東京理科大学関係の旧バージョン
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科学文化学

科学文化概論の授業を行う                       

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 今年度の科学文化概論は、北原和夫教授が担当して進めている。筆者は、5月30日の授業の講義を担当して「科学の進歩によってもたらされた新たな問題」として昨年と同じテーマで講義を行った。

 今年も40人以上の受講生が来ているが、受講生の眼差しは昨年同様、非常に真剣身が感じられた。筆者は、脳死と臓器移植の現場、生殖医療技術の現場を題 材にして、科学が進歩したため医療現場では恩恵に浴する人たちが出る一方で、医療制度、法的整備、社会倫理などが置き去りにされている現状を考える授業と した。

 冒頭に世界の国々の臓器移植数と日本のそれとの一覧表を配布し、思うことを書いてもらった。日本が極端に実施数が小さいことに受講生はみな一様に驚いたようであったが、なぜそのような状況になっているのか一歩踏み込んで考える受講生は少なかったようだ。

 しかし日本が少ない理由を討論する場面になると、様々な思いを語る受講生が出てくる。この授業のテーマは考えることである。結果だけを見て単に日本の臓器移植数が少ないことを認識するのではなく、認識と同時に、そのよって来る理由について考えることである。

 生殖医療技術についても、体外受精の技術が確立されることによって、様々な生殖医療が広がってきた。もともとは不妊治療から始まった医療であるが、それがビジネス化したり男女産み分けの道具になってきた国もある。

 そのように科学技術の進歩によって社会規範、倫理、法律などの整備をしなければならないのに、放置されてきている状況があるのではないかとする授業となった。このテーマの論議はまだ尽きないので、これからも大いに論議の輪広げていきたい。                                        

来年度の科学文化概論の方針を確認

                             
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 今年度から日本で初めて始まった「科学文化概論」の授業を2011年度も開講することに決まった。正式には専攻科で決めることだが、2011年度から本学に招聘される北原和夫国際基督教大学教授と筆者との連携で開講する。主査は、北原教授になる。

 この授業は、将来、学校教員を目指す院生諸君に、科学と社会の関係や科学に対する広い視点を涵養するための授業である。毎回、内外の有識者やジャーナリストを招聘してのオムニバス授業になっているが、受講者の真摯な態度にはびっくりした。

 それだけ講師の皆さんの講義内容が素晴らしいものだったということだろう。今年も原則的に昨年実施したオムニバス方式を踏襲することになっており、1月14日にその調整と今後の予定についてミーティングを行った。

 来年度も前期の授業になるが、今年以上に面白くためになる授業を目指したい。

  科学文化概論最終回・第14回目の講義

                               
                 

第14回「科学文化概論」(7月19日)講義の報告
担当教諭 塚本 桓世先生(東京理科大学理事長、教授)
講義のテーマ:日本の科学文化

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 塚本先生はまず「日頃から科学と文化につい考えてきた」と話しかけ、「講義の後半になぜこのような科目ができたか話をし、最後に教師になる諸君への希望 を話したい」と切り出した。そして4大文明による世界の文明史を紹介し、文明と文化の言葉の定義について考えることから話し始めた。

 欧米では科学と技術は明確に分けて考えられているが、日本では「科学技術」という1つの言葉で使われている。明治維新以降に入ってきた科学だが、 なぜ科学と言わずして科学技術と言うようになったのか。明治維新以降、西洋文化として持ち込まれた科学であったため科学という概念はなく、科学と技術が いっしょになって言われるようになったのではないか。

 政策についても文部科学省は科学という視点で施策を考えているようだが、経産省は技術という観点で施策を考えている。しかし政策として峻別するほどの区分けはなく、渾然一体となっているように感じる。

 科学は本来、学問としてあったものであり、代表的な例がソルベー会議(1911年からエルネスト・ソルベーが主宰して開いた会議。10数人から20人程度の会議であり、物理学の発展に多大の貢献をした)である。
 しかし科学は、時代と共に変革してきた。この科目の授業でもNHKの村松秀先生が触れたように、論文捏造という犯罪が発生した。これは、科学は文化でない証拠であり、科学は経済とか国力とか資本主義とかにつながることによって捏造問題も発生したと考えられる。

 昭和の終わりごろにドイツのベドノルツ、ミューラーという2人の物理学者が高温超伝導物質を発見してノーベル物理学賞を受賞した。金属で超伝導を起こすのではなく、酸化物で起こすところに独創性があったのだが、2人はアメリカのメジャーな学術誌に発表しなかった。

 常識的には、まず最初にアメリカの物理学会誌に投稿するものだが、そうしなかったことについて2人は、プライオリティでアメリカに出し抜かれる危 惧があると考えたようだ。これもまた科学は文化ではなくなったということだろう。さらに同じころ、常温核融合という現象が報告され、大きな話題となった が、これも文化という現象とは捉えられなかった。

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 本日、受講している諸君の多くは、将来、理数系の学校の教師になると聞いている。将来の教師像としてこうなってもらいたいということを念頭に話をしてみたい。

 江戸時代に日本には多くの伝統工芸があった。たとえば漆塗りと言っても科学的なデータを駆使してやったわけではなく、日本刀の製造もそうだった。五重塔に代表される建築も学問として確立された技法ではなく、経験と勘によって成し遂げたものだった。

 日本には、そのような技術的な風土があった。サイエンスではなく技術が文化と共存している時代があった。その時代が長く続いた。

 明治維新以降、本学の創立者たちが西欧から理学を持ち込んで今日に至った。受講生諸君が将来、学校で理数科目を教えるときには、知識だけを教えるのではなく、文明と文化という視点を考えて欲しい。

 1999年にハンガリーの首都・ブダペストで開催されたブダペスト会議で出された宣言でも科学は知識のためだけではなく、社会、平和、開発のためとし、文明と文化と科学いう視点を取り入れた。

 日本では古来から、18歳前後に元服という成人の儀式があった。18歳までに人間形成の教育を受けて一人前の大人となるという意味であり、社会人としてきちんとして教育をすることが重要であることを示している。

 人を教育することとは文化を教えることである。若い時代にはサイエンスだけでなく、広い分野の知識に触れることがいい。リベラル・アーツ (liberal arts)として人文科学、自然科学、社会科学を包括する分野を俯瞰して教えることである。そのためにも多くの分野の本を読んでもらいたい。ネットで本を 探すのではなく、本屋に足を運んで様々な本を見ることによって様々な知識や情報に触れ自己啓発に結びついていくものだ。是非、実行してもらいたい。

 最後の10分間小論文の課題は次のものだった。
「『科学』と『文化』を再認識し、教育に生かすことについて述べよ」

                                 

科学文化概論第13回目の講義

  第13回「科学文化概論」(7月12日)講義の報告
担当教諭 北原和夫先生(国際基督教大学教授)
講義のテーマ:科学技術リテラシー:持続可能性に向けた協働する知性の構築

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 北原先生はまず、東大理学部物理学科からベルギーに留学した時代に「ヨーロッパの知性」に出会った体験談から後年、ノーベル物理学賞受賞者のイリ ヤ・プリコジンとの出会いを語った。そしてMIT化学科へのポスドク時代から帰国後に静岡大、東工大、ICUと転進した経歴を語り、日本学術会議などで 「科学技術の智」プロジェクトを主導してきた活動を語った。

 欧州で体験したことは、科学の人材育成の考え方である。論文を書くことは独自の成果を書くものだが、むしろ若いときに論文ではなく書籍を単著で書くことで、論文では書けない哲学や広がりを持つことを知った。

