11 第1期馬場研の記録

第1期馬場研の記録

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 馬場研1期生の姜真臻(きょうしんしん)君と4月17日、新橋第一ホテルの高級レストランで夕食懇談をした。と言ってもしんしんのご招待だった。教え子にご馳走になる栄誉に浴して大変嬉しく思った。

 しんしんが部長を先導して筆者のところに来訪したのは、今月上旬である。ダイキン工業で講演を依頼したいという大変、重要な要請であり、引き受けたもののしんしんに恥をかかせないためにも気合を入れて資料を作成した。

 資料作成の過程では、荒井寿光・元特許庁長官からの提供を受けた資料もあって、それなりに満足する講演資料になったと自負していた。しんしんの評価も悪くなかったのでほっとした。

 しんしんと会話をしていても、まともな会話ができるようになった成長ぶりが頼もしく、仕事に打ち込んでいる様子が伝わってきた。思えば学生時代の会話と言えば、親と子の会話である。それが1期生が巣立ってから6年にもなる。成長しないわけがない。

 しんしんはいま、ダイキン工業法務・コンプライアンス・知財センター・知的財産グループで活躍している。研究開発の成果を権利化していく過程では大変な苦労があるようで、「さまざまな調整が大変です」と語っているように、社内外への配慮に苦慮することもあるようだ。ことをうまく運び仕事を成し遂げて普通という厳しい環境の中で、日々成長を続けている様子が伝わってきた。

 筆者が死ぬ前に中国支社長になれという檄を飛ばしたが、これは4期生でユニ・チャームの知財で活躍する史可君への檄と同じである。何はともあれ、こうして馬場研OBが社会人として活動する様子は何物にも代えがたい楽しみと満足がある。

 

第1期馬場研の記録

第1期・2006年度馬場研

 

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  写真は恒例となった特許ステーキのセミナーで 

 


修士論文テーマ

阿部 道太 

「植物新品種の育成者権保護・活用の戦略に関する研究」

 姜 真臻 

 「多国籍企業のR&D活動から見た中国の科学技術政策戦略-上海張江ハイテクパークのケースについてー」

 杉山 忠裕 

「中国における模倣品対策から見た中国での市場戦略に関する研究」

 丹波 真也

 「先使用権制度を活用した知財戦略の有効性に関する研究」

 土屋 輝之 

「サプライヤー特有の開発成果保護に関する問題点並びに連携リスク回避のためのADR活用の可能性に関する考察-自動車業界に見る連携のリスクを中心に-」

 柳 勝人

「オープン・イノベーションにおけるデスバレーの克服」


 第1期馬場研の活動 

  友情と感激で支えあった7人の同志たちの和

 馬場研の活動は、わずか1年間であり振り返ってみるとあっけないほどに短いものであった。前期の活動は、諸君の修論テーマの模索に費やされ、プロ研で集合してもあまり熱の入った論議は見られなかった。

 夏休み明けの後期になってから、ようやく諸君の考えに灯がともるようになった。しかしその時期になっても、なお迷いから脱出できずに苦悩の色を濃くしているように見えた。丹波真也さんは、いったん決めたテーマを変えてきたし、阿部道太さんもそうである。柳勝人君も取り組むテーマが最後まで私にはよく見えなかったし、姜真臻君も中国をテーマにすることは分かっていたが、具体的な内容を組み立てたのは、随分後になってからであった。

 最初からテーマが動かなかったのは、土屋輝之さんと杉山忠弘君の二人であったように思う。 指導する立場で不十分な点は多々あったと反省することしきりである。その分、諸君には至らぬ教師であり申し訳なかったと思う。しかしこのような教師をカバーして、諸君の和の中に余りある行動があったことを嬉しく思う。姜君、杉山君、柳君の就職活動では、社会人院生諸君が親身になって相談に乗り、模擬面接をしてくれたことだ。

 これには平塚三好先生がビデオ撮影で協力するなど多くの支援行動があって、就職活動にはまたとない援軍であった。プロ研後の食事会でも、さまざまなテーマで話題が盛り上がり、楽しい時間を共有できたことは、諸君が若き日の友情と感激にひたった素晴らしい時間であった。あの特許ステーキを編み出したレストラン「カタヤマ」で食べたステーキを忘れないで欲しい。ステーキの味ではなく、同志を一つの和につないだあの時間である。

