に苦慮することもあるようだ。ことをうまく運び仕事を成し遂げて普通という厳しい環境の中で、日々成長を続けている様子が伝わってきた。

 筆者が死ぬ前に中国支社長になれという檄を飛ばしたが、これは4期生でユニ・チャームの知財で活躍する史可君への檄と同じである。何はともあれ、こうして馬場研OBが社会人として活動する様子は何物にも代えがたい楽しみと満足がある。

 

第1期馬場研の記録

第1期・2006年度馬場研

 

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  写真は恒例となった特許ステーキのセミナーで 

 


修士論文テーマ

阿部 道太 

「植物新品種の育成者権保護・活用の戦略に関する研究」

 姜 真臻 

 「多国籍企業のR&D活動から見た中国の科学技術政策戦略-上海張江ハイテクパークのケースについてー」

 杉山 忠裕 

「中国における模倣品対策から見た中国での市場戦略に関する研究」

 丹波 真也

 「先使用権制度を活用した知財戦略の有効性に関する研究」

 土屋 輝之 

「サプライヤー特有の開発成果保護に関する問題点並びに連携リスク回避のためのADR活用の可能性に関する考察-自動車業界に見る連携のリスクを中心に-」

 柳 勝人

「オープン・イノベーションにおけるデスバレーの克服」


 第1期馬場研の活動 

  友情と感激で支えあった7人の同志たちの和

 馬場研の活動は、わずか1年間であり振り返ってみるとあっけないほどに短いものであった。前期の活動は、諸君の修論テーマの模索に費やされ、プロ研で集合してもあまり熱の入った論議は見られなかった。

 夏休み明けの後期になってから、ようやく諸君の考えに灯がともるようになった。しかしその時期になっても、なお迷いから脱出できずに苦悩の色を濃くしているように見えた。丹波真也さんは、いったん決めたテーマを変えてきたし、阿部道太さんもそうである。柳勝人君も取り組むテーマが最後まで私にはよく見えなかったし、姜真臻君も中国をテーマにすることは分かっていたが、具体的な内容を組み立てたのは、随分後になってからであった。

 最初からテーマが動かなかったのは、土屋輝之さんと杉山忠弘君の二人であったように思う。 指導する立場で不十分な点は多々あったと反省することしきりである。その分、諸君には至らぬ教師であり申し訳なかったと思う。しかしこのような教師をカバーして、諸君の和の中に余りある行動があったことを嬉しく思う。姜君、杉山君、柳君の就職活動では、社会人院生諸君が親身になって相談に乗り、模擬面接をしてくれたことだ。

 これには平塚三好先生がビデオ撮影で協力するなど多くの支援行動があって、就職活動にはまたとない援軍であった。プロ研後の食事会でも、さまざまなテーマで話題が盛り上がり、楽しい時間を共有できたことは、諸君が若き日の友情と感激にひたった素晴らしい時間であった。あの特許ステーキを編み出したレストラン「カタヤマ」で食べたステーキを忘れないで欲しい。ステーキの味ではなく、同志を一つの和につないだあの時間である。

  馬場研は、修論作成のために一時的に集まった同志の和ではなく、諸君がこれから社会活動をする上でも折りに触れて情報を交換し、時には助け合い友情を確かめ合う和として未来永劫続けて欲しい。そのまとめ役には、級長を務めた丹波真也さんを指名する。21世紀は中国の時代である。姜真臻君が我々の和の中にいることは幸運であった。ビジネスで最も関わりがある隣国をよく知る同志と今後も付き合い、いつまでも共有した時間を思い出して欲しい。

 それが馬場研で学んだ同志7人に送る私のメッセージである。

2007年3月20日 馬場 錬成

 


 馬場研第1期生論文講評

努力を結実させた若き日のエネルギー

 2005年4月1日に日本で初めて開講した東京理科大学知財専門職大学院(MIP)馬場研究室の7人の諸君は、プロジェクト研究ワーキングペーパー(修士論文)の完成に最後まで取り組み、ここにその結実の証として記念誌を編集することができた。これはひとえに、諸君の努力の結晶であり、指導教員として何ものにも代えがたい喜びである。この力作を一編ずつ読み終えてみると、現代の知的財産の世界に存在する課題がまさに凝縮されていることに気がつく。