 また、欧州の知性を感じたのは、探査機「タイタン」の記事をフランスのル・モンド紙が一面トップで扱ったことである。宇宙の光年スケールの話と、中東問題の解決までには相当な長期間かかるであろうことをひっかけ、ユーモアを入れて報道している姿勢に感動した。

 そして、科学という学問を学ぶことは、人知を超えた自然の摂理を知ることであり謙虚さを学ぶことである。科学者のコミュニティのあり方は、ピアレヴューのような評価の意義、伝達と伝承、アーカイブと記録によって他人がさらに次のステップへと進む社会的行為であるとした。

 ここまではヨーロッパの智に触れて感じた自身の科学と科学者のあるべき姿の考えを述べたものだ。

 次に科学リテラシーとは何かを語った。科学リテラシーには3つの段階があり最後のステップは自分の専門と異なる他の分野の専門家と協働できるための素養とした。
 20世紀には急速に科学技術が発達し、後半で陰の部分が見えてきた。人口爆発、エネルギーの持続可能性、気候保全と安全保障問題などである。21世紀 は、持続可能性の課題に取り組む時代であり、先進国は資源、エネルギーの保全が重要課題であり、途上国は社会改革が重点になってきた。

 平行して教育改革、とりわけ理科教育が重視されるようになり、ヨーク大学での「21世紀の科学教育プログラム」での「知識よりも思考の過程を重視」した取り組みを紹介した。

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 日本での理科離れに対応する日本学術会議の「科学力増進特別委員会」の創設に加わり、子供たちへの働きかけを模索した活動を語った。特に科学者が社会と 互いに共感し信頼をもって協同することが科学研究の世界を活性化する原動力になること、科学者たちが社会と向き合って科学の夢を育てること、若者向けの講 演会やサイエンスカフェの開催などで活動する重要性を語った。

 アメリカで始まった「全米国民のための科学」(Science for all Americans)の展開を紹介して日本でも同様の活動を開始し、2005年から08年までのプロジェクト「科学技術の智」での活動に触れた。

 数理科学部会、生命科学部会、物質科学部会、情報学部会、宇宙・地球環境科学部会、人間科学・社会科学部会、技術部会の7つの各部会に10-15 名程度の科学者、教育学者、技術者、メディア、行政者、科学技術理解増進を目指す個人、機関の関係者が集まり、学問の枠を超え日本の現状と歴史を踏まえ、 科学者と教育学者等が協同して行う作業を語った。

 人間や社会の現象を科学の視点からホモサピエンスの現象として考えることや、地球と人類の歴史を基礎として、社会、経済、政治、倫理などの起源は何か。人間と社会の課題に直面したときに、科学的な思考の枠組みをどのように提示できるかなどを模索した。

 人類の存在の基盤を知ること、現状を知ることで「命の継承」として存在することを知り、将来を予想して行動を決めることの重要性を語った。さらに 近代科学だけでなく、伝統的な智も持続可能性には必要であるとして「千字文」を紹介した。最後に自身が主導している南アフリカ共和国と日本が環境や農業、 生物観察などを題材にしながら持続可能性を学ぶ共同プロジェクトの活動をDVDで紹介した。

 最後の10分間小論文の課題は次のものだった。
「持続可能性な世界のためにさまざまな専門性、国籍階層の協働が求められる。そのような協働ができる人材を育てるために教育の場でどのような工夫が可能か?」

 

    科学文化概論第12回目の講義
                                     

 報告
 担当教諭 神田 淳先生(京葉ガス株式会社常務取締役)
 講義のテーマ:日本人と科学精神

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 神田先生はまず、「日本人にも科学ができるでしょうか」とのタイトルで日本に科学を持ち込んだ仁科芳雄博士を取り上げた。そして森永晴彦・ミュンヘン工科大教授の「西洋の自然観から考えると、本質的に自然科学は西洋のもの」とした見解を述べさらに3人の見解に言及した。

 江崎玲於奈(1925- )「サイエンスに弱い日本人」、小室直樹(1932- )「日本には宗教がないから科学もない」、中谷宇吉郎(1900-1962)「日本人の科学性は、低いとか足りないとかいうよりも、むしろゼロに近い」。

 さらにコペルニクスの天体回転を発表した1543年を科学革命元年とし、ニュートンが「自然哲学の数学的原理」を著した1687年を科学革命完成 年とした。そして近代科学が生んだ精神を取り上げ、自然の中に神の秩序を見出す精神から実験する精神を語り、自然を外から見る精神として、「神-人間-自 然」という序列を語った。
 ここまでが近代科学を生んだ精神を講義した。

 続いて近代科学の特色として技術との相補性に言及した。この中でハイゼンベルグの「自然科学と応用科学・工学との関連は初めから相補的なもので あった。応用科学・工学の進歩、道具の改良、新しい装置の発明は、自然に関するより多くの、より正確な、実験に基づく知識の基礎を提供した。

 また、自然のより深い理解と、自然法則の究極的な数式化は、応用科学・工学の新しい応用の道を切り開いた」の言葉から、もともと科学と技術は異なるものであることを語った。
 さらに日本では明治維新以降、日本の古来からの精神を大事にしながらも西洋から技術を導入して調和をはかる「和魂洋才」が盛んに言われたが、実は科学と は「洋魂」そのものであるとした。中谷宇吉郎の「西洋の科学は、西洋人が血で闘いとったものである。だからそれは非常に強いものなのである」との言葉を引 用し、日本での科学の受容は「科学技術」であったとした。

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 東京大学工学部(工科大学)は1886年に創設されたが、これは世界で最初の工学部のある大学であり科学技術は日本における世界的な時代の先取りだったとした。

 日本の科学技術は経済繁栄の手段として傾斜していき、科学が持つ本来の哲学や文化とは遊離した形となり、西洋の科学技術の導入はプロセスイノベーションを起こしたもののプロダクトイノベーションが弱いものへと変転していった。

 日本と日本人の科学に対する思想と西洋のそれとの違いについて言及した。東西の自然観の比較論であり、西洋の思想は現象を神の視座から見る二次元的な思想構造であるのに対し、日本の思想は自然と共にある人間という一元的な思想構造にあるとする浦壁伸周の見解を紹介した。

 神田先生自身の見解として次のように整理した。
• 科学において、文化と世界観の違いは創造性に影響するが、決定的ではない
• 現生人類の能力は基本的に同じであることが決定的である
• 明治以来、西洋文明を学んで吸収した日本人のやり方で基本的に正しい
• 創造性は学んだ後出てくる
• 日本人ノーベル賞受賞者の数が戦後に出ていることが以上を証明している
 
 さらに日本の精神文化の特色として次のようなことをあげた。
・組織と集団の和を尊ぶ ・ロジックを重視せず ・原理主義を嫌う
・情緒に傾斜する ・美しい生き方を重視する ・清浄さを尊ぶ
・繊細な美、繊細な神経 ・空気と雰囲気を重視する、流される
・権利の主張をはしたないと感じる ・察する文化 ・自然に対する尊敬、親和感
・本覚思想 ・おのずから成るの思想 ・言挙げせず ・しつっこくなく水に流す
・集団的な閉鎖性、独立心の弱さ ・学ぶ姿勢 ・鎖国性向

 このようなキーワードによって、日本の科学文化を考える糸口を与えたものであり、深く思索する方向へ導いた。

 最後の10分間小論文の課題は次のものだった。
「科学における独創性の発揮の上で、日本の精神文化の特色が有利に働くと思われる面を考察せよ」

               
                                  

