国民の考えと大きく違う安倍政権の安保法制化と国会運営

 読売新聞の世論調査でも惨憺たる数字

読売新聞世論調査

 上の表は、2015年7月6日付け、読売新聞に掲載された世論調査の結果を表にしたものである。この数字は、先に掲載された日本経済新聞の世論調査結果とほぼ同じである。

 この2つの世論調査によって、いま国会で論議されている安保関連法案対する国民の考えがはっきりと出ており、安倍政権が目指すものとは大きな違いがある。

 自民党・公明党の政権与党は、大幅な国会延長を決め、安保法制を何が何でも国会で成立させようとしている。一方で国民は、安保法制に反対であり、政府の説明は不十分であり、この国会で成立することにも反対だ。

 日本は国民主権であり国会議員は、正当な選挙で当選した代議員であるはずだ。しかし現行選挙制度は、少数の国民が過半数の議員を選出するようになっており、正当な代議員制度にはなっていない。

 憲法は、一人一票、つまり人口比例選挙を要請しており、今の選挙制度は「違憲状態」と最高裁は判決している。

 世論調査は、国民の声を凝縮した形で出ている数字であり、国会の議員は少数有権者が過半数議員を選出したいびつな選挙区で選出された人々である。国民総意ともいうべき世論調査結果と国会議員の思惑は、当然違うものになる。

 憲法は国民主権であるとしているが、現行の日本は議員主権になっている。メディアの報道が議員たちの思惑と違うものであったり、反対するものがあれば「懲らしめたやる」と吠えている政治家である。

 このような政治家を選出する有権者にも大いなる責任がある。日本は、立憲国家として真の民主主義を確立し、国民主権国家を実現しなければ、いつまでたっても後発国、途上国スタイルの国家運営から脱却できないだろう。

 そこから抜け出るのは、国民の自覚にかかっている。

 

 

 

 

 

 



正当性のない政治家が世論を無視する異常な政権与党

日経世論調査結果

 この表は、2015年6月29日付け、日本経済新聞の世論調査結果の報道である。

 いま国会で緊張状態になっている安保関連法案に関する国民の考えは、採決を強行しようとする政権与党の考えを真っ向から否定している数字が並んでいる。筆者は長年、読売新聞記者をしてきたが、世論調査でこんな数字が並んだことは見たことがない。

 しかもこれらの法制は憲法違反の中で進んでいることは、歴代の法制局長官が表明している。東京新聞の報道が次のサイトで閲覧できる。

 http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2015062002000118.html

  それではなぜ、この法案の成立に気が狂ったように熱心なのか。いま何か日本にとってどうしても必要な法案として迫られている事情があるのか。誰に聞いても「ない」という回答だ。それは、この世論調査結果の数字によく出ている。緊迫した状況があれば、数字は違うものになる。

 いまの政治家、政権に与えられているテーマは、経済回復、産業競争力、知財強化制度の取り組み、少子化対策、科学技術創造立国の取り組み、教育制度の課題解決など身近な問題が山積している。それらのテーマに必死に取り組まないで、なぜ緊迫していない安全保障法制に血道をあげているのか。

 同じ日経新聞の世論調査で、景気回復を「実感せず」という回答が75パーセントを占めている。これは絶望的な数字であり、これを受けて政治は必死に対応策に取り組むべきである。

 安保法制は、安倍晋三氏の個人的な思い入れを実現しようとする思惑にあるに違いないといういくつもの証拠が出ている。憲法改正の発言もよく聞くが、憲法問題を言うなら最高裁が「違憲状態」と判決している選挙制度を真っ先に解決して、日本に真の民主主義を導入し、正当な選挙による多数決で政策を目指すべきである。

 安倍氏は、若い人たちとの討論の場で「はっきりいってみっともない憲法だ」と明言している。当時の連合国から押し付けられた憲法という主張である。しかし現憲法を読むと国民主権の民主国家であるべき条文であり、不戦の誓いが条文として明確に出ているのは世界で例がない憲法である。これこそ日本国家の真髄であり誇るべきであって否定することはない。

