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2016年12 月

技術貿易は黒字だがこれでいいのか日本

 発明通信社のコラム「潮流」に投稿したコラムを転載しました。

総務省統計では大幅黒字

 先ごろ総務省が発表した科学技術研究調査によると、日本の技術貿易の 2015年度は、技術輸出(受取額)が技術輸入(支払額)を大幅に超える黒字で、金額で3兆3472億円のプラスとなった。

 グラフは、諸外国・地域から受け取った額と支払った額の収支総計の経年推移だが、2006年からずっと黒字になっている。

(総務省・科学技術研究調査:http://www.stat.go.jp/data/kagaku/kekka/kekkagai/pdf/28ke_gai.pdf)

 技術貿易とはモノの貿易ではなく、特許、商標、意匠、ノウハウ(企業秘密)などの知的財産権のロイヤルティの支払額と受取額を表すものだ。技術を輸出すればロイヤルティを受取り、輸入すればロイヤルティを支払うことになる。

アメリカからの受取が断トツ

 知財のロイヤルティ収益をどの国や地域から日本は受け取っているのか。ロイヤルティをどの国に支払っているのか。それを示したのが次のグラフである。

 これで見るように圧倒的にアメリカから得ている収益が多い。アメリカから特許などに代表される知的財産権の権利使用料の収益がそんなにあるのだろうか。

 受取額の総額は、3兆9498億円に上っているが、そのうちの約41パーセント、約1兆6000億円をアメリカから受け取っている。

総務省・科学技術研究調査から作成

 一方、特許などのロイヤルティを日本が支払っている国・地域はどこか。これが次のグラフである。

総務省・科学技術研究調査から作成

 アメリカへの支払いが約71パーセントの断トツである。その支払額は総額6026億円の約71%なので約4300億円になる。アメリカとの技術貿易は圧倒的黒字になっており、支払いと受取りの差額は、約1兆1700億円となり、巨額の黒字である。


 つまり特許などのロイヤルティ収支を日米で見ると、圧倒的に日本がアメリカから特許ロイヤルティをもらっていることになる。

 新聞などのメディアや政治・経済界は、日本の技術貿易は年々巨額の黒字を出しているのであたかも日本は技術立国であり、この先も技術で世界を先導するかのような印象を与えている。
 
自動車産業の親子のやり取りが大半
 技術貿易のやり取り、つまり特許ロイヤルティのやり取りをこのように中身を分析してみると、日本産業界と知的財産権の実像が見えてくる。 巨額の受取額の大半は自動車産業であり、その内訳を見るとその約75%が親子間での収支になっている。つまりトヨタ、ホンダなどアメリカで工場を操業しているアメリカの子会社から、日本の親会社に支払っている特許、ノウハウなどのロイヤルティが大半になっている。

総務省・科学技術研究調査から作成

 ロイヤルティの内訳をみると、日本の本社が開発して知財権を取得した技術、車体の設計図、製造技術ノウハウなどをアメリカで操業する企業・工場に貸与することで得られるロイヤルティということになる。

 確かに立派な収益である。言い換えると、同族企業の内部でやり取りする収益の分配にも見える。これでは本当のロイヤルティ収益と言えるのかという疑問がどうしても出てくる。もちろんこれは知財収益ではあるが、ここで欲が出てくる。

独創的な知財で稼ぐイノベーションが必要

 欲がでるという言い方は、独自の技術開発でロイヤルティを取りたいという欲である。つまり系列の親子間でのロイヤルティのやり取りではなく、独自の技術のロイヤルティで系列外の企業から稼ぐことである。

 技術輸出で稼いだ額のかなりの部分が、親子間の知財収支で得た額に占められているというのはいかにも寂しい。しかしこの状況には、日本企業全体が気が付いているのではないだろうか。

 来たるべき知財立国への踊り場にあるのかもしれない。そう考えないと、日本の長期停滞への序奏ということになりかねない。そういうことを考えさせる総務省の発表データであった。

