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2019年11 月

メディア報道と取材方法について

 前回、このブログで2019年10月28日に発行された「夕刊フジ」に、東京理科大学の「不祥事」が報道されたことを取り上げた。

 このような大学経営がニュースになることを恥ずかしく思いながら、大学執行部のお粗末さを追及した。

 取材する立場と告発する状況

 今回は、このようなニュースを掲載する際の取材方法について、筆者の体験から書いてみたい。

 メディア報道で不祥事を取り上げる際は、ほぼすべてが書かれる立場の人間や組織は、書かれて欲しくない事情にある。

 世間に知られたくないことを突き破って真相を知り、社会正義の立場でそれを世間に告発するのがメディアの役割である。

 筆者はかつて警視庁、司法(地検や裁判所)、行政組織の記者クラブに所属して、熾烈な取材競争を体験してきた。こうした機関や組織では、世間に知られたくない、もしくは発表する前の極秘事項を多数、日常的に抱えている。

 捜査当局が刑事事件の被疑者の逮捕状を裁判所に求める書面、家宅捜索礼状など当事者しか知らない書面や事実でも、時として発表前にスクープされることは珍しくない

 ネタ元は捜査当局や裁判所や役所だから、記者は法律違反を犯して情報を仕入れているし、同時に違法行為の中で情報を漏洩している公務員や組織人がいることになる。

 機密を漏らした官僚は国家公務員法違反に問われるし、それを教唆したと認められれば取材者、つまり新聞記者も国家公務員法に問われて逮捕されるリスクがある。しかし記者は、世間に告発するべきと考えたとき、社会正義の規範から行動に出るし被取材者もまた社会正義に同調して協力する。それが一般的である。

 犯人探しと恫喝

 企業や法人や組織から秘密が漏れてメディアに露出されると、ほとんどの組織では犯人探しを始め、組織内の人間から情報が外部に漏出することを嫌って組織の締め付けを行う。漏出させた人が分かれば「厳重に処罰する」という恫喝が組織の幹部から必ず発せられる。

 しかしほとんどは効果がない。なぜならそのようなことを行う執行部は、ほとんどが組織内で信用を失っている腐った執行部になっており、多くの組織人から信任されなくなっているからだ。

 さらにもっと重要なことは、秘密の情報漏洩があった場合、漏洩が疑われる人物がいたとしても、その当事者から漏洩を否定されれば、執行部なり当局が漏洩したことを特定して立証しなければならない。そんなことはまず不可能だ。

 何が秘密になるのか

 多くの執行部や当局は、何でもかんでも秘密にしたがる。自分たちの都合に合わせて、広く知られないうちに、こそこそと何事も進めることが最も効率がいいと信じているからだ。

 秘密漏洩だと騒いだとしても、それが秘密であるかどうかまず争われる。司法の場で争いがあれば、そこから始まる。たとえば、理事会の開催で理事長がドタキャンしたことを外部に漏らした場合、当局がその事実は秘密だと騒いだとしても、それが秘密となるかどうかが争われることになる。なんでもかんでも秘密扱いにすれば、実質的に秘密はないに等しい。

 大学経営の基本規則の寄附行為

 私立大学法人の設立の目的、基本規則などを定めた文書を寄附行為と呼んでいる。寄附行為は、私立学校を経営・運営するためのいわば「憲法」の役割となる。いかなる経営・運営も、「寄附行為」を侵してならない。もしこれに違反すれば不正行為であり、違法性が問われることになる。

 学校法人という法人格が認められていなかった戦前は、各種学校の経営は旧民法上の財団法人の扱いだった。財団法人は設立の際に寄付を行うところから、「寄付された財産の使われ方の基本規則」を「寄附行為」と呼んだ。

 戦後、学校法人という法人格が認められたが、名称だけがそのまま残った。法令上は寄附行為であるが、この名称は分かりにくいので大学によっては「大学規約」「大学規則」に括弧つきで「寄附行為」としている。

 寄附行為は、大学経営の基本規則だから公開が原則であり、多くの大学ではホームページで公開していたが東京理科大学では寄附行為を秘密扱いにし、ホームページでも公開していなかった。

秘密文書

 こうした指摘を受け、最近になってようやくホームページでも公開を始めた。

 https://www.tus.ac.jp/info/pdf/kihu.pdf

                                 (つづく)