日本は国民主権でなく国会議員主権になっているのは明らかに憲法違反
沖縄返還交渉の密約文書を外務省から入手して逮捕された元毎日新聞政治部記者の西山太吉氏が死去

横路孝弘先生に今一度お聞きしたかった

元衆議院議長でリベラルな政治家として政界に屹立していた横路先生が、2月2日、胆管癌で亡くなった。82歳だった。筆者は2021年6月28日の午後、横路先生と衆議院第2議員会館の面談室で2時間ほど会見したことがあった。

横路先生の元政務秘書だった国際ジャーナリストの北岡和義氏(2021年10月19日死去)が仲介して実現したインタビューであり、目的は佐藤栄作政権の沖縄返還交渉と西山記者逮捕事件を聞くためだった。

1横路・馬場2021年6月28日衆院第2議員会館2021年6月28日、衆議院第2議員会館で

毎日新聞政治部の西山太吉記者から、外務省の機密電信文が間接的に横路先生に渡り、それをもとに1972年3月の衆議院予算委員会で密約の存在を追求した。国会が紛糾して次年度の予算案が衆院を通過せず、急ぎ暫定予算を組んで切り抜けるという大失態になった。

しかし佐藤政権は、警察権力を指揮して西山記者逮捕へと事態は急展開し、沖縄返還後に佐藤総理は退陣して一件落着し、あいまいな「史実」だけが残された。西山記者は一審東京地裁で「正当な取材活動」として無罪となったが、控訴審の東京高裁、最高裁の判断では有罪となり、国家権力に追従した曲げた法理の判断(私見)として残された。

西山情報から追求した事実

西山記者からの外務省機密電信文は、毎日新聞のある記者を通じて横路先生に渡ったものだが、それが最初の情報ではなかった。その電信文を入手する半年ほど前に、横路先生と西山記者は面談しており、そこで西山記者が機密電信文の内容に即した事実を詳細に語っている。西山記者は横路先生に機密電信文を見せもしないし存在も明らかにしなかった。しかし詳細な内容から外務省の機密文書だろうと横路先生は推測したという。

3時間に及んだという西山記者からの情報をもとに、横路先生は日本が肩代わりする密約の根拠はアメリカの法律にあると睨み、国会図書館と共同で調べその法律を突き止めた。それを根拠に1971年12月の衆議院連合審査会などで追及する。

佐藤政権は、この追及にたじたじとなるが、すべて事実と違う嘘の答弁を繰り返して切り抜けていく。しかし横路先生は、諦めなかった。絶対に密約があると信じ、粘り強く証拠となる文書を探し求め、ついに西山記者が入手していた機密電信文を間接的に入手する。それをもとに衆議院予算委員会で再度、追求したものだった。

機密電信文西山記者が入手した外務省極秘電信文の一部(故北岡和義氏提供)

その事実は初めて横路先生が語ったものであり、拙著「沖縄返還と密使・密約外交 宰相佐藤栄作、最後の一年」(日本評論社)で詳述した。西山記者逮捕に至った史実と確信している。

歴史の証言者として語るべきことがあったはずだ

横路先生とお会いした1年半前には、非常に元気そうに見えた。子供のころにケガをした古傷が痛み出し、歩くのがやや不自由になったというが、語り口は記憶をたどりながら滑らかだった。もっと聞きたいことがあったが、コロナ禍の最中であり、札幌に帰る直前の時間だったので2時間ほどで切り上げた。

拙著を上梓してから連絡はしなかったが、もう一度お会いして政治家としての足跡を聞きたかったことがあった。

特に沖縄返還で横路先生が国会で追及し、佐藤内閣は命運尽きたかに見えたが国会対策委員会、与野党の幹事長・書記長会談など国会運営のハラの探り合いから「落としどころ」を決め、何もかもまあまあでことを済ませる立法府の悪しき実績を作った。

そのころから「国体政治」という言葉が歩き出し、メリハリのない国会運営が始まり、同時に社会党の凋落が始まった。衆議院当選2回でしかなかった横路先生は、その体たらくを「月刊社会党」(1972年6月号)で痛烈に執行部批判の論陣を張り、馴れ合いで流れていく国会運営を批判した。

その後、社会党は事実上消滅し、横路先生も北海道知事に転出後、国政に復帰したが社会党には戻らず、旧民主党から国政に参画した。平成21(2009)年9月から3年余衆議院議長を務め、2016年5月、政界を引退した。

筆者は沖縄返還の密約だけでなく、戦後政界の変転をよく知る政治家から直接お聞きしたいことが多数あった。横路先生と筆者は同時代を生きてきた政治家とジャーナリストという立場であり、今一度取材する機会を失ってしまったことは誠に残念だった。

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