 

 


カジノ解禁法成立を急いだ政権与党の愚かな政治

 先の臨時国会でカジノ解禁法が成立した。自民党、日本維新の会、公明党などが賛成し、ろくに審議もしないで多数決の論理だけで成立させた法律である。公明党は、自主投票というこれまた政党の体裁をしていない方針で結果的に成立に手を貸した。

 今国会で新たに提出された100本以上の法案は、審議にも入れなかった。その中でカジノ解禁法がいかに優先的に成立を急いだかが分かる。たとえば、自民党べったりでカジノ法の成立に賛成した維新の会は、選挙公約として国会議員の歳費削減などの法案を提出していたが、審議もなし成立する目途もないまま放置されている。

 このような国民の注目する法案は放置して、なぜカジノ解禁法の成立を急いだのか。

 日本には、パチンコという官民が癒着しているカジノがある。そのパチンコですら賭博中毒になった愚かな人を多数生んでいる。政府公認の博打場ができれば、さらに「中毒患者」が生まれる可能性が高い。

 大体、カジノの経営は、博打に負けた人の賭け金で運営し利益を出している。生産性も倫理性も本来は皆無だ。娯楽施設やホテル、集会場などと一体化したカジノでなければ経営は成り立たないが、いくつかの地方都市では、地域活性化と称してカジノ経営に乗り出そうとしている。愚かな考えである。

 外国からの観光客もあてにしたものだが、アジアには観光と一体化したカジノがいくつもある。日本でカジノを経営しても成り立つのかどうか、そのような確かな予測も聞いたことがない。

 筆者はかつてアメリカのラスベガス、リノなどのカジノに行ったことがある。国際学会が開催されていたので取材に行ったものと、サンフランシスコから夜行バスで遊びに行ったことがあった。どのホテルにも大きな集会場が敷設されており、各種の展示会や学会が多数、開かれていた。

 学会参加証を首から下げた研究者らが、スロットマシンを楽しんでいる光景を見てびっくりしたが、息抜きの娯楽気分に見えたしカジノはこうした中で経営が成り立っているのだと思った。ラスベガスは、広大な砂漠の中にある都市で産業が育たない。そこで賭博と売春を合法的にして人々を寄せ、地域に特殊な「産業」を育てたと聞いている。

 そうした特殊事情もなく、産業振興策も行わずに安易に賭博で負けた人の金銭をあてにして地域振興を目指すなどは、政治ではなくヤクザの考えと同じではないか。

 この政権は圧倒的な多数を維持していながら、日本の将来にかけた教育、科学技術、研究などには熱心に取り組まず、カジノ解禁法などにこれだけ熱心に取り組むのは亡国の政治である。


第130回21世紀構想研究会・特別講演と忘年パーティ

 

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 第130回21世紀構想研究会は、12月15日、プレスセンターで開催され、山口正洋氏(ぐっちーポスト編集長、経済金融評論家)が「トランプ後のアメリカと今後の日本経済の見通し」のタイトルで講演を行い、その後一年を締めくくる忘年パーティで盛り上がりました。

 研究会には大村智、荒井寿光、黒木登志夫先生らアドバイザーを始め多くの会員とその関係者が参加して、有意義で楽しい時間を過ごしました。

特別講演の内容を報告します。

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 ウソだらけのメディア報道

 冒頭、山口先生は、金融マンとして活動してきた体験から、メディア報道、特に日本経済新聞は政府の発表、つまり大本営発表をそのまま垂れ流すようなもので間違いが多いと指摘。

「政府筋から出てきた情報をどう解釈するか、それを精査しないで報道している」とメディアに噛みついた。

 「株をやったことがない人が金融情報を書いている。たとえて言えばゴルフをやったことがない記者がゴルフの記事を書いているようなものだ」

 アメリカのトランプ次期大統領が当選した番狂わせのメディア解説でも、ヒラリー・クリントン候補が落選した原因は、格差社会への反発、白人の貧民層の反発などをあげていた。

