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中国大使館で沖村憲樹氏の中国国際科学技術協力賞受賞祝賀会

中国大使館で沖村憲樹氏の中国国際科学技術協力賞受賞祝賀会
 程永華・中国大使主催の祝賀会が、2月18日、中国大使館で開催されました。多くの日中の関係者が集まり、楽しい懇談の時間を過ごしました。
 程大使は挨拶の中で、「沖村さんは長年、日中科学交流に尽力されたので、その功績を称えて今回の協力賞に推挙しました」と語り、日中の科学交流を一貫して推進してきた沖村さんの功績を称えました。
 また程大使は、1995年からこの授賞制度が始まり、これまで17カ国、101人の受賞者が出ており、うち日本人は12人いると紹介し「世界の国々の中でも日本人の比率が高い」とも言及しました。
 答礼に立った沖村さんは、文部科学省など日本政府の支援で様々な日中科学技術交流を実施してきた歴史を語りながら、「日本の政府やJSTなど多くのスタッフの協力があっていただいた賞である」と感謝の気持ちをにじませて締めくくりました。
 また来賓の祝辞に立った有馬朗人先生は、「これからは日中韓で力を合わせて世界平和に貢献する時代である」と語り、日中韓の科学技術交流の推進が重要であると主張しました。
 祝賀会でしたが、終始、楽しい懇親会であり、日中の様々なテーマの情報交換会でもありました。

1程大使 (2)   2沖村氏

2土屋次官    3乾杯

3乾杯CIMG1649     4藤嶋学長と沖村さん

 


日本の企業社会に巣くう「産業スパイ王国」を返上できるのか

産業スパイ活動の実態を詳細に書いた本の出版

  日本は、以前から産業スパイが跋扈する「産業スパイ王国」と言われてきた。企業の中で不遇をかこっていたりリストラされた従業員が、韓国、台湾、中国に渡った技術を不当に漏えいしたり企業情報を持ち込み、多額の報酬を得ているという噂が絶えなかった。

 これは単なる噂ではなく、真実であることを決定づけたのが、2012年4月、新日本製鉄(現・新日鉄住金)が、「特殊鋼板の製造技術を盗まれた」として、元従業員技術者と韓国の鉄鋼メーカー、ポスコに損害賠償を求めて東京地裁に訴えた事件である。
 1990年ころに新日鉄を辞めていった複数の技術者たちが、企業秘密になっていた特殊鋼板の製造技術をポスコに流し続け、ポスコはその技術を使って新日鉄が独自に開発した鋼板技術に追いついてきた。

 この事件は2015年9月、ポスコが300億円を新日鉄住金に支払うことで和解した。ポスコが今後、特殊鋼板の製造販売に関するライセンス料を新日鉄住金に支払うことなども合意事項に含まれているとされている。
 ア メリカでの訴訟なら、軽く1000億円を超えた損害賠償支払いと予想される。和解が異常に多い日本の知財訴訟で、ポスコは救われたのではないか。韓国の大 手企業が、日本では正当に特許を守ってもらえないので、日本には出願をしなくなっていると聞く。アメリカの大手企業も同じである。

                             

                                                           渋谷高広氏の著書

 産業スパイ活動は、地下に潜って実情が分からない状況が続いていた。その実情を丁寧な取材と裏付けで書いた本「中韓産業スパイ」(日経プレミアシリーズ)が昨年出版されて話題となった。

 執筆者は日本経済新聞社の渋谷高弘・編集委員である。第1章をこの新日鉄産業スパイ事件の顛末で埋めており、詳細に訴訟での争点が解説されている。 それを読むとポスコ側は、訴訟理由とした不正競争防止法違反の対象になる営業秘密の管理が不十分だったとする理由を執拗に追及している。

 つまり日 本の旧不正競争防止法では、営業秘密であることを立証する条件が厳しすぎるとして使い勝手が悪いとされていた「欠点」を衝いてきたことになる。こうしたこ ともあって昨年、改正不正競争防止法が成立し、今年1月から施行されている。罰則が引き上げられ、警察などの捜査当局は被害届がなくても捜査・摘発できる 法制度に改正した。

 さて渋谷氏の著書だが、これまで話題となった日本の産業スパイ事件を検証し、旧不正競争防止法の欠陥と日本企業の営業秘密管理の取り組み、そして中国、韓国などに流れていった技術とスパイ行為の手法などについて詳しく記述している。

 この本は、日本企業の知財部門のスタッフにとって必読の書である。企業が産業スパイから守るための処方についても言及しており、サイバー攻撃から守る術やセキュリティ対策にも広げている。

                          

改正不正競争防止法でどれだけ産業スパイを摘発できるか

 日本企業の中に潜り込んでなかなか露見してこない産業スパイの実態だが、2016年2月9日付け、日本経済新聞の社会面トップで、企業が積極的に捜査当局に情報提供してスパイ行為を摘発するべきとの主張で報道している。

