PEACE BOATで世界一周の旅ーその43
2024/06/25
バーミューダトライアングルに突入
多くの方はご存じと思いますが、フロリダ州マイアミ、バミューダ諸島、プエルトリコを結ぶ三角形の海域は、バミューダトライアングルと呼ばれています。バーミューダトライアングルは別名、「魔の三角海域」とも呼ばれており、海が荒れ狂うことで知られています。
面積は約100平方キロメートルで、この海域での船舶や航空機などの遭難が多く、過去100年間に多くの船や航空機が遭難し、跡形もなく消えているという衝撃事故が相次ぎました。
その魔の三角海域に、自分の乗船した船が入っていくとは思ってもいませんでした。毎日のように7階のPEACE BOAT事務局に張り出される航海の海図は、最初こそ珍しさもあってよく見に行きましたが、そのうち忘れてしまうほど存在感が薄くなっていました。
海図の中の青い線が航海路です。赤い線の三角形がバーミューダトライアングルです。ニューヨークからコロンビアのカルタヘアに向かっている航海図です。
ニューヨークを出て2日目くらいから、船の揺れが大きくなってきました。食卓の話題も船が揺れる話が多くなり、ついに船酔いになったという告白も聞きました。そのとき筆者は忽然とバーミューダトライアングルを思い出し、航海海図を急いで見に行って、まさにそのトライアングルのど真ん中を航海していることに気が付きました。
ここまで2ヶ月余の航海の中で一番、揺れが大きく激しいのです。しかし船は、荒れ海に立ち向かうように速度を上げています。船が蹴散らしていく白い波頭も恐ろしいほど荒々しい飛沫をあげている様子が窓からも見えます。これで本当に大丈夫なのだろうか。そのさなかに乗員スタッフだけの救難訓練があって、装備したスタッフが船の要所に配置され、訓練動作の確認などをしていますが、特段の緊張感もなさそうだし、いつもの訓練の一環であるようでした。
沖縄の日にPEACE BOATと共催の講演会
6月23日は、先の大戦で亡くなった「沖縄戦犠牲者への哀悼の意と世界平和を願う慰霊の日」になっており、PEACE BOATでも沖縄慰霊や今の沖縄を紹介する催事などが開催されました。その中で筆者にも沖縄講演会の再演の依頼が来ました。
先の講演会は筆者の講演時間の勘違いから2回に分けて行ったことになりましたが、今回はさらに内容を発展させ、日本の民主主義を考えることまで広げることにしました。
歴史的事実を検証しない日本に民主主義はない
筆者の講演内容の前半は、前回と同様、国会にも国民にも真実を知らせない沖縄返還の密使・密約外交のすべてを検証した結果を紹介しました。
繰り返しになるので、ここでは詳しくは書きませんが、拙著「沖縄返還と密使・密約外交、宰相佐藤栄作最後の一年」(日本評論社)は、昨年度の日本新聞協会賞の候補作として推薦を受けたものでしたが、結果は賞の授与までには至りませんでした。しかし今でも、読んだ方からありがたい感想が寄せられています。
ま、そんなことは言いませんでしたが、事実だけ、と言っても筆者が調べたことはほとんどなく、すべてはアメリカの公文書公開、琉球大学の我部教授の研究成果、西山太吉氏らの資料公開訴訟の裁判資料、密使なった人の暴露書籍などで「丸裸」に露出されてしまった事実でした。この調査をした筆者は、アメリカの民主主義を担保する仕組みがよく分かりました。
会場となったビスタラウンジ(船の中の大講堂)は、空席がないほど多数の人が聴講に来てくれました。
法治国家アメリカの沖縄返還時の体制
アメリカは沖縄返還をするための国家の意思統一をジョンソン大統領時代から始め、ニクソン大統領時には返還条件を決めていました。簡単に言えば「核の有事持ち込み、米軍基地の自由使用、返還時の補償は1ドルとも払わない」でした。日本はこうした国家の政策決定は何もなく佐藤総理が「本土並み、沖縄はタダで還ってくる」という言い方の繰り返しでした。
日米間の返還条件は、ものすごくかけ離れていました。それでも返還になったのは、佐藤が任期中に返還実現を目指したため、アメリカ側の要請にことごとく譲歩し、ともかくも形はどうであれ返還さえ勝ち取ればそれでいいという方針でした。
それが今となっては負の遺産として残されており、米軍基地の永久的施設と自由使用、これに関わるさまざまな不平等条約、思いやり予算の継続です。
驚いたことは、こうした返還交渉でもアメリカは、法に則った手続きを進めており、日本側の特に佐藤総理の弱点をうまくつかんで日本側にすべてを譲歩させた交渉戦略は見事でした。米国の公文書公開でこうした実態がすべて露見してしまったのです。
沖縄返還に臨む日米政府の戦略を見ると、アメリカは国策として一貫した方針があり、交渉術で勝ち取る戦略ですが、日本は政府内がバラバラであり、佐藤の思惑が先行しました。その足下の脆弱性をアメリカは利用したのです。
日本の民主主義は司法が崩壊させている
筆者の前からの主張ですが、三権分離で民主義を担保しているはずの日本で、民主主義は形と言葉になっているだけであり、まったく機能していないことを講演でも語りました。
例えば沖縄返還でも、機密電信文を外務省職員から提供されたとして逮捕された西山太吉毎日新聞記者も、一審・東京地裁では憲法で保障された報道の自由による正当な取材活動として無罪であったものが、二審、最高裁でいずれも逆転有罪にされました。
他の沖縄返還関連の訴訟でも、一審で原告勝訴となっても二審、最高裁でひっくり返された事例があり、他の重要な行政訴訟でも同じように二審・最高裁で逆転で負けて、国のいいなりになるという事例が余りに多いのです。
行政訴訟は、日本では勝てないというのが通説になっており、国民間には何をやっても変わらない国という諦めが先行し、本来優れた国家として興隆されるはずの国が停滞のままに放置されている現状を主張しました。
講演後にさまざまな場所で乗船者と出会う機会があり、皆さんから分かりやすくてよく理解できたという感想をいただきました。