ノーベル賞受賞者は有名大学だけに集中しているわけではない
2015/10/27
欧米に近づいてきた日本のノーベル賞受賞者出身大学
今年の日本のノーベル賞受賞者の出身大学は、大村智先生が山梨大学、梶田隆章先生が埼玉大学だった。自然科学分野のノーベル賞受賞者の卒業大学は、当初、東大・京大だけからに限られていたがそれが旧帝大まで広がり、近年は多くの大学にばらける傾向になってきた。これは欧米型に近づいてきている現象だ。
ノーベル賞受賞者の大学卒の学歴を調べた結果、京大6人、東大4人、名大3人、以下東工大、東北大、長崎医大、北大、神戸大、徳島大、山梨大、埼玉大が各1人となった。このように多様な大学出身者がノーベル賞受賞者になるとは、筆者は思いもしなかった。
20世紀のノーベル賞受賞者は、東大、京大、東工大に限られており、知の頂点と思われるノーベル賞受賞者は、旧帝大の中でも東大・京大卒以外は無縁ではないかとの印象を与えていた。その印象を強くしたのは、文学賞の川端康成、大江健三郎、平和賞の佐藤栄作の3人がいずれも東大卒だったこともあった。
受賞年 | 受賞者 | 部門 | 大学 | |
1 | 1949 | 湯川秀樹 | 物理学 | 京大 |
2 | 1965 | 朝永振一郎 | 物理学 | 京大 |
3 | 1973 | 江崎玲於奈 | 物理学 | 東大 |
4 | 1981 | 福井謙一 | 化学 | 京大 |
5 | 1987 | 利根川進 | 生理学・医学 | 京大 |
6 | 2000 | 白川英樹 | 化学 | 東工大 |
7 | 2001 | 野依良治 | 化学 | 京大 |
8 | 2002 | 小柴昌俊 | 物理学 | 東大 |
9 | 同 | 田中耕一 | 化学 | 東北大 |
10 | 2008 | 南部陽一郎 | 物理学 | 東大 |
11 | 同 | 小林誠 | 同 | 名大 |
12 | 同 | 益川敏英 | 同 | 名大 |
13 | 同 | 下村脩 | 化学 | 長崎医大 |
14 | 2010 | 鈴木章 | 化学 | 北大 |
15 | 同 | 根岸英一 | 同 | 東大 |
16 | 2012 | 山中伸弥 | 生理学・医学 | 神戸大 |
17 | 2014 | 赤崎勇 | 物理学 | 京大 |
18 | 同 | 天野浩 | 同 | 名大 |
19 | 同 | 中村修二 | 同 | 徳島大 |
20 | 2015 | 大村智 | 生理学・医学 | 山梨大 |
21 | 同 | 梶田隆章 | 物理学 | 埼玉大 |
大学 | 卒業者数 | |||
京大 | 6 | |||
東大 | 4 | |||
名大 | 3 | |||
東工大 | 1 | |||
東北大 | 1 | |||
長崎医大 | 1 | |||
北大 | 1 | |||
神戸大 | 1 | |||
徳島大 | 1 | |||
山梨大 | 1 | |||
埼玉大 | 1 | |||
合計 | 21 |
ところが、2001年の21世紀に入ってからのノーベル賞受賞者の出身大学は、表のように東大・京大から離れて、明らかにばらける傾向になってきた。私大卒がまだ出ていないが、いずれ日本でも出てくるだろう。
これまでの自然科学分野の出身大学のランキングを作ってみたら京大6、東大4、名大3人で残り8人は様々な8つの大学卒になっている。これはアメリカ、イギリスなど他の国のノーベル賞受賞者の出身大学が特定の大学に集中しているのではなく、ばらけている現状と似てきている。
日本の受験戦争は、最終目標が東大・京大を筆頭とする有名大学に合格することを目指している。旧帝大に入学し、未来はノーベル賞受賞者になりたいというのも一つの夢であった。しかし、能力とやる気と努力さえあれば、出身大学など関係なく誰でもノーベル賞受賞者になれることを過去の日本人ノーベル賞受賞者が身をもって示してくれた。
特に今年、生理学・医学賞を受賞した大村智先生は、山梨大・夜間高校の教師・東京理科大学大学院・北里研究所という日本では2番手と思われてきた大学や研究機関で学び、研究してきた経歴である。しかし筆者が、大村先生から長時間にわたって取材したとき、この業績はノーベル賞にもっとも近い成果だと確信した。加えて大村先生の人格と広い分野に及ぶ識見は、魅力にあふれていた。
どこの大学を出たかは無関係である。大村先生はたぐいまれな能力を持っている研究者であるが、その能力を極限まで絞り出すような努力をした。取材で知った大村先生の過去の業績は、感動せずにいられない物語で埋まっていた。そのような科学者に巡り合えたことは、本当に幸せだった。
大村先生と物理学賞を受賞した梶田隆章先生のノーベル賞受賞が、どれだけ日本の研究者や大学生に勇気を与えたか計り知れない。
受験戦争に惑わされることなく、自分の進学した大学や研究室の中で、自身の能力を信じ努力することが大事であることを大村先生と梶田先生が示したノーベル賞受賞だった。
小生は、そもそも日本人がこんなにノーベル賞を受賞するようになるとは思っておらず、近年の受賞実績には率直にたいへん嬉しい思いをしています。また、馬場さんご指摘のように、受賞者数の増加につれ、受賞者の出身校(大学)も分散傾向を示すようになってきているので、「これでまた○○大学も、ノーベル賞(受賞)大学になった」と、ひとりで(?)喜んでいました。馬場さんのおっしゃるように、先進国並みになったことのひとつの表れのように感じたからでもあり、何よりも国内に、ノーベル賞(受賞者輩出)大学がいくつもあるなんて、ずいぶん誇らしいではないですか!!ちなみに、大村さんと同時受賞の中国の方は、名門大学出身でも、名門研究所所属でもなく、博士号さえ持っておられない(ご専門は漢方)そうですね。これも、注目すべき兆しのひとつだと感じます。ノーベル賞における、わが国のこのような近年の「一定の実績」が、何を意味し(受賞できる理由、要因がどこにあり)、それをわれわれ自身、あるいは世界のためにどう活かせるか、国民の間で論じるに足るテーマではないでしょうか。
投稿情報: Moriya Style | 2015/10/14 02:01