第126回・21世紀構想研究会は、平成28年度総会の後、脳出血で倒 れ、右半身不随となった中村明子理事(写真右)とリハビリ治療を行った小林健太郎・九段坂病院リハビリテーション科部長(主治医、写真左)が、最新療法で 健常状態に回復した「奇跡の生還」の講演を行い、会場の皆さんに感動を与えました。
中村先生の発症経過
1月8日午前、自宅お風呂場で、脳出血で倒れました。右半身不随になり、救急車で荻窪病院に運ばれました。治療しましたが右半身不随の後遺症が残り、車椅子や歩行補助具で移動する日々でした。
1月25日に、本格的なリハビリ療法を受けるために九段坂病院に転院しました。
転院したその日の午後、小林健太郎部長が、マヒしている右半身の下肢の数か所に電極を貼り、トレッドミルでの歩行訓練を両手で支えながら行いました。一晩寝て朝目覚めたら、なんだか不随だった右半身が動く・・・ここから奇跡の生還が始まりました。
小林医師の講演と報告の要旨
リハビリテーションは、戦後に負傷兵が帰郷する際に再起が必要との考えからリハビリテーションという専門分野が北米で公認されました。
「障害を最小化および残存能力を最大化して、生活再建するための医学」であり、「障害を有する患者の能力を最大限に引き出し、可能な限り人間としての望ましい生活ができる」よにすることでした。
日本では現在、脳血管疾患は死因の第4位であり、 脳血管疾患は要介護の原因疾患の第1位です。運動機能障害、認知機能障害などで苦しんでいる患者さんがいます。従来から反復経頭蓋磁気刺激法 rTMS(REPETITIVE TRANSCRANIAL MAGNETIC STIMULATION)などの療法があり、それなりに改善も見られてきました。
しかし小林部長は、感覚神経電気刺激SeNS(SENSORY NERVE ELECTRICAL STIMULATION)という治療方法を選択しました。この装置は外国製で2000万円もするということです。過去の治療例を紹介しました。
54歳 脳出血患者の例
左片麻痺になっていました。九段坂病院に転院してリハビリ継続。それまでのリハ ビリで左片麻痺は改善したが、上肢の感覚障害が残り、巧緻動作障害が残っていました。「触っている感じがしないので、どう動かせばいいかわからない」とい うことでしたが、SeNS療法で改善しました。
75歳 脳出血患者の例
右片麻痺が残存。上下肢の感覚障害が残り、巧緻動作障害が残っていました。「力の入れ具合がわからなくて、紙パックややわらかいペットボトルだと潰してしまうことがある」ということでした。下肢に対するSeNS療法を行い改善しました。
29歳 脊髄炎の患者の例
脊髄炎を発症し、不全対麻痺が残存していました。感覚 障害が残って歩行が困難でしたが、小林部長のSeNS療法で改善しました。それまで「踏んでいる感じがわかりづらく、雲の上を歩いているみたい」だと訴えていました が、発症127日目についに一人で歩くまでに回復しました。この日の講演でこのときのビデオを見ていた会員の方が、感動で涙ぐんでいました。
47歳 脳出血の患者の例
左側の麻痺が残り、従前の病院のリハビリで屋外歩行も可能となって退院して復職しました。ところが、歩行バランス不良と下肢感覚障害を訴えて九段坂病院に来院しました。「満員電車で気づかずに他人の足を踏んでいました」ということでした。SeNS療法で改善しました。
中村先生の例
中村先生は、補助器なしでは病室も移動できず、院内を移動するのは車いすでした。転院後直ちに小林部長のSeNS治療が開始され、2日後にはなんと独力で立てるようになり、歩くことも可能になったのです。この様子もビデオで紹介されました。
中村先生が健常人と同じように回復されたのは、小林先生に出会ったからです。奇跡の生還は、小林先生によると「奇跡の出会い」だったということです。主治医の先生がこのように言ってくれるとは、本当に奇跡以外の何物でもなかったのです。
小林先生に聞いたところ、こうした症例はいま学会で発表するために論文としてま とめており、詳しい療法の内容はまだ非公開になっているそうです。ただ、筆者が聴いた限りでは、マヒしている下肢部分に電極を装着して刺激し、その刺激を 運動野に伝えて脳細胞(神経細胞)の信号伝達機能を回復させているということのようです。
講演後の討論の中で、このような医療機器を多くの患者に適用できるようにできな いかと言う意見が出ていました。これについて小林先生は、「物理療法を実施する壁として、高額な機器購入が必要だが、購入しても診療報酬に反映されない。 訓練単価は同じです」ということでした。
これでは 従来の訓練のみになってしまう。これを「 従来の訓練+物理療法併用」というリハビリまで高めないと麻痺が残っている患者の改善は進みません。最新治療を導入できる医療機関は限定されるということ では不公平になり、中村先生のように「奇跡の出会い」があった患者だけ「奇跡の生還」になってしまう。
そのような課題も浮き彫りにしました。
小林先生の論文が受理されて学会誌に掲載されたときに、医学的な詳しい内容をお聞きしたいと思います。