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2017年3 月

森友事件に見る新聞メディアの最期 その2

森友事件が発生した根本事情

 森友事件の根本は、国有地をタダ同然で払下げた処理内容、学校建設許認可に関わる森友学園側の不正疑惑の2点であり、首相夫人の名誉校長就任とか寄付行為とかは本筋とは違うという主張がある。

 これは論旨逆転させた主張であろう。森友事件は、日本会議の存在なくして起こり得なかったものであり、日本会議を取り巻く人脈があったからこそ国有地タダ同然の払下げ、塚本幼稚園の時代錯誤も甚だしい教育現場が世の中の耳目を集めるようになったものだ。

 右翼思想の人脈背景がまったくなく、単独で森友事件が発生したという見方があれば、それは間違いだろう。筆者はそのような観点でこのコラムを書いているのだが、タイトルにあえて「新聞メディアの最期」という刺激的な文言を付けた理由をこれから展開していきたい。

 前回、菅野完氏の書いた「日本会議の研究」(扶桑社)をもとに主張を展開した。この本は、元々は扶桑社が立ち上げたWebメディア「ハーバー・ビジネス・オンライン(HBO)」に連載されたことから始まっている。

 菅野氏は、新聞を主体とする既成のメディアが日本会議について、ほとんど取り上げることがないことを感じていた。筆者は、日本経済新聞が掲載した特集で読んだ記憶があるが、全体像がよくわからなかった。

 菅野氏はそうした状況の中で、日本会議がいまや見過ごすことのできない存在になり、改憲への論議も現実味を帯びてきたことを感じるようになる。日本会議の故事来歴を独自に調べ、そこで得られた疑問点や見解をツイッターで発表していた。

 それに目を付けたのが扶桑社の編集者であり、Webメディアへの連載につながっていった。Webメディアでは多くの関心を集め、それが書籍の刊行へとつながった。出発点は、SNSのツイッターであり、続いてWebメディアの連載になり、本の刊行となる。日本会議の実像を一般国民に紹介したのは新聞や活字メディアではなく、インターネットのWebメディアであったことが、「新聞の最期」という言葉につながった。

トランプ登場に見る既成メディアの限界

 アメリカのトランプ大統領の登場によって、いまや既成のメディアに大転換が迫られている実態をいやというほど感じていた。新聞記者で育った筆者はいま、人に情報を伝える手段と方法が激変したことを実感している。遅すぎたという指摘は当然だが、トランプ登場後に明確に認識した。

 ツイッターでアメリカの大統領がつぶやくなどとは、想像もできなかった。そのつぶやきが、世界の政治と経済を瞬時に動かすという事態も想像できなかった。何よりもアメリカのリベラル派とされた新聞、一般の紙媒体やテレビメディアの予想をほとんど裏切ってトランプ大統領が登場したことに時代の変革を感じた。

 まさにこれこそ「新聞メディアの最期」ではないかと寂しい思いをしたものだ。大統領選挙直前に、ニューヨークで活動する20歳代の中国人女性と東京で会食した。そのとき女性は「自分は中国人だから選挙権はないが、トランプ大統領が実現するだろう」と言った。

 理由を聞いてみると「若いアメリカ人はトランプ支持が多く、彼らは隠れトランプであり表に出ない。だから世論調査の予想はあてにならない」と語っていた。それがズバリと当たって筆者を驚かせた。

ネット情報に動かされて歴史を作る時代

 「ネットと政治」、「ネットと社会」という二つの巨大なテーマがいま私たちに突き付けられている。政治家は支持者を意識してツイッターで発言し、多くの人たちに偽情報やデマへの対応という難題が突き付けられている。

 メディアはネット手段を介してだけ、存在感が出せる時代に入ったという見方も間違いではないだろう。新聞報道も活字情報がそのままネットで公開されている。新聞を読まないでネットで見る人が急増している。新聞情報の何倍もの分量の各種の情報が、ネットで発表されて拡大されていく。何か新しい情報を確認するのは、誰でもまずネットからである。

 筆者がこうしてブログで書いている内容もまた、ネットで勝手に紹介され広がっていく。そのような時代になって初めて日本会議の全体像が菅野氏によって示され、森友事件の根本が浮かび上がってきている。

 3月23日に行われる衆参両院の証人喚問で、また新たな発言と対応に国中が騒ぎ立て、本来、行われなければならない政治の根幹を議論する時間が浪費されていく。そう考えると、森友事件は罪深い事件である。

