スタップ細胞事件の2冊を読む
2016/04/10
世紀の大発見か世紀の捏造事件かで世間を騒がせたスタップ細胞事件の核心に触れる書籍が出版されている。
毎日新聞記者の須田桃子さんが書いた「捏造の科学者」(文藝春秋社)とスタップ細胞を発明した小保方晴子氏が書いた「あの日」(講談社)の2冊の本である。
読んだ感想を書いてみたい。
最初に小保方氏の本を読んだが、当然のように自分の立場を中心に書いている。これをおかしいとは思わない。人は誰でも自分のことを書けば主観的な記述になる。
スタップ細胞のトラブルについては、若山照彦山梨大学教授の責任を強調している。むろん、小保方氏自身の責任も書いているが、大きな過ちは若山教授にあるとする書きぶりなので論評に値しない。若山教授に、共同研究者としての瑕疵はなかったわけではないが、筆者はあえて不問にする。
その理由は、若山教授が間違いのない学術的な対応をしたとしても、小保方氏の理解できない実験・研究のやり方をとがめることは不可能だったと思ったからだ。
理研の最終報告にもあったが、数々の不可解な事実をあげ、スタップ細胞は最初からなかったことと、小保方氏がやっていた実験・研究はES細胞をもとにした可能性と結論づけていることを理解したからだ。
須田さんの著作は、ドキュメンタリータッチで迫真の筆さばきはさすがである。筆者も新聞記者をしていたので臨場感が伝わってきた。アマゾンのカスタマーレビューをざっと読んでみると、やや評価は低いと思ったが、それの多くは小保方氏の著作の影響を受けているように感じた。
これを読んでいてジャーナリストとして痛感したことは、いかに人によって解釈が違うかというその落差である。改めて思った。仮に小保方派と須田派に分けると、その立場によって論調はがらりと変わってしまう。
須田さんの書籍を読んで感じたことの最大は、インターネット時代の取材、メディアの在り方の変革である。
筆者は今年76歳の老年だから現役時代の感覚でものを判断して語っても意味がない。インターネット時代のスピード感覚と多様な情報のやり取りが、時代の趨勢を支配していることを須田さんの書物を読んでジャーナリストとして実感した。
須田さんは、亡くなった笹井芳樹先生とメールのやり取りを約40回もやっていたという。この事件の当事者でキーパーソンとなっている笹井先生とこれだけ濃密なコミュニケーションを取っていたとは驚きである。それだけでも、須田さんが書いている内容を重視せざるを得ない。
スタップ細胞事件は、日本の研究現場と大学の教育現場に多くの教訓を残した。小保方氏が悪いとか若山教授の責任を問うことをしてもこれからの展望には結びつかない。
反省するべきは、学術研究現場の後進性と理研の後手後手の対応など、研究組織の後進性をいかに近代的に改革するかという次の命題である。これは学術現場だけでなく、日本社会全体を覆う課題である。
人は偉そうなことを言っていると思うかもしれないが、70歳を過ぎるとこのようなことをどうしても言いたくなる。それが真の課題ではないかと思っている。
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