  馬場研は、修論作成のために一時的に集まった同志の和ではなく、諸君がこれから社会活動をする上でも折りに触れて情報を交換し、時には助け合い友情を確かめ合う和として未来永劫続けて欲しい。そのまとめ役には、級長を務めた丹波真也さんを指名する。21世紀は中国の時代である。姜真臻君が我々の和の中にいることは幸運であった。ビジネスで最も関わりがある隣国をよく知る同志と今後も付き合い、いつまでも共有した時間を思い出して欲しい。

 それが馬場研で学んだ同志7人に送る私のメッセージである。

2007年3月20日 馬場 錬成

 


 馬場研第1期生論文講評

努力を結実させた若き日のエネルギー

 2005年4月1日に日本で初めて開講した東京理科大学知財専門職大学院(MIP)馬場研究室の7人の諸君は、プロジェクト研究ワーキングペーパー(修士論文)の完成に最後まで取り組み、ここにその結実の証として記念誌を編集することができた。これはひとえに、諸君の努力の結晶であり、指導教員として何ものにも代えがたい喜びである。この力作を一編ずつ読み終えてみると、現代の知的財産の世界に存在する課題がまさに凝縮されていることに気がつく。

  阿部道太さんは、植物新品種の育成者権という知的財産権としてはなじみの薄いテーマを取り上げ、その権利の保護と活用について多角的な取材から多くの課題を抜き出して提起した。阿部さんは、10月も過ぎたころに突然、それまで模索していた修論のテーマを全面的に変えるという荒業を試みた。その直後から旺盛な取材・行動力で企業や行政の関係者に次々と会見して、多くの有意義な証言を入手し、育成者権を活用するビジネスの現状と展望について考察した。

 お花屋さんに並んでいる色とりどりのバラやキクの花々たちは、華やかな色と香りを放ってなお人々を楽しませているが、その花たちの裏には知的財産権を絡めた熾烈な国際ビジネスの現場が横たわっていることを知る人はほとんどいない。会見した内容を一問一答形式で整理するなど、その現状をあからさまに見せてくれたという点でもこの修論は大変ユニークであり、粘り強く最後まで修論の吟味に費やした努力を称えたい。

  姜真臻君は、中国人である特長を生かし、急速に進展している中国の科学技術の現場をテーマに選んだことは大変適切であった。修論に取り上げた上海の張江ハイテクパークは、北京の中関村サイエンスパークと並ぶ現代中国を代表する言わばハイテク特区になっている。姜君は、中国語で公表されている多くの資料を読み取り、その中から開発特区に潜む課題を取り出しながら、多国籍企業と中国企業が入り乱れて競合しながら、中国の研究者と企業間に相乗効果が生まれ熱気に包まれているハイテク現場を検証した。

 中国は人材の宝庫である。近年、外国で教育を受け研究で実績をあげた中国の若き英才たちが続々と帰国し、祖国の発展に貢献している。張江ハイテクパークはその象徴であり、姜君自身もまた中国の若きエリート群に連なる人材にならなければならない。とまれ日本語と異国の生活というハンデを克服して修論をまとめ上げた努力を称え、今後の飛躍を期待したい。

  杉山忠弘君は、中国の模倣品の現状を調べ、その被害にあっている日本企業の対応策に焦点を当てた。前半では、中国で広がっている模倣品の現状分析と外国へ輸出されていく模倣品を阻止しようとしている国内規制についてもよく調べていた。そして単に模倣品の対策を提起するのではなく、消費者に訴えて製品価値を高めていくためのブランド戦略まで考察を広げたのは、なかなかいい視点であった。

 このように杉山君の修論で特筆したいのは、日本と外国企業が中国で展開しているブランド戦略を検証している点である。中国は全体的に見れば間違いなく途上国であるが、しかしその内部を様々な角度で検証すると消費者行動は先進国の局面とよく似ているものを内在しており、マーケティングにも価格設定にもアフターサービスにも中国で展開するべき多くの要因を抱えており、それだからこそ適切な戦略が求められている。断片的な実例を多数織り交ぜながら、企業のブランド戦略について読者の想念を触発させようとしている点で面白い手法が見られた。

  丹波真也さんは、弁理士という専門資格者の持つ高度な知識を駆使して、先使用権のあり方を法理論と実践面から詳細に検証して論述した点で秀逸であった。特許庁で推奨している先使用権の活用は、特許出願数を抑えるための一つの方法としてあげているという点で「異端の制度」推奨であり、間違った特許文化を醸成しかねない。その危惧を明快に露出させているという点でも、この論文は重要な問題提起になっている。