 それを都合の悪いことには取り組まず、喫緊の国民的な仮題にも取り組まず、個人的な政治的思惑を最優先させて必死の形相で強行しようとしている。

 自民党、公明党の政権与党の大半の議員も情けない。安倍氏の歓心を買うように、自分たちに都合の悪い報道をする「メディアは懲らしめる」という発言が出ている。都合の悪いものには強権力で押さえつけようとする発想は政治家ではなく幼児の発想である。

 憲法で要請されているのは、一人一票実現による正当な国会議員であり、国民主権である。そのような根本的な問題を解決しないで政治ごっこをやっている場合ではない。政権をチェックするメディアの生ぬるい報道はどうしたことか。これにも大いなる責任がある。筆者から見てまともなのは、東京新聞、講談社などいくつかのメディアだけである。

 このような政権運営とメディアの態度を許すわけにいかない。一人一票実現運動を主導する升永英俊弁護士の言う市民になって断固として闘うよりない。

 

 

 


「知的財産推進計画2015」を読み解く

 発明通信社に連載中の私のコラム(http://www.hatsumei.co.jp/column/lists/2.html)を転載します。

今年の「知的財産推進計画2015」が先ごろ決定し、内閣官房知的財産戦略推進事務局から発表された。知財立国を宣言して小泉内閣から始まった知財戦略計画は、今年で10年を迎えた。大きな節目である。

さる7月1日、弁理士の日の祝賀会がホテルオークラで開催され、知財関係者が多数集まって懇親と情報交換の場となった。このとき内閣官房知的財産推進事務局長の横尾英博氏が祝辞を行い、今年の計画の柱を2点に絞って説明した。

四国TLOと川崎市の知財事業の実績を紹介

第1は地方における知財活用の推進であり、中小企業の知財戦略や産学連携の推進である。第2は、知財紛争の処理システムの活性化であり、端的に言えば侵害訴訟の見直しと知財の司法改革を提起したものだ。

第1の柱である地方の知財活用となれば、中小企業の活性化につながっていく。日本には約385万社の中小企業があり、産業競争力の源泉になっているが、 IT産業革命を迎えて旧態依然とした技術と経営では国際競争力を持たなくなり、多くの中小企業が苦戦している。これを活性化させるための知財戦略の強化策 をあげている。

 推進計画によると大学発の研究開発の成果を企業と結びつけるために作った技術移転機関であるTLOの承認数は、2008年の48機関から現在36機関まで減少した。一時のブームにのって作ったものの機能しないため、店じまいするTLOが12機関もあったことになる。

こうした中にあって推進計画では、徳島大学の特許権実施収入が、わずか1年で前年度の32.6倍、1億1486千万円まで増加させた株式会社テクノネットワーク四国(四国TLO)を紹介している。

同社の提携は、徳島大学・香川大学・愛媛大学・高知大学・高知工科大学など四国内にある20大学・高専となっている。工学・理学・医学・薬学・歯学・農学 など幅広い分野をカバーしており、四国だけにとどまらず山口・岡山・広島・長崎・鹿児島・宮崎・沖縄TLOとの連携協定をして活動の輪を広げている。

これまでの製品化事例として「子供から大人まで楽しめるピースを組み立てる遊具」、「内視鏡誘導補助具・エンド・レスキュー」、「ビワ種子由来エキスを応 用した製品」、「アフラトキシン検査キット」、「ヒドラジン分解技術による大量標準糖鎖調製」、「100%米粉パンの製造方法」など多彩な活動事例を発表 している。 (http://www.s-tlo.co.jp/club/markets/product/)

また川崎市では、大企業の保有する知的財産を中小企業に開放し、それを活用して中小企業が事業展開を行う支援を行っている。知財ビジネスマッチングであり、本格的に取り組んだ自治体として紹介している。

 


上の図は知財戦略推進計画から転載

社会起業家を育成するビジネススクールの社会起業大学(田中勇一理事長)が主催する『ソーシャルビジネスグランプリ 2014夏』において、川崎市経済労働局、公益財団法人川崎市産業振興財団、藤沢久美氏(シンクタンク・ソフィアバンク代表)などによる中小企業支援活動 が「政治起業家部門」においてグランプリを受賞している。 (http://www.city.kawasaki.jp/280/page/0000061040.html)

