ノーベル賞は日本の大学の家元制を突き崩すか
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大村智先生のノーベル賞受賞で暮れた2015年を回想する

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 2015年は、筆者にとって格別の年となった。3年前から、ノーベル賞受賞を確信していた大村先生が、まさに受賞したからである。

 大村先生と筆者の出会いは、2011年4月だから、あれから4年後にノーベル賞を受賞したことになる。しかしこれには、前段がある。筆者は2005年から、東京理科大学知財専門職大学院の常勤教授として知財戦略論を担当していた。そのときオムニバス授業に荒井寿光・元特許庁長官(内閣官房知的財産戦略推進事務局長)を講師として迎え、授業を行っていた。

 荒井さんは、その授業の中で大村先生を「日本で断然トップの産学連携の実績を誇っている科学者です」と紹介し、韮崎大村美術館の写真と共にその活動を紹介していた。筆者もそれを聞いて大村先生の業績を調べたり、ある大学の研究者に聞いていた。確かに素晴らしい業績を持っている科学者であることがわかった。

 しかし本格的な取材を先延ばしにしていた。それが2011年に大村先生が理事長をしている女子美術大学と東京理科大学が提携することになり、大村先生と東京理科大学の塚本桓世理事長、藤嶋昭学長との鼎談が行われ、その司会役に筆者が担当した。そこで初めて大村先生にお目にかかった。

 それから大村先生の評伝を書こうと思い立った。動機は、優れた学術実績を蓄積しただけでなく、人間的な魅力ある人生を重ねてきた研究者であったからだ。山梨県韮崎市の生家にも行って、自然と親しんで育った子供時代の様子も取材してきた。大村先生は、過去の出来事を克明に書き残しており、4冊のエッセイ集まで出していた。その記録を読んで先生の実相が一層色濃く印象に残った。

 「大村智 2億人を病魔から守った化学者」(中央公論新社)を上梓したのは、2011年である。この本のタイトルは、最初、「2億人を病魔から守った化学者」を主題にしたいと思っていた。しかし中央公論新社の横手拓治氏は、「この本は大村智先生の実像を描いた実録であるから、人物の名そのものを主題にしたほうがいい」と主張し、そのようにした。

 大村先生は、学術的な世界では有名だったが、ちょっとテーマが違った研究者にとっては無名に近い研究者だった。まして一般の人には知られていなかった。選挙にでもでるようなタイトルに、やや違和感を覚えた気分だったが本になってみるとこれがなかなかいいタイトルだったと思っていた。

 ノーベル賞受賞後は、絶版状態になっていたこの本を増版して世に再び出したが、同時にメディアからは嵐のような取材申し入れが殺到した。最初は対応に当惑したが、ある人が「あなたが責任を持って大村先生の実像を語るべきです」と言う助言を聞いて、徹底的にメディアの取材を受けて立とうと決心した。生半可な情報を伝えれば不正確な報道が展開されるだろう。ならば徹底的に情報を提供したほうが、大村先生の実像を知ってもらうことになる。

 ほどなく東京理科大学の藤嶋昭学長が「ハードカバーのあの本は、学生に読ませるにはちょっと硬い。高校生向けの本をすぐに書いてほしい」という助言をいただいた。「あなたなら1週間で書けるでしょう」という「挑発」である。これでは書かないわけに行かない。ハードカバーを下敷きにして、学術的な細かい記述は極力省きながら、新書版で「大村智物語」(中央公論新社)を書きあげた。

 そのころ東京理科大学のホームカミングデイに大村先生をお迎えして、トークショーがあった。私がインタビューアーになったものだが、その会場で毎日新聞出版・児童書担当の編集者、五十嵐麻子さんと出会って名刺を交換した。すると翌日、五十嵐さんが面会を求めてきた。児童書を書いてほしいという相談である。ハードカバーの本は一般向け、新書版は高校生、大学生向けとそろったので、児童書も書いたほうがいいかなという気持ちになった。これを書けば、全年代層に向けた3部作になる。それで引き受けて大車輪で書き上げた。

 大村先生の研究人生をこのような形で書いたが、研究の内容についてはほとんど書いていない。つまり微生物を採取し、どのようにして分類し、産生する化学物質を抽出して役立つものを取り出しているのか。サイエンスの部分が抜けていることに気が付いた。今年の宿題は、このサイエンス活動を一般向けに書かなければならないという気分になっている。

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