  阿部道太さんは、植物新品種の育成者権という知的財産権としてはなじみの薄いテーマを取り上げ、その権利の保護と活用について多角的な取材から多くの課題を抜き出して提起した。阿部さんは、10月も過ぎたころに突然、それまで模索していた修論のテーマを全面的に変えるという荒業を試みた。その直後から旺盛な取材・行動力で企業や行政の関係者に次々と会見して、多くの有意義な証言を入手し、育成者権を活用するビジネスの現状と展望について考察した。

 お花屋さんに並んでいる色とりどりのバラやキクの花々たちは、華やかな色と香りを放ってなお人々を楽しませているが、その花たちの裏には知的財産権を絡めた熾烈な国際ビジネスの現場が横たわっていることを知る人はほとんどいない。会見した内容を一問一答形式で整理するなど、その現状をあからさまに見せてくれたという点でもこの修論は大変ユニークであり、粘り強く最後まで修論の吟味に費やした努力を称えたい。

  姜真臻君は、中国人である特長を生かし、急速に進展している中国の科学技術の現場をテーマに選んだことは大変適切であった。修論に取り上げた上海の張江ハイテクパークは、北京の中関村サイエンスパークと並ぶ現代中国を代表する言わばハイテク特区になっている。姜君は、中国語で公表されている多くの資料を読み取り、その中から開発特区に潜む課題を取り出しながら、多国籍企業と中国企業が入り乱れて競合しながら、中国の研究者と企業間に相乗効果が生まれ熱気に包まれているハイテク現場を検証した。

 中国は人材の宝庫である。近年、外国で教育を受け研究で実績をあげた中国の若き英才たちが続々と帰国し、祖国の発展に貢献している。張江ハイテクパークはその象徴であり、姜君自身もまた中国の若きエリート群に連なる人材にならなければならない。とまれ日本語と異国の生活というハンデを克服して修論をまとめ上げた努力を称え、今後の飛躍を期待したい。

  杉山忠弘君は、中国の模倣品の現状を調べ、その被害にあっている日本企業の対応策に焦点を当てた。前半では、中国で広がっている模倣品の現状分析と外国へ輸出されていく模倣品を阻止しようとしている国内規制についてもよく調べていた。そして単に模倣品の対策を提起するのではなく、消費者に訴えて製品価値を高めていくためのブランド戦略まで考察を広げたのは、なかなかいい視点であった。

 このように杉山君の修論で特筆したいのは、日本と外国企業が中国で展開しているブランド戦略を検証している点である。中国は全体的に見れば間違いなく途上国であるが、しかしその内部を様々な角度で検証すると消費者行動は先進国の局面とよく似ているものを内在しており、マーケティングにも価格設定にもアフターサービスにも中国で展開するべき多くの要因を抱えており、それだからこそ適切な戦略が求められている。断片的な実例を多数織り交ぜながら、企業のブランド戦略について読者の想念を触発させようとしている点で面白い手法が見られた。

  丹波真也さんは、弁理士という専門資格者の持つ高度な知識を駆使して、先使用権のあり方を法理論と実践面から詳細に検証して論述した点で秀逸であった。特許庁で推奨している先使用権の活用は、特許出願数を抑えるための一つの方法としてあげているという点で「異端の制度」推奨であり、間違った特許文化を醸成しかねない。その危惧を明快に露出させているという点でも、この論文は重要な問題提起になっている。

 丹波さんは、特許権と先使用権を活用する場合のメリット・デメリットを比較分析したり、さらに共同開発する際のメリット、職務発明に関するメリットなど運用上の多角的な場面を想定して詳細に論述した点でも、先使用権に関する論文としてはきわめて価値ある内容になっている。今後、法律学者らが先使用権を論じる際には、必須の文献として引用されるよう吟味する必要はあるが、できるだけ早く学術誌などで発表することを具体的に進めたい。

