決断と実行できない政治は無能である

科学リテラシー欠如の日本の首脳

 
  「はやぶさ2」が3億キロ彼方の小惑星を探査して地球の上空に戻り、カプセルを切り離して再び新たな任務を帯びて宇宙の彼方へと飛行していった。人類と宇宙を結び付けたロマンをかき立てる画期的な成果である。
極めて難しい無人宇宙探査を精密な機器と技術開発と有能な人材によって成し遂げたものである。世界トップの技術開発が先導役になって、日本のあらゆる技術力の底上げにつながっていく。
 この画期的なはやぶさ2の成功を菅首相も井上信治・科学技術政策担当大臣も国民に向けてメッセージを発信した気配がない。何かコメントを出しているのかもしれないが、メディアの前に出てきて即席の記者会見くらいするべきだが、そうしたことはやらない。世界に誇れるほどの成果があってもだんまりを決め込むのは、科学リテラシーが貧困だからである。
 歴代首相は、ノーベル賞受賞者が出ると、突然、受賞者を官邸に呼んで祝意を表し、国民の前でその成果を誇るようなコメントを発している。メディアを意識したバカげたパフォーマンスである。
 
20年前と変わらぬ貧困リテラシー
 1998年6月、岐阜県神岡鉱山にある素粒子観測装置の「スーパーカミオカンデ」でニュートリノに質量がある可能性を示す有力な証拠が観測された。大発見である。日本の新聞は大きく報道しアメリカの「ニューヨークタイムズ」、「ワシントンポスト」も一面で大扱いの報道をした。当時のクリントン大統領がただちにこの成果をたたえるコメントを発したが、日本の首相も科学技術会議も学術会議も直ちにコメントを発しなかった。
 この成果は、2002年に小柴昌俊博士が「素粒子ニュートリノの観測による新しい天文学の開拓」の成果でノーベル物理学賞を受賞した。ときの首相は、直ちに官邸に受賞者を呼んでいる。このとき、田中耕一さんも化学賞を受賞して話題を呼んだ。
 
 誰も知らない科学政策の司令塔
 日本の科学研究のあらゆる指標が先進国の中で唯一、この10年間停滞している。科学論文もその注目度(1%引例指標)も予算も知的財産の各種指標も明確な停滞を示している。科学は未来に投資するものだが、この10年間積極的な投資を怠っている。
 その有様が、新型コロナウイルス対応策にも明らかに表れている。科学の根拠に準じたものではなく、小手先の業界救済、経済主導の政策ではないかとの疑念を起こしている。首相官邸には、客観的な科学根拠を示して国民を説得し、政策を進めるエネルギーも度胸もない。人材もいない。
 日本の科学政策の司令塔は、科学技術政策担当大臣だが、大半の国民は名前さえも知らない。来るべき21世紀は科学技術の時代であるとして、中央省庁再編後の2001年1月6日の第二次森改造内閣で科学技術担当大臣が新設され、笹川堯大臣から、現在の菅内閣の井上信治大臣までの20年間に、ちょうど30人の大臣を出している。20年間で30人の大臣である。しかも30人の大臣で二度務めた大臣はいない。 
 
 科学技術創造立国は、日本の国是である。都合のいいときだけ政府は、科学技術立国などと喧伝するが、その実像は、司令塔の存在感のなさと「名ばかり大臣」で、誰がなにをしているか国民に誇示することができない政府組織になっている。
 安倍内閣以来、首相官邸の行政に対する人事権が増強され、行政組織は官邸に顔を向けた忖度が跋扈している。首相周辺には、科学の専門家はいない。科学行政など視野にはないのである。
 はやぶさ2は、そうした国家の科学リテラシーの貧困をよそに、宇宙探査への飛行を続けていく。11年後の2031年7月に、また新たな小惑星に到達して私たちを興奮させるだろう。今年80歳を迎えた私は、その時多分、この世にはいないだろうが。
 
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