 しかし、ヒラリーの得票支持層や過去の民主党と共和党候補者の得票数を分析してみると「ヒラリーが負けたのは民主党支持者の投票行動サボタージュにあったと思われる」と分析。共和党の得票数は前回の大統領選挙と同じなのに、民主党の得票は500万票以上減っていると指摘した。

 メディアは見当違いの理由をあげているとして、得票率を分析した結果を示しながら次のように述べた。

 「投票行動を分析すると女性は意外とヒラリー嫌いが多く、オバマ大統領の得票より女性の得票率を減らしている。唯一、票が増えたのは高学歴、男性階層だけだった」という。

 ヒラリー嫌いが投票をサボタージュし、その結果、トランプ次期大統領が誕生したとする見解を語った。

 トランプ次期大統領の政策予想に話を進めると、1980年代のレーガン大統領時代、レーガノミクスの再来を予感すると語った。その時代、アメリカはすさまじいバブル経済時期だった。日本もそうだった。トランプ次期大統領の時代はそれと似てくるのではないかという。

 トランプの発言内容が微妙に変質

 さてトランプ次期大統領の公約だが、インフラ整備、メキシコ国境での壁の構築、高所得者層の減税、オバマケアの廃止、武器の携帯を支持する最高裁判所判事の任命などをあげている。

 ここでレーガン大統領時代のころと比較分析し、レーガノミクスと言われた経済活況とバブルに至った時代を分析した。景気の動向を左右する就業者数を見てみると、オバマ大統領はレーガン時代に増えた公務員を切り、民間の就業者数を増やし、就業者数がマイナスだったのをプラスへと引き上げた。その努力は評価するとした。

 トランプ次期大統領の公約などの発言を精査すると、1980年代の政策から見て特に新しいことを言っているわけではない。トランプの公約の発言も微妙に変化しており、オバマケアの廃止も一部廃止と言い換えてきているという。

 政権の根幹に就く人事問題に言及し、石油大手エクソンモービル(XOM.N)のティラーソン会長兼最高経営責任者(CEO、64)を次期国務長官に指名すると発表したが、これについても次のように解説した。

 「この人はロシアのプーチン大統領と非常に親しい人物であり、今後、米ロ関係がどのように動いていくか非常に注目したい」と語った。

 さらに金融大手ゴールドマン・サックス・グループ社長兼最高執行責任者(COO)ゲーリー・コーン氏をホワイトハウス国家経済会議(NEC)の委員長に指名するなどゴールドマン社の幹部3人が政権中枢に入ることになり、いわゆるウオールストリート政策に入ることは間違いないだろうとの見解を語った。

 さらに過去のバブル期からやがて急落した経済状況を説明しながら、トランプ次期大統領政権がバブル経済に向かうことを予想し、その反動で急転して停滞・急落する可能性もあるだろうとの予想を示した。

 メキシコ国境の壁については、今でもフェンスがあるし違法者はどんどんメキシコに追い返している。この点は何も斬新さはない。そのほかの点でも、それほど新しいものを政策として出しているとは見えないという。

 日本経済は停滞したままでありアベノミクスは疑問

 さてアベノミクスについて言及した。日本経済新聞は、右肩上がりと景気予想してきたが、本当にそうだろうか。過去のGDPの推移を示しながら「一進一退を続けている」と指摘。これでアベノミクスの効果があったかは疑問であるとの見解を示した。

  日経新聞は、円安で財政がよくなったように書いているが、そんなに良くなっているわけではない。たとえば企業でよくなったのは「大企業で非製造業」が確かによくなっていると解説した。

 しかしこの業界は、非正規従業員を派遣する人材派遣業であり、正規社員がどんどん減っていった状況を示している。もはや正社員はいらないような社会を作っていると指摘した。