  土屋輝之さんは、自身の職場と仕事を通じた体験から発した問題提起を論文としてまとめたものであり、専門職大学院の修論にまことにふさわしいテーマと内容であった。自動車業界の研究開発という技術世界で展開されているサプライヤーと親会社との関係を知的財産の切り口から取り上げたものであり、日本社会特有の親子企業間の連携開発の中で日常的に発生している知財をめぐるせめぎ合いの問題でもある。

 日本社会に深く染み渡っている馴れ合いに似た親子企業間のあいまいな取り決めと、日本ではまだ成熟していない契約書の履行内容をめぐる実例などをあげている。そこには一見理不尽な事例であっても慣行的に問題が顕在化してこないもの、親会社とサプライヤーの微妙な力関係の中で自然と収束していく業界の体質などを浮かび上がらせており、説得力ある現状分析になっている。 土屋さんは、最後に親子企業間の連携に潜むリスクの回避方法としてADRの活用を提言しており、独自の考察で導入した解決策として高く評価したい。

  柳勝人君は、イノベーションを起こす過程で陥るデスバレーを乗り越えていく方法論について考察を試みたものであり、社外、外部の研究開発の成果を取り入れていく企業活動を推奨しようとした野心的な修論であり評価したい。 柳君は、1990年代から始まった先進工業国での技術成熟期の諸現象をまず検証した。技術の寿命が短縮され、同じ時期に同じテーマの研究開発が始まり、その成果まで似てくる現象は、企業活動の効率の低下としてとらえた。

 これを乗り越える有力な方法として外部からの技術成果の導入を提言し、それをオープン・イノベーションと定義づけて内外企業の実例をあげた論述内容は、面白く読ませるものであった。 オープン・イノベーションを成功させるための提言を展開しているが、特に日本企業への内容は具体性のある踏み込んだものを示していた。また柳君の文章力はこの2年間で着実に上達し、修論の書きぶりも簡潔で分かりやすい表現を随所にちりばめ、なかなかの出来栄えであった。

 


 馬場研第1期生の阿部道太さんがレポート作成2007年04月11日 

JETRO(日本貿易振興機構)の農水産課の阿部道太さんが植物の新品種に関する知的財産権の現状と課題をまとめたレポート「植物新品種の育成者権の活用と保護の戦略」を作成し、JETROの農水産情報研究会に加入している約500社に配布した。

 このレポートでは、育成者権とは何かから始まり、種苗法と品種登録の実際、育成者権の活用戦略と侵害対策などについて現状を取材した内容と解説、将来展望など多岐にわたってまとめている。 このテーマについてこれまで参考資料や報告書がなかっただけに大変、参考になる内容だ。特に花の国際的な流通機構や侵害の実態などを取材した内容は、ビジネスの現場の空気も伝えていてためになる。 お問い合わせは、JETRO農水産調査課まで。  電話03-3582-5186 Mail:[email protected]   

 


馬場研究室掲示板


 馬場研究室の掲示板がスタートしました

 馬場研究室に所属する院生だけが利用する掲示板を設定しました。

 1期生の姜真臻(キョウ・シンシン)君がセットしてくれたものです。

 利用方法

 ブログの馬場研究室開設から→馬場研究室掲示板に入ってください。

 入る時は共通のPWが必要です。

 次の画面で、各自の情報などを書き、「書き込む」をクリックしてください。プロフィールはブランクでもOKです。

 次の画面が出たら、下のほうに見える画像・動画を投稿せずに完了をクリックしてください。画面が出ると、自分の書いた文章が確認できます。

 馬場研の諸君の連絡、情報交換など皆さんで自由に使用してください。不特定多数の人が使用するような掲示板にすると、ルール違反のケースが出てくる可能性は高いので、MIP馬場研だけに限定しました。

