新聞の黄金時代を駆け抜けた記者魂の回顧録
2022/08/28
鶴岡憲一著「新聞記者人生」(花伝社)
特定のイデオロギーに傾かず、物事は是々非々で判断する
最近、新聞を代表とするメディアの停滞ぶりが指摘されています。かつて読売新聞記者をしていた筆者も同感であり、時代の変革と共に新聞記者活動が驚くほど変わってしまったことは、日々読んでいる紙面を通じて感じてきました。
昭和時代の新聞記者は、こうではなかったという思いに応えるかのように本書が発刊されました。
著者の鶴岡憲一氏は、読売新聞社会部・解説部・編集委員・論説委員と筆者と似たようなコースで記者活動をしてきたもので、テーマは違っても原稿執筆にかける取材活動の視点は同じでした。
ここに書かれている内容は、冒頭の民訴法改正をめぐる動きと顛末から始まり、日航ジャンボ機事故の原因追及はじめ、欠陥車問題、独禁法違反事件、温暖化京都会議、情報公開法問題などの取材・執筆を通じての裏面史は、読んでいて迫力がありました。まさに当事者としてどっぷりとつかった記者でなければ出くわさない問題であり、そこをどう切り抜けたか、敗北したかを淡々と語った記者人生として秀逸でした。
昭和時代の新聞記者は、第四の権力とか社会の木鐸とか言われた時代であり、社旗をはためかせて疾走する事件記者の活動は、NHK日曜日の連続ドラマでも人気番組となり、時代を映す社会現象でもありました。
著者の記者活動で貫かれていたことは、社会正義であり真実に迫ろうとする記者魂でした。淡々と書いているのですが、それが自慢話になっているかも知れないという感想をエピローグで語っています。自慢話に「聞こえる」シーンもあったかもしれませんが、それは真実を語った迫力であり、読んでいていささかも違和感がありませんでした。
リベラルだった往時の新聞記者が確信をもって活動したその中身は、自慢できるものだったのです。その流れが、この書籍の中を貫いていました。「特定のイデオロギーに傾かず、物事は是々非々で判断する」という新聞記者の取材姿勢を書いていますが、全くその通りであり、私たちはそういう時代の新聞記者でした。読みながら著者と同時代に活動できた幸運に感謝していました。
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