日 時 5月25日(木) 午後7時~
会 場 プレスセンタービル9階、記者会見室
講 演 「AI及び自律型ロボットの普及と法的・制度的課題」
講 師 新保 史生・慶應義塾大学総合政策学部教授
産業用ロボット生産で世界断トツの日本だが
前回の石川正俊・東大大学院教授のご講演に引き続いて、いま世界中で進行しているAI(Artificial Intelligence、人工知能)をめぐる課題について新保史生慶応義塾大学教授に講演をしていただいた。
新保先生はまず、日本は産業用ロボットの出荷稼働数では世界トップを守り続けていると指摘。ロボット向け精密減速機、サーボモーター、力覚センサーなどは世界の9割のシェアを抑えている。しかし技術で勝っていてもビジネスでは、それほどの威力を発揮していないのではないかとの課題を提起した。
いま、すべてのものがネットにつながるIoTとAIが結びつく時代になってきた。これからのロボットは、生活支援ロボットやルンバのような身の回りのロボットになるが、日本はこうした領域でもロボット大国の地位を維持できるのだろうか。これが新保先生の提起した日本の重要な課題である。
次にロボットをめぐる法的課題として、日本全体が検討して議論するべき問題が体系的に認識し把握されていないと指摘した。
ロボットが責任を負うのか
新保先生は「人間が直接指示したり操作せず、AIの『自律的』な『思考』によって誤った動作や判断により問題や損害が生じた場合、誰が法的責任を負うのか」と問いかけた。
ロボットがネットワークに接続され、日常的にあらゆる「モノ」で利用される、モノのインターネットIoTの普及が見込まれている。そのような時代になったとき、自律的に動作をするロボットによってさまざまな問題を引き起こす可能性あるだろう。
あるいは、映画のターミネーターのように、自律したAIが自発的に人間に脅威を及ぼすことがないだろうか。AIの悪用や暴走を考えた法的仕組みや制度を直ちに考えるべきであるとの見解を示した。
そして新保先生は、ロボット法を必要とする背景として次の4点をあげた。
①バーチャルな問題からリアルな課題になってきた
②物の「利用」から「人への接近」が現実になってきた
③人のような存在として人に代わって社会生活において存在する時代になった
④人間の生活環境に密接に関わるようになってきた
ロボットをめぐる国内の戦略や政策動向を示しながら、日本が取り組むべき法改正や戦略検討会の積極的な取り組みを強調した。
自動走行の法的課題をあげる
自動車が自動的に走行する時代が見えてきた。アメリカではすでに実用化を迎えようとしている。自動走行をめぐる法的課題として新保先生は次の4点をあげた。
①自動走行と道路関連法令の適用・解釈の問題
②交通事故・交通違反に関する責任
③製造物責任・保安基準・免許制度
④情報の管理責任(個人情報・プライバシー保護など)
新保先生は、警察庁で実施されている自動走行の制度的課題等に関する調査検討委員会での論議の内容について解説し、ガイドラインの検討と実施主体の責務に言及した。
AI創作物の知的財産権についても言及
また空を飛ぶドローン(無人航空機)の法規制についてもこれまでの課題と制度整備の提起を行った。
さらにAIの具体的な課題を検討する総務省「AIネットワーク化検討会議」や「人工知能技術戦略会議」(議長:安西祐一郎(独立行政法人日本学術振興会理事)を創設した動きを報告した。
また、文部科学省「AIPプロジェクト(人工知能/ビッグデータ/IoT/サイバーセキュリティ統合プロジェクト)」が2016年5月23日に「平成28年度戦略目標」の決定を公表したことや、内閣府の「人工知能と人間社会に関する懇談会」が、2016年5月30日から検討を開始した動きを報告し、新保先生の考えも示した。
また、AI創作物との知的財産権についても意見を述べた。AIによる創作物の多くに現行では知的財産の権利は発生しない。しかしAI時代になった時の知的財産権の在り方に対し、次のように述べた。
今後はあらゆるAI創作物を知財保護の対象にすることは保護過剰になる可能性がある。
しかしその一方で、市場に提供されることで一定のブランド価値などが生じたAI創作物には保護が必要になる可能性を指摘した。
新保先生は、すでにレンブラントの名画を模した「AI画家」が出てきていることやAIによる小説も出てくる可能性をあげた。
最後に「ロボット・ロー・バイ・デザイン(仮称)(Robot Law by Design)」のための8つのロボット法原則を新保先生の試案として示した。
- ①人間第一の原則
- ②命令服従の原則
- ③秘密保持の原則
- ④利用制限の原則
- ⑤安全保護の原則
- ⑥公開・透明性の原則
- ⑦個人参加の原則
- ⑧責任の原則
講演後の質疑応答でも具体的な課題提起に対する論議が活発に展開され、非常に実り多い講演会だった。
新保先生のご専門は憲法であるが、新しい技術、時代を先取りする形で制度や法改正へ積極的に取り組む姿勢は、これまで見られなかった法律家である。
たとえば、脳死を死と認めた臓器移植、他人の生殖細胞を移植できる生殖医療技術などが出てきたとき、日本の法律学者はほとんど「無力」であり、見解を述べることができなかった。筆者の取材体験からの印象だが、そのような印象を払拭するような新保先生の活動に感銘を受けた。
文責・馬場錬成