政府は、地方の中小企業が積極的に知財を活用した企業活動に乗り出すように支援を続けるとしており、地域の中小企業・大企業、地域の大学と産業界の連携を活性化させるための橋渡し支援基盤を整備していく方針を打ち出している。

知財紛争処理システムの活性化

これまでもたびたび指摘されているのは、特許侵害訴訟件数が日本は非常に少ないことだ。対GDP比で見ても、欧米の主要国に比べて少ないし、中国のほぼ 10分の1程度である。また権利者側の勝訴率もアメリカ、ドイツに比べて低いこともよく知られている。権利を持っていても保護されないなら、特許出願も登 録もしなくなる。

権利者の勝訴率が低いのは、国の知財体制が権利を守ってくれないということになり、外国企業は日本で特許権利を取得しても価値がないとしている。

先月、韓国に行った際に韓国特許事務所の所長と意見交換をしたが、韓国の企業の間でも日本に出願・登録しても正当に守ってくれないので出願することを躊躇している企業が出始めているという。特許出願件数の減少は、こうした事情も加担していることになるのではないか。

また権利者が中小企業の場合、大企業に比べて訴訟に勝てない傾向がはっきり出ている。中小企業は資金力が脆弱なために有名知財弁護士や一流法律事務所などに依頼することができず、法廷闘争では打ち負かされることが多い。

特許技術の内容ではなく、法理を駆使した文言・レトリック勝負になっていることも問題として指摘されている。

今年の戦略計画では、これまでタブー視されてきた司法の判断にまで踏み込み、次のような問題点を述べているので簡潔に整理してみた。

1.    日本の特許権侵害訴訟の件数は、先進国の中でも極めて少ない。

2.    権利者側の勝訴率もアメリカ、ドイツに比べて低い。

3.    中小企業の勝訴率は大企業のそれに比べて低い。

4.    権利者による侵害立証が困難である。(これでは「侵害し得」になる)

5.    裁判所で認める損害賠償額は、ビジネス実態ニーズを反映していない。

このような具体的な課題を列記して司法判断に改善を求めたのは画期的である。是非、関係機関は改善し、知財立国へのリスタートとしてもらいたい。

 

上の図は知財戦略推進計画から転載


日本弁理士会の日の記念祝賀会

  7月1日は弁理士の日である。筆者は、1990年代後半から日本弁理士会とはお付き合いがあり、多くの先生方から知財の基本をご教示受けた。

 弁理士の国家試験は、司法試験と並んで日本でもっとも難関国家試験とされている。特許が主体の分野なのでどうしても理系の人が多いが、意匠、商標になると文系の活躍の分野でもあり、最近は理系、文系関係なく多くの有意な人材が弁理士試験をパスして活動している。

 この日のパーティでは、どうしても年配の先生方との交流になってしまう。それでも多くの情報交流があった。中でも関口知財特許事務所の開口宗昭先生の話は、世界が国際化で大きな潮流になっている時代になっているのに、日本は立ち遅れているのではないかという話で盛り上がった。

 開口先生は、主として富山県砺波市のオフィスを拠点にしているようだが、最近、中東諸国での知財の動きを話していただき、非常に参考になった。

 弁理士はいま、世代交代の時期になっているというのが筆者の実感である。古い人たちから若い人たちへ、、その世代交代がうまくいっていない。70歳代の先生方はリタイアして次の世代にバトンを渡すことも重要ではないか。

 この日の懇談で、ある人が語った「私たちのライバルは、若い世代だ」という言葉はとても印象に残った。世代がライバルとは、あらゆる世界で通じる話である。がしかし、これが遅々として進まないのが日本である。楽しくも課題を再認識させたパーティでもあった。

 


