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民主主義の原理を悪用した旧統一教会

国会で多数決を保持すれば、なんでもできる。政治哲学や政治倫理が希薄でも、「多数」を政治のすべての論理として位置づける。そのためには、票が必要です。そのためには、カネと人手が必要です。それが日本の政治現場の最大の望みです。カネと人手。その望みを叶えてやる。それが統一協会の戦略でした。

そのためのカネは、霊感商法で掻き集める。人材は、マインドコントロールして信者に取り込んだ中から、資質の高い信者を政治家のもとに送り込んで役立たせる。これが、全体像ではないでしょうか。

角栄は常々「政治は数、数は力だ。そして力は金だ」と言っていた。これは、金と力は有権者の要求に応えるための手段だ、という意味。「目白詣で」と呼ばれていたエピソードがそのことを裏づける。

民主主義の原理を悪用した旧統一教会

「政治は数、それはカネの力」そのような政治哲学を最初に語ったのは岸信介と思います。国会で多数を握っていれば、何でもできる。それを実践したのは岸の実弟の佐藤栄作でした。沖縄返還交渉では密使・密約外交を展開し、「外交の私物化」を押し通して嘘の答弁を繰り返し、返還を自身の手柄にして退陣しました。国会で多数を握っていれば、何でもできる。その有様をつぶさに書いたのが拙著「沖縄返還と密使・密約外交 宰相佐藤栄作、最後の一年」(日本評論社)です。

民主主義は多数決の原理で成り立っています。しかし「政治は数、数は力、力は金」。このように明言したのは田中角栄であり、それを実践した政治家でした。国会で多数を保持していれば何でもできる。その伝統は引き継がれ、国会で嘘八百を語っても数で押し切れる。日本の政治風土が完成しました。政治信条・哲学・倫理は希薄でも、数でなんでも押し通すことができる政治風土を確立したのです。

モリカケ・桜を見る会の一連の事件は、国会で多数であればなんとでもなることを示してくれました。そのためには、票が必要だ。そのためには、カネと人手が必要だ。それが政治家の最大の望みになっていきました。カネと人手-その望みを叶えてやるのが、旧統一協会の戦略でした。カネは霊感商法で掻き集めてヤミ献金する。人材はマインドコントロールして信者に取り込んだ中から、資質の高い信者を政治の現場に送り込んで役立たせる。その代償として旧統一教会は政治からの庇護を受ける。この見えない糸で結ばれたギブアンドテイクが旧統一教会と政界を結んでいる全体像ではないでしょうか。

直近5年間だけでも被害相談は500件以上、総額54億円の相談が全国霊感商法対策弁護士連絡会にきています。そういう団体と付き合っている政治家は反社会的活動にくみしていることになり、絶対に許せないと私は思っています。


初期の旧統一教会を取材 

初期の旧統一教会を取材 写真花の押し売り

1970(昭和45)年1月29日の読売新聞夕刊社会面トップ
筆者が世界基督教統一神霊協会(統一教会)の初期の街頭活動を取材したのは1970年1月でした。当時、読売新聞社会部の警察担当をしているとき、都内の主ターミナル駅でカンパを装った「花の押し売り」を取材し、その異常な行動を取り上げました。


「ダニのような ヘビのような」しつこさを語った記事を読んでください。当時の警視庁もその異常ぶりを認めて、道交法違反として摘発する動きを見せました。
筆者は、当時の統一教会関係のリーダーであった笹川良一氏を追いかけ、大阪出張中のホテルで捕まえ、電話で取材しました。笹川会長は「そのような迷惑な活動は許しがたい。すぐにやめさせる」と強い調子で語りました。


驚いたことに翌日から、都内の繁華街で活動していた統一協会の花の押し売りは、一人もいなくなりました。警視庁も驚いていました。その後、別件で笹川会長にほんの短時間会った際に、正義感のある人物のように感じましたが、主義・信条まではわかりませんでした。


統一協会はやがてマインドコントロールで信者を増やし、霊感商法など反社会活動へとエスカレートしていきました。
筆者はその後、別のテーマの取材で忙しく、統一協会のことなどすっかり忘れていましたが、ほぼ20年後に霊感商法の被害者と偶然に出会い、統一協会の反社会活動のあらましを知って驚愕しました。


「花の押し売り」時代から、統一教会は警視庁からもマークされる団体だったのです。それが名称を変え、活動が地下に潜っていきましたが、実態は不条理な「カネ集め」であり、その多くが政界工作資金として国会議員に流れていきました。


安倍元首相の銃撃事件をもとにして、その反社会的活動の全貌が姿を現してきています。今度こそ、実態を解明し、多くの被害者を救済しなければなりません。筆者は社会正義とジャーナリストの立場から、自分のできることをいま考えています。断固としてやりたいと思います。