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直近10年に見る世界7カ国の知財動向

直近10年に見る世界7カ国の知財動向|潮流コラム一覧|特許検索の発明通信社

このコラムは発明通信社のHPの馬場錬成のコラム「潮流」から転載しました。

2014年の出願データを分析すると

世界の知財動向を語る場合、2000年前まではあらゆる統計・指標は日米欧の3極という見方をしていた。この動向を見ていれば、世界の知財動向の行方はほぼ分かるという時代だった。

そこへ割るようにして存在感を見せてきたのは韓国だった。しかしそれも間もなく中国に追い抜かれていく。最近は、日米欧中韓という5カ国の動向で比較されることが多くなった。

そこで、科学技術指標などで標準的に使われている日米英独仏という主要5か国に中国と韓国を加えた主要7か国の特許・意匠・商標・実用新案・PCT出願数をWIPO(世界知的所有権機関)の統計データを整理して調べてみた。

2014年に7か国の知財出願数の一覧とグラフ

実数の表を見るとPCT出願数を除く4つの産業財産権で中国は圧倒的な数字を出している。このような実績を出すことを2000年に予想した人は、おそらく世界中で一人もいないだろう。中国の知財活動は、2002年ころから爆発的に活性化して出願数が増加していったからだ。

2014年の出願状況をグラフにしてみると、ヨーロッパ勢の英独仏の存在感がこんなに薄くなっていることに驚く。一般的な工業製品の生産地は、日中韓台の東アジア4カ国・地域が世界を席巻しているように思う。筆者がヨーロッパで見聞した体験から見ても、大衆的な製品でアメリカとヨーロッパ企業がアジア勢に勝つことは難しい時代になったと思う。

特許出願に見る動向

2005年から2014年までの10年間の特許出願など産業財産権の出願動向を調べた結果が、以下の表である。特許出願では中国が一直線に伸び、2011年にはついにアメリカを交わして世界一になる。日本はその前年の2010年に中国に抜かれていった。

このような動向には当時もびっくりしたが、中国の科学技術の研究活動と企業活動を見ていると驚くことではなかったことに気が付く。

 

日本は10年前から特許出願数が下降線をたどっており、いまだに歯止めがかかっていない。原因は、企業の特許出願案件の絞り込み、つまり無駄な出願はしないで絞り込むという方針転換と、国内出願を抑える一方で国際出願を増やしていくという方針転換の現れである。日本はいつ歯止めがかかるのか気掛かりである。

PCT出願で猛追する中国

PCT出願の出願動向を見ると、アメリカ、日本に続いて中国が3位につけている。しかし前年比の増加率は、アメリカ7%増、日本4%増に対し、中国は17%の増加率である。グラフで見るようにアメリカと同様に右肩上がりになっているが、中国はむしろこれから急上昇するのではないか。というのも、ファーウエイ(華為)、ハイアール(海爾)など国際的に売り出してきた多くの企業が、ライバルのアメリカ、日本、韓国、台湾を意識して国際出願を増加させているからだ。


中国では、通信関連企業など21世紀型の企業、軒並み国際競争力を誇示しているのもPCT出願増加に寄与している。

 

 驚異的な実用新案出願の中国

実用新案制度のないアメリカ、イギリスを除く5カ国の数字がこの表である。これを見ると中国の数字が驚異的に突出している。

 

なぜ、中国がこれほど突出しているのか。それは制度が他の国と違う点がまずあげられる。中国の実用新案は無審査登録制度であり、しかも特許出願と同一出願案件が実用新案と一緒に出願できるからだ。同一発明者や出願者が同一期日に特許と実用新案の両方に出願できるという世界唯一の制度をとっている。

さらに、出願件数が大学などの研究者の実績として評価対象になっており、これは企業でも同じである。また出願すると報奨金制度もあるから出願に精を出すことになる。年末の12月になると突然、実用新案の出願件数が急増することからも分かる。

意匠も実用新案制度と同じ無審査登録制度

意匠の出願件数も中国が突出しているが、これも実用新案と同じように無審査登録制度になっているからだ。筆者が東京理科大学知財専門職大学院教授をしていたとき、中国人院生の楊威(ヤンウエイ)さんが中国の意匠制度について研究して修士論文を書いた。

その研究は、発明通信社との共同研究であり、2010年の日本知財学会で共同発表している。そのときの中国の意匠の出願動向を見ると、日本の意匠の審査基準とはかなり違っていた。中国ではすでに権利となっている商標とデザインをたすき掛けしたような意匠案件を出願すると登録される事例があった。トラブルになって権利を主張する場合に、実効性のある権利になるとは思えなかった。


こうした出願件数もかなり入っているだろう。それにしても仏、独、英、米が微増だが増加傾向にあるのに対し、日本は漸減であるのが気にかかる。グラフで見ると中国の特異ぶりがよくわかる。