上海点描・・変貌する中国社会・・下

上海QCAC

  変貌する調査会社の受託業務

 冒頭の写真は、上海の調査会社QCAC駿麒国際諮詢有限公司(略称・QCAC)を訪問した際の写真である。中央がQCACの藩総経理、左が安達孝裕・日本部担当部長、右が陸傑・事業推進部長である。同社は、主として日本企業のコンサルタント業務を受託しているが、特に模倣品調査と摘発では多くの実績をあげてきた。

 筆者とは10年以上前からのお付き合いであり、東京理科大学知財専門職大学院の教員時代には、藩総経理が研究室を訪ねてきたこともある。今回の取材で感じたことは、同社の業務が中国の産業構造の変革に合わせて拡大してきたことだ。

 これまでは模倣品摘発と調査に重点が置かれていたが、これを幅広く企業経営のサポートをすることに拡大してきたことだ。知財関係の調査に重点があったが、それを経営マネジメント、人事管理、人材調査などより質の高い業務に広げてきた。

 同社の得意は各種の調査である。たとえばある特定の人物調査、ライバル社の特定人物の行動調査、自社の人事管理などに必要な調査などである。中国社会で日本企業が経営するのは想像を絶するような局面を乗り越えていく必要がある。筆者な多くのケースを聞いてきた。

 QCACは、日本企業向けの業務を主体にしており、近く東京にも事務所を構える方針という。QCACの活動を見ていると、中国社会の変貌ぶりが見えてくる。

 不死鳥のようによみがえった白木学さん

 携帯電話のマナーモードを世界に広げた人物として知られる白木学さんは、かつてはアメリカのアップル社の携帯電話に格納したカメラの自動焦点用のモーターを100パーセント受注するなどこの世界では知らない人がいないほどの有名人だった。

 シコー株式会社をジャスダックに上場し、売り上げも100億円をうかがうまでに発展した。それが暗転したのは金融機関の勧めるデリバティブに手を出したためである。超円高が進んで多額の返済額が膨らみ上海に従業員1万人弱を抱えていたオートフォーカス、小型ファンモーター製造工場は立ちいかなくなり、ついに2012年12月に3億7400万円で上海の企業に譲渡された。

 ありていに言えば、経営が経ちいかなくなり倒産したということだ。筆者は、シコー株式会社の倒産までの3年間ほど、非常勤監査役として経営実態をつぶさにみてきたので、そのあらましは理解していた。経営トップの白木さんをはじめ、同社の経営陣の奮闘ぶりは涙なくして語れないほど壮烈な状況だった。

 どれほど努力しても為替の動向や、その為替を反映した金融商品への対応は、どうすることもできない。どこにも不満をぶつけることができない国際金融動向は魔物であった。一敗地にまみれた白木さんは、あれから2年余を経て、再びよみがえっていた。

白木

上海の工場で実験に取り組む白木学さん

 上海市松江区の、かつて大工場を構えていた同じ工場地域の一角に間借りして、小さな工場の経営を始めていた。製造するのは小型モーターである。これまでは、小型と言っても携帯やスマホに内蔵するような超小型モーターだったが、今度は自走車、ロボットなどに使うようなモーターであり、それなりに大きいものもある。

 その開発に取り組み、ついに従来からのモーターの性能をはるかに超えるモーターを発明して特許を出し始めている。すでにいくつかの企業からも引き合いが来ており、製品を納品した実績も出し始めている。工場を訪問すると、多数の機械に取り囲まれた場所で、白木さんは黙々と実験に取り組んでいた。

 白木さんがまた新しいモーターを引っさげて実業界に復帰する日を楽しみにしている。

 元気に活動するユニ・チャームの清水亘さん

 東京理科大学知財専門職大学院(MIP)1期生の清水亘さんが、ユニ・チャームの中国知財担当で活動しているので久しぶりに懇談する機会があった。筆者の宿泊したホテルから歩いて7分ほどに屹立するインテリジェントビルに入っていた。

 清水さんと変貌する中国社会と業界の事情、模倣品現場の話などを聞いて情報交換をしたが、やはり中国での企業活動の厳しさを感じた。

 帰国直前になって、不思議な体験をした。上海の知人に手紙を書いて投函したいと思い、宛先を書いた封筒をホテルのレセプションに持参し、切手を貼って投函したいと申し出た。普通、ホテルでは切手代を徴収して発送はやってくれるのだが、このホテルの従業員は、切手代すら知らなかった。

