さる1月22日に開催された第123回・21世紀構想研究会は、研究会のアドバイザーでもある安西祐一郎先生が、「日本の教育と科学技術 ~現状と将来展望~」のタイトルで講演を行いました。
その主な点を報告します。
科学技術関係予算の伸び率が停滞
多くの基礎的なデータを駆使しての講演でしたが、重層多岐にわたる日本の教育現場の課題は、聞いているだけで気が重くなり、教育改革の抜本的な取り組みの必要性を痛感しました。
2015年の日本の文教・科学振興費の予算は、5兆3613億円でした。社会保障費予算は、31兆5297億円ですから、科学振興費の約6倍です。将来にかける予算の6倍を高齢社会になってきた社会保障費に追われている日本の縮図を見る思いです。
科学技術・教育予算に関する国際比較を見ると、日本の将来にかけるお金の使い方がよく出てきます。各国の科学技術関係の予算を2000年度に100とした場合、中国は10倍以上の1075であり、驚異的な伸び率です。
韓国が457、アメリカ162、ドイツ158、イギリス144といずれも順調に伸びていますが、日本は111ですからこの10年間で1割ちょっとの伸びです。
国として将来に投資する科学技術関係予算が停滞している日本の将来は、本当にどうなるのかと考えざるを得ませんでした。
教育予算も各国比較で最低
これは教育予算を見ても同じです。2010年のGDP比3.6パーセントが日本の予算規模だが、アメリカ5.1、イギリス5.9、フランス5.8、中国4.0(2012年)などとなっています。
高等教育機関にかけるお金の対GDP比でも、日本は0.5パーセントですが、韓国0.7、アメリカ1.0、フランス1.3、イギリス0.7、OECD平均は1.1となっています。
日本は、親が負担している金額が多く、人材育成は国がやるという意識が低く、国民が取り組めと言う図式に見えます。
安西先生は「収入の多い家庭に生まれないと、有名大学に行けないということになりかねない」と語っていました。たとえば東大に入学した学生の親の年収は、非常に高いことが実証されています。
この数年の中国の教育改革は、高校と大学・研究機関を連携する高大連携で優秀な人材を育成する政策を大胆に進めていますが、日本はどうでしょうか。
安西先生の講演では2019年から20年までに「高大接続システム改革」が開始された後の変革について解説してくれました。
まず家庭での子育て、幼少中学校段階の変化が出てくるでしょう。学習指導要領の抜本的改定、職業教育の改革、企業の採用・処遇の仕組みの改革、地方創生への貢献などをあげていました。
これからは教師が一方的に教えるという構図ではなく、協働学習、個別学習などが展開され、ICTツールも教室でごく普通に活用される時代になるでしょう。
社会改革としての教育の転換について安西先生は「十分な知識・技能をもち、それ を活用できる思考力・判断力・表現力を臨機応変に発揮でき、主体性をもって多様な人々と協力して学び、働く力が身につく教育の機会をすべての子どもたちが 持てるようにするにはどうすればいいか」という課題を提起していました。
大学・高校生の質の低下に歯止めをかけたい
安西先生の講演の中でショックだったのは、日本の高校生の現状報告でした。 1990年と2006年を比較したものですが、偏差値45未満と偏差値55以上の高校生の平日の学習時間は、この間の変化はほとんどありませんでした。と ころが偏差値40-55までの中間層にいる高校生は、大幅に学習時間が減っていました。
たとえば1990年当時、平日112分の学習時間があった生徒層が、2006年にはほぼ半分の60分までに減っていました。つまり高校生の中間層は、ますます学習する時間が減っているということです。
また進路について考えるときの気持ちで「将来、自分がどうなるか不安になる」とする生徒の国際比較を見ると、日本は38.7パーセントもあるが、アメリカ17.7、中国12.3、韓国33.5パーセントになっています。
また、大学生の1週間当たりの学修時間の日米比較を見ると、日本は0-5時間しか学修していない学生は3分の2の66.8パーセントもいるが、アメリカは15.6パーセントです。
1週間に11時間から15時間、学修する学生はアメリカで58.4パーセントもいるのに、日本はたった14.8パーセントです。
日本の学生は勉強しないことがこれでもはっきりしています。また、就職受け入れをしている企業側の感想を見ると、今の学生には「主体性」「粘り強さ」「コミュニケーション力」の不足を感じます。大学教育には、重要な課題が課せられていると言えるでしょう。
さらに安西先生は、大学入試について、知識・技能だけ問うのではなく、思考・判断・表現力を問うことが重要だと指摘しています。
この日の講演では、盛りだくさんの内容があったため、日本の科学技術の課題までは至らず、時間の都合で主として教育問題に絞った内容になりました。
講演後の質疑討論の場で、一番問題になったのは、この課題を共通認識として多くの人に持ってもらうことと、日本の各界のリーダーや政治家にも知ってもらうことが大事だということでした。
今後、教育問題については、引き続き21世紀構想研究会でも積極的に発言する機会を作り、多くの識者の共通認識になるように展開したいと思います。
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