 この記事では、企業側は産業スパイに被害があっても顧客への信用棄損を恐れて警察沙汰にしたくないという風潮を報告している。警察でもこうした事実 をつかんだ際には独自に捜査して摘発できるために、専門の捜査員を要請し、企業にも積極的に相談を促すように働きかけているという。
この報道も参考になるので、是非、企業の知財担当者は読んでほしいと思う。

 


教育でも先進国を猛追する中国の本気度

   中国の教育現場は巨大なエネルギーを内包して、先進国型へと急変して いる。中国政府は、教育こそ立国の基盤になるとの方針を強力に推進しており、都市と地方の教育格差の解消策と同時進行で、理系・イノベーション人材のエ リート速成策もダイナミックに展開している。教育にかける国民の熱気が沸騰しており、10年後、中国の教育レベルは間違いなく先進国の一角に食い込んでく るだろう。

 二大課題を同時進行で強力に進める

  中国政府が教育施策に本格的に取り組んできたのは、21世紀になってからである。国の発展には教育が最重要課題であることをことあるごとに国民に訴え、重点的に予算配分をしてきた。

 教育費の国家予算は長い間、GDPの2%前後だったが、2000年以降増額に転じており、12年には4%を超え、その後も増加している。ちなみに10年の日本は3.6%であり、先進国は5%を超えている。

 中国は義務教育に予算を重点配分しており、グラフで見るように、小・中学校の教育予算は、近年、急進的に右肩上がりになっている。グラフは名目値だが実質値もほぼ同じである。

 小学校の児童1人当たりの教育予算の推移

 出典:中国・国家統計局「全国教育経費執行状況統計公告」(1996-2010)

  • 出典:中国・国家統計局「全国教育経費執行状況統計公告」(1996-2010)

  中学校の生徒1人当たりの教育予算の推移

 出典:中国・国家統計局「全国教育経費執行状況統計公告」(1996-2010)

  • 出典:中国・国家統計局「全国教育経費執行状況統計公告」(1996-2010)

 

 約6万人の教員を輩出

  予算では、学校の施設設備にとどまらず、教員の養成、教員の 質の向上、学校間の格差是正のための教員の流動性などを同時並行で一挙に進めてきた。たとえば、教員養成のための師範大学を拡充し、成績のいい学生は授業 料免除プラス生活費補助を行っており、すでに6万人近い教員を輩出している。

 一般の大学でも教員養成コースを拡充してきた。また優秀な教員を育成するための施策を進め、都会と農村の格差を是正するために、教員を強制的に異動させたり定期的に配属先を交代させたりするもので、都市と農村間の異動には経済補償まで用意している。

  義務教育から大学教育まで全般的な教育の底上げ、同時に知的レベルの高い人材育成も並行して進めてきた。それが重点校施策である。

 高校の中でも重点校に指定された高校は、予算の投与で施設設備を充実させ、質の高い教員を配置し、徹底した英才教育を展開している。飛び級制度が設けられており、小・中・高一貫校や中・高一貫校も増えてきている。

  北京、上海など大都市には、重点高校が多数ある。中には米・ 英・カナダなどの高校のカリキュラムをそっくり採用し、教員の半分は外国人が占め、授業を英語で行っている高校もある。卒業後は、中国の大学に進学するの ではなく、欧米の有名大学に直接進学する生徒が増えている。

 また、北京市は「●翔計画(こうしょうけいかく:●翔とは大鷲が天空を飛翔すること)」を展開しており、こちらはイノベーション人材育成の高大連携型の高校である。拠点校29校と大学・研究所36機関を指定しており、高大が連携して高度な人材育成に取り組んでいる。

  欧米に留学する生徒や学生も年々、若年化してきている。10年の中国人の留学生のうち高校生以下の留学生は7万6400人となり、全体の留学生の20%になっている。留学生の低年齢化は、年々、高くなってきた。

 特に中国とカナダとの間では、ダブルディグリー制度(複数学位制度)を取り入れるなど教育連携が急速に進んでいる。

  北京市第8高校では、小学4年生を入学させる制度を設置し、優秀な児童を取り込む戦略を展開している。小学4年生の選抜試験は、体験入学と行動観察テストを導入し、単にペーパーテストがいい児童だけ選抜するわけではないという。

 入学後も研究性、実践性を評価の対象にし、文理の向き不向きなどを見ながら、資質に合ったクラス分けを行い、個性を伸ばす教育を進めているという。

  中国人民大学附属高校は、10年から中国科学院、中国社会科学院と提携し、「突出したイノベーション人材早期培養実験クラス」(以下「早培クラス」)を開設し、各分野のリーダー人材を育成することを目標に進めている。

 早培クラスでは、「学科の壁を取り払い、学科間が交差・融合 する」方式を採用し、中学・高校の教材を統合し、教学内容を拡大。また1クラス10~20人という少人数クラス制度を採用し、生徒は国語、心理、生物、化 学、科学技術イノベーション活動、専門家講座など、11種類の中から研修課題を選ぶことができる。指導教官制度を取り入れ、専門家、学者などを学校外から 招き、生徒の興味や特徴に合わせた学習指導を行っている。