科学文化概論第11回目の講義

 「科学文化学概論」(6月28日)講義の報告
担当教諭 北村 行孝先生(東京農大教授、元読売新聞論説委員)
講義のテーマ: 科学文化と新聞報道

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 北村先生は、読売新聞社の科学記者、科学論説委員の経験から、科学報道を通じて広がってきている科学文化の現象を実証的に示した点で非常に示唆に富んだ内容であり面白かった。
7月12日にここでの講義が予定されている北原和夫先生が学生1人を伴って現れ、熱心に傍聴されていた。

 北村先生は、冒頭に宇宙惑星探査機「はやぶさ」帰還の快挙を報道する新聞各社の扱いが一面トップだったことを紹介し、科学ニュースの重要性を示した。私見としながらも「科学文化の諸相」として次のようなカテゴリーを列挙した。
■生活文化を豊かにする科学
科学のための科学から、人々のための科学へ
■成熟した社会の基盤としての科学
安全・安心のための科学、リスク・コミュニケーション・・・
■文化・芸術の対象としての科学
小説、SF、詩歌、絵画、音楽・・・
■科学の成果を人々の世界観・自然観に反映
ニセ科学、エセ科学にだまされない社会のためにも・・・
■科学の営み自体を文化的な活動とみる社会を
科学者も人間。科学を身近なものに感じる社会へ向けて
■科学リテラシー向上のために
専門家には社会リテラシーを、人々には科学リテラシーを
 さらに科学と技術とは多様な機能と多様な期待を人々から集めているとして、次のように整理した。
① 知の探求、②産業・国力増進へ貢献、③社会の課題解決へ貢献、④世界・地球
規模の課題に挑戦、⑤芸術・文化・スポーツに貢献、⑥個人の暮らしや心を豊かに
 このような整理をした上で、科学報道はそれぞれのカテゴリーにどれだけ貢献しているかを6角形グラフ(レーダーチャート)で示したが、「知の探求」が突出しており、かなりのいびつ型になっていることを示した。

 しかし最近になって、科学を扱う新聞報道は「知の探求」のテーマだけではなく、芸術、スポーツ、文芸などと科学の関係を捉えたニュースも目立つよ うになってきた。科学記者の数が増えてきたこともあって、取り上げるネタが幅広くなってきたこと、文化部や社会部の記者も科学・技術に興味を持ってさまざ まなニュースを取り上げるようになってきた。科学文化に関係しそうな記事が結構増えていることを実証的に紹介したものであり、非常に面白かった。

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 新聞各社の科学部の歴史をたどってみると、1960年代から70年代には各社とも科学部は10人前後であり、取り上げる題材も原子力、宇宙開発な ど専門的なテーマに限られていた。ところが現在は、読売新聞科学部員は30人に届こうとしており、朝日、毎日、共同通信なども20人を超えるまでに膨張し ている。
 それは科学・技術の分野と社会とのかかわりが広がってきたからであり、科学ジャーナリズムへの期待も、科学者や政府関係者から一般国民まで多岐に渡って広がっている現状を分析した。
 また、安心・安全を巡る悩ましい問題として食品の安全性のニュースの取り上げ方、原発工場の出来事を報道する際の視点と取り上げ方などをあげ、専門家がニュース報道に不信感を抱く例などもあげた。
 リスクを巡っては、BSE問題、鳥インフルエンザ、新型インフルエンザ、環境ホルモン、食品添加物、原子力施設のトラブルなどに対する報道は、一歩間違えば真相から大きくずれてしまう危険もある。
安全=安心ではない難しさもあり、メディアも相当なる自覚がなければならない。そのための記者教育の充実、専門記者の養成、バランスの取れた初期報道、時間経過後の検証やまとめの報道などの課題をあげた。
 この日の講義は、科学文化を支える新聞報道の多様化を捉えながら、今日的な課題を洗い出し、その改善方法を提起した点でためになる講義だった。

 最後の10分間小論文の課題は次のものだった。
「科学ジャーナリズムは、どうあるべきでしょうか」

                                

科学文化概論第10回目の講義

 報告
担当教諭 三石 祥子先生(独立行政法人科学技術振興機構・社会技術研究開発センター)
講義のテーマ:科学という文化
 
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 三石先生の講義は、「科学文化」とはどのような概念であるかをイギリスの科学史に焦点を当てながら幅広く考える素材を提供した点で秀逸な講義だった。
 出だしは、「科学という文化を築いた人々」として①コンビ型、②その他の文化のコンビ、③科学とその他の文化の違い、④コンビ型以外の型の4つの例を提示した。

 コンビ型としては、小林誠と益川俊英、マリー・キューリーとピエールキューリー、ジェームズ・ワトソンとフランシス・クリックをあげ、コンビによる創造性の相乗効果によって偉大な業績に結びついていった足跡を検証した。
その他の文化のコンビとしては、ゴッホと弟、ピカソと女性、杉山親子、浅田姉妹をあげて、コンビが心のよりどころとなる存在であったとして創造や活動の源になったことを語った。

 科学とその他の文化の違いについては、ゴッホとゴーギャンの「ぶつかり合う個性」「ゴッホの耳切りで終わる破滅コンビ」という視点を語った。
 このようなコンビに見る「科学文化」の特徴は、対等の立場で各人の個性や能力を互いに出し合い、その相乗効果によって新しい結果を導きだしているという見解を語った。

 コンビ型以外の型としては、一匹狼型の利根川進、ボス型の仁科芳雄をあげた。このようにさまざまな型による科学文化構築の検証をして感じたことと して「先人の築き上げた知の成果と人とのつながりの中から新たに生まれる進歩であり、それが科学という文化の素晴らしいところである」と語った。

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 続いて科学文化について考え行動をした人々としてイギリスのマイケル・ファラデー、ハンフリー・デービー、ジョゼフ・バンクス、ベンジャミン・ト ンプソンなど王立協会を立ち上げ活動した巨人たちを紹介した。さらに物理学者であり小説家でもあったC.P.スノーが書いた「二つの文化と科学革命」を解 説しながら、科学という文化を考え行動を起こした動機と著作活動とその反響などを語った。

 なぜ、スノーは二つの科学、人文科学と自然科学について書いたのだろうか。なぜスノーの講演と著作は至るところ、あらゆる分野で時代を超えて注目を浴びているのだろうか。その答えはなんだろうか。
 そのような思索を問いかける講義の内容は、歴史的な出来事を俯瞰しながら論理的な思考過程を呼び覚まして考えさせるものだった。

 この思索の結語として三石先生は、ファラデーの「ロウソクの科学」とスノーの「二つの文化と科学革命」をあげ、その役割はいまなお続いていることを示唆した。

 さらに東京理科大学の発祥となった東京物理学校を創った人々21人の志に触れ、生命誌研究館の中村桂子先生の出会った研究者とその影響によって今日の中村先生を作っていった軌跡をたどってみせた。
 科学者たちと直接話をして学んだこととして、「科学者の仕事を他の人がすべて理解することは難しいが、しかしその活動には理由とそこに至るまでの過程がある。その理由と過程が想像できると相手への理解につながる」とした。

そして「科学という文化は人がつくり、人が支えている」ものであることを披瀝して講義を締めくくった。

 最後の10分間小論文の課題は次のものだった。
「本日の言及した人物の中で最も気になった人は誰ですか。その理由も記載してください」

               
 科学文化概論第9回目の講義
                               
 第9回「科学文化概論」(6月14日)講義の報告

担当教諭 村松 秀先生(NHKエデュケーショナル 科学健康部エグゼクティブ・プロデューサー)

