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2015年5 月

長谷川博「オキノタユウの島で 無人島滞在アホウドリ調査日誌」(偕成社)

 

オキノタユウの島で

 長谷川博先生(東邦大学名誉教授)が、生涯をかけて取り組んでいるオキノタユウ保護と生態調査の日誌である。日本ではアホウドリと呼んでいるが、長谷川先生は、この呼び名は不遜ないいかただからやめようと提唱、山口県長門地方で呼んでいるオキノタユウがふさわしいとして、もうだいぶ前からこの呼称を提起している。

 確かに、陸の上では歩くのももどかしく、江戸時代から明治時代には鳥島を埋め尽くしていた数百万羽のオキノタユウが、羽毛や肉を取るために撲殺されていた。人間にほとんど取り尽くされて戦後は絶滅宣言までなった種であった。

 長谷川先生は1973年5月7日、京都大学大学院生時代にイギリス人の鳥類学者のランス・ティッケル博士と出会ったことから始まる。イギリス海軍の支援を受けて、博士が鳥島にオキノタユウの調査に出向いたことなどの様子を詳細に聞いてびっくりする。鳥島は1965年11月16日に気象観測所が閉鎖されてから無人島だった。

 ティッケル博士は、「鳥島は日本の島であり、そこで絶滅種に瀕しているオキノタユウの保護は、日本が責任を負っている」と長谷川博士にメッセージを寄せるが、この一言で長谷川博士は鳥島のオキノタユウの調査と保護に取り組む決心をする。

 この本は鳥島でたった一人でオキノタユウの生態を調査し、孵化して育った幼鳥に足環をつける活動を克明に記録した内容で埋め尽くされている。鳥島に滞在した1か月間を日誌風に書いているものではあるが、読み始めるとやめられない。そこには鳥島の自然、動植物の様子とオキノタユウの生態が書かれているだけでなく、長谷川先生のオキノタユウに対する愛情が行間に埋め尽くされている。

 鳥島に渡った当時、ヒナと成鳥合わせて71羽だったものが、すでに観測数が1000羽を超えるまでに回復している。筆者は、長谷川先生の調査の初期のころから読売新聞にその活動を掲載したり、調査の支援をしてきた。たいした支援にはならなかったが、その活動には敬意をもって見守ってきた。

 この本は、鳥類のフィールドワークをする研究者にとっては、バイブルのような資料になるだろう。そして一般の読者にとっても、絶滅種を保護しようと立ち上がった研究者の行動に共鳴し、ここまで続けてきた研究活動に感動せずにいられない内容になっているだろう。

 読み進むにしたがって、長谷川先生と一緒に鳥島で生活しているような錯覚に陥ったが、鳥島の自然の厳しさと生物たちの生態を肌で感じるような場面も随所に書かれており、自然観察書としても一級の資料である。

 

 


日本の首相に注文を付けた外国人の声明 恥じ入るのは日本国民だ

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写真は2015年5月8日付け日本経済新聞の報道

  アメリカなどで活動する日本研究者ら187人が、安倍(違憲状態)首相に対し「偏見のない過去の清算」を迫る声明を発表した。内外のメディアが一斉に報道した。

  一国の首相に対し、歴史認識で注文を付けるというのは、普通はあり得ない話である。それが堂々と行われたことで最もショックを受けたのは、安倍氏ではなく我々国民である。なんと、情けない国とその政治トップであることか。

 

 戦後70年も経って、その終戦記念日を節目に首相が談話を発表するとしていることを受け、先手を打って「歴史を歪曲するような談話はダメだよ」という事前ダメ出しを打って出てきたのである。もし、そのようなことをやれば、中国、韓国の反発だけでなく世界が日本から離れていくことを憂慮した知日家、親日家のメッセージでもある。

 なぜこのような情けないことになったのか。第一に安倍氏のこれまでの言動である。戦後レジュームからの脱却とかを主張し、日本がアジアで行ってきた過去の歴史を見直すかのような言動がある。そして憲法を「はっきり言ってみっともない憲法」とまで暴言を吐いている。

 このような軽薄な首相は、歴代の中でも突出している。太平洋戦争までに日本がアジアの各地で行った侵略行為、残忍行為は疑いようにない事実である。南京大虐殺でも殺された人数の真実ではない。そこに日本軍が何を目的に侵略していったのかが問題なのである。焦点をすり替えてはならない。

 中国本土に侵略したのは、領土ほしさと資源ほしさという目的以外合理的な理由は見つからない。当時の日本はABCD包囲網の理不尽さに対抗したという言い分もあるが、そのような包囲網を受けた日本の当時の指導者の国際感覚の欠如と浅薄な政治手法にむしろ原因があったというべきではないか。

 

 資源の乏しい日本が進歩するには、いつの時代にあっても知恵を絞り汗を流す施策以外あり得ない。外国に武力を行使して資源や活路を求めるのは間違っている。その中でも最も愚かな選択と決断は、太平洋戦争の開戦である。

 日米の国力を比較すれば、米国の数10分の1程度しかなかった弱小国の日本が、「神風」を頼りにして戦争を起こし、しかも国全体が焦土と化すまで戦争を続けたことである。 

 そのような指導者を戴いた過去は、日本人として情けないだけでなく世界に対して恥ずかしい思いだ。今回の国際的な知名人、学者らからの安倍氏宛の声明は、それに匹敵するくらい恥ずかしいものだ。それもこれも日本は、過去の戦争の歴史を自らの手で総括をしてこなかったことによるものだろう。

 戦争の責任は誰にあったのか。それを日本人として総括し、反省の総括を世界に発することができなければ、いつまでたっても「ドイツでは・・・」などと他国の事例を引き合いに出すだけで、結局は何も変わらない国で終わるだろう。