 国内に郵送する封書の切手代を知らない。3人ほどのスタッフが顔を寄せ合い話し合っているが分からない。郵便局へ行ってほしいという。言葉は丁寧だったが、あきれてものが言えない気持ちだった。それがまだ続いた。

 切手を貼らない封書を持参し、そのまま忘れて空港まで来てしまった。ANAの搭乗口まで来てから思い出し、搭乗口のスタッフの女性の中国人に切手代を出すから貼って投函してほしいと申し出てみた。そのとき「手数料」も含めて10元(約200円)を出した。

 若い女性は、まず封書の国内の切手代がいくらかを知らなかった。ホテルと同じようにその辺のスタッフに聞いていたが分からない。10元はしないという。もちろん、10元はしないが、ま、手数料も含めてという気持ちで封書と一緒に10元札を出した。

 しかし女性は、1元以下と思うので自分で負担するから10元は要らないと返してくる。どうしても10元札を受け取らないので、それではと筆者は1元札に変えて、せめてこれくらいは受けて取ってと懇願した。結局女性は、1元札を快く受け取り、封書は切手を貼って間違いなく投函すると言ってくれた。

 無事に帰国して知人にメールで問い合わせたが、1か月過ぎてもついに封書は届かなかった。あの空港の女性が、投函しなかったとは考えられない。中国の知人に聞いたところ、中国では手紙が届かないことはよくあることだから、その程度のことだろうということだった。

 また、中国社会の一面を見た思いだった。

 

 

 

 


上海点描・・変貌する中国社会・・上

 

 日本風レストランが増えているが中身は違う

 5がつの連休明けから1週間ほど上海に行ってきた。今回は中国の知財事情の取材であり、上海で新たに活動を始めた白木学氏の状況を見るためでもあった。

 上海には20回以上は行っているので慣れた都会であるが、今回は初めて定宿にしていたコンドミニアムを離れて知人の紹介する紅橋地域の3星ホテルに泊まった。部屋が広く、ウオシュレット完備である。バスタブはないが、設備に不満はなかった。これで550元であり割安だ。

 上海の地下鉄は、東京の地下鉄よりもござっぱりして快適だ

 地下鉄に乗ってみたら、東京の地下鉄に比べて上海の方がずっとインフラが整っている。全駅ともホームドアだしホームが広い。社内広告がないこともさっぱりしていて気持ちがいい。浦東空港からダウンタウンまで乗ったリニアモーターカーも快適だった。インフラは着実に先進国を急追している。 

  というよりも後ろから追いついていく国の方が都市インフラはよくなるのだろう。ビル建築を見てもしゃれたビルは上海の方が東京よりも多い。これは韓国のソウルでも同じことがいえる。ニューヨークやロンドンの地下鉄を筆者が40年以上前に初めて見たときに、古色蒼然とした地下鉄にびっくりしたが、それと同じことではないか。

DSCN1097時速430キロを超えたことを示すリニアモーターカーの表示板

 お昼と夜は外食になるが、いくつかのレストランで感じたことは、日本語で看板を出しており、いかにも日本人が経営しているように見せていながら、中国人が経営している「日本風レストラン」が増えていたことだ。メニューは日本風であるが、出てくる料理は明らかに違う。焼き鳥一つとっても違う。客は、中国人が主体であり、日本食ブームにあやかっているようでもある。

 上海は物価が高く、東京の一流レストラン並みの値段とサービスを売り物にするレストランはおびただしくある。そんなところは避けてリーズナブルプライスのレストランを探すとなると難しい。

 風邪を抜くためにスーパー銭湯へ行く

 上海に出発するときになっても風邪が抜けず、上海滞在中もずっと風邪をひいた状態だった。扁桃腺の炎症がどうしても全快しない。そこでいま上海で評判になっている日本人の経営するスーパー銭湯「極楽湯」に行ってみた。