 講義のテーマ:番組のデザイン学と科学文化  

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 村松先生の講義は、過去20年間に渡って自身の制作してきた映像番組を随所に入れながら、1つの番組を作るような流れの中で科学文化とはどのような学問として成り立つものなのかを考えさせるものだった。 映像も楽しいし、その番組を制作する側の考えと舞台裏を見せられ、楽しい授業だった。 授業の流れをメモ風に記録してみたい。 

・自己紹介:科学番組を中心に長年テレビ番組を制作

 NHK番組の「ためしてガッテン」、「ツナガルカガク」など自身が手がけてきた番組を紹介しながら、自己紹介をした。 

・論文捏造に至るまでの道のり 

 2004年10月に放映された「史上空前の論文捏造」は、アメリカのベル研究所に所属していたドイツ人科学者が3年間に渡って有機物の超伝導転移温度などに関する新しい知見を「サイエンス」、「ネーチャー」など世界のトップクラスのジャーナルに次々と発表した。 それまでの常識を破る成果は専門家から絶賛され、多くの賞をもらいノーベル賞も間違いなしと言われた。しかしそれがすべて捏造された業績と分かり、科学界に衝撃を与える。 村松先生は、このテーマを番組制作として取り上げた動機は「偶然」であったが、しかし「偶然の必然性があったのではないかと」として過去に取り組んだ番組制作とそのテーマについて語っていった。 

・キーワードは「分からなさ」 

 村松先生は「自分が取り組んだ番組制作は、どれも『分からなさ』というキーワードでくくることが出来ると語った。

 ・蝋型鋳金・宮田藍堂さん

 佐渡の宮田さんの蝋型鋳金は、金属で作るオブジェであり、現代アートであった。特に海岸への漂着物やゴミをアートの素材する視点は、分からなさの塊みたいなものだった。 

・ミッドウェーのコアホウドリ

  コアホウドリの世界一の繁殖地はミッドウェーであるが、死亡したひな鳥の屍骸を見ると、プラスチック類のゴミ類が多数あることに気がついた。親鳥が海に浮 遊するプラスチック類、ライターなどを運んできて、ヒナにエサをして与えた結果、死に追いやってしまったものだが、ライター見ると日本製であるものもあっ た。 多分、日本の海岸で無意識に捨てたものが、海を漂いコアホウドリに拾われて遠いミッドウェーに運ばれ、ヒナに給餌されて1羽のヒナの命を落とす。ここには原因と結果に途方もない距離感があることに驚いた。 ここにも「分からなさ」というキーワードが絡まってくる。

 ・環境ホルモンとは

 このテーマでは、イボニシなどの巻貝が、男性ホルモン様の働きをするホルモンによって男性化している事実や、フロリダのワニのペニスが精巣が小型化し、ペニスが小型化することによって繁殖力が劣化していく事実を知った。 環境に広がっていく微細な化学物質の影響によって驚くべきことが広がっているのではないか。 人間のへその緒からも数十種類の環境ホルモンを検出した。また人間の精巣の重さも1996年代から減少傾向にあり、環境ホルモンとの関係が疑われているが、巨大かつ深遠なブラックボックスになっており、ここでも「分からなさ」がキーワードに絡んでくる。 

・安全なのか危険なのか「分からない」

 このように、世の中には「安全」なのか「危険」なのか「分からない」ものが多数ある。 科学で、すべて分かる分かるわけではない。ドーピング問題で五輪金メダルを剥奪された選手も、単に「検査を拒絶した」だけでクロと判断されたり、風邪薬を飲んで検査に引っかかった選手もいるが真相は分からない。 

・なぜ妙な論調が起こるのか

 科学で、すべて分かるわけではない。ドーピング問題で五輪金メダルを剥奪された選手も、単に「検査を拒絶した」だけでクロと判断されたり、風邪薬を飲んで検査に引っかかった選手もいるが真相は分からない。

・「分からなさ」と向き合うスポーツという社会

 スポーツはルールだけでは分からないものがでてきた。 

・「文化を共有する」、ということの意義

 日本社会と「分からなさ」という視点で見ると、政治、経済、国際社会、教育などあらゆる局面でこれが存在する。

 ・「科学的」、という言葉のあやうさ

 科学によってすべてが分かるわけではない。

 ・ラグビー・平尾誠二さん

 ラグビーの日本代表監督になった平尾さんは、「日本人は集団でやる球技スポーツは弱い。分からない局面が多すぎるからだ。どうやって最適な判断をするべきかが日本人は分からないのではないか」と語ったことに非常に印象を受けた。 

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・日本人と「分からなさ」

 日本文化には、分からなさが多い、ワビ、サビの世界は分からない。竜安寺の石庭は見て美しいがそれがどのような意味か分からない。日本文化には「あいまいさ」がある。

 ・論文捏造とプロセス

 科学は「分からないこと」は扱いにくい。論文捏造も「結果重視」、「成果主義」、「過激な競争」から生まれたものではないか。科学は結果ではなくプロセスという考え方があるのではないか。 

・「すイエんサー」を制作する意義

 いま、制作しているこの番組は、結果を安直に求める「科学的なもの」へのアンチテーゼとして制作している。科学=情報という誤解をはずすものだ。 出演者と一緒に分からないなりにプロセスを考えて楽しんでいく。その中で考え「プチ科学研究感」を持つことができればいいという番組である。新しい科学番組のあり方を模索している。

 ・まとめ

 科学が文化となるためには、「分からなさ」を考えることであり、ぐるぐると思考することによって想像力と創造力を養い本当の創造力が出てくるのではないか。  最後の10分間小論文の課題は次のものだった。

「あなたの身の回りの「分からなさ」について、思ったことを述べてください。」  

               
  科学文化概論第8回の講義
                                      

 第8回「科学文化概論」(6月7日)講義の報告
 担当教諭 山本威一郎先生(日本スペースガード協会理 
           事、元NECシステム開発部長)
 講義のテーマ:システム開発と科学文化

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 山本先生の講義の目次は次のようなものだった。
 最近の話題  
 科学と技術の歴史
 システムと社会     
 電子技術の発展とコンピュータの進化
 システムの進化と背景
 システム障害の社会的影響 
 システム開発の手法
 システムの限界と課題  
 科学文化の未来 

 山本先生は、豊富なビジュアル資料を駆使したパワーポイントを次々と示しながら、科学技術の歴史 → システムの語源から誕生 → コンピュータの進化 → システムの進化 → システムの社会的役割 → システムの限界と課題などを話した。

 ご自身は主として海洋、航空、宇宙などに関するシステムの開発者であったので、その体験から出たシステムに関するテーマと課題は非常にためになり面白かった。
 コンピュータの歴史では、エニアック開発の初期の話から最近のクラウド、スマートグリッド、キンドルなどに至る開発の歴史は、人類の英知の流れを示しており、若い院生諸君にどのように映ったか興味があった。

 システムの話では、まずその語源がギリシア語でσύστημα (systema)「結合する」から来ているものであるという。そして1913年にフォード車のコンベア流れ作業による生産方式をデトロイトジャーナル誌 が『システム』と表現したことから定着した言葉だった。

 山本先生は、このような話題性のある話を織り込みながら、システムの言葉とその組織が、いかに現代社会に広がり深く根を張っているかその現状を報 告した。そしてコンピュータ社会の現出によってシステムはさらに進化をしていった状況を豊富なビジュアル資料を取り込んだパワーポイントによって次々と説 明した。