 そして「このようにかつて、ヤクザがやったような社業が栄えるのは違和感がある」と語った。

 さらに中小企業は、製造業も非製造業も青息吐息であり景気は停滞したままであるとした。

 なぜ景気が浮揚しないのか。山口先生はその原因は「消費税である。これがすべてを台無しにした」と断言した。消費支出のマイナスが続いている。東日本大震災の後にモノが不足していた時代の消費支出よりも、いまモノがあふれている時代なのに消費支出は低い。

 今後も消費税が上がることを予想して人員整理をして給与も抑える企業が出ている。実質賃金はマイナスに転じている。スーパーマーケットでは実態として値上げしている。価格を抑えて量を減らしているケースも多い。

 アベノミクスの第一の矢、金融緩和、黒田総裁のバズーカ砲だが、世の中に大量にお金を出す金融緩和で効果が上がるとしてきたが、効果は上がっていない。企業の売り上げも利益も横ばいであり、国民はお金を使わない。アベノミクスの効果は甚だ疑わしいとの根拠を様々なデータで示した。

 名目GDPと株の時価総額の関係を見るとアメリカの投資家のウォーレン・バフェットが言うように株の時価総額が名目GDPを超えていくとバブルの警戒水域になると語り、今の株の時価総額は警戒レベルなっているようにも見えると語った。

 2001年5月、日本は財政破たんしたとアメリカの有名な経済学者から言われたことがあるが、日本は貯蓄率が高くしかも国債はほとんどは日本人が購入している。外貨残高も世界一だった。黒田現日銀総裁が当時、日本破たん説を消して回った。

 日本はこれまで一度も債務超過に陥ったことはなく、今も日本の財政は300兆円以上の資産超過があり破たんしないことは明らかだが、それでも財務省は危機意識をあおっている状況を説明した。

 若年労働者の増加に転じているアメリカ

 日米の人口構成をグラフなどで示した。それによるとアメリカは人口増加国であり、働く年齢層がこれからも増えていく動向を示した。一方の日本は高齢化が進むものの、人口減少は緩やかであり、それほど心配はいらない。

 日本の高齢化人口が増えていくことは、別に悪いことではない。高齢者はマーケットにとってプラスと考えるべきだとの考えを語った。人口が減ってもお金を持っている年配者が増えれば、市場としてはいいものだと考えることが重要であることを示唆した。

 トランプ次期大統領の政権になって、バブル経済が来る可能性があるとの見解を示し、バブルはいずれ破たんすることも語った。ただ、アメリカはG7の中でも若年労働者が唯一増える国であり、今後も成長が見込まれていることを示した。

 また2010年に山口先生は中国のビジネスを完全撤退したと語り、アメリカとビジネス展開することが一番安泰であることを語った。

 最後に国の豊かさをGDPで示した時代は過去のものであり、国連がいま試行している国の総合的な豊かさの指標を見ると日本は非常に豊かな国であることが示されていると紹介した。

 そのような考えに転換していくことが重要であることを主張した。

 最後に消費税を上げる必要がないことを改めて主張して区切りをつけた。

 時間の関係で質問はひとつに限り、代表質問を21世紀構想研究会理事の長谷川芳樹氏が発言した。

 長谷川氏:投資戦略についてご意見をお聞きしたい。日本では為替が動くことが投資戦略を難しくしているように感じる。アメリカが今後、バブル経済になるならそれに乗っていくこともいいかなと思うが、どうすればいいか。

 山口先生:為替の問題ですが、自国の通貨が高くなることは価値が高いから高くなるのであり、それで破たんしたケースはない。円安になるということは日本に信用がないことである。円安でリスクがあると理解する方がいい。一番危険なのは、どこかで歯止めが利かなくなることだ。日本は外貨準備高が膨大にあるが、どこかでつまずくとどうなるのかを考えて行くことが大事だ。

2CIMG6103大村智先生と山口先生のツーショット

2CIMG6110生島和正・武蔵エンジニアリング社社長(左)から記念品の贈呈を受ける山口先生