日時 2018年3月29日(木) 午後7時ー9時
会場 プレスセンタービル9階 記者会見場
「テクノロジー・スタートアップが未来を創る」 鎌田富久先生 <http://tomyk.jp/>
今回は、大変革の時代の旗手・鎌田富久先生による、IoT x AI 時代の新たなチャンスをつくるイノベーション戦略についての講演でした。
事例をふんだんに盛り込みながらテクノロジー・スタートアップについて話していただきました。
1 日本発テクノロジー・スタートアップの挑戦
日本の経済は人口の増加と共に成長してきましたが、その人口が2008年をピークに減少、このまま行けば2030年代にはGDPがマイナス成長に転換する危機的な状況です。
特に日本の少子高齢化は深刻で、不足する労働力を補うためには、生産性の高いロボットの活用が期待されます。これまで経験したことのないこの課題を克服するためにテクノロジー・スタートアップでイノベーションを起こすこと、つまり「自ら明るい未来を創るしかない」と鎌田先生はおっしゃっています。
具体的なデータに基づく説明をされる先生の話に耳を傾ける聴講者たちは、将来への危機をひしひしと感じながら、課題解決のための方法=テクノロジー・スタートアップの話に期待が高まります。
ここで日本のスタートアップの紹介がありました。
◆SCHAFT
ヒト型ロボットの無限の可能性を追求、災害救助等ヒトの活動空間で柔軟に作業をこなすロボットを開発しています。(現在はソフトバンクに買収され、Webサイトはありませんでした)
◆AXELSPACE https://www.axelspace.com/
60cm角の小型人工衛星50機(予定)による地球観測ビッグデータのプラットフォームを実現します。地球を丸ごと監視できることから、アイディア次第でさまざまなビッグデータの活用方法がありそうです。活用例もいくつか紹介がありました。
技術系の方はぜひWebサイトをどうぞ。ワクワクがあります。
◆WHILL https://whill.jp/
日産、ソニー、オリンパスの若手エンジニアでスタート、カッコいい次世代車いすを開発しています。
Webサイトの動画は完成度の高いデザインで近未来を感じさせます。
2 IoT × AI時代の新たなチャンス
次に鎌田先生が注目する「私の5つの注目分野」の紹介です。
①社会は最適化へ向かう(IoT × AIでイノベーション)
②あらゆる分野にAI(日本の全業務の50%以上がAI・ロボットで代替可能)
③医療にイノベーション
④農業にイノベーション
⑤テクノロジーで進化する人類
どのようなメリットがあり、どこがイノベーションなのか、ひとつひとつ例を挙げながら説明する鎌田先生の話から、幅広くさまざまな分野に網を張っていることがよくわかりました。
このようなイノベーションが活発になってきている理由は、オープンテクノロジがイノベーションを加速しているとのこと。ハードウェアやソフトウェア、サイエンスでさえインターネットを介して積極的に公開することが、世界中の人類の知を刺激して新たな課題解決が図られています。
ただし、注意点もありました。やはりこの世界でもトレンドがあり、タイミングも重要とのこと。質問でもありましたが、例えば今のAIはGoogle等によるディープ・ラーニングのオープン化により、それまで研究されていた手法は流行遅れとなってしまいました。
3 大企業もスタートアップ流でイノベーションを加速
それでは、大企業はどうでしょう?
鎌田先生は大企業とスタートアップの共創として具体的な提案をしています。大企業の社内留保をスタートアップに投資する、社内にもプロジェクト型組織(目的を達成するための組織横断型で人員構成する組織)を設置して社内スタートアップを支援する、などです。
また、スタートアップの成長期には大企業で培ったノウハウ(営業力や人材、大量生産、大型投資)が必ず必要となる点を強調されていました。
ここまで90分の講義でしたが、ここから30分の間、熱い質問や議論が始まります。
・オープンテクノロジ、オープンサイエンスを使うと、他社が参入してくるのでビジネスとして育たないのでは?
→すぐに競合が出てくるのは必定。追いつかれないためには他にないユニークな強みが必要である。また、スピードが重要。イノベーションの加速=競争が激しいということである。先行逃げ切り型になる。
・米国では簡単にファンディングし、成功すればgoogleなどが買収して成長する仕組みができている。そのような地盤のない日本で、日本発のスタートアップは育っていくのか?
→確かに米国のベンチャーは資金調達の規模が桁違いである。日本の大企業の内部留保は300兆円くらいあるらしい。それを吐き出すことでまず資金調達問題を解決に導きたい。
・大企業からのスタートアップは、日本の経営者はリスクを取らないのでやらないと思うが?
→今の企業のジレンマである。大企業は現状事業を更に成長させる基本計画(効率化、人員体制)を中心としているが、大企業の経営トップ層は時代環境の変化や既存事業が成長しなくなっている点、さらに新しい事業をどう発見するかを課題と認識しており、必ず解を見つけるであろう。
そうでなければ、企業は消滅してしまう。社内留保を使う場合、日本のスタートアップにこだわらず、米国、中国等世界に目を向けるだろう。
・スタートアップの基盤要素は各国同じなのか?国による個別要素はないのか?アメリカ、欧州、中国、日本の比較で、スタートアップが早く立ち上がるすぐれた要件を持っているのはどこか?