 システムの本格的な稼動は、アメリカの防空システムという軍事目的から始まったものであり、それが現代社会にはなくてはならないものに進化した過 程とその背景を説明し、システムの失敗や事故なども紹介した。このあたりの話は、山本先生のご自身の体験もあるので具体的で面白かった。
 システムの障害と社会的影響あたりで持ち時間が少なくなり、最後は時間切れの中で流れてしまったのは残念だった。

小論文の課題は、一枚のグラフを示して、思うことを書かせたものでありユニークな課題だった。          

                               

科学文化概論第7回の授業

           
第7回「科学文化概論」(5月31日)講義の報告担当教諭 馬場錬成(東京理科大学知財専門職大学院)

講義のテーマ:科学の進歩によってもたらされた新たな問題

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  科学の進歩によってもたらされた成果によっては、従来の政治、経済、社会、倫理、法律などの枠組みが根底から崩れることがある。 生命誕生の現場と死の臨床を例に考えてみたい。 

* 生命誕生の現場

1.生殖医療技術生殖医療技術の進歩によって出てきた新しい生命誕生の方法である。その目的は不妊治療にある。人工授精=男子の精子を女性の子宮に人工的に注入して妊娠・出産を実現する方法。配偶者間と非配偶者間がある。

 この方法は、法的な規範がないままに、不妊治療の有力な治療方法として実施されてきた。ところが、体外受精の技術が確立されてから、不妊治療のあり方が一挙に広がった。技術が先行し、社会倫理、法律、道徳などの面で十分に論議されておらず、社会的な合意も得られていない。不妊患者と専門医だけの密室の医療になっている。

  配偶者間体外受精=何らかの原因で体外受精しなければ妊娠・出産できない夫婦非配偶者間体外受精=提供精子または提供卵子による体外受精体外受精した受精卵の移植代理母=夫の精子を妻以外の女性の卵子と受精卵を作ってその女性の子宮に着床させ妊娠・出産させる方法借り腹=夫の精子と妻の卵子を体外受精してできた受精卵を妻以外の女性の子宮に着床させてその女性に妊娠・出産してもらう方法代理母と借り腹につての「定義」は一応、上記のように定義した。

 問題点

・子の出自を知る権利にどう答えるか

・遺産相続で、遺伝子の両親と育てた両親が違う場合はどうするか

・代理母、借り腹の親権は誰になるのか

・安易な子の誕生につながらないか(出産を嫌がる女性が子をほしいだけの目的で借り腹をするなど。)

 2.ES細胞をめぐる技術開発と知的財産権、倫理問題 体外受精技術が確立されたために、様々な手法が広がった。

 ES細胞(胚性幹細胞)をめぐる研究開発もその1つである。 クローン胚の実現によって、男性、オスがいなくても子孫を残せる時代になった。遺伝子の組み換えによって淘汰されていく生命原理が崩れようとしている。

 3.京都大学iPS細胞研究所長山中 伸弥教授の発明した画期的な成果人工多能性幹細胞(Induced pluripotent stem cells、iPS細胞)体細胞へ数種類の遺伝子導入することにより、ES細胞(胚性幹細胞)のように多くの細胞に分化できる分化万能性(pluripotency)と、分裂増殖を経てもそれを維持できる自己複製能を持たせた細胞のこと。山中伸弥教授が、マウスの線維芽細胞から2006年に世界で初めて作った。 

 再生医療への道が開かれ国際的な競争になった。生命操作による新たなビジネスであり、国際的に戦略を考えて産業競争力を確保する時代になったのだろうか。 

 * 死の臨床

 脳死と臓器移植と世界の移植医療の現状 脳死とは何か脳幹を含む脳領域の機能が完全に失われ、回復不能に陥った状態(全脳死)。人工呼吸器(レスピレーター)なしでは生きられない状態をさす。

 従来の心臓死(三徴候死説=呼吸停止・心拍停止・瞳孔拡大)に替わる、新しい死の概念である。植物状態とは、脳幹部は生きている状態であり、自発呼吸が可能であり脳死とは違う。 脳死判定基準① 深昏睡。②自発呼吸の消滅。③瞳孔固定。④脳幹反射の消失。⑤30分以上の平坦脳波。⑥6時間の経過をみても①~⑤の変化がないこと。

  脳死をめぐる課題1.脳死を「人の死」として受け入れる社会的合意はあるか。「日本人と死生観という文化の根幹に関わること」と言うがこれは本当か。2.脳死は臓器移植とセットにして論じられることが多いが、人の死の決定とその遺体をどう扱うかは本質的に別個の問題ではないか。

 3.脳死により治療を打ち切る目的には、医療費の問題もある。1997年に成立した脳死・臓器移植法も、法案目的に医療費の節減を揚げている。

  1997年、世界で脳死を認めない国は、日本、ルーマニア、パキスタンとなった。脳死を認めず、外国に行って脳死移植を認めている日本人とはいったい何者なのか。

 世界中が奇異な目で見始めたことで、脳死を認める臓器移植法が超党派による議員立法で成立した。ただし、各党とも「党議拘束」をはずして、議員個人の判断にした。

 脳死は科学の問題ではなく、個人の考え方の問題とされた。

  生命誕生と死の臨床の変革は、科学の進歩によって出てきた新たな問題を日本人に突きつけている。それは、法律、社会、宗教、倫理、教育など多面的な学問による対応が迫られている。

 小論文の課題 「科学の進歩が人類を幸福にするためには、どのような学問領域を研究することが大事でしょうか。その研究領域を1つあげ、その理由を書きなさい」

                              

科学文化概論第6回の授業       

第6回「科学文化概論」(5月17日)講義

担当教諭 元村有希子先生(毎日新聞科学環境部副部長)

講義のテーマ:欧州の科学文化 

 
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  元村先生は、毎日新聞紙面で「理系白書」という連載記事を担当し、日本社会での理系人間の活動がいかに活性化されていないか、いかに不遇をかこっているかを告発し、2006年に科学ジャーナリスト大賞を受賞した。

 その後、理系白書ブログの管理人となり、ウエブサイトから理系社会への問題点を衝くインターネット活動を続けている。 2007年から1年間、科学コミュニケーションを研究するためにイギリスに留学し、イギリスを中心に欧州の科学文化の有様を見聞してきた。今回の授業ではそのときの成果を紹介しながら、日本の科学文化のあり方を考える授業となった。

   元村先生は、イギリスでは科学に関する国民の関心が日本より高いように見えるとして、①政治や外交といった話題と科学・技術が同列に扱われている、②科学 館や講演会に足を運んでいる、③政府や団体による促進活動が盛んである、④「盛り上げる人」の層の厚さがあることなどをあげた。

 ただし、階級や人種によるギャップが大きいこともあげた。

  特にイギリス人が科学館や講演会に足を運んでいるという証拠として、過去1年間に訪問した場所として、科学館は18パーセント、博物館19パーセント、テーマパーク29パーセント、歴史的建物や庭園32パーセントなどをあげている。 

 また、イギリス人は総じて疑い深い人が多いようであり、Frankenstein FoodとかFrankenstein Eggなどのエピソードを紹介した。

 「疑い深い」ことは、科学への関心の深さでもあり、現象に対する理由を追求しようとする国民的な関心度が高いことをうかがわせている。 

 これに対し日本では、科学は万能であるという思い込みが強く、さらに科学者は嘘を突かないという信頼もある。何ごとによらず「科学的」という言葉に弱い点をあげ、その心理を悪用した擬似科学の流行を示しながら「科学を楽しむ」という文化がまだ未成熟であるとした。