商標でも突出する中国の事情

商標出願件数は、経済活動がグローバルになるにしたがって増えていくことが予想されているが、一覧表にもその動向が出ている。どの国も着実にわずかずつだが増加傾向になっているが、グラフで見るように中国だけが突出している。ただ、中国は2013年の横ばいから14年の減少は何を意味するのか。

中国は、営業許可証を受領している企業なら誰でも商標出願ができるので、出願急増に拍車をかけてきた。それにしても年間210万件を超える出願は異常である。それが中国での知財訴訟の急増とも無関係ではない。その点については別の機会に分析してみたい。

 


第127回21世紀構想研究会の開催

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 第 127回・21世紀構想研究会は、6月21日(火)午後7時から開催され、黒川清先生(政策研究大学院大学アカデミックフェロー・教授、元日本学術会議会長)が「規制の虜」の演題で熱弁をふるい、講演後にはフロアと熱い討論、意見表明が展開された。

 会場には、荒井寿光さん、大村智先生、黒木登志夫先生、藤嶋昭先生、そして演者の黒川清先生と5人の21世紀構想研究会アドバイザーが顔を揃えた。

 時代認識を明確に持つ

 黒川先生はまず、1990年代の後半から今日まで、世界は目まぐるしく変転した状況を振り返った。

Wikiが始まり、グーグル、フェイスブックが出現し、MS,アップルが世界中を席巻する。一方でアメリカでの同時多発テロ事件、中東の紛争とアラブの春でアフリカが大混乱に陥った。その3か月後に日本を大地震が襲った。 

 気候大変動、地球温暖化などの環境問題が大きな課題として浮上し、デング熱、難民がヨーロッパを中心に流動し、最近では2015年11月13日にパリ同時多発テロが発生した。

 黒川先生は、このように目まぐるしく変転する世界は不確かな時代の象徴であり、そのような時代背景の中で東日本大震災が勃発し、そして福島原発事故が発生したとの認識を示した。

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 国会事故調査委員会は憲政史上初

福島原発を巡る事故調は、政府事故調、東電事故調、民間事故調などが設置された。しかし政府事故調は、各省庁からの寄せ集めスタッフであり、出身省庁の動向を見ての調査であり、東電は自社の利害の中での事故調だった。

 立法府が設置した事故調は、国政調査権を背景にしたものであり、法的調査権を付与された民間人による調査委員会は憲政史上初めてのことだった。

 様々な専門分野から集まった国会事故調メンバーは、関係者から正確に聴き取りを行い、自分たちの判断や解釈を入れず事実関係だけの報告書を作り、政府に7つの提言を行った。

 6か月に20回の委員会を開催し、記者会見も行い公開原則の方針を貫いた。この報告書は英文に翻訳して発表した。

 2012年6月に国会に提出した報告書は、福島原発事故は地震と津波による自然災害ではなく「規制の虜」に陥った「人災」であると明確に結論付けた。

 「規制の虜」とは、規制する側である経産省原子力安全・保安院や原子力安全委員会などが、規制される側である東電など電力会社に取り込まれ、本来の役割を果たさなかったことを意味する。

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 原子力発電をめぐる日本の特異文化

 原発をいったん運転するとやめられない。地方自治体・住民が電力会社から金を出させて配分した。電力会社は予算制度に縛られ、結果として世界一高い電力料金として跳ね返った。

 そして原発には重大な事故は起こらないという「神話」がまかり通るようになった。日本がIAEA(国際原子力機関)の指摘する原子力施設の安全対策を多段階に設ける考え方(深層防護)を踏襲せず、いまなおそのような備えのない原発がいくつもある。

 経産省の官僚に「どうして深層防護をやらないか」と聞いたところ、「日本では原発事故は起こらないことになっている」と言われた。 

アカウンタビリティの真の意味を誤解する日本

 アカウンタビリティ(Accountability)という言葉の正しい定義は、与えられた責務・責任を果たすことが本来の意味だが、日本では「説明責任」という間違った意味と翻訳になった。

 誰も責任を取らない、なんとなく周囲の空気で判断して流れていく無責任体制が社会全体を支配するようになった。

 福島原発の発生によって、不十分な深層防護、組織的な知識とマネージメント伝達の欠如、安全意識の欠如、規制とアカデミックな判断にとらわれている現状が露見した。

  そして何事も疑ってかかるような学習する態度が欠如し、安全文化は不完全なままに放置された。固定観念に自己満足し、閉鎖された単一の教養が高いコミュニ ティーを作った。エリートが固まってグループで考えて行動する集団浅慮ともいうべき「Group Thinking」が、国を滅ぼすことになる。異論を言いにくい社会システムが固定していった。