 数々あげられている不正につながる疑問点の多くが、土地の払下げ取り消し、学校建設の不認可などの幕引きで終わらせてはならない。日本会議とその人脈と森友事件のつながりを風化させてはならない。戦前の主義信条・思想に戻ろうとするような右翼活動をこれ以上台頭させてはならない。日本人はあの馬鹿げた時代の道を二度と歩いてはならない。今の新聞メディアはそのような認識に立たないだろう。

 同じ価値観で情報を発信し語ることのできるWebメディアは、ジャーナリズムの重要な位置を占めている。その中でテレビの役割が大きく浮上しているように筆者は感じている。良識ある調査報道が、テレビのワイドショーに期待されている。事実を追い詰めていく姿勢を感じることもあり、今後も期待している。

つづく

 

 

 


森友事件に見る新聞メディアの最期  その1

日本会議の研究

  森友事件は起こるべくして起きた「時代錯誤の独善集団事件」である。その根元を余すところなく書いてくれたのが「日本会議の研究」(菅野完、扶桑社)である。

 森友学園の瑞穂の國記念小學院建設認可をめぐる疑惑を朝日新聞が報道して始まったように見えるが、実はその前奏ともいえる出版本が2016年5月に刊行されている。著者は、フリージャーナリストの菅野完氏である。

 日本会議の中核を成している人物とその周辺でうごめいてきたこの半世紀50年の動向を、重層多岐にわたる調査を重ね、地にはいつくばるように現場を歩き、練達の筆さばきでまとめた筆力は敬意を表するものである。

 この本の「むすびにかえて」で菅野氏は、日本会議は新聞報道には馴染まない取材対象であり、その理由にこの団体を取り巻く群像が愚直に地道に熱意をもって右翼思想を醸成することに取り組んできたとの趣旨を語っている。

 それを菅野氏は、市民活動、市民運動と位置付けている。そのような一群の集団が知らず知らずのうちに安倍政権の骨格をカタチ作るような勢力にまで成長し、憲法改正を視野に入れるまでになる。

 それと今回噴出してきた小学校新設をめぐる許認可の不正疑惑が、根幹で結びついてきたことに筆者は驚愕した。今回の事件が起きる前に刊行されたこの本の中に、安倍・稲田・籠池・塚本幼稚園などが一本の線となって結ぶように記述されており、今回の事件発覚で誰よりも驚いたのは菅野氏だったのではないか。

 ことの重大性に比較して新聞の取り上げ方はまことに不甲斐ない。掘り下げ方も、当事者の紋切り型のコメントだけを並べたものが多く見られ、深く追求して真相を究明しようとするジャーナリズムの本性が見られない。

 その中でテレビのワイドショーは、真相に迫ろうとする姿勢が感じられるし解説もいい。筆者は、テレ朝の朝のワイドショーしか見ていないが、合間に見ている他の局もそれなりに健闘しているようだ。NHKもこの数日の解説を見ていると、疑問点をきちんと整理して視聴者に分かりやすく説明している。

 されにワイドショーで派手に取り上げられているのは、テレビ向けの「役者」がそろっているからでもあるように思う。籠池夫妻、その子息と娘、これは大衆メディアには得難いキャラであり、そこに無名のジャーナリストの菅野氏が絡み、出処進退が怪しくなってきた高級官僚から末端の役人まで広がった。

さらに日本のトップに位置する首相夫妻と財務大臣が深く関与しているようだーという展開は、映像メディアの最高の餌食になっている。

 政府与党は、籠池氏の国会喚問には大反対していたが、国会議員の現地調査で籠池氏が「安倍総理から100万円の寄付を受けた」との証言が出てから、手のひらを返して証人喚問に応じた。

 ここにきて方針を変えたのは、100万円寄付の「動かぬ証拠」される物証が出てきたからではないか。

 毎日新聞のネット配信は、この事件の真相の核心を衝くものではないか。

 http://mainichi.jp/articles/20170318/k00/00m/040/139000c 

 安倍総理は全否定をしているが、籠池理事長が嘘八百を並べ立てているというのも不自然だ。国会で是非、真相を究明してほしい。

 腐臭ただよう政権の最期は、いつもながら国民を失望のどん底に突き落とすような展開になる。

つづく

 

 


