北京で開いたミニ馬場研に想う
2016/11/07
2016年10月31日から11月4日まで、JST中国総合研究交流センターが企画した中国知財戦略研究会(荒井寿光会長)の一行5人と現地参加のスタッフが、急進的に改革する中国の知財現場を視察した。
この視察団に自費で参加した馬場研3期生で弁理士の宮川幸子さん、ジェトロ北京駐在の同1期生の阿部道太さんと3人で、ミニ馬場研を開催する機会があった。
ホテルの朝食時の約1時間の会合だったが、あれから10年を経て社会活動をするかつての同志に会えて幸せなひと時だった。この視察団の団長の荒井さん(左端)、阿部さん(右端)と共に撮影した写真がこれである。
修士論文を土壇場で書き直した阿部さん
久しぶりに再会した阿部さんは、ジェトロ北京の総務部長として重要な任務を果たしており、一回り大きくたくましくなっていた。
帰国する機中の中で、東京理科大学知財専門職大学院(MIP)で研鑽した日々を思い出していた。
筆者は教員という肩書だったが、院生諸君と共に研鑽する同志という思いで日々を過ごしていた。修士論文作成の指導という役割があったが、気持ちとしては共に学ぶという目線だった。一緒に取材に同行して苦労した場面を思い出す。
阿部さんの修論のテーマは「植物新品種の育成者権保護と活用の戦略に関する研究」であった。育成者権というテーマは、10年前の知財の世界ではまだなじみがない珍しいテーマだった。
しかも阿部さんは、突然、それまでの修論テーマを変えて、10月末になってこのテーマにしたものだが、短時間の中で精力的に取材し、文献を精査して仕上げた。結果的にこれがよかったのだろう。非常に内容のある論文に仕上がった。
このとき、1期生に中国人留学生の姜真臻(きょう・しんしん)君がいた。いまダイキン工業の知財スタッフとして活躍している。修了する1期生の諸君に向かって筆者が書いたはなむけの言葉は、中国人留学生の姜君を意識しながら「21世紀は中国の時代である。ビジネスで最も関わりがある隣国をよく知る同士と今後も付き合い、いつまでも共有した時間を思い出して欲しい」と書いている。
特許ステーキ「カタヤマ」で。右端に片山さんも入ってくれた。(2007年3月)
中国の大学とMIPを掛け持ちした宮川さん
今回の視察団に自費で参加したのが宮川幸子さんだ。MIPに進学してきた当時、環境関係の企業で活動する社会人であり同時に中国の大学にも籍を置いて学習しており、日中をビジネスと学業で往復する多忙な日々であった。
その合間を縫って知財学会では「中小企業活性化のための日中国際産学連携に関するシステムの提案」のタイトルで堂々と発表した。
2008年度の馬場研論文集を開いてみると、冒頭の言葉として筆者は「3期生のメンバー7人は、MIPの中でも精鋭の集まりであり、修士論文のテーマ設定から調査研究・分析・執筆活動まで共通認識に立った研究の雰囲気を終始保持し、論文執筆に取り組むにふさわしい研究室であった」と書いている。
宮川さんの修士論文は、「中国の大学生における模倣品に対する意識と行動」という大胆なテーマであった。大連、上海、北京、広州という4都市で約450人の大学生、大学院生を対象に模倣品の意識を聞き取るという調査は、世論調査が禁止されている中国でも初めてだったろう。もちろん日本でも初めての報告であり、オリジナルな調査として他の研究者の学術論文に引用されるほどだった。
宮川さんの意欲的な姿勢は修了後も持ち続け、弁理士試験に挑戦して見事に合格した俊英であった。今回の中国知財現場の取材でも、得意の中国語を駆使して積極的に交流を行い、独自の人脈を築いていった。
馬場研は、合計30人を輩出して終了したが、どの修了生も優れていた。いま社会人としてそれぞれの分野で中堅幹部になろうとしている。教員は年々老いていくが共に研鑽した同志たちは、日々輝きを増していく。その秘かな喜びをどうしても書きたいと思ってこれを書いた。