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2017年4 月

森友事件に見る新聞メディアの最期 その4

教育勅語にこだわる安倍政権は何を目指すのか

 森友事件は、筆者が予想するように下火になり、世間の話題と注目は別のものに移っていくように感じている。いつものことだが、日本人はけじめをつけることが苦手な国民性なのかもしれない。森友事件が燃え盛るのを都合の悪い人々は、国民が事件を忘れてくれることをひたすら待っている。

 このコラムで書いてきたことは、森友事件が起きた背景は「右翼思想の森」が醸し出す「空気」にあるというのが筆者の主張である。このようなテーマ、課題を調査・追及することは新聞がもっとも不得手とするものだ。

 SNS(Social Networking Service)のようなツールと手段を持っていなかった50年前なら、森友事件は露見せずに静かに成功していたかも知れない。籠池氏が語ったように「神風が吹いて」、右翼思想を教育する学園が誕生していたかも知れないからだ。SNSの時代がこの事件をさらけ出したおかげで、多くの国民が理解できない首相夫人とそれを取り巻く秘書グループの不可解な言動も知ることになる。

 それにしても安倍内閣は、戦前の間違った教育の象徴となっている教育勅語にこだわり、明治時代の思想に逆戻りさせようとしていることは明らかだ。1983年、中曽根内閣が教育勅語を朗読する右翼志向の学校に対し、その朗読の中止を求める是正勧告を行っている。そのような過去の自民党政権の政策を否定までして教育勅語にこだわる安倍政権に対し、国民が黙っていることは許されない。

 NHKが先ごろ実施した世論調査によると、「教育勅語を教材として活用することを否定しない」とした政府答弁書について「まったく評価せず」15パーセント、「あまり評価せず」33パーセントだった。合わせると半数近くの人が評価しなかったことになる。これに対し「大いに評価」「ある程度評価」は合わせて36パーセントだった。

DSC_2631NHKの世論調査の報道より

 ところが、安倍政権を支持する人は半数を超えており、内閣は依然として国民の支持を受けていることになる。

 明治にこだわる安倍政権の後進性

 安倍首相が熱意を燃やすのは改憲だけではなく、 2018年10月23日に迎える「明治改元150年」の式典にあるとされている。

  現行憲法が公布されたのは昭和21(1946)年11月3日である。憲法が平和と文化を重視することからその日を「文化の日」と呼ぶことにした。安倍政権はそれを「明治の日」に代えようとする動きが出ているという。

 さらに4月14日には、2021年度から全面実施される新しい中学校学習指導要領の保健体育で、武道の種目の一例に「銃剣道」を明記したことについて、「『軍国主義の復活や戦前回帰の一環』との指摘は当たらない」との答弁書を閣議決定したとの報道があった。

 デジタル大辞泉の解説によると閣議決定とは、「憲法や法律で内閣の職務権限とされる事項や国政に関する重要事項で、内閣の意思決定が必要なものについて、全閣僚が合意して政府の方針を決定する手続き」とある。法律や条約の公布、法律案・予算案・条約案などの国会提出、政令の決定などに際して行われるものであり、中学校の学習指導要領について閣議決定することがあるのか。なぜ、こんなことまで閣議決定しなければならないのか。

 「軍国主義の復活や戦前回帰の一環」と指摘されることに、なぜこれほどまでに過敏に反応するのか。本音を衝かれたから、あわてて対応しているように見える。

 そのような時間があるなら、未来に向けて日本はどうするか考えを巡らせた方がいい。科学技術創造立国、知的財産立国とした過去の国是はどうしたのか。

 世界の科学技術も知財の世界も驚くほど速い流れで進歩・進展している。そのような現状を正確に把握している閣僚は、首相を筆頭にほとんど見当たらないように筆者は思う。国民は政治に対してもっと関心を持たないと、議員多数決という国民不在の政治に都合のいいようにされてしまう危険を感じる。

 政治権力のチェック機能を十分に果たせなくなった新聞に代わるジャーナリズムは、そう簡単には育たない。誰がこの穴を埋めるのか。日本のリベラル階層は、もっと自身の意見を発信する手段と方法を持つべきではないかというのが筆者の意見である。

(終わり)

 

 


