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沖縄返還交渉の密約文書を外務省から入手して逮捕された元毎日新聞政治部記者の西山太吉氏が死去

沖縄返還交渉の密約文書を外務省から入手して逮捕された元毎日新聞政治部記者の西山太吉氏が死去

西山氏が2月24日、心不全のため北九州市内の介護施設で亡くなった。91歳だった。

さる2月2日、西山氏から提供された外務省機密電信文を根拠に国会で激しく密約を追求した横路孝弘氏が82歳で亡くなったばかりである。その死を追うように西山氏も逝った密約外交を追求した2人が相次いで世を去ったが、日本の外交史上に残した汚点は消えることはない。

西山氏は、沖縄返還交渉で日米が外交折衝をしているとき、日米間で密約があるのではないかと取材をはじめ、その証拠となる機密電信文を外務省女性職員から入手した。

それをもとに西山氏は解説記事など4本の独自記事を書いたが、実物の証拠を示さなかったために政府から無視されていた。そのことに怒りを感じた西山氏は、同僚に託して当時、社会党のプリンスと言われていた横路孝弘代議士(元衆議院議長)に提供し、代議士は1972年3月の衆院予算委員会で、この電信文をもとに激しく追及する。この追及で佐藤政権は立ち往生し、翌年の予算案は年度内に国会を通過せず、暫定予算を組んで急場をしのぐという大失態を演じた。ところがその数日後、機密電信文を漏洩した女性職員が西山氏に渡したことを告白し、二人は国家公務員法違反で逮捕された。西山氏は国家公務員ではなかったが、公務員をそそのかして漏洩させたとして逮捕された。

一審東京地裁で女性職員は、執行猶予付きの刑を言い渡され、西山氏は正当な取材活動として無罪を言い渡された。女性職員は一審判決を受け入れて決着。西山氏の判決については国側が控訴し、二審東京高裁で執行猶予付きの逆転有罪になり最高裁でも有罪で決着した。西山氏はこの判決でジャーナリストとしての命脈を断たれた。

この裁判は国家権力によって曲げられた判断と筆者は確信している。一審で無罪を言い渡した裁判官は、のちに弁護士になり「取材方法がけしからんという理由で二審及び最高裁は有罪にしたが、けしからんと咎める法律はない」と激しく逆転有罪判決を批判していた。

西山氏がある人(毎日新聞社の同僚記者)を介して機密電信文を横路氏に提供したことは間違いないが、横路氏はそれ以前に西山氏から取材して、密約があるに違いないと確信して独自に調べ、その結果をもとに国会で数回にわたって追及していた。しかし当時の首相、外相、外務省高官らはことごとく、密約はないという嘘の答弁で切り抜けていた。しかし後年、嘘の答弁をした外務省の元局長、米国の公文書公開、密約をおぜん立てした首相密使の若泉敬氏の暴露本によって、密約は真実であったことが明らかになった。

筆者が2022年5月に上梓した「沖縄返還と密使・密約外交 宰相佐藤栄作、最後の1年」(日本評論社)でその一部始終を書き残した。上梓本の原稿段階で、西山氏と横路氏に読んでいただき、いくつかの表現で意見をいただき修正したところがあったが、大筋では「よく調べた作品である」(西山氏があるジャーナリストに漏らした言葉)との評価をいただき、横路氏からも「事実として間違いない」とのコメントをいただいていた。

日本政府、外務省、外交専門家の一部は、いまなお密約はなかったという見解だが、真実を認めない国家は衰退をたどる。「歴史の証人」として外務省機密電信文の存在を忘れてはならない。

写真はその機密電信文である。この文書には、左端に昭和47年4月7日付けで「極秘指定を解除した」とある。国会でこの電信文のコピーを突き付けられ、外務省が数日後にしぶしぶ「この文書の決済した同じものが省内に保管されていた」と認めた。このコピーが世間に知れ渡ったため、極秘扱いしても意味がなくなり極秘指定を解除したものだろう。

機密電信文


横路孝弘先生に今一度お聞きしたかった

元衆議院議長でリベラルな政治家として政界に屹立していた横路先生が、2月2日、胆管癌で亡くなった。82歳だった。筆者は2021年6月28日の午後、横路先生と衆議院第2議員会館の面談室で2時間ほど会見したことがあった。

横路先生の元政務秘書だった国際ジャーナリストの北岡和義氏(2021年10月19日死去)が仲介して実現したインタビューであり、目的は佐藤栄作政権の沖縄返還交渉と西山記者逮捕事件を聞くためだった。

1横路・馬場2021年6月28日衆院第2議員会館2021年6月28日、衆議院第2議員会館で

毎日新聞政治部の西山太吉記者から、外務省の機密電信文が間接的に横路先生に渡り、それをもとに1972年3月の衆議院予算委員会で密約の存在を追求した。国会が紛糾して次年度の予算案が衆院を通過せず、急ぎ暫定予算を組んで切り抜けるという大失態になった。

しかし佐藤政権は、警察権力を指揮して西山記者逮捕へと事態は急展開し、沖縄返還後に佐藤総理は退陣して一件落着し、あいまいな「史実」だけが残された。西山記者は一審東京地裁で「正当な取材活動」として無罪となったが、控訴審の東京高裁、最高裁の判断では有罪となり、国家権力に追従した曲げた法理の判断(私見)として残された。

