2007年度・第2期馬場研
右から有馬、押久保、小国、佐藤の研究生諸君
2007年の研究生と研究テーマ
押久保政彦
「出願動向から考察する小売等役務商標制度の現状に関する研究」
有馬 徹
「グローバル経済化における日本の未来と日本の責務 ―日本が果たすべきリーダーシップ―」
小国聡美
「光触媒に関する特許動向と市場動向及び標準化に関する研究」
佐藤貴臣
「日本国内における知的財産侵害事犯の現状と対策」
修士論文講評
努力を結実させた若き日のエネルギー
2007年度の馬場研究室は、6人の精鋭部隊でスタートを切った。ところが間もなく、そのうちの1人が職場の勤務の都合でMIPを退学し、もう1人は商標関係のテーマで取り組むために西村研究室に移籍となり、4人という少数精鋭でスタートを切ることになった。
佐藤貴臣君は、早くからワーキング・ペーパーのテーマは模倣品・海賊版の現状と取り締まり状況に焦点をあてて論文をまとめたいという希望を出していたが、就職先が長野県警に決まったためにいっそう、やりがいのあるテーマとなった。
就職活動では、思いもよらない機関の受験に挑戦するなど、貴臣君は可能性を求めて行動する点では評価できるものであった。論文作成では、調査分析にやや時間を取りすぎ、後半の検証と見解のまとめでは十分な活動ができなかったことは残念であった。
ただ、貴臣君には思わぬ才覚があることを発見して嬉しくなった。彼が書いた文章はなかなかこなれた分かりやすい文体であり、もしかすると新聞記者にむいているのかもしれないと思わせるほどであった。
論文では、2007年、世の中を騒がせた一連の偽装表示問題を法的な根拠を示しながら当局の摘発のあり方を検証したのは評価できる内容となった。自治体によって取締りの法整備がばらばらである点を指摘しており、これまでの模倣品・海賊版をまとめた論文には見られない視点を持ち込んで独自性を打ち出した点は、大変良かった。
小國聡美さんは、学部の専攻は化学であるために、化学や環境問題に興味を抱いていた。その中から酸化チタン光触媒の研究動向と標準化に焦点を合わせたのはタイムリーな問題意識であった。
酸化チタン光触媒の研究では、藤嶋昭教授、橋本和仁教授が双璧であるが、その1人の橋本教授の研究室を訪ねて、研究テーマについて教示を受けたことは大変良かった。
ただ、酸化チタン光触媒の研究動向と知的財産権に関する調査分析では、詳細な内容で先行しているレポートがすでにあることに途中で気がつき、聡美さんのテーマの焦点は標準化へと絞り込んでいった。
標準化には、光触媒の品質を担保する意味と、国際的に取り決めて品質を確保する国際標準化と2つの意味があり、そのどちらに関しても日本の研究現場と産業界の意識が希薄である点を指摘する論文となった。
論文をまとめる時期に身内の方が病気で倒れてその看病に追われるなど、学業と仕事と看病という3重苦を克服してようやくまとめたものである。このため本人にとっては不十分な出来だったようだが、このテーマは今後さらに深化させ卒業後も取り組んでほしい。
有馬徹さんは、自動車メーカーのサプライヤーに勤務し、国際的に活動する職場にいることをフルに活用して、知財をキーワードにしながら国際産業文化論を展開するユニークな論文にまとめた。自分の考えと主張を奔放に書き進めた論述であり非常に面白かった。
特にサプライヤーから見た日本と外国の商習慣の比較論述は、徹さんの体験と見解に基づいた内容であり説得力があった。一国の産業競争力はモノ作りから金融にシフトされたという見方も、この論文の流れから読者を十分に納得させていた。中国で産業活動を論じるくだりでは、アメリカ式とヨーロッパ式を論じながら、日本のそれはアメリカ式ではないかというコメントは、そうかもしれないと思わせる内容であり、ここにも独自の視点を披瀝していた。特に面白かったのは、サミュエル・ハンチントンが主張しているアメリカの「目論見」を整理して記述し、その後で日本の「目論見」を整理して提示したもので、これは秀逸であった。
企業戦士として活動する傍ら、常に内外の社会、と文化を見ながら深く思索した活動から出たオリジナル論評であり、この論文テーマは徹さんのライフワークになるだろう。
押久保政彦さんは、弁理士の資格を持つだけに論述した内容は厚みがあり読み応えがあった。第1章、2章、3章と組み立てた章立てとその内容は、非常に整理されており、しかも制度上の問題、法的解釈、司法判断、国際的な動きなど時代背景を入れながら重厚に解説したのは大変結構だった。
特に2章で語っている小売等役務商標制度の導入までの経過を読むと、改正前の制度上の問題がよく分かり、「役務」についての法的解釈の経緯もよく整理されて論述されていた。「シャディ事件」、「ESPRIT」事件という2つの判例を紹介しながら、改正までの経緯をまとめることで、時代とともに変革する知的財産権の現場を語っていた。
後半は、小売等役務商標出願動向の調査を紹介しているが、主な業界別の動向は労力をかけた分析調査であり、業種ごとに小売等役務商標に対する取り組みに温度差があることを明快に見せてくれた。
最後のまとめでは、この商標がどのように活用されるか課題をいくつかあげ、商品商標と小売等役務商標との関係、審査実務、総合的な小売サービスというカテゴリーで検討すべしと課題を提起しており、このテーマの研究はまだこれからの領域であることを示唆していた。
押久保さんは、馬場研の級長として様々な雑用を差配し、研究室をまとめた点で多大の貢献をした。ここに心から感謝の念を示したい。
馬場 錬成
修了式の日、袴姿の小國聡美さんと記念写真
2007年3月22日にMIP修了記念パーティ
MIPの修了者が主催する記念パーティが、ホテルエドモンドで開催された。教師と院生が一堂に会したパーティは最初で最後になる。2年間の思い出を語り合い、教師たちは、修了者たちの門出を祝った。 アトラクションに福引があり、筆者のナンバーの下2桁は「86」。これは中国の国のコードである。国際電話を中国にする場合、頭には必ず86がつくので、中国と付き合いのある筆者には、馴染みのコードである。 これはひょっとすると・・・と思っていたらやはり1等賞を射止めた。いただいたものは、任天堂の「Wii」というゲーム装置。嬉しかったが、しかしこれを駆使して楽しむ時間はなさそうなので、当日の準備でご苦労した幹事の1人にプレゼントして大喜びされた。