 ただし、MIPなどの友人などで利用したいという人がいれば、歓迎しますので皆さんの責任内で加わるように裁量してください。

 以上です。


第9回学校給食甲子園大会の優勝は秋田県代表に

 

 第9回全国学校給食甲子園大会を振り返る

 今年の大会も感動の中で幕を閉じた。

 優勝したのは、秋田県藤里町学校給食センターの津谷早苗栄養教諭、桂田尚子調理員だった。秋田こまちのみそ付けたんぽ、枝豆のかわりがんも、白神舞茸のうどん、とんぶりあえという献立は、審査員の間で絶賛された。

 準優勝に輝いたのは、東京都文京区立青柳小学校の松丸奨・学校栄養職員、石川詢華調理員チームだった。2連覇がかかっていた青柳小学校のチームだったが、僅差で秋田チームにかわされた。まさに紙一重の争いだった。

 特別賞や優秀賞、入賞、牛乳・乳製品部門賞など多数の賞が授与されたが、決勝戦に進出してきた12代表は、どのチームも素晴らしい献立、給食内容であり、甲乙つけがたい出来栄えだった。しかし、コンテストである以上、採点による順位付けが出るのはやむを得ないが、つらい審査でもあった。

 学校給食甲子園は、2006年から始まった。2005年から栄養教諭制度、食育施策が始まり、その時期に合わせて学校給食甲子園が始まった。当時、株式会社カイトの社長をしていた土屋達彦さんに相談し、2人で頻繁に打ち合わせをしながら実現の準備を重ねた。 土屋さんは、昨年、がんで亡くなったが、学校給食甲子園の創設で大きな功績があった。

 


荒井寿光、馬場錬成「知財立国が危ない」(日本経済新聞出版社)

                                       

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  荒井寿光氏との共著とはいえ、自分の著書をブログで取り上げるのは、いささか気が引ける。だからしばらくは迷っていたが、思い切って掲載することにした。

したがって論評はできないので、著書として世に出した動機を語った「まえがき」だけを示すにとどめたい。

 まえがき

  知 的財産が重要だという言葉が掛け声のように叫ばれてから久しい。1990年代後半から2000年代前半にかけて、日本が官民あげて取り組んだ「知財立国運 動」は世界のモデルとまで言われた。それから10年余を経てプロパテント(特許重視)の先導役として期待された知財高裁の役割、産学連携の活性化や起業家 の輩出、特許行政の進展と知財戦略を柱とした企業経営などはどのように変革しただろうか。

  こ の本はそれらの現状を検証し、日本の知財現場に横たわる課題を整理して洗い出し、その解決策を提起するために荒井寿光と馬場錬成が対談形式でまとめたもの である。著者らが精査したところ、日本の知財戦略はこの10年停滞しており、かつての知財立国への取り組みは掛け声倒れに陥っているとの結論になった。

  日本の知財戦略に何も進展がなかったというわけではなく、世界の潮流が日本の進展よりもはるかに速く進行しているため、相対的に日本が立ち遅れているというのが実感であった。

  荒井は1996年に特許庁長官、2001年8月に民間団体の知的財産国家戦略フォーラム代表、2003年3月から内閣官房知的財産戦略推進事務局長などを歴任して、日本の第一次知財改革を先導した。現在は知財評論家の肩書を使って評論活動を行っている。

  馬場は2000年11月まで読売新聞論説委員として知的財産、産業技術、研究開発などのテーマについて取材・論評し、その後東京理科大学知財専門職大学院教授となり、中国の模倣品問題や日中の知財動向について現場取材を続けてきた。

  二 人は他の仲間とともに知的財産国家戦略フォーラムでまとめた「知財改革100の提言」を2002年1月に小泉内閣に提出し、第一次知財改革のきっかけを 作った。その後も、特定非営利活動法人21世紀構想研究会の活動を通じて、知的財産の諸問題を検証して政策提言する活動に取り組んでいる。

  この本で語るテーマは目次に示した通りだが、冒頭から順次読み進むようにはしないで、読者が関心あるテーマを選んで読むように編集したものである。したがってどこから読み始めてもいい。