 またこのような日本の文化風土には、メディアにも責任の一端があると指摘した。 

 PUST=Public Understanding of Science & Tech

 公衆の科学理解増進という言葉は、無知な市民を啓蒙するという「上から目線」のニュアンスがある。しかしいまは次のような言葉へとシフトしてきている。

 PEST=Public Engagement in Science & Tech

 これは公衆の科学への関与へと移行してきていることを示す言葉である。科学者と公衆は対等な関係であり、お互いの関与があって初めて互いの理解が進む時代になっていることを示した。PUSTからPESTへのシフトである。

  このあと、イギリスやスペインで開催されている各種の科学フェステバスなどの様子を楽しい写真やパンフレットで示した。また新聞の科学付録などを紹介しながら、ヨーロッパ社会で根付いている「科学は文化」とする風土を紹介した。

   このような講義を通じて元村先生は、ヨーロッパ社会の科学文化の歴史や市民の受け止め方、現象などを示しながら日本の社会との比較を認識させ、日本の政治 や社会で理解されている科学に対する知識や認識の違いを際立たせ、どのようにして科学文化を醸成すればいいかを考えさせる授業となった。

 小論文の課題は次のようなものだった。

 「多くの人を科学に引き込むのに、最適と思う手法を具体的に紹介してください」

 科学文化概論第5回の講義

                                 

 5月17日の第3回「科学文化概論の講義は、自民党元幹事長の加藤紘一先生をお迎えして行なわれた。  

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 加藤先生は、日本の政治家の中では突出して科学技術に詳しい政治家であり、特に基礎研究、研究開発には並々ならぬ関心を抱き、そしてまた自民党政 権の中枢ポストにあっては、科学技術予算を支援し続けてきた。1995年から始まった、科学技術基本計画の策定でも大きな役割を果たした。

 今回の講義では、政治家として科学技術政策にかかわった具体的な体験をもとに、日本が世界をリードするのは科学技術研究であり日本のグローバリゼーションとは科学技術研究の振興にあるとした。
 また、聴講する院生の多くが、中高校などの理科教師になることを踏まえて、科学技術情報を分かりやすく国民に伝える科学ジャーナリストの重要性を説き、さらに勉強の面白さを伝える教師になるように要望して締めくくった。

 加藤先生はまず、自身が大学入試のときに理系を目指していたが果たせなかったことを語り、やむなく文系に進んだことを打ち明けながら、科学技術に対する興味はこのような背景にあることを示唆した。

 政治家になって若手代議士として活動を始めたころ、オイルショックに見舞われ、30年後、石油は枯渇するから代替エネルギーを開発するべきと財界人から言われた。

そこで夢のエネルギーとして核融合の実用化を支援してきたが、30年経った今もって実現できず、石油も枯渇するわけではなかった。
 政治家も科学技術の何が本物かを見極める必要があるだろう。
 今から17年前に細川内閣から自社さ連立政権に代わり、橋本竜太郎内閣が誕生した。そのとき、3党政策責任者会議の議長として政策のとりまとめをやったが、アメリカの政策によって円高になり、製造業でアメリカを凌駕していた日本の優位さがなくなった。

 円高を乗り越えるためにはどうすればいいか。霞ヶ関官僚の頂点に立つ大蔵官僚にしても打つ手はないと言って来た。
 そのような状況の中で自分が最終的に到達したのは、科学技術の基礎研究をてこ入れするべきという考えだった。科学技術立国への取り組みが重要だと考えた。科学技術基本計画は、このような中で生まれた。

 IT、ライフサイエンスなどに力を入れていたが、ゲノム解読ではアメリカに圧倒的に優位に立たれてしまった。
 しかし、ゲノム解読の装置、シーケンサーは日立が開発したものであり、日本でも戦略さえ間違わなければアメリカより優位に立つことが出来ただろう。

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 日本には優れた技術がある。たとえば浜松ホトニクスの開発した光電子増倍管は世界トップの成果であり、ニュートリノ研究の先陣を切った。このような研究を一般に分かりやすく伝えるのは科学ジャーナリストの役割であり、そのような予算も獲得した。

 政府の中に科学技術政策を推進する組織がないので総合科学技術会議を設置し、科学技術政策に評価点をつけて予算に重みをつけるような組織にした。
 いま政権交代して民主党政権になったが、科学技術政策はあやふやである。日本をどのような国にするのかビジョンが見えない。

 日本の国際化、グローバリゼーションの中で国際競争力を考えれば、科学技術立国に行き着くだろう。環境、生命科学などで優位に立ち、世界にないものを日本から供給できるようにすることで日本はプライドを保つことが出来る。

 生徒が理科の勉強をする場合は楽しくしてほしい。自身の体験では、勉強が面白いと思ったのは、大学を卒業して外務省に入り、ハーバード大学に留学しているときである。
 最初に書いた論文は自分の意見、見解を書いていないとして落第点となったが、東大ならパスした論文だろう。ハーバードの教師の指導によって、中国共産党 の歴史を検証する研究を行い、歴史的記録を読みながら、その意味付けに自分の見解を入れて論文を書いていい点数を取った。
 この体験で勉強は大変面白いと感じた。是非、生徒が面白いと感じるような指導が出来る教師になってほしい。

 日本のグローバリゼーションとは、科学技術立国にすることである。小中高校の生徒がのびのびと成長するような教育者になってもらいたい。

 小論文の課題は次のようなものだった。

 「日本の理系学生の創造性を発揮させるには、政治家はどのような政策をするべきか。またどのような制度を作るべきか」

   科学文化概論第4回講義
            

第4回「科学文化概論」(5月10日)講義の報告
担当教諭 有本建男先生

 授業タイトルは「科学文化と科学技術行政」である。
 有本先生は、グローバリゼーションという視点の中で、科学が人々に与えた影響と政治、経済、文化とのかかわりなどを、歴史を縦糸にしながら俯瞰的に述べて考えさせる授業内容だった。

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 有本先生は別途用意したレジメをもとに、パワーポイントで詳細な項目を示しながら熱心な講義を行った。

 レジメを元に講義の概略を紹介すると次のような流れであった。
1.はじめに
   ○生物進化のカレンダー、自らの位置、
   ○事業仕分け
   ○20世紀の20大イノベーション
   ○科学の終焉論争、反科学の動き

2.世界に広がる科学文化
 ○科学文化と国
 イギリス、アメリカ、ハンガリー、EU、スイス、ポーランド、北欧、中国、インド、韓国、タイ、ベトナム、シンガポール、イスラエル、チュニジアなどの動きを紹介。
 ○先進国、新興国、途上国の科学と文化。
 ○政治、宗教、社会、経済、環境、「2つの文化」の乖離(文系と理系)

3.歴史における科学文化の現れ
 ○日本の近代大学の始まり
 ・東京理科大学の前身である東京物理学校 ・東大工学部の発祥
 ○日本の伝統文化と先端技術
 ○先進国と後進国
 ・脱亜入欧(福沢)、脱独入伊(ゲーテ)、脱米入独
博物館への感動(米欧回覧実記)
・ベルツの慨嘆、朝永のアメリカ体験
・カーネギー、ロックフェラーの志
 ○20世紀科学の光と陰
  ・ノーベル賞
  ・戦争と科学・技術 
・「フランス科学」、「ドイツ科学」、「日本科学」
・科学者のエートスの変化