中国アップルがスマホ意匠権で勝訴

  発明通信社のコラム「潮流」(http://www.hatsumei.co.jp/column/index.php?a=column_detail&id=231)の2016年8月18日付けで、中国アップルが中国で販売していたiPhone6、iPhone6-Plusの意匠は、シンセン市佰利営销服務有限公司(以下、佰利=バイリ=)の持っている意匠権を侵害しているとして販売差し止めを求められた紛争を紹介した。

  もしこれが認められると、中国の大市場で中国アップルのスマホが撤退することになりので、世界中の知財関係者から注目を集めていた。これは同時に、中国の司法を含めた知財制度が、国際的に受け入れられるかどうかを見極めることにつながるという思惑もあった。

  ともすれば、中国は自国有利の司法判断が出るという危惧を従来から抱かせていたからだ。特に地方保護主義という考えが根強くあるからでもある。

  結果は、中国アップルの言い分が認められ、中国の知財司法制度と判断は、先進国並みになっていることを示したことになった。

  今回の訴訟結果についても前回と同様、北京銘碩国際特許法律事務所(http://www.mingsure.com/Japanese/about.asp)の金光軍弁理士の解説をもとに紹介してみる。

 これまでの経過をおさらいする

  この紛争の経過を一覧表にしたものが、下の表である。

  シンセン市佰利営销服務有限公司(以下、佰利=バイリ)が2015年1月に、自社の持っている意匠権をもとに、アップルコンピュータ貿易(上海)有限公司(中国アップル)が中国で販売しているiPhone6、iPhone6 Plusは、意匠権を侵害しているとして販売差し止めを求めて北京市知的財産局に訴えたのが発端になっている。

 バイリが取得した意匠権は、同年1月13日に出願された「ZL201430009113.9」などであり、同年7月9日に登録公告された。なお、iPhone6 PlusとiPhone6は、サイズだけ異なるスマホである。

 中国アップルのスマホの意匠をめぐる係争の経過

 

  この紛争は、行政では侵害と認めたが、中国アップルはこれを不服として司法判断に訴えた。

  今回、この訴えに対し北京知的財産法院は、行政側の侵害判断をいずれも認めず、結果として販売差し止めを認めないとする判断になった。

  金光軍弁理士によると、今回の判決の全文が公開されていないので、今の時点では同法院が発表したメッセージから判断を読み取ったとしている。金光軍弁理士は、整理して次の3点をあげている。

  1、北京市知的財産局の決定は、係争意匠と被疑侵害意匠の間の区別意匠特徴の認定において、遺漏(手落ち)がある。

  2、被告(北京市知的財産局)は、自分が確認した係争意匠と被疑侵害意匠の間の五つの区別意匠特徴を機能的意匠特徴と認定したが、この認定は事実及び法律的根拠がない。

  3、係争意匠の携帯電話の側面の弧度は非対称設計で、その弧度及び曲率に関する意匠特徴は従来意匠と区別される意匠要点であるが、被疑侵害意匠は対称している弧度設計を採用している。(対比図面の赤枠部分

 
北京銘碩国際特許法律事務所のニュースレター(2017年3月号)から転載

  この区別は全体の視覚効果に顕著な影響がある。これに関する被告の認定は誤っている。また、係争意匠と被疑侵害意匠の間には一般消費者が容易に観察できる明らかな他の区別もある。従って、被疑侵害意匠と係争意匠は同一意匠でも類似意匠でもないので、被疑侵害意匠は係争意匠専利の保護範囲に属しない。

  このように金光軍弁理士は整理したうえで、この判決について「係争意匠とiPhone6、iPhone6 Plus はいろんな区別があるので、通常の消費者でも両者を区別できると思う。したがって、iPhone6、iPhone6 Plus が係争意匠専利を侵害したと判断したのは、無理があると思う」と語っている。

  この係争は通常の3人の裁判官による合議体ではなく重要案件として5人の裁判官の合議体を形成した。それだけ中国でも難しい重要な案件とみたわけだ。

  金光軍弁理士は「北京知的財産法院が北京市知的財産局の結論を全て覆したので、上訴の可能性が高いと思われる」としている。もし、被告が上訴した場合は北京市高級人民法院で二審が行われることになる。

 

 


森友事件に見る新聞メディアの最期 その3

証人喚問NHK

国会で証言する籠池氏(NHKテレビから)

 戦前回帰を目指した「右翼思想の森」に隠れた真実

 森友事件は、学校建設の許認可をめぐる不正疑惑と国有地のタダ同然の払下げの不正疑惑が大きく取り上げられている。しかし問題の本質は、日本会議という右翼団体の影響を強く受けた政治勢力にあるというのが、筆者のコラムの主張である。