 ※●は皐の「白」が「自」でつくりが羽の旧字体

 拡大する補習授業教育(塾教育)とその産業

  中国はこれまで一人っ子政策を採ってきたので、子どもの教育 にお金をかけるのは当然の成り行きだった。高学歴を目指し、有名大学に子弟を入れることの競争となり、しかも重点高校などが出てきたために、子弟を競って いい高校や大学に入れる風潮が高まった。特に中学・高校への入学を目指して学力をつけさせる競争が激しくなってきた。 

  学校以外で教育を受ける代表的なものは塾であり家庭教師であ る。中国ではこれを「校外補習教育」(ここでは「塾教育」と呼ぶ)としている。中国の行政機関は、公式的には「塾教育は個人の問題であって行政機関として 関わることがない」としてきたが、2000年以降、あっという間に塾教育は世論を形成するまでに膨れ上がってきた。

  上海で企業を経営している筆者の知人の一人っ子の長女は、小学生時代から大学教授を家庭教師にしていた。中学卒業後は、イギリスの名門校に留学している。

 大都市の所得の高い家庭の場合、小中学校の教育費に日本円で1 か月10万円~20万円をかけるのは普通である。中国は夫婦共働きであり、子の面倒は祖父母が見る。つまり子供の両親が働き、祖父母が孫の面倒を見る。教 育の経済的な負担は、祖父母と両親が一緒になって負担することになる。

 大学、高校教師が家庭教師になっている人が多く、中国の富裕層は教員が多いとも聞く。

度肝を抜かれた中国視察の日本人教師

  15年9月14日から6日間、国立研究開発法人・科学技術振興機構(JST)、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の支援で、NPO法人ネットジャーナリスト協会主催の「理科教育ルネッサンス・理科の達人先生海外視察」が行われた。

 理科教育の立場から中国の教育現場を視察する目的であり、中国を代表する大学・研究機関や高校などを駆け足で見学した。同行した中国総合研究交流センターの趙晋平フェロー(九州大学教育学博士)に、状況を聞いた。

  • 北京第35高校の授業風景
    北京第35高校の授業風景
  • まるで大学並みの施設を持っている北京第35高校
     
    まるで大学並みの施設を持っている北京第35高校

 中高一貫校で進学校として有名な北京第35高校では、生徒の研究発 表を聴講したが、起き上がりロボット、指ロボット、人工雷の研究など、どの研究にも独自視点があった。内容も高度なものであり、実験棟などの設備は大学並 みであったという。若く優秀な教員を配置し、スポーツ、伝統音楽にも取り組み、勉強一辺倒という学校ではなかった。

 上海市甘泉外国語高校は、日本語を第1外国語とする上海市で唯一の高校である。10年前に筆者も趙先生と訪問したことがあるが、校長が派手なアロハシャツ姿で出迎えてくれたことがうれしかった。

 授業をしている教室をのぞいたとき、なんとなく日本語で「こんにちは」とつぶやいたら、怒とうのような叫びで「こんにちは!」と返ってきたので仰天したことがある。

 これまで多くの日本語を話せる人材を育ててきたが、いまでは 英語、韓国語、独語、仏語、露語課程に広げており、国際的な人材養成高校になっていたという。一方で、語学だけでなく、理系の授業と実験にも力を入れてお り、どちらかというと理系人材の育成高校になってきたようだ。

  視察した一人は「指導者が先導して強力に政策を推進できる中国は、民意よりも中央政府の判断で国家が動くため、研究開発や教育でも党と政府の方針で進められている。最先端科学研究に国家の予算が潤沢に投入されているのが中国の強みである」(要旨)と語っている。

 これは筆者の見方とまったく同じである。一国の教育行政は、民意の合意で進めるものではなく、政府の強力な教育哲学・施策方針・将来展望で進めるものである。

 中国の場合は、「先進国に追いつき追い越す」という大命題がある。いいか悪いかの問題ではなく、国の現状を認識して次世代へ効率いい教育施策を進めざるを得ないのである。

中国の劣等生の吹きだまりになりかねない日本の大学

  中国の普通の大学に合格しない子を安易に日本の大学に「留学」させる例が増えているような気がする。留学というと聞こえはいいが、落ちこぼれを拾ってくれる日本の大学に子弟を預けるという構図である。

 実際、「アメリカやヨーロッパは遠すぎる。日本は近いし、日本語も中国語から来ているから簡単だ」と語っている親がいた。

 10年後、日本の教育現場は中国に追い抜かれている可能性がある。教育は短期決戦である。歴史や伝統がモノを言う世界ではあるが、現実の成果は歴史や伝統ではなくなってきた。

 20世紀末から21世紀にかけて世界的に興隆してきたIT産業革命の中で勝者になるのは、潮流に乗って改革を進めたものである。10歳の子供は10年後20歳になっている。教育の成果は早い。この10年間は、その後の100年間に影響を与える。

 日本の教育現場の課題を検討している10年間に、後発国の中国が追いついてくるだろう。そのような認識を日本の政治家、行政官が持ってほしい。