 以前から上海の静安寺に近いホテルに中にスーパー銭湯があって、よく利用していた。風呂に入り、サウナに入り、食事もしてマッサージもできる。PCを持ち込んで仕事もできる。何時間いても費用は同じ。それとシステムは同じだという。

 

上海の「極楽湯」の入口付近である。

 

 行ってみると、駐車場には高級車が並び、入場するときからVIP待遇の人と並の人が区別されている。中のレストランは広く快適であり、PCで仕事もできる。サウナに何度も入って風邪の最後のぐずぐず状態を一掃することに成功した。

 結果的に3回も極楽湯に通って、完全に風邪を追い出したことになる。ただこの銭湯のレストランのメニューと味は日本人好みではなく、マッサージも上手とは言えないものだった。Wi-Fiが完備しているので仕事にはいいかなと思ったが、VIPはっぴを着たサラリーマン風のひとたちがVIP会議室でミーティングらしいことをやっているのが気になった。

 

 

 


長谷川博「オキノタユウの島で 無人島滞在アホウドリ調査日誌」(偕成社)

 

オキノタユウの島で

 長谷川博先生(東邦大学名誉教授)が、生涯をかけて取り組んでいるオキノタユウ保護と生態調査の日誌である。日本ではアホウドリと呼んでいるが、長谷川先生は、この呼び名は不遜ないいかただからやめようと提唱、山口県長門地方で呼んでいるオキノタユウがふさわしいとして、もうだいぶ前からこの呼称を提起している。

 確かに、陸の上では歩くのももどかしく、江戸時代から明治時代には鳥島を埋め尽くしていた数百万羽のオキノタユウが、羽毛や肉を取るために撲殺されていた。人間にほとんど取り尽くされて戦後は絶滅宣言までなった種であった。

 長谷川先生は1973年5月7日、京都大学大学院生時代にイギリス人の鳥類学者のランス・ティッケル博士と出会ったことから始まる。イギリス海軍の支援を受けて、博士が鳥島にオキノタユウの調査に出向いたことなどの様子を詳細に聞いてびっくりする。鳥島は1965年11月16日に気象観測所が閉鎖されてから無人島だった。

 ティッケル博士は、「鳥島は日本の島であり、そこで絶滅種に瀕しているオキノタユウの保護は、日本が責任を負っている」と長谷川博士にメッセージを寄せるが、この一言で長谷川博士は鳥島のオキノタユウの調査と保護に取り組む決心をする。

 この本は鳥島でたった一人でオキノタユウの生態を調査し、孵化して育った幼鳥に足環をつける活動を克明に記録した内容で埋め尽くされている。鳥島に滞在した1か月間を日誌風に書いているものではあるが、読み始めるとやめられない。そこには鳥島の自然、動植物の様子とオキノタユウの生態が書かれているだけでなく、長谷川先生のオキノタユウに対する愛情が行間に埋め尽くされている。

 鳥島に渡った当時、ヒナと成鳥合わせて71羽だったものが、すでに観測数が1000羽を超えるまでに回復している。筆者は、長谷川先生の調査の初期のころから読売新聞にその活動を掲載したり、調査の支援をしてきた。たいした支援にはならなかったが、その活動には敬意をもって見守ってきた。

 この本は、鳥類のフィールドワークをする研究者にとっては、バイブルのような資料になるだろう。そして一般の読者にとっても、絶滅種を保護しようと立ち上がった研究者の行動に共鳴し、ここまで続けてきた研究活動に感動せずにいられない内容になっているだろう。

 読み進むにしたがって、長谷川先生と一緒に鳥島で生活しているような錯覚に陥ったが、鳥島の自然の厳しさと生物たちの生態を肌で感じるような場面も随所に書かれており、自然観察書としても一級の資料である。

 

 


日本の首相に注文を付けた外国人の声明 恥じ入るのは日本国民だ

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写真は2015年5月8日付け日本経済新聞の報道

  アメリカなどで活動する日本研究者ら187人が、安倍(違憲状態)首相に対し「偏見のない過去の清算」を迫る声明を発表した。内外のメディアが一斉に報道した。

  一国の首相に対し、歴史認識で注文を付けるというのは、普通はあり得ない話である。それが堂々と行われたことで最もショックを受けたのは、安倍氏ではなく我々国民である。なんと、情けない国とその政治トップであることか。

