「21世紀の日本最強論」(文藝春秋編)

フェアユースを認めない日本の新聞社は権利の濫用ではないか

 フェアユースを認めない日本の新聞社は権利の濫用ではないか

  日本の新聞社が、掲載した記事や写真の著作権を主張するのは当然である。しかし社会や文化に寄与する場合には、フェアユース(公正利用)の法理によって権利を放棄するべきである。

  教育に利用する場合や公共の福祉に供する場合にも、なにがしかの金銭を要求することは文化振興の観点からも認めがたい行為である。最近、筆者が体験した事例を紹介して問題提起をしたい。

  さくらサイエンスプランという事業

 日本政府が東アジア諸国・地域の優秀な青少年を1週間程度、短期間招へいし、日本の科学技術と文化を研修してもらう「さくらサイエンスプラン」事業は、昨年度(2014年度)、約2000人のアジアの青少年を招き、予想をはるかに超える大きな反響があった。

  招へいされたアジアの青少年たちは、そのほとんどが日本の国・社会と科学技術と文化に触れて大きな感動を覚えた。招へい者が回答したアンケート調査から明らかになり感動し驚いた。

  アジアの優秀な若者が将来、それぞれの国や地域で科学技術分野のリーダーとなる人材に育ってほしいということや、日本を理解して再び日本に来て研究者として世界に貢献してほしいという目的がズバリ当たった事業である。

  この事業の発案者は、国立研究開発法人・科学技術振興機構(JST)の元理事長の沖村憲樹氏である。日中の学術交流に取り組み、日中大学フェア&フォーラムを立ち上げ、それを発展させてアジアの青少年の交流事業を実現させた。

  筆者は、この事業の広報担当として現場からの感動と実績をフェイスブックと公式ホームページで発信し、同時に新聞・テレビ・ラジオ・雑誌などのメディアで、ニュースとして取り上げてもらった。

  この事業の報告書を作成するため、新聞に掲載されたさくらサイエンスプランの記事や写真を収納する作業を進めている。そこで新聞記事や写真を報告書に掲載する許可を求めた。掲載の許可をしてきた新聞社もあるが、いくつかの新聞社は著作権を根拠に掲載料を請求してきた。

 その額は7000円から3万円まで幅があるが、報道された記事の写真を掲載するだけで料金を請求するのは異常であると言わざるを得ない。この報告書は、市販されるものではないし事業の関係者や文部科学省、大学、研究機関などに報告するときに添付する小冊子である。

 いわば準公的文書である。大学・研究機関では、教材として活用する場合もあるだろう。

 しかしそれは置いといて、世に出回っているおびただしいホームページ、ブログ、そのほかの各種インターネットサイトに掲載されている新聞記事や写真の掲載について、新聞社は逐一チェックをし、著作権違反と認める場合は料金を請求しているならその限りで理解する。

 そのような努力もしないで、たまさか良心的に申し出てきた案件に料金を請求するのは理不尽ではないか。これが筆者の主張である。

  フェアユースという法理と概念

 いま世界中で、発信する手段と方法が爆発的に広がっている。ブログ、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)、各種インターネットサイトの発信は燎原の火のように広がっている。

  このような時代を迎えて、にわかに注目されているのがフェアユースの法理と概念である。フェアユースはアメリカの著作権法が認める権利である。法的には、著作権侵害に対する抗弁としているが、ここでは簡略的にフェアユースの権利とする。

  アメリカ著作権法の107条は「批評、解説、ニュース報道,教授(教室における使用のために複数のコピーを作成する行為を含む)、研究または調査等を目的とする著作権のある著作物のフェアユースは,著作権の侵害とならない」と定めている。

  フェアユースの概念は、批評、解説、ニュース報道、学問、研究を目的とする場合にあっては、著作権のある著作物を許可なしで限定的に利用することは認めるとしている。

 大学の教材利用にも金銭を請求する新聞社

 筆者は東京理科大学知財専門職大学院で教授をしていた。大学など教育現場では、新聞記事を教材としてよく利用する。しかし筆者の活動する現場は、知的財産権の専門職大学院なので、教材として新聞記事をコピーして配布する場合でもその新聞社に断るのが礼儀だと思って新聞社に断りの連絡をした。

 連絡したのは読売新聞であり、許可を求めたのはノーベル賞受賞を伝える号外の写真だった。写真をパワーポイントに入れてノーベル賞に関する講義をしようとしたものだ。驚いたことに、読売新聞社から料金を払えと請求が来た。その時点ではすでに講義を終えていたので、数千円(正確には忘れてしまったのだが、多分5千円以上だった)の請求額を支払った。

  大学院の教材に使用するものであり読売新聞のPRになることはあっても、読売新聞のデメリットになることは考えられない。対象者は若い世代である。若者の新聞離れが重大な問題となっているとき、読売新聞の報道内容を紹介しながら大学院生に講義するために使用するものだ。読売新聞にメリットがあってもデメリットはないのではないか。

 アメリカのフェアユースの定義にしたがえば、大学での使用は著作権の権利外と認められる。

  今回、さくらサイエンスプラン報告書に使用する写真は、アメリカのフェアユースの概念である「解説、ニュース報道、学問、研究」のいずれの領域にもまたがるものであり、商業行動ではない。

 そのような目的も確認しないで、画一的に掲載料金を請求する新聞社は何を基準に請求するのだろうか。社会の公器を標榜するならば、このような請求をすることは恥ずべき行為であると筆者は主張する。

 自社のPRになることはあっても、損害を被ることはあり得ない引用・掲載に料金を請求することがあってはならない。しかも請求額は、筆者から見ると「はした金」である。このような料金徴収で企業活動しているならまだしも、新聞社にとってはゴミのような金額である。

 日本の著作権法第1条は「この法律は、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする」とある。

  さらに同30条には「著作権の目的となっている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる」とある。

  今回、筆者が取り組んでいるさくらサイエンスプラン報告書は、公的機関である大学、研究機関、企業などで実施する若い世代の国際学術交流を報告する冊子である。そこに新聞報道の記事写真を掲載することは、第1条で言う「文化的所産の公正な利用に留意し・・・・・文化の発展に寄与することを目的とする」ものである。

  そしてこの冊子は、同30条に言う「限られた範囲内において使用すること」に該当するものであり、フェアユースの範疇であると理解できるのではないか。

 日本の新聞社はフェアユースの法理を尊重し、健全な著作権社会をリードしてもらいたい。

 

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