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4.科学文化と科学技術行政
 ○科学技術に対する国民の期待
 ○科学技術の推進構造
 ○科学技術基本法の体系と進展、新しい展開
 *基本法(1995年)
 「国は、・・広く国民があらゆる機会を通じて科学技術に 対する理解と関心を深めることができるよう、科学技術に 関する学習の振興、啓発、知識の普及に必要な施策を講ず る」
 *科学技術基本計画
 ・第3期科学技術基本計画
 ・第4期科学技術基本計画
 現在来春の閣議決定をめざして、総合科学技術会議を中心に検討中。素案の中で、「科学・技術コミュニケーションの抜本的強化 」は大きな柱。「国民が参画して議論できる場の形成」、「社会的課題に関する調査・分析を支援」、「リテラシー向上への取組」、「科学・技術コミュニケー ターの養成確保」、「国会議員と研究者の対話の場づくり」、「倫理的・法的・社会的課題(ELSI)への取組み、テクノロジーアセスメント(TA)を促 進するために、研究資金の一部を充当する制度を検討」など。


  
5.21世紀の科学文化
○今何故、科学文化なのか
・低い科学技術リテラシー、「21世紀の科学技術リテラシー像」

○ブダペスト宣言「21世紀の科学の責務」「科学と社会の新しい契約」
   “Science and use of scientific knowledge in the 21st century”
     20世紀: “Science for knowledge, Knowledge for progress”
     21世紀: “Science for knowledge, Science for peace, Science for sustainable development, Science in society and Science for society
・国、分野に依る異論;”Modern science and traditional knowledge”
    次第に各国の政策に浸透
   ・世界科学アカデミー会議

○科学技術イノベーション
・科学~技術~価値
・何のためのイノベーションか? 
   科学技術政策から科学技術イノベーション政策へ
       ・異分野融合
・2つの文化(文理)の再接近、融合
  ・科学と政治、科学と社会、科学と価値、科学の健全性
*Principles of Scientific Advice to Government to govern the relationship between Government and its advisors(英政府):
 独立性、透明性、公開性
 
○グローバリゼーションと2つの危機と科学文化
・危機後の世界、価値、科学とは?
・科学活動の重心の移動(アジアへアフリカへ)
・新しい価値の尺度
・科学のガバナンス(国~世界)
    先進国~新興国~途上国
科学者共同体、地域、国(ナショナル)、世界(グローバル・ガバナンス)
・AAAS年次総会
「Bridging science and society」(2010)
“Silent Sputnik”, “Scientific Integrity”
  「Science without borders」(2011)
   
(参考1)近代科学技術の制度体制の歴史
         19世紀:「科学技術の制度化」  
         20世紀:「科学技術の体制化」   
         21世紀:「科学技術の戦略化」  

(参考2)科学文化とは何か。
○science and culture
○science in culture,
○culture in science・・・・scientific culture
○science for culture
○culture for science

(参考3)「文化」の定義
ある民族・地域・社会などでつくり出され、その社会の人々に共有・習得されながら受け継がれてきた固有の行動様式・生活様式の総体。
人間がその精神的な働きによって生みだした、思想・宗教・科学・芸術などの成果の総体。物質的な成果の総体は特に「文明」として区別される。

(参考4)科学文化の“5W1H”―“Who, What, When, Where, Why, How”
誰が:個人と集団;科学者、技術者、研究マネジャー、学会、学校、地域、市民、政治家、社会・・
何を:・・・・
何時:17世紀「科学革命」、19世紀、20世紀、21世紀、
1980年代、グローバリテゼーション時代、ここ15年(1995年以降)・・・
何処で:世界、欧・米、EU、日本、アジア、地域、大学、学会・・・
何故:問題の発生源、問題解決の方法・・・(人類生存~地域の問題解決)
どうやって:教育、学習、継承・伝承、コミュニケーション、リテラシー、ELSI(倫理的・法的・社会的課題)、TA(テクノロジー・アセスメント),・・

 最後の論文課題
「グローバリゼーションと科学文化について述べなさい」
 

科学文化概論の第3回の講義

  

 第3回「科学文化概論」(4月26日)講義の報告
 担当教諭 川村康文先生
 

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 授業タイトルは「サイエンス・コミュニケーション・コンサート」である。川村先生は、「科学・サイエンス」は「芸術・アート」と同様に、ひとつの文化として位置づけ取り上げられるべきものであるとの持論を展開しており、科学文化の視点を持つべきだとの考えだ。

 この授業でも簡単な物理実験を取り入れたり、自身が作詞・作曲した歌を歌ったりしながら、「科学文化実践教室」を実現した。

 最初に、小学校の理科、中学校の理科、高校物理における「好嫌度」と「自信度」の調査を紹介した。
川村先生のデータでは、小学校では「理科嫌い」と言うよりは、明らかに「物理嫌い」がみられ、理科に関しては、「おおむね好き」であるという結果がでているという。

 小学校の先生の中には、理科指導に自信がもてない先生もいるが、それだから「理科嫌い」になったというわけではないのではないかとも語っている。

 続いて、中学校理科の実態が紹介された。理科系でない男女では、理科好きとはいえない状況がみられたものの、男子では理科嫌いだとはいえないと説明があった。
 女子でも理科のなかで、生物、地学の分野は好きであると意思表示している。しかし、物理は嫌いだと明確に答えている人が多いという。

 まとめると、小中学校の理科では、とかく物理分野が嫌われているのであって、化学・生物・地学の分野では、強く嫌われていると一概に言い切れないのではないだろうかとのことだった。
 川村先生は、なぜ「物理嫌い」が多いのかというテーマに強い関心をもっており、高校物理での状況を継続的に調査している。

 高校1年目の物理では、物理選択者は物理が好きとしていたが、高校での2年目の物理では、内容を理解しているかどうか自信がなく、高校生は厳しい状況におかれていることが示された。

 川村先生は「それでは、高校の物理教師は、何もしないで手ぐすね引いているだけなのかということになるが、現実はそうではない」としていくつかの例を出した。

 青少年のための科学の祭典などで、おもしろい実験を指導し、物理に興味・関心を向けるように指導されている先生も多くいる。それなりの努力はしているのだが「それだけでは、高校生に物理の自信をつけさせることが難しいのが現状である」とも語った。

 その問題の解決は、物理教師のサイエンス・コミュニケーション能力の向上により見いだせるのではないかとし、物理教師の実施可能なサイエンス・コミュニケーション活動について、いくつか紹介をした。

 そのモデルとして2つのエコ実験が紹介された。1つは、「省エネ電球でエコ」という実験であり、もう1つは「プラスチックのリサイクル実験」である。

 「省エネ電球でエコ」実験では、白熱電球の消費電力、発熱量とスペクトルを示し、それと省エネ電球の消費電力、発熱量とスペクトルを比較した。
 省エネ電球では、蛍光灯のスペクトルと同様であることが確認された。電球1個からでも、地球環境問題解決のための活動に参加できることが分かった。

 もう1つの「プラスチックのリサイクル実験」では、プラスチックのリサイクル用のマークである1~7のそれぞれの具体例が示され、水に浮くかどうかの実験も行った。
 地球温暖化のために異常気象にみまわれ、ゲリラ豪雨のような大洪水に巻き込まれたとき、ペットボトルを工夫して使うと人命救助の道具になることなど、防災意識も高めましょうという話もしていた。

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 川村先生はギターを弾きながら、自身が作詞・作曲した歌を披露した。

 授業の最終場面では、川村先生が自らギターを弾き、自身が作詞、作曲した歌を歌う、サイエンス・コミュニケーション・コンサートが行われた。

 川村先生によると「サイエンス・コミュニケーションの方法については,確立した方法論があるわけではないと考える。しかし世の中は,確実にサイエンス・コミュニケーションを求めている」という。