 

 戦後70年も経って、その終戦記念日を節目に首相が談話を発表するとしていることを受け、先手を打って「歴史を歪曲するような談話はダメだよ」という事前ダメ出しを打って出てきたのである。もし、そのようなことをやれば、中国、韓国の反発だけでなく世界が日本から離れていくことを憂慮した知日家、親日家のメッセージでもある。

 なぜこのような情けないことになったのか。第一に安倍氏のこれまでの言動である。戦後レジュームからの脱却とかを主張し、日本がアジアで行ってきた過去の歴史を見直すかのような言動がある。そして憲法を「はっきり言ってみっともない憲法」とまで暴言を吐いている。

 このような軽薄な首相は、歴代の中でも突出している。太平洋戦争までに日本がアジアの各地で行った侵略行為、残忍行為は疑いようにない事実である。南京大虐殺でも殺された人数の真実ではない。そこに日本軍が何を目的に侵略していったのかが問題なのである。焦点をすり替えてはならない。

 中国本土に侵略したのは、領土ほしさと資源ほしさという目的以外合理的な理由は見つからない。当時の日本はABCD包囲網の理不尽さに対抗したという言い分もあるが、そのような包囲網を受けた日本の当時の指導者の国際感覚の欠如と浅薄な政治手法にむしろ原因があったというべきではないか。

 

 資源の乏しい日本が進歩するには、いつの時代にあっても知恵を絞り汗を流す施策以外あり得ない。外国に武力を行使して資源や活路を求めるのは間違っている。その中でも最も愚かな選択と決断は、太平洋戦争の開戦である。

 日米の国力を比較すれば、米国の数10分の1程度しかなかった弱小国の日本が、「神風」を頼りにして戦争を起こし、しかも国全体が焦土と化すまで戦争を続けたことである。 

 そのような指導者を戴いた過去は、日本人として情けないだけでなく世界に対して恥ずかしい思いだ。今回の国際的な知名人、学者らからの安倍氏宛の声明は、それに匹敵するくらい恥ずかしいものだ。それもこれも日本は、過去の戦争の歴史を自らの手で総括をしてこなかったことによるものだろう。

 戦争の責任は誰にあったのか。それを日本人として総括し、反省の総括を世界に発することができなければ、いつまでたっても「ドイツでは・・・」などと他国の事例を引き合いに出すだけで、結局は何も変わらない国で終わるだろう。

  このテーマについては、随時、発信していきたいと思う。

 


佐野陽子編「真夏の空は青かった」(サノックス)

真夏の空は青かった

 空襲警報が鳴ると、大人たちに手を引かれ、隣家との間に掘った防空壕に潜り込んだ。防空壕と言っても穴を掘って上に屋根らしい板をわたし土をかけただけだから、実際には何の役にも立たなかっただろう。トタン板を棒でたたくような連続音が響いていた。あとで分かったのだが、これが米軍戦闘機からの機銃掃射だった。

 筆者の終戦当時の記憶はわずかその程度だが、当時、10歳から10代最後の年代になっていた人たちが、記憶を持ち寄って編んだのがこの本である。学童疎開の日々、空襲に耐えた日々、飢えに苦しんだ日々、目の前で展開された地獄絵、軍国少年だった幼少期の思い出など、多数の戦時中の記録で埋まっている。

 このような体験をした多くの人がいなくなった。わずかに残された人々が戦争を知らずに歴史を修正しようとするような政治家たちも含め、誤ったかじ取りをしてほしくないとの思いをこめて作った本であろう。どの部分も平易な文体で綴ってあり読みやすく、事実の迫力で読者の心を打つ。