  知 的財産の問題は、専門的で多岐にわたる分野であるため、論議してもときとして迷路に入り込み、容易に理解できないことがしばしばである。しかしこの本は、 専門的な論議は極力避けて、大きな課題のありかとその解決策を大づかみ示そうと試みたものである。したがって専門的な知識を要求する読者には、やや物足り ないものが残るだろう。

  し かし著者は、政治家や行政官、企業経営者や一般の企業人、大学人と研究者など多くの人々に知財の現状を大づかみに認識してもらうことが、今の日本にとって 重要であると考えた。そのためには啓発書が必要であり、このような対談形式で語り合ってわかりやすく示すことで目的を達成できるのではないかと考えた。

  専門的な見解や論述は他の専門書にゆだねることにし、とりあえず知的財産の現場の課題と解決策を示唆する啓発書として世に問うことにした。

 2015年1月

荒井寿光 馬場錬成


略 歴

 1940年 東京都生まれ。東京理科大学理学部卒業後、読売新聞社入社、編集局社会部、科学部、解説部を経て論説委員(科学技術政策、産業技術、知的財産権、研究・開発間題などを担当)2000年11月読売新聞社退職 


〔現在の主な活動〕

特定非営利活動法人・21世紀構想研究会・理事長

科学技術振興機構(JST)中国総合研究交流センター・上席フェロー 

全国学校給食甲子園大会実行副委員長 http://www.kyusyoku-kosien.net/

読売新聞社社友

研究技術計画学会評議員

日本腸内微生物学会理事・評議員

都立新宿山吹高等学校評議委員 


 

[これまでの主な経歴]

東京理科大学知財専門職大学院教授

早稲田大学大学院客員教授

科学技術振興機構(JST)中国総合研究交流センター長

文部科学省科学技政策研究所客員研究官

文部科学省・産学官連携戦略展開事業推進委員会委員

文部科学省・学佼給食における衛生管理に関する調査研究協力者会議委員

文部科学省・大学等産学連携自立化促進プログラム推進委員会委員

独立行政法人日本スポーツ振興センター・学校における食の安全に関する実態調査委員会委員

 


 

[受賞・表彰]

2007年1月6日 「東京理科大学の建学の精神にのっとり科学の普及、発展に寄与した」として東京理科大学「坊っちゃん賞」 を受賞。

2009年11月26日 「学校給食の充実に尽力した功績」として文部科学大臣表彰

2011年10月22日 「臓器移植普及啓発の功労者」として厚生労働大臣表彰


自民党の知財戦略調査会で知財改革について陳述

自民党知財戦略調査会で、これからの知財戦略について陳述しました。

 荒井寿光氏と筆者は、4月1日午前8時から、自民党知的財産戦略調査会に招かれ「これからの知財戦略について」のタイトルで第二次知財改革の必要性を訴えました。

 冒頭、荒井氏が用意してきたテキストをもとに営業秘密保護制度の活用、特許裁判の改革、地方創生のための中小企業の知財武装を支援、地方創生のための大学の知財戦略、海外ニセモノ対策の進化、国内知財戦略から地球知財戦略へなど6テーマについて解説と政策提言を行いました。

 関連で意見を求められた筆者は、「制度改革が遅々として進まないのは日本の伝統。これを打破するのは政治の力しかない。知財改革では、経済界のリーダー、社会的地位の高い年配の人、大学人からの意見は決して聞かないでほしい。聞いても国際性に欠け、自社や業界のことしか考えていない。国益、時代の要請という視点に欠けている」との見解を述べ、政治家の主導で知財改革をリードしてほしいと訴えました。

  また、国際標準化の重要性をあげてその対応策について意見を求められたので、「第一義的に国際標準化は、企業・産業界が取り組むべきテーマである。経団連や経済界は、職務発明の改正などに血道をあげているのではなく、国際標準化に取り組むことこそ重要である」と述べ、ここでも時代の要請、国際性に欠けている産業界のリーダーを批判しました。

自民党知財戦略調査会