 川村先生は「温暖化星人から地球をまもる宇宙船にっぽん号のたたかい」というサイエンス・ライブ・ショーの100回公演をめざして実践している。
 環境保護ソングや世界平和を願う歌などをベースにしたサイエンス・コミュニケーション活動の実践を始めており、その一端をこの授業で試みた。
 

科学文化概論の第2回の講義

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 第2回目の講義は、藤嶋昭・東京理科大学学長が担当した。藤嶋先生は、多数の資料をお持ちになり、ご著書を全員に配布した。 
 藤嶋先生の講義のタイトルは、科目名の「科学文化概論」だったが、これはこれで意味があったように思う。
 教室は一回り大きなゆったりしたスペースに変わり、教室全体が余裕ある感じになり変えたのは正解だった。

  藤嶋先生の講義内容(パワーポイントを使用)
1. 桜が満開でした
 南から北へと日本列島を縦断して開花していくソメイヨシノの生物的な意味を考えさせ、自然界の感動を伝えた。

2. アインシュタインと太陽エネルギー
 1905年、世界の科学史に燦然と輝くアインシュタインの3つの論文が生まれた当時のヨーロッパ文化を考えた。

 1927年に撮影された一群の科学者たちの写真には、量子力学を創設した世界の天才たちがキラ星のごとく並んでいる。
 アインシュタイン、マリー・キューリーなどを取り上げながら、科学の成果とは、学問と文化が織り成す「雰囲気」の中で醸成され波及していくことを示唆した。そしてアインシュタインの言葉を引用しながら、若い人々の学問への取り組みを誘導した。

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3. 私と太陽エネルギー
 自身の酸化チタン光触媒の研究から生まれた実用的な成果をまず伝えた。そして、研究のきっかけ、最初の水の分解を目撃したときの感激、論文投稿に至るまでの学界の反応、朝日新聞の報道で社会に認識されていく経過。
 さらに現在までの実用研究の数々の成果と今後の課題に触れた。

4. 本を読もう
 締めくくりに知的才覚を掘り起こし、触発してくれる読書を勧め、人生を豊かにする本を紹介した。
 自身の著書「科学も感動から-光触媒を例にして-」(東京書籍)を配布し、その巻末にあげた「読んでほしい本」を是非、読むように伝えた。

 最後に若干の質疑応答があり、小論文には「最近、感動したことは何か」の課題を出して終了した。
 

               
        科学文化概論の第1回の講義
     「科学文化概論」オムニバス授業

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 第1回の授業は、科学教育研究科の大学院1、2年生を主体に、29人が受講した。このほかに、3回目の授業に登壇する川村康文教授、4回目の授業に登壇する有本建男先生の代理人が受講した。

  この日の講師は、筆者であり「科学文化ってなんだ」というタイトルで大略次のような授業をした。

1.科学文化という言葉と概念は、まったく新しいものと受け止め、授業を受けて学習するという態度ではなく、自ら科学文化とはどういうものか、科学文化とは、こうあるべきという主体性を持った考え・態度で授業に参加することが重要だ。

2.この授業を通じて科学文化とはどのような概念なのか東京理科大発で世に発信することにしたい。その発信元の1人として授業に参加してもらいたい。

3.日本は明治維新以来、それまで主として清国(今の中国)から取り入れていた文化をすべて捨て、欧米からの文化移入一辺倒に切り替えた。このよう な劇的な転換を経て近代国家形成へと歩んだもので、科学をはじめ法律、行政、社会制度全般にわたって欧米からその思想とシステムを移入して近代化をはかっ た。

4.太平洋戦争によって、それまでの国家体制が瓦解し、多くの社会資本も失ってしまいゼロからリスタートしたが、高度経済成長期を経て奇跡の復興を 果たした。しかし1990年代からITをツールと手段とした「第3次産業革命」が勃発し、世界はものすごい勢いで変革し始めた。その変革はこの後も続いて いくものであり、これをIT産業革命という位置付けで考えることが大事である。

5.このような時代的な流れを俯瞰しながら、科学技術によって生まれた成果が、どのように個人、社会、国家を変えたかを考えてみたい。たとえば携帯 電話は、この10年間で劇的に進化したツールである。携帯電話1台で知的財産権が約1万件あるといわれており、ハイテク技術の固まりである。これは電話で はなくモバイルターミナルであり、このようなツールの普及によって、社会も文化も価値観も犯罪も劇的に変化した。

6.そのような時代の中で、人々は何を考え行動するかが問われており、科学文化とはその課題を考え、解決策を模索する新しい学問の創造と位置づけたい。

7.最後の10分間に「私が考えるITとは何か」という課題で小論文を書いてもらった。

                                

科学文化学を東京理科大学から発信

     「科学文化」という新しい概念を確立するため、東京理科大学科学教育研究科で新しいオムニバス方式の講義が始まった。

 
 科学文化概論について  
 科学は、自然・人間・社会、そして自分自身をも対象に観察・分析・分類し、「真理の探究」をする学問として出発した。19世紀には、熱力学や電磁気学のような数学的実験物理学が誕生し、自然科学は客観性・論理性・普遍性・再現性を重視するようになった。

 科学は徐々に、「人間による自然の支配」を肯定するテクノロジー科学へと移行し、20世紀に入ると科学の応用により産業上の大成功がもたらされ た。現在、科学をマクロにみれば、政治、経済、社会と密接に関わる「富や力としての知・製品・システム」であり、ミクロにみれば、個人と密接に関わる「生 活の知・製品・システム」「健康の知・製品・システム」「喜びの知・製品・システム」などである。

 現在、科学技術は人々の生活の隅々にまで浸透している。人々は、排気ガスを出す自動車に乗り、都市ガスや電気で料理し、インターネットで旅行情報 を得て海外で休暇を過ごす。携帯電話は、約1万件の特許、実用新案、意匠、商標、著作権などの知的財産権に囲まれている超ハイテク機器だが、このような機 器を身につけて日常的に使っている状況は人類始まって以来このことである。

 日々、これらの製品・システムを使いこなすだけでなく、そのコストとして、環境汚染、エネルギー枯渇、狂牛病などの感染症、情報セキュリティな ど、地球規模で国際政治的な視点も欠かせない「知・製品・システム」の諸問題に直面している。つまり、科学技術の適切な運営・理解・価値観なくして、人々 は安心・安全・快適に生きていけない状況に置かれている。

 しかし一方、科学の「知・製品・システム」はますます増大し、複雑になっており、変化は加速している。人々と社会は、これらを適切に運営・理解す ることが難しい場面に遭遇しているし、このままでは将来は、さらに難しい場面に遭遇するだろう。現在すでに、科学の「知・製品・システム」を適切に運営・ 理解する必要に迫られている。

 そこで、自然・人間・社会を支配するという偏った科学の「知・製品・システム」から脱却し、科学技術に対する適切な理解を基盤とする運営を確立す るため、科学技術と人間・社会との関係を学際的に研究する学問、ここではこの学問を「科学文化学」と呼び、この学問を創設することで時代の要請に応えた い。

 授業は各界の識者を講師に来てもらい、様々な観点から科学文化に対する知見を講義してもらうことにする。予定の講師や講義のテーマは、変更するこ とがある。また科学文化に関するテーマで、社会的に耳目を集めるような事態が発生した場合は、急きょ授業のテーマを変えて適宜、論議するようにしたい。

 講義を通じて科学文化という概念を理解し、科学と国家、社会、個人のつながりや関係を深く考えることができるような授業とする。

               

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