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2020年8 月

見え見えだった安倍退陣表明

 安倍首相が8月28日、退陣表明した。筆者の予想通りであり、8月25日以降はいつでもあり得ると予想していた。

 理由は、総理大臣として連続在任日数の最長記録を8月24日に越えた。これで安倍総理は、歴代総理の在任日数、つまり通算・連続ともに史上最多日数を越えてトップになった。この記録を塗りかえるためにこの一か月、安倍総理は必死で切り抜けを考えていただろう。8月に入ってすぐ、これ以上の治療は困難であることを医師から言い渡されていたことが諸般の情報で伝えられていた。まさに命をかけて記録更新を目指したのではないか。

 オリンピックの記録ではない。一国の宰相として国民のために指揮をするトップの座の在任日数を競うことは意味はない。しかしそこに意味を見出したところに安倍総理の限界があった。在任中のかくかくたる実績を誇示して退陣することはできない。ならばせめて、在任日数で歴史に名を残そうとしたに違いない。

 安倍総理の退陣と彼の叔父にあたる佐藤栄作総理の退陣時とは、よく似ている点がある。佐藤総理は、沖縄返還を成し遂げて退陣するという「時期目標」があった。それだけに沖縄施政権返還を実現したと同時に退陣することは、本人はもとより政界も国民の間でも分かり切っていた。1972年5月15日の施政権返還日をもって、佐藤政権は終焉を迎えた。

 前年の7月に佐藤政権の最後の内閣改造をおこなったが、それ以降のほぼ1年間の政界の話題は、ポスト佐藤の話題であり、メディアも露骨にそれを話題にした。国民は佐藤政権を飽いていた。理由は、秘密主義で後手後手政策であり官僚政治と言われた先送り政策に飽き飽きしていた。その時代、日本は高度経済成長期にあり、黙っていても国民はそれなりに生きがいを感じている時代でもあった。それに乗っただけの政権だった。

 政界もメディアも国民も、関心の中心はポスト佐藤にあった。佐藤の実績として残っている沖縄返還は、それから30年後にアメリカで公開された公文書によって、歴史上まれにみる密約と国民への欺瞞で固めた返還であり、国民も国会も全く知らないことを佐藤首相、福田外相ら一握りの政治家によって行われていた。その理由は、日米交渉を国会で明らかにし、国民の理解を取り付けることを避けて、単に任期中に沖縄返還を実現して功績として残すためだった。ことごとく密約で切り抜けたものだった。福田は佐藤延命に貢献し、その後の総理禅譲を信じていたから必死に佐藤を守った。

 密約の相手は、アメリカ政府だが、アメリカにとって密約の内容のどれもこれも自国に有利になるものであり、佐藤総理の功名心に付け込んだ法外な条件で返還に応じた。アメリカは、沖縄返還で「日本に1ドルたりとも支払わない」との基本方針を貫き、佐藤総理が内外で見栄を切っていた「沖縄は、核抜き本土並みで、タダで還ってくる」という言質に付け込んで取り付けた、有利な条件の密約だった。「タダで還ってくる」という宣言が、真っ赤な嘘であったことがアメリカの公開公文書が余すところなく暴いてしまった。

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 安倍総理は、何を実績として残したのか。にわかには思い浮かばないが、おかしな業績はすぐに、いくつも思い浮かんでくる。モリカケ事件、さくらを見る会の不祥事、文書隠蔽と大量廃棄、憲法の実質骨抜き、コロナ禍対応など最長在任政権の負の遺産は黒々と残された。これについてはいずれ評価の対象となり、明らかになっていくだろう。

 佐藤総理の最大の貢献と自負していた「核抜き沖縄返還」は、歴史に残る虚言であり、ノーベル平和賞も、ノーベル賞3大過ちの一つとして世界を驚かせた。筆者は「3大誤りの一つ」をノーベル財団のスティーグ・ラメル専務理事から聞いてびっくりした。その場に京都大学の矢野暢教授もおり、矢野教授もそれを書き残している。佐藤・安倍政権の評価については、さらに検証することにしたい。