 右翼団体である日本会議とそれを取り巻く人脈は、あたかも一つの森を形成するように大きな茂みを作っているが、確たる輪郭を持った形状物ではない。それは「日本会議の研究」(扶桑社)で、著者の菅野完氏があますところなく書いている。

 現政権と直結するような「森」の調査報道となれば、従来の新聞メディアには不得手なテーマである。時代の要請を受けたインターネットサイトからの発信でこの事件の端緒が語られるようになったのである。

 菅野氏の緻密な調査結果、それを発信したインターネットサイト、その反響を受けて実現した刊行本。その手順こそ、第4次産業革命の産物と言えるものである。それは筆者が追跡してきたもの作りの現場と類似する点がある。

 安倍首相夫人が森友学園に3回も講演に訪れ、幼稚園児らの時代錯誤のシュプレヒコールを見て涙したという話や、国会の証人喚問などで話題の中心人物になっている籠池泰典氏夫妻と夫人の記念写真を見ても、首相夫人と森友学園が親密な付き合いであったことは明らかである。

 右翼団体の森を作っている数々の樹木の一本が森友学園であり、幼稚園児たちの教育勅語の朗読や軍歌の「海ゆかば」を歌唱する活動は、あたかも森を覆うおびただしい枝葉の一つのように見える。

 森と枝葉を涵養する忖度という「空気」

 安倍首相は、森友事件が国会で問題にされてきた当初、籠池氏を評して「教育に熱心なお方・・」と語っていたことや、首相夫人が森友学園の名誉校長になっていたこと、さらに「安倍晋三記念小学校」と名付けようとしていたことからも、籠池氏が安倍首相の大ファンであったことが分かる。と同程度に安倍首相夫人もまた、森友学園の教育活動に共鳴していたからこそ、親密な付き合いが続いてきたのである。

 

 このような事実を重ね合わせると、日本会議という右翼の森を形成する木々の一本に首相夫妻が関わっていたという状況証拠は疑いないのではないか。そう理解してみると、国有地払い下げや学校設立許認可に対する不正疑惑は、また違った見方ができる。

 すでに「忖度」という言葉が出ているように、当事者が直接指示や下命をしなくても相手の思惑を慮って行動を起こすことがあったのではないか。それが忖度である。

その裏付けになるような籠池氏の言葉がある。「突然、神風が吹いてきた」と語ったように、森友学園の設立許認可事項や払下げ話が同学園の都合のいいように、にわかに進展していったのである。

 そのような風潮を私たちは「空気」という言い方をする。誰が発信して誰が責任者になっているのか判然としないが、全体を覆ってくる一つの方向性の勢力を「空気」という抽象的な言い方で表現する。まことに言い得ている言葉であろう。

 大きな森を形作っている木々とおびただしい枝葉とその陰影の中に、安倍首相夫妻の姿が筆者にはくっきりと見ることができる。そしてその木々を取り囲むように首相官邸の夫人付き秘書たちと官邸スタッフという別の木々が繁茂して森をいよいよ勢いつかせているように見える。

 森と木々と枝葉を涵養する「空気」こそ、森友事件を形成した要素になっているのではないか。だから話題にされている当事者たちが、違法性がないことをタテにして「問題がどこにあるのか」と抗弁することができるのである。

 空気は景色と言い換えることもできる。森の景色がある意図をあたかも持っているかのようにある色に染めていく。このような色付きの景色が見えてきたのは、森友事件が発覚してからほんのわずかな時間の中で展開された森の中の木々と枝葉のざわめきの中であぶりだされたことである。

 この色とざわめきを「違法」という尺度で決めつけることは、ほとんどできない。森の木々を形成する政治勢力はそこに拠り所を見つけ、忖度と空気という言葉に寄り掛かって、今回の森友事件を森の奥深くの闇に葬ろうとしているのではないか。

 しかし、森そのものは消すことができない存在感を出し始めており、その証拠の一つがすでに出てきている。安倍内閣は教育勅語を「憲法や教育基本法に反しない形」で教材として使用を認める閣議決定をした。なぜ、そこまでこだわるのか。

 森とその中に生息する木々と枝葉の存在に、筆者はこれからも注視していくことにする。

(つづく)