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 日本の大学は「家元制」である

  黒川先生が国会事故調を担当して強く感じたことは、リーダーには歴史観、世界観、反骨精神が必要であることだったという。歴史的に振り返ってみると、山川 健次郎、朝河貫一という偉大な二人の巨人が、被災地になった福島県から出ている。二人の偉人がとった信念に裏打ちされた言動を忘れないようにしなければな らない。

  日本はいまだに江戸時代から続く鎖国体質から抜け出ていないように感じるという。日本の大学は家元制というのが黒川先生の主張だ。特定の研究室に所属する 人材が後を継いでいくだけであり、外部から見ると魅力がない。大学全体が研究のスキルを教えるだけで、歴史や哲学や学問の精神などを教えていない。

 見えないヒエラルキーの中にいるのではなく、出る杭を育てる教育が大事であり、世界に出て日本を見ることが大事だ。自分が変わらなければ社会は変わらない。若い人は海外留学するべきだ。

 講演後のフロアからの質問で「いま、黒川先生に教育する年代のお子さんがいたら、どういう教育をするか」との趣旨の発言があった。黒川先生は「まず海外へ出す」と答えていた。

 元官僚、実業家、企業人など多くの人からコメントが発せられ、実り多い講演と討論だった。

 

 

 

 

 

 

 

                                                           


第10回全国学校給食甲子園大会で優勝した月夜野学校給食センターを訪問

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左は、この日いただいた学校給食。右は昨年の10回大会で優勝した冨田先生と山岸調理員の名コンビ

 昨年12月6日、女子栄養大学駒込キャンパスで開催された第10回全国学校給食甲子園大会で優勝した、群馬県みなかみ町の町立月夜野学校給食センターを訪問して、半年ぶりに優勝した本間ナヲミ栄養教諭、山岸丈美調理員と再会した。トップの写真は、この日の献立の「味の旅・カナダ」のメニュ―である。豊富な野菜とサケをあしらったお料理にこめっこパンは本当においしかった。

 訪問したのは6月16日。山間の素晴らしい自然環境に囲まれたセンターに到着すると、待ち構えていた本間先生と小柴千恵子所長のお出迎えで楽しい歓談をしたあと、早速、白衣、帽子にマスクで装備して調理場に入った。

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手洗いが重要だが調理員は手際よく洗っていた(左)。 調理場の設備も広く清潔感のある素晴らしい施設だった。

 10年前に建設された調理場は電気調理方式であり、広々とした余裕ある調理場である。食材の検収、魚・肉の処理場、野菜の処理場が完全に独立しており、汚染地域が隔離されている。調理員の働きぶりもキビキビした動きで無駄がなく、さすが日本一になった学校給食センターだと思った。

 今回の取材の狙いは、科学技術振興機構(JST)の中国向けWEBサイト「客観日本」で「日本の学校給食」を掲載中で、近く衛生管理をテーマにした内容を掲載する。執筆者の大森みつえ・全国学校給食甲子園大会事務局長と一緒の取材 となった。

 筆者は、全国の学校給食調理場を数多く見ているが、その中でも月野夜センターの設備、環境、調理員らの動きは、トップクラスの施設だった。この日の献立を作成した本間先生は、世界の国々の様々な料理を学校給食として提供し、子どもたちに国際的な視野を広げ同時に国際的な食育授業へと発展させることだった。

 メニューにその狙いが出ていてびっくりした。こめっこパンと牛乳は定番だが、この日の主食はパンであり優勝献立のときと同じになった。サケのグリルレモンパスタソースかけ、カラフルサラダ・大麦入りのスープ、デザートにメープルマフィンという献立だ。

 まず野菜の多さにびっくりした。キュウリ、キャベツ、コーン、タマネギ、ニンニク、セロリ、ズッキーニ、マッシュルーム、レモン、パセリ、トマト、ブロッコリー、パプリカ、ニンジン。これだけ使われている。多くが地場産物だ。大麦の入ったスープは初めて食べたがこれが絶品。カラフルなサラダもおいしかった。

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大量調理は、手際の良さが命であることを作業を見ながらよくわかった。

  調理する手順を見ていたが、本当に無駄な動きが見えず、導線も見事に実現されていた。月夜野町農政課の村山博志、原澤真治郎さんらと出来上がった給食を食べながら牛乳の話になった。牛乳はどこの学校給食でも出している。カルシウム摂取を確保するためには欠かせないものだ。しかし、小学1年生も中学3年生も同じ量のワンパックは、考え直した方がいいという意見が出ていた。

 つまり量の問題だ。小学校低学年には小ぶりの牛乳パックを提供し、その分、乳製品を食材にした料理を提供する方が、バラエティに富んだ学校給食になるのではないか。そんな意見を題材に楽しいランチとなった。