2020・8・28


産業構造の新たな構築に後れを取る日本

 コロナ禍で世界の経済状況は停滞化へ向かっている。今年、上半期の業績報告は、大半の企業が昨年同期に比べて低く出ている。それなのに、アメリカの株式市況は、活況を呈している。特にハイテク企業が上場しているNASDAQ(ナスダック)は、史上最高値を更新している。東京ストックを見ているととても信じられない活況ぶりだ。

 2020年8月1日付け日本経済新聞の報道によると、2020年4月ー6月期の世界の企業決算によると、企業の3社に1社が赤字になっているという。都市封鎖の影響をもろに受けた自動車、小売・サービスなどは、業界全体が赤字となった。この中でトヨタだけは、1588億円の純利益をはじき出した。中国市場の販売が伸びたことと原価を下げたことがその理由と言う(2020年8月7日付け日経新聞特報)。

 原価を下げたとは驚いたが、トヨタ幹部は、「まだまだ無駄な工程を減らせる」と語り、豊田章男社長は「リーマン・ショック時より200万台以上、損益分岐点を下げることができた」と語っている。驚くべきコメントだ。

 製造業の原価を下げるための努力を日本では「乾いたぞうきんを絞るような努力」と表現し、もうこれ以上無理だと語っていた。しかしそれは、その時点の技術レベルで語っているのであり、技術革新があれば当然、乾いたぞうきんではなくなり、絞れば余分な水が出てくるはずだ。

 日本では伝統的に「もの作り」という言葉を大事にしている。太古の時代から農業で食ってきた日本民族はものを作り、作物を栽培することに注力し、その作業の中で創意工夫をしていった。作物を栽培することは、もの作りに通じる創意工夫の作業である。狩猟民族の欧米では農耕を下賤な民の作業としてきたが、日本は農作業こそ尊い労働であると位置づけてきた。世界中の王族・皇族の中で田植えをしたり養蚕をして国民の前で披露するのは日本の天皇・皇后だけである。労働の尊さと農業の重要性を象徴的に示されているのだろう。

 もの作りは、時代と共に中身が変わってきた。コロナ禍にあっても情報通信、電子機器類の企業は大幅に収益を伸ばしている。コロナ禍で伸びた企業と下降した企業と業種がくっきりと分かれた。これに拍車をかけたのがコロナ禍による生活と勤務状況の急激な変化である。これは社会構造の変革に発展し、産業構造の変革へとつながった。

 GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)に代表されるIT関連企業は、空前の活況を呈している。グーグルは検索と広告、フェイスブックは広告業で世の中の価値観を変えたが、この2社が伸びたのは、広告業で儲けたカネを次の世代の産業に投資し、その成果が出始めていることだ。果敢な未来への挑戦である。

 新興勢力だけではない。マイクロソフトは、クラウド時代のITシステムで市場に参入し、これまで確保してきたMSのソフトを武器に新たな市場を形成していった。アマゾンも宅配業で儲けた利益をクラウドIT産業に参入して新たな企業構造に作り替えてきた。

 日本にはそのような企業も産業も見当たらない。あるのだろうが目立たない。いつまでたっても日本の大企業の名前は従来とさして代わり映えしない。それでもいいが、企業は中身の勝負である。日本の企業であっても、世界の大競争の中でもまれているからまだいいが、政府・行政システムの時代遅れは、コロナ禍によって暴かれてしまった。

 いまどき電話・ファクス主体の情報のやり取りが指摘されたり、巨額の税金を投与してマスクを配布したピンボケ施策は世界中の笑いものになっている。日本の組織は新しい改変に臆病である。前例を尊重することで結果的に無難な選択になっている。かつての時代はそれでもよかった。

 いま情報は瞬時に地球を駆け巡り、工業生産の設計はすべて電子情報となった。世界を席巻した日本の金型技術は、いま機械と情報に置き換わってしまった。名人芸にまで昇華した金型職人ワザは必要なくなり、コンピュータと機械に置き換わった。それもたった20年の間に世界は変わった。トップランナーは中国だった。日本はとうに中国に抜かれていったのである。

2020年8月7日