 丹波さんは、特許権と先使用権を活用する場合のメリット・デメリットを比較分析したり、さらに共同開発する際のメリット、職務発明に関するメリットなど運用上の多角的な場面を想定して詳細に論述した点でも、先使用権に関する論文としてはきわめて価値ある内容になっている。今後、法律学者らが先使用権を論じる際には、必須の文献として引用されるよう吟味する必要はあるが、できるだけ早く学術誌などで発表することを具体的に進めたい。

  土屋輝之さんは、自身の職場と仕事を通じた体験から発した問題提起を論文としてまとめたものであり、専門職大学院の修論にまことにふさわしいテーマと内容であった。自動車業界の研究開発という技術世界で展開されているサプライヤーと親会社との関係を知的財産の切り口から取り上げたものであり、日本社会特有の親子企業間の連携開発の中で日常的に発生している知財をめぐるせめぎ合いの問題でもある。

 日本社会に深く染み渡っている馴れ合いに似た親子企業間のあいまいな取り決めと、日本ではまだ成熟していない契約書の履行内容をめぐる実例などをあげている。そこには一見理不尽な事例であっても慣行的に問題が顕在化してこないもの、親会社とサプライヤーの微妙な力関係の中で自然と収束していく業界の体質などを浮かび上がらせており、説得力ある現状分析になっている。 土屋さんは、最後に親子企業間の連携に潜むリスクの回避方法としてADRの活用を提言しており、独自の考察で導入した解決策として高く評価したい。

  柳勝人君は、イノベーションを起こす過程で陥るデスバレーを乗り越えていく方法論について考察を試みたものであり、社外、外部の研究開発の成果を取り入れていく企業活動を推奨しようとした野心的な修論であり評価したい。 柳君は、1990年代から始まった先進工業国での技術成熟期の諸現象をまず検証した。技術の寿命が短縮され、同じ時期に同じテーマの研究開発が始まり、その成果まで似てくる現象は、企業活動の効率の低下としてとらえた。

 これを乗り越える有力な方法として外部からの技術成果の導入を提言し、それをオープン・イノベーションと定義づけて内外企業の実例をあげた論述内容は、面白く読ませるものであった。 オープン・イノベーションを成功させるための提言を展開しているが、特に日本企業への内容は具体性のある踏み込んだものを示していた。また柳君の文章力はこの2年間で着実に上達し、修論の書きぶりも簡潔で分かりやすい表現を随所にちりばめ、なかなかの出来栄えであった。

 


 馬場研第1期生の阿部道太さんがレポート作成2007年04月11日 

JETRO(日本貿易振興機構)の農水産課の阿部道太さんが植物の新品種に関する知的財産権の現状と課題をまとめたレポート「植物新品種の育成者権の活用と保護の戦略」を作成し、JETROの農水産情報研究会に加入している約500社に配布した。

 このレポートでは、育成者権とは何かから始まり、種苗法と品種登録の実際、育成者権の活用戦略と侵害対策などについて現状を取材した内容と解説、将来展望など多岐にわたってまとめている。 このテーマについてこれまで参考資料や報告書がなかっただけに大変、参考になる内容だ。特に花の国際的な流通機構や侵害の実態などを取材した内容は、ビジネスの現場の空気も伝えていてためになる。 お問い合わせは、JETRO農水産調査課まで。  電話03-3582-5186 Mail:[email protected]   

 


馬場研究室掲示板


 馬場研究室の掲示板がスタートしました

 馬場研究室に所属する院生だけが利用する掲示板を設定しました。

 1期生の姜真臻(キョウ・シンシン)君がセットしてくれたものです。

 利用方法

 ブログの馬場研究室開設から→馬場研究室掲示板に入ってください。

 入る時は共通のPWが必要です。

 次の画面で、各自の情報などを書き、「書き込む」をクリックしてください。プロフィールはブランクでもOKです。

 次の画面が出たら、下のほうに見える画像・動画を投稿せずに完了をクリックしてください。画面が出ると、自分の書いた文章が確認できます。

 馬場研の諸君の連絡、情報交換など皆さんで自由に使用してください。不特定多数の人が使用するような掲示板にすると、ルール違反のケースが出てくる可能性は高いので、MIP馬場研だけに限定しました。

 ただし、MIPなどの友人などで利用したいという人がいれば、歓迎しますので皆さんの責任内で加わるように裁量してください。

 以上です。