日中大学の知財活動を比較する

日中大学の知財活動を比較する|潮流コラム一覧|特許検索の発明通信社

中国の大学は社会貢献を目指す意識が強固

中国の大学をたびたび訪問し、キャンパスの雰囲気を見てきた筆者の感想を言うと、中国の大学は日本よりはるかに活気を帯びているように思う。2016年5月に北京で開催された日中大学フェア&フォーラムでは、日本側は旧帝大の学長をはじめ、有名大学の学長たちがそれぞれの大学の経営方針を発表したが、中国の学長らの発言は迫力が違った。

中国の有名大学の学長は、自身の大学のことよりも国家のため社会貢献のためどう経営していくかという発表内容であふれていた。世界トップの大学を目指すという意気込みが言葉の端々に出ていた。

中国の大学のミッションは社会貢献にあり、国家に貢献することが最大の目的とされている。この目的の達成には、研究開発の成果を特許などの知的財産権で確保し、企業への技術移転で貢献するか、大学発ベンチャー企業で社会貢献するという視点だ。

中国の大学の周辺にはサイエンスパークとかハイテクパークがある。どの有名大学でも連携している。たとえば、清華大学のサイエンスパークには、サン・マイクロシステムズ、P&G、トヨタ、東芝、NECなど世界に名を知られた企業が研究室を持っており、学生や教員が一緒になって技術開発に取り組んでいる。浙江大学に行ったときも、大学構内にあるサイエンスパークには、若い技術開発者がセミナーを開いていたり、研究室とオフィスを兼ねた部屋が並んでいた。

大学発のベンチャー企業が多数ある

現在、中国の主要な94の大学に「大学サイエンスパーク」があるが、総売り上げは7,794億円(2015年)にものぼる。

また、中国の大学には、「校弁企業」という大学発ベンチャー企業が多数あり、代表的なものが北京大学の「方正集団有限公司」である。年間売上げは2兆2762億円にものぼる。清華大学の「同方股份有限公司」も売上高は1兆円を超えている。そのほかにも数千億円オーダーの売り上げを誇る校弁企業が多数ある。

校弁企業であげた収益を大学経営に充て、次の技術開発の資金に充てている。現在、全中国の552の大学に5,279のベンチャー企業がある。中国には日本とは全く異なった巨大な大学発企業があることに驚かされる。

大学別校弁企業の売上高ランキング(2013年)

注:売上高の金額は、OECD 購買力平価により計算されたものである。
出典:中国教育部大学校弁企業統計概要公告を基に作成。

 

浙江大学のサイエンスパークにある研究室風景

 

浙江大学のサイエンスパークでは、学生と教員らがセミナーを開いていた。

日中の大学発特許の出願件数と登録件数を比較する

こうした大学周辺のイノベーション創出現場を活性化させているのが知財活動である。日中の大学の特許出願件数を比較すると、中国の大学が1ケタ多いことにびっくりする。

大学特許出願件数トップ10(2015年)

 

日本の大学の特許出願件数は次の通りだが、中国の方が圧倒的に件数が多いことが分かる。日本は、研究資源が極端に偏って多い旧帝大が主体である。

 日本の大学の特許公開件数トップ10

 

 

次に特許登録件数を日中大学で調べてみると以下の通りである。

 中国の大学別特許登録件数トップ10(2015年)

 

日本の大学の特許登録件数トップ10(2015年)

日中の知財格差が急激に広がる

 日中の大学の特許出願件数や登録件数がこれだけ広がった背景はなにか。よく言われるのは、中国の特許出願は、補助金ほしさが少なくない。大学教員の業績を示すための出願も多いというものだ。

 それは否定できないと中国の大学関係者や特許事務所の弁理士らも語っている。しかし、近年は世界的な技術の進歩によって、中国の研究者のレベルもアップしており、同時にトップクラスの中国企業の特許レベルも急激に上がっている。世界トップクラスの通信機器メーカー、Huawei(華為)電子などは、まぎれもなく世界先端の知財活動になっている。

 また昨年暮れに北京大学の産学連携の状況を取材したときも、知財の技術移転で米国型のシステムを導入しており、同時に世界で競争ができる特許の創出、イノベーション創出を明確に掲げていることを認識した。

 中国の知財制度の多くは、日本を追い越してアメリカ型に必死に追いつこうとしているように見える。知財の司法判断でもアメリカ企業同士の訴訟が中国で起きるなど、世界標準化を狙っているように感じる。そうした現状については、今後もこの欄で順次紹介していきたい。