私たちの体内には、300種以上、数百兆個の腸内細菌が生息している。人間と共生する関係にあるので、これらの細菌なしに私たちは健康体で生きていくことは難しい。
この腸内細菌は国、地域、民族によって生息している細菌の種、個数も違っている。日本人の腸内細菌は、欧米人や他のアジア人とは違っているという。
服部正平・早大大学院新領域創成科学研究教授が、4月22日に開催された21世紀構想研究会・生命科学委員会で興味ある内容を多くのデータを駆使して講演した。講演要旨を報告する。
最近の腸内細菌の研究は、遺伝子解析が主流になってきた。様々な国で研究された成果によると、年齢、男女、国・地域・民族によって細菌種の分布がみな違っており、食習慣、民族によって特徴が出ているという。
腸内細菌といっても、皮膚、生殖器、鼻腔、口腔内などあらゆる場所に細菌は生息している。皮膚の常在菌を利用して化粧品を開発しているメーカーもある。アメリカでは、皮膚の常在菌を個人鑑定に利用する方法も研究されているという。
日本人の腸内細菌叢で特徴的なものでユニークなのは、海苔、ワカメなど海洋性植物を分解する酵素を持っている腸内細菌がいることだ。アメリカ人には、このような腸内細菌は生息していない。
日本人は海藻類を多く食べるが、消化されずに腸に降りていくので、これを餌にした腸内細菌がすみつき、繁殖しているのではないかと推測されている。また、日本人の腸内細菌叢で外国人と違うのは、ビフィズス菌が最も多い菌種になっていることだ。
こうした菌種の分布は、国・民族によって多様になっており、日本人の中でも多様性があるという。
病気や国別患者によっても違う腸内細菌叢
また、糖尿病などに罹患している患者の腸内細菌叢の菌種分布は、国によって違いがある。それは食事内容にも大きく影響を受けているが、抗生物質の使用量とも関係がある。日本人はビフィズス菌が多く、ペルー、ベネズエラは少ない。このような民族間の相違もどこからくるのかまだ解明されていない。
日本人はビフィズス菌が多いからと言ってサプリなどで補充することは効果があるのかどうか。菌数のことを考えると効果は疑問ではないかと筆者は思った。
抗生物質の使用量が多い国と少ない国でも菌種の個数が変わってくる。家畜動物に抗生物質を使用する国もあり、残留抗生物質が食物を通して人間にも入ってくる。それが原因で腸内細菌叢も変わってくる。
それが変われば体内の生理機能も変わってくるというから、やはり腸内細菌と人間は共生していることになるのだろう。
また遺伝子解析によって分かってきたことは、人間の腸内細菌叢が持っているユニークな遺伝子数である。腸内細菌叢の遺伝子配列は、人間の遺伝子よりも桁違いに多様化しているという。人間は平均22万遺伝子だが、腸内細菌は約500万あるという。
腸内細菌叢を調べていくと肥満、過敏性大腸炎、リウマチ、アレルギー、喘息、肝臓がんなど代謝系、免疫系、神経系などの15種の病気と密接な関係があるという報告は、非常に興味があった。もちろん、こうした病気との関係も国によって変わってくる。
花粉症やアレルギー疾患とも関係あるのか
近年、花粉症やアレルギーの患者が増えているのは、腸内細菌叢の変化と関係あるのではないかという説も出ている。免疫の機能も左右する腸内細菌叢の動物実験の研究から出ている推測だ。将来、このような免疫疾患の予防や治療薬の開発にも利用されるだろう。
また体内の常在菌は、単独では機能しないようだという報告も興味をひいた。多くの感染症などは単独の細菌で病気を発症するが、腸内細菌叢はチームを作って活動しているのではないか。とすると人間との協働関係もあるのではないか。
腸内細菌の研究はまだ入ったばかりのようにも思える。これからどのように発展するかとても興味を持たせる内容だった。
文責・馬場錬成