→今一番勢いがあるのは中国。自国のマーケットが大きいためだ。
日本はハードウェアが絡むと強い。ハードウェアがあると追いつくのに時間がかかるので、日本が勝てるチャンスがある。
また、医療分野は高齢化が進む日本でのマーケットが大きいので可能性がある。
・早くシェアを取るために経営チームに経験者を取り込めればいいが、その育成についてアドバイスやサポートがあるか?
→エンジニアが経営の勉強をして技術者出身CEOになることを勧めている。第二の創業として優秀な営業のシニア達が必要なので大企業の30-40歳の優秀な方を取れれば良いが、いわゆる「嫁ブロック」がある(笑)。
子供が小さい、住宅ローンがあるなどで奥方から反対されてしまう。背景としてスタートアップの社員は住宅ローン組めない等、社会的な立場も弱い。
・VC(ベンチャーキャピタル)のベンチャーに対し日本は冷たいと感じる。儲かるかどうかの判断基準しかない。足元に良いものがあるのに発掘されず枯れていくものも多い。日本らしいスタートアップの方法はないのか?
→経産省などの助成金が出やすくなってきている。また、政策金融公庫なども資金を貸してくれるようになってきた。
しかし、スタートアップで成功した人がVCになるというサイクルが必要だ。現状では米国にナスダックができて28年後に日本のマザーズができているので日本は28年遅れとも言える。
・中国ではVCがあちこちベンチャーを探し回って投資する先を探していた。日本ではどうか?
→日本ではあまり聞かない。中国はマーケットが大きいのでアグレッシブにやっているようだ。
・多くのベンチャーは技術中心。真似られたら終わり。しかし世界中で特許を取ると、金がかかりすぎる。スタートアップは回らないのでは?
→スタートアップに対し、グローバルに特許化を支援する政策があるとよいのだが。弁理士さん、先行投資してリターンで回収しませんか?(笑)
・撤退戦略、見切りのポイントは?
→2つある。ひとつは人の問題で仲間割れだ。もうひとつはテクノロジの賞味期限切れ。
AIのディープ・ラーニングが出る前に有望だった技術はいい線いっていたのだが、ディープ・ラーニングによってほぼ駆逐された。粘っていてもだめと見切る必要がある。
ただし、内容によっては理由が、日の目を見ていない、応用待ち、価格が下がらない、時期が早すぎる、等の場合は粘ること。
・鎌田先生への要望も含めてのコメント
・ユーグレナなどは特許化していてがっちり技術を守っている。知財戦略について大学で教える環境を整えてほしい。
・たいしたテクノロジでもないのに、本人はすばらしいと信じている人も多いので、そのような場合は、はっきり言ってあげてほしい。
・大企業も社内ブロックがありながらも、スタートアップについても昔から何度もトライしている。しかし、優秀なリソースを割り当てられないためうまくいかない。
・日本はモノづくりにこだわりすぎていて負ける。電気メーカーが顕著である。ファブレス/アウトソースで設計(アイディア)中心で行くのがいいのではないか
日経も何かと「日本の強みはものづくり」というがその考えを改めてほしい。
→自分(鎌田先生)の経験として、かつてソフトでは米国に勝てなかったことがあり、どうしてもハードウェア絡めてハード・ソフトの両面で進めたくなる。やはり日本のものづくりの正確さや緻密さなどは他国とのアドバンテージが大きく武器になる。それを活かして日本でのスタートアップのライフサイクルを構築し、将来的にはソフトのみで勝負できるとよい。
・構想研会員にモータの開発を続けている人がいる。重量1/2、出力3倍、特許5-6件取得して大企業にも評価されているものを開発した。
しかし、技術一筋の方なので経営手腕が乏しいと思われる。スタートアップで世界制覇できないか?
ロボットと組み合わせてなにかできないか?
鎌田先生、指導してくれないか?
このようなケースはどうすればよいか?
→このような場合、若い人を経営トップにする。ただし当該技術はわかる人でないとうまくいかない。息子が経営トップになると、粘りもありうまくいく例が多い。
・大企業の経営トップ層の意識が変わってきている。いくつか新たな試みがされている。この変化の流れをどうやって大きくしていくか?
経団連はいまだに一括採用ルールにこだわっている。成功しなかったスタートアップに関わった人は次の仕事・人生設計をどうすればよいのか?失敗者が次に活躍できるためには、どうすればいいのか?
→失敗者に対しその挑戦者としての経験を買う人が現れることが重要。自ら借金を抱えることがなければ(私財を投入しないこと)、次のスタートアップや大企業に入ってアイディアが出るまで待つことができる。
シリコンバレーは数多くベンチャーがあるが成功するものは少ない。しかし、成功すると大きく、次の投資に回るサイクルが出来上がっている。失敗者に対しても同様だ。
それから、新卒一括採用についてだが、スタートアップをやりたい学生にとってプレッシャーとなっている。自分がレールからはずれる瞬間をまざまざと意識するので、よほど強い意志がなければ難しい。日本の企業は新卒一括採用を見直してくれるとよいのだが…
鎌田先生からのメッセージは「未来を創る挑戦者になろう!」、これに対して馬場理事長より「これらのことを誰が解決していくのか。言い続けていくことが重要である。鎌田先生と一緒に進めていきましょう」と締めました。
(文責・事務局・渡辺康洋)