  このテーマについては、随時、発信していきたいと思う。

 


佐野陽子編「真夏の空は青かった」(サノックス)

真夏の空は青かった

 空襲警報が鳴ると、大人たちに手を引かれ、隣家との間に掘った防空壕に潜り込んだ。防空壕と言っても穴を掘って上に屋根らしい板をわたし土をかけただけだから、実際には何の役にも立たなかっただろう。トタン板を棒でたたくような連続音が響いていた。あとで分かったのだが、これが米軍戦闘機からの機銃掃射だった。

 筆者の終戦当時の記憶はわずかその程度だが、当時、10歳から10代最後の年代になっていた人たちが、記憶を持ち寄って編んだのがこの本である。学童疎開の日々、空襲に耐えた日々、飢えに苦しんだ日々、目の前で展開された地獄絵、軍国少年だった幼少期の思い出など、多数の戦時中の記録で埋まっている。

 このような体験をした多くの人がいなくなった。わずかに残された人々が戦争を知らずに歴史を修正しようとするような政治家たちも含め、誤ったかじ取りをしてほしくないとの思いをこめて作った本であろう。どの部分も平易な文体で綴ってあり読みやすく、事実の迫力で読者の心を打つ。

 憲法は占領軍に押し付けられたものであり、日本人の手で作り直す必要があるという主張を声高に唱え、日本国憲法をまるで悪しざまに言う人々がいる。日本と日本人は、戦後営々と平和憲法を尊重し、戦後の復興に取り組んだ民族である。それがあったからこそ、日本は多くの国々から支持され信頼されてきた。それを今になって手のひらを返すように自主憲法とか自主軍隊の保持などを憲法で明示しようとする勢力が日増しに強くなっている。これに対し筆者は、断固として抵抗する。

 そうした思いの一端が、この本の中で連綿と書かれている。戦後70年を迎えて、社会がざわついている。事を構えているのは政治家である。たまさか圧倒的多数を保持した政党が、70数年前に国の運命を変えたあの同じ道を歩むことがあってはならない。

 この本を作った人々に敬意を表し、新たな思いに浸っている。

 

 


驚異的に進化する中国社会

 家族付き合いの中国人の友人 

 今から15年前に知り合った中国北京の旅行業者の邢鋼さんとは、親戚付き合いである。北京に行けば私の大好きな水餃子のお店でゆっくりと懇談し、東京へ来れば居酒屋へ繰り出して楽しい懇談になる。

 15年前、北京に行ったときは、道路建設、ビル建設が始まったばかりであり、街中が混とんとしていた。世界のブランド品のデッドコピーが、これ見よがしに店頭に積みあげられ、観光客はニセモノ買いを楽しんでいた。筆者もニセモノツアーなるものを企画して、30人ばかり引き連れて北京を歩き回った。

 混とんとしていた中国は、あっという間に追いついてきた。進展したものでもっとも顕著なのはIT関連のツールと手段の使用である。インターネットモールは、世界トップの規模に成長し、携帯、スマホ、メールが驚くほど進化した。

 中国版ラインの威力を実感

 本日、邢鋼さんと懇談したが、中国のラインと言われているWeChatアプリを教えてもらい、すぐに交信した。ラインとまったく同じ機能をもったインターネット交信ツールである。アプリをダウンロードしたらすぐに、東京理科大学知財専門職大学院当時の教え子で中国と台湾、日本にいる中国人、台湾人らから多数のメールが来た。

 これには本当に驚いた。邢鋼さんの解説によると、中国人の多くがこのアプリで日常的に交信しているそうで、中国に行ったらこれで不自由なく情報交換できるという。中国でラインはつながらないが、その代わりWeChatはつながる。中国の国策に違いないが、その戦略には舌を巻く。

 このようにIT関連技術の普及は、中国社会をあっという間に先進国を追跡し、追いつき、追い越そうとしている。中国社会が成熟し、生活レベルが上がっていくことは、日本にとってもいいことである。

 

 1週間で一人平均100万円の爆買い

 邢鋼さんは今回、30人ほどの中国人ツアー客を引き連れて来日し、日本の観光を先導しているのだが、今年中に中国から300万人を超える観光客が来日するという。邢鋼さんが引き連れている中国人観光客はかなりの裕福層だが、1週間の滞在中に一人平均100万円を日本で使っているという。驚きである。

 経済的に成功した裕福層は、中国社会の進化の側面になっている。科学技術も大学の産学連携も知的財産制度も中国はあっという間に追いついてきた。筆者は15年前から60回ほど中国に渡航して中国社会の変転ぶりを見てきたが、過去を振り返って今を見ても驚きの一語である。

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 写真は、邢鋼さんからのお土産である。このようなお菓子類も、甘さ控えめになり日本の味に近づいてきている。中国の空港で売っている高くてまずいお菓子類、お土産類は、間もなく売れなくなるだろう。空港の免税店は利権とワイロの巣窟と聞いたことがある。日本人観光客が最大のカモとも聞いている。だから筆者は、空港では買ったことがない。

 

 日本の実態を知らない中国人の若い世代

 もう一つ、中国側の課題は、若い世代が日本を理解していないと邢鋼さんは嘆いていた。中国で垂れ流されている反日ドラマを信じ込んだ若い世代は、日本嫌いになっている。しかし来日して様々な体験をすると日本を見直し、たちまち日本ファンになっていくという。

 これは日中間の政治的な摩擦が生み出しているひずみだろう。それを超えていくのは民間交流である。そんなことを邢鋼さんと話し合い有意義な飲み会だった。