 憲法は占領軍に押し付けられたものであり、日本人の手で作り直す必要があるという主張を声高に唱え、日本国憲法をまるで悪しざまに言う人々がいる。日本と日本人は、戦後営々と平和憲法を尊重し、戦後の復興に取り組んだ民族である。それがあったからこそ、日本は多くの国々から支持され信頼されてきた。それを今になって手のひらを返すように自主憲法とか自主軍隊の保持などを憲法で明示しようとする勢力が日増しに強くなっている。これに対し筆者は、断固として抵抗する。

 そうした思いの一端が、この本の中で連綿と書かれている。戦後70年を迎えて、社会がざわついている。事を構えているのは政治家である。たまさか圧倒的多数を保持した政党が、70数年前に国の運命を変えたあの同じ道を歩むことがあってはならない。

 この本を作った人々に敬意を表し、新たな思いに浸っている。

 

 


驚異的に進化する中国社会

 家族付き合いの中国人の友人 

 今から15年前に知り合った中国北京の旅行業者の邢鋼さんとは、親戚付き合いである。北京に行けば私の大好きな水餃子のお店でゆっくりと懇談し、東京へ来れば居酒屋へ繰り出して楽しい懇談になる。

 15年前、北京に行ったときは、道路建設、ビル建設が始まったばかりであり、街中が混とんとしていた。世界のブランド品のデッドコピーが、これ見よがしに店頭に積みあげられ、観光客はニセモノ買いを楽しんでいた。筆者もニセモノツアーなるものを企画して、30人ばかり引き連れて北京を歩き回った。

 混とんとしていた中国は、あっという間に追いついてきた。進展したものでもっとも顕著なのはIT関連のツールと手段の使用である。インターネットモールは、世界トップの規模に成長し、携帯、スマホ、メールが驚くほど進化した。

 中国版ラインの威力を実感

 本日、邢鋼さんと懇談したが、中国のラインと言われているWeChatアプリを教えてもらい、すぐに交信した。ラインとまったく同じ機能をもったインターネット交信ツールである。アプリをダウンロードしたらすぐに、東京理科大学知財専門職大学院当時の教え子で中国と台湾、日本にいる中国人、台湾人らから多数のメールが来た。

 これには本当に驚いた。邢鋼さんの解説によると、中国人の多くがこのアプリで日常的に交信しているそうで、中国に行ったらこれで不自由なく情報交換できるという。中国でラインはつながらないが、その代わりWeChatはつながる。中国の国策に違いないが、その戦略には舌を巻く。

 このようにIT関連技術の普及は、中国社会をあっという間に先進国を追跡し、追いつき、追い越そうとしている。中国社会が成熟し、生活レベルが上がっていくことは、日本にとってもいいことである。

 

 1週間で一人平均100万円の爆買い

 邢鋼さんは今回、30人ほどの中国人ツアー客を引き連れて来日し、日本の観光を先導しているのだが、今年中に中国から300万人を超える観光客が来日するという。邢鋼さんが引き連れている中国人観光客はかなりの裕福層だが、1週間の滞在中に一人平均100万円を日本で使っているという。驚きである。

 経済的に成功した裕福層は、中国社会の進化の側面になっている。科学技術も大学の産学連携も知的財産制度も中国はあっという間に追いついてきた。筆者は15年前から60回ほど中国に渡航して中国社会の変転ぶりを見てきたが、過去を振り返って今を見ても驚きの一語である。

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 写真は、邢鋼さんからのお土産である。このようなお菓子類も、甘さ控えめになり日本の味に近づいてきている。中国の空港で売っている高くてまずいお菓子類、お土産類は、間もなく売れなくなるだろう。空港の免税店は利権とワイロの巣窟と聞いたことがある。日本人観光客が最大のカモとも聞いている。だから筆者は、空港では買ったことがない。

 

 日本の実態を知らない中国人の若い世代

 もう一つ、中国側の課題は、若い世代が日本を理解していないと邢鋼さんは嘆いていた。中国で垂れ流されている反日ドラマを信じ込んだ若い世代は、日本嫌いになっている。しかし来日して様々な体験をすると日本を見直し、たちまち日本ファンになっていくという。

 これは日中間の政治的な摩擦が生み出しているひずみだろう。それを超えていくのは民間交流である。そんなことを邢鋼さんと話し合い有意義な飲み会だった。