西山情報から追求した事実

西山記者からの外務省機密電信文は、毎日新聞のある記者を通じて横路先生に渡ったものだが、それが最初の情報ではなかった。その電信文を入手する半年ほど前に、横路先生と西山記者は面談しており、そこで西山記者が機密電信文の内容に即した事実を詳細に語っている。西山記者は横路先生に機密電信文を見せもしないし存在も明らかにしなかった。しかし詳細な内容から外務省の機密文書だろうと横路先生は推測したという。

3時間に及んだという西山記者からの情報をもとに、横路先生は日本が肩代わりする密約の根拠はアメリカの法律にあると睨み、国会図書館と共同で調べその法律を突き止めた。それを根拠に1971年12月の衆議院連合審査会などで追及する。

佐藤政権は、この追及にたじたじとなるが、すべて事実と違う嘘の答弁を繰り返して切り抜けていく。しかし横路先生は、諦めなかった。絶対に密約があると信じ、粘り強く証拠となる文書を探し求め、ついに西山記者が入手していた機密電信文を間接的に入手する。それをもとに衆議院予算委員会で再度、追求したものだった。

機密電信文西山記者が入手した外務省極秘電信文の一部(故北岡和義氏提供)

その事実は初めて横路先生が語ったものであり、拙著「沖縄返還と密使・密約外交 宰相佐藤栄作、最後の一年」(日本評論社)で詳述した。西山記者逮捕に至った史実と確信している。

歴史の証言者として語るべきことがあったはずだ

横路先生とお会いした1年半前には、非常に元気そうに見えた。子供のころにケガをした古傷が痛み出し、歩くのがやや不自由になったというが、語り口は記憶をたどりながら滑らかだった。もっと聞きたいことがあったが、コロナ禍の最中であり、札幌に帰る直前の時間だったので2時間ほどで切り上げた。

拙著を上梓してから連絡はしなかったが、もう一度お会いして政治家としての足跡を聞きたかったことがあった。

特に沖縄返還で横路先生が国会で追及し、佐藤内閣は命運尽きたかに見えたが国会対策委員会、与野党の幹事長・書記長会談など国会運営のハラの探り合いから「落としどころ」を決め、何もかもまあまあでことを済ませる立法府の悪しき実績を作った。

そのころから「国体政治」という言葉が歩き出し、メリハリのない国会運営が始まり、同時に社会党の凋落が始まった。衆議院当選2回でしかなかった横路先生は、その体たらくを「月刊社会党」(1972年6月号)で痛烈に執行部批判の論陣を張り、馴れ合いで流れていく国会運営を批判した。

その後、社会党は事実上消滅し、横路先生も北海道知事に転出後、国政に復帰したが社会党には戻らず、旧民主党から国政に参画した。平成21(2009)年9月から3年余衆議院議長を務め、2016年5月、政界を引退した。

筆者は沖縄返還の密約だけでなく、戦後政界の変転をよく知る政治家から直接お聞きしたいことが多数あった。横路先生と筆者は同時代を生きてきた政治家とジャーナリストという立場であり、今一度取材する機会を失ってしまったことは誠に残念だった。


日本は国民主権でなく国会議員主権になっているのは明らかに憲法違反

日本は国民主権でなく国会議員主権になっているのは明らかに憲法違反

升永英俊弁護士から日本国憲法の解釈により、一人一票になっていない現状は国民主権ではなく国会議員主権になっていることを論理的かつ明快に主張・解説した文書をいただき感動しました。文書を写真で紹介します。

升永先生の主張・解説をより簡潔に要約してみました。以下の通りです。

日本国憲法は「主権は国民にある」と明記しています。主権とは、国の政治のあり方を最終的に決定する権力です。主権の行使について最高裁大法廷(在外邦人選挙権制限違憲訴訟、平成17年9月14日)は、要約次のように判示しています。

「憲法は国民主権の原理に基づき、有権者が両議院議員選挙で投票をすることは、国の政治に参加する固有の権利として保障している」

つまり国民の選挙権行使は、国民主権の行使であるとしています。ところが選ばれる議員は、選挙区によって等価値でない票によって選出されています。衆院選で約2倍、参院選で約3倍までばらつきがあり、平等でない選挙区で選出されています。国民主権の代表となっているはずの国会議員は、憲法に違反して平等でない選挙区で選ばれています。

こうして選ばれた国会議員は、国会の議決での投票では、全ての議員が等価値の一人一票の権利を行使して総理大臣を選出し、法案を可決しています。これは国会議員主権であり、国民主権ではないのです。国会の議決で各議員の投票する1票が全て等価値であることは、各議員が全員、同じ人数の有権者から選出されなければなりません。これは一票の格差のない人口比例選挙によってのみ実現可能なのです。①日本国憲法56条2項、②憲法1条、③憲法前文第1項第1文後段、④同第1文前段は、人口比例選挙を要求しているのに、最高裁はそれを無視した判決を出し続けています。

